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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第1章 異世界で食品製造はじめました
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道具依頼と魔法の練習

「………ん」




 1階に置かれたベッドで寝ていた俺は、窓から差し込んでくる朝日で目が覚めた。正直元々6畳間に住んでたから、城より馴染みの広さに近いこちらの方が安心して眠る事ができた。



 この作業小屋、1階は20畳近い作業場と、8畳ほどの部屋(ベッド有り)、そして6畳ほどの収納、後は玄関と階段がある。2階は12畳ほどの部屋が1つと、テーブルと椅子を置いてお茶も出来そうなテラスがある。あとは屋根裏部屋があるが今は使い道ないかな?ほんと小屋と呼ぶには広いよここ。

 そして箪笥や洗濯板・石鹸・桶等日用品、そしてタオルや着替え等衣類はすでに揃えてもらってあるので、今日は外の井戸と倉庫とリアカー(手引き車?)とトイレ、作業場からの排水溝を掘り返しての流れ(作業場の木製大桶に穴が空いていて、外壁と繋がっていて垂れ流し)確認を朝のうちに済ませておいた。



「正直トイレは元の世界が恋しいなぁ。昔行ったド田舎のばーちゃんち行った頃を思い出すよ。そしてなにより風呂が無い!これはあとで商売が軌道に乗ったら絶対つけよう!」



 再び家の中に戻り、オーブンとガスコンロのように置かれた火魔石、やかんに取り付けられた水魔石、一人暮らし用ほどの冷蔵庫の水魔石の動作チェック(というか、強弱の調整に慣れてないので自身の操作練習)をしておいた。


「いやー、念じるイメージを固めるのにちょっと手間取ったけど、魔石って便利だなぁ。でも魔力充電(?)が切れたら魔法具屋まで行かなきゃいけないのは面倒臭いってのはあるか。無駄遣い気をつけよう」




 落ち着いたところで、夕べ店で貰ったハム(?)入りサラダとパンを袋詰め(時間経過無し)から取り出し、食べながら必要道具の洗い出しに入る。



まずこの世界にもありそうなものから、


ボウル、バット、フライパン、鍋、包丁、まな板、麺棒、計量スプーン(木製)、レードル、ヘラ、おろし金、すり鉢と棒、濃し網、ザル、菜ばし、納品用木箱



そしておそらく直接製造依頼しなければならないものとして、


泡だて器、蒸し器、スライサー、ミンサー(挽肉機)、刻印数字、箸、菜箸


「この6つは図を描いて説明するしかないだろうなぁ。」



 本来なら量りも欲しいところだけど、この世界には天秤はあってもバネ量りはなさそうなので諦めた。無いなら無いなりにやればいい。計量スプーンも木製の物を削ってすり切り1杯で必要量になるよう作ればいい。

 大量製造の時に大切なのは、”いかに単純に均一の味を作れるか”が勝負になる事が多い。ただ早くしても品質と味を守れなければ意味が無い。そして高級商品でもない限り遅くては儲けにならない。



「あとは食材か。何を作るかで揃える物が決まるけど、ひとまず調味料を先に上げておこう。これはどれもあって困らないから!

 ……ああ、そうか。

どうせお世話になる事は決まってるんだし、ここで遠慮しても仕方がない。まずはちょっとの量を出来る限り全品いただこう。結果を出して返していけばいい。今はやれる事をやっていくしかないんだし!」



 製造依頼図面以外は一通り準備出来たがまだ昼には早いので、夕べも寝る前に行った袋作りに入る。大きさは1リットル入る程度の2回目に作った消費MP1と同じ(繰り返しなし、時間経過無し)サイズ。

 朝にも寝起きで倦怠感が出るまで作り、先程まで別作業している間にMPは全快したのを確認している。ここに来て3度目の袋作成でストックは80枚。そしてサイズを変えて道具煮沸用に少し厚めで50cm四方の袋口サイズを5枚さくっと作っておいた。


 新たに分かった事だが、この袋は時間経過設定の有無に関わらず、閉じ込めた時の環境(温度や湿度、空気等)を維持しているらしい。そして野菜も収穫後なら生物にカウントされず閉じる事が出来た。うーん、我が事ながら不思議な袋作ってるなぁ。




 MP回復を待ちながらのんびりとテラスで過ごしていると、遠くから馬車が向かって来ているのが見えた。鑑定するまでも無く姫様の馬車だ。窓から顔を出している美李ちゃんが見えたので、テラスから声を上げて手を振ると、すぐに気付いてこちらに手を振り返していた。


 あ。中に引っ張られた。多分沙里ちゃんに怒られたんだろう。美李ちゃんはやはり和むなぁ。




「ひばり食品加工所へようこそ!」


 と、ちょっと格好つけて出迎えたら皆に笑われた。

昨日沙里ちゃんに格好悪い所見られたばかりだったのを忘れてたが、ウケたならよしとしよう!



