服を作ってみよう!
5章1話目の夜の話です。
「う〜ん……」
カルバクロールの宿に泊まった初日の夜、俺は袋作製で悩んでいた。
袋の形状を変えて靴を作る事が出来たから、服も作れるんじゃないか?と試行錯誤しながら色々な形の袋を作っていたわけだ。
色も白や黒だけじゃなく、チェックやボーダーといった物まで作って、傍から見ると遊んでいるようにしか見えない散らかりようだ。
「ヒバリさん、お風呂空きましたよ……何か作ってるんですか?」
声を掛けに来た沙里ちゃんが、様々な模様の袋を見て聞いてきた。
「袋の形を頑張れば服が作れないかなぁ?って思って試してたんだけど……」
Yシャツやジャケットのような前が開いて筒状になってないものは出来そうなんだが、Tシャツやズボンといった筒状にしないといけないものが上手く構築出来ないでいた。
「そういうのは相談してくれればいいのに……」
「ああ、そうだね。パーティの裁縫は全部沙里ちゃんに任せっきりだったね。いつもありがとう。こんな難しいとは思わなかったよ」
「いえ、わたしのスキルはこういう事に生かしてこそですから!でもなんで服を作るんですか?」
「俺の袋だと物理も魔法も耐久値が高い事が分かってて、靴が出来たんだから服も出来たら、鎧も出来たらもっと安全になるし軽いものに変えられるからいいかなって思ったんだ」
沙里ちゃんは少し考えてから、型紙を作る事でイメージトレーニングしてはどうか?と提案してくれた。なるほど、まずはパーツから理解して、それを組み立てた形がイメージ出来れば作れるかもしれないのか。
まずすぐに出来たのがジャケット。半袖ではあるが、何とか形にはなってくれた。ボタンっぽいものも3個構築してあるので前は留められる。
次はTシャツ。これも結局前留めになってしまったので、これは女性には無理だなぁ。ただの筒状にするのなら出来るが、土管みたいな着ぐるみっぽいんじゃ外で着られるわけがない。
最後はズボンだが、これは完全に筒状でいいので、2本の筒が繋がったイメージは意外と作りやすかった。伸縮性には問題が残ってしまったが。
「どうかな?」
とりあえず袋で作った服に着替えて沙里ちゃんに見てもらう。
「あっ……いいんじゃないですか?それなら服にしか見えないから、まさか防護服とは思わないでしょうし」
悪くはないらしい。でも、
「これね、肌に直接だと……すっごく気持ち悪いんだ。シリコンゴムが直接体にべだべたくっつく感じが、ね。さすがに布っぽさの欠片もないもんなぁ」
「あー……それは、そうですよねぇ。肌着は止めた方がいいですね」
触りながら想像した沙里ちゃんも苦笑していた。
「じゃあ後は耐久力も見たいから、剣でこの服を突いてもらっていいかな?」
試作なので耐久値は上げてないから、すぐに壊れるはずだ。一応ポケットに銀貨を1枚入れて、壊れても無事に出てくるのは確認しておかないと。
「大丈夫、なんですよね?じゃあ……」
遠慮がちにではあったが、肩の辺りを軽く剣で突く。溶け崩れるように消えたジャケットから銀貨がコロンと零れ落ちた。
「うん、大丈夫だね。痛くないしポケットの中身も傷が無い」
銀貨を拾いながら確認し、いつもと変わらない結果に安心する。
「次はTシャツに火の魔法を当ててもらえるかな?魔法耐久も上げてないから最弱で大丈夫なはず。ちょっと離れるか」
数歩下がって沙里ちゃんにお願いすると、分かりましたと手を構える。
「いきますよー。ファイヤーショット!」
あえて魔法名を言いながら、こちらに小さな火の玉を撃つ。ポッと軽く燃えてからTシャツが崩れて無くなった。ジャケットと同じようにポケットに入れた銅貨が落ちる。
「燃える時に少し熱さが来るけど、これも今までと同じだし怪我にはならないから大丈夫だね」
あれ?なんか沙里ちゃんが固まってる?
沙里ちゃんの視線を追ってみると、俺の下の方……ああっ!
「なんでズボンも消えちゃってるの!?」
燃えたのはTシャツだけじゃなく、どうやらズボンにも飛び火していたらしい。上半身の裸くらいなら別に気にしないが、パンツ1枚になったのはさすがに恥ずかしいよ!ていうか、女の子の前でなんて格好に!?
「ごめんなさい!狙いがずれてたみたいでズボンにも当たってしまったんです!」
謝りつつも視線を逸らさない沙里ちゃんもどうしたもんだかだが、よく考えたら毎回洗濯でパンツも洗ってもらってるんだから今更か。
とりあえず部屋に服を取りに戻ったら、風呂上りの皆が寝る前の準備をするためにすでに集合していた……
「ちょっと待って!今俺服ないから、服だけ取りたいからあっち向いてて!」
すぐさま回れ右と廊下に戻りつつ、皆に違う方向を向いててもらう。よし、今のうちに服を出して外で着替えよう!幸い俺の荷物入れは部屋に入ってすぐだ!
「ヒーバーリー!」
服を出していたところにピーリィが飛びつき、そのまま床に崩れる。
「ぐぁ……待って、今は服着たいから待って!」
「あっははー!じゃああたしもー!」
何かの遊びかと思った美李ちゃんも背中に乗っかってきて立ち上がれない!
「どいてー!あっ!ピーリィ、足の爪がパンツに引っかかってる!そのまま下ろさないで!」
面白がる姫様とこういう耐性はないのか動かないトニアさんには期待出来ず、なんとかパンツを下ろされる前に着替えを持って逃げ出し風呂場に駆け込む事に成功した。
「しばらく服作りは止めよう……」
心にダメージを受け、どっと疲れた体を湯船に沈めつつ誓ったヒバリだった。