「なんて言ってみたところでまだ何も作れていないんですがね!

 改めまして、ご機嫌麗しゅうございます、姫様にお嬢様方」


 姉妹と挨拶を交わし、トニアさんは最後に降りてきた姫様をエスコートしていた。


「ごきげんよう、ヒバリ様。もうすでにこの家に馴染んでいるようでなによりです。

 そして昨夜の事はサリ様から伺いましたが、こちらの不手際で申し訳御座いませんでした。食事は遠慮なく店を利用して欲しいと伝え忘れておりました。それともし必要でしたら荷馬車を用意しますがいかがなさいますか?」


「今の所はまだ何も出来ないですし、手引き車もありますので大丈夫ですね。もし必要になったらその時にこちらからお願いします。それよりも立ち話もなんですから、中へどうぞ!」


「わー!ヒバリお兄ちゃんの家、おじゃましまーす!」

 

「ちょっと美李待って!靴は脱がなくていいの!えっと、お邪魔します」


 遠藤姉妹(主に美李)がすぐに家の中へと消えていった。今の所刃物も何もないし大丈夫だろう。

あとは姉に任せよう!


「好きに色々見てもいいけど、怪我はしないようにねー!

さて、姫様とトニアさんもどうぞ。作業部屋予定の場所にテーブルを用意してあります」


「では。トニア、荷物をお願いしますね?」


「はい、かしこまりました」


 馬車に戻り荷物を取り出すトニアさんを見ると、鍋とか木皿?などが見えたので慌てて手伝いに行く。

だってこれどうみても俺のための荷物じゃん!さすがに今回は遠慮しないぞ!


 御者さんにも手伝ってもらい何度か往復して運び入れたが、まぁ出るわ出るわの器具に食器。製作依頼の物以外はリスト大体揃ったんじゃないかな?作業台にずらっと並べるとなかなか壮快だ。




 姫様にお礼を言ってから確認して、足りないものを洗い出す作業に入る。ほんと姫様は先回りが上手いというか気が利くよなぁ。気配りの達人ってやつかもしれん。こっちも負けてられないぞ!



「足りないのは…おろし金、すり鉢と棒、濃し網、納品用木箱ですかね。あとは製作依頼をしたい器具があるのでそちらも相談したかったんですよ。順番に、泡だて器、蒸し器、スライサー、ミンサー(挽肉機)、刻印数字の5つですね。こちらにもあるならそれも見てみたいですね」


「そうですか……

道具の事でしたらトニアと話した方がよさそうですね。お話を聞いてあげてくださいね?」


「はい、かしこまりました。

では…まず、おろし金というのはチーズおろし器と同じものか、から―――」



 こうして話をまとめていった結果、おろし金と木箱は後日、濃し網は濃し布で代用、すり鉢・泡だて器・蒸し器・スライサー・ミンサー・箸と菜ばしは職人に直接説明して製作依頼をする事になった。そして食材や調味料、酒、油、パンなどは高級品や希少品を除く一般的なものを一通り揃えて貰うようお願いした。



「それでしたら、これから職人へ依頼に向かいませんか?行きがけにニング卿へ依頼し、そのまま魔道具店と鍛冶屋を訪ねましょう。魔法の基礎訓練なら馬車の中でも問題はないのですよ」


「分かりました。こちらも早く道具が揃うと色々出来るので、でかけましょう!図面は直接あちらで書きますね。それと2人はまだ降りてこないのかな?確か2階に行った筈なんだけど……」



 声を掛けつつ2階に上がってみると、セミダブルのベッドの上で姉妹が仲良く寝ていた。考えてみたらまだ何もしてない俺と違って、朝から仕事してお昼ご飯を食べてからここに来たはずだから、こうなっても仕方ないか。んー…どうやって起こしたものか、むしろ起こしていいものか。



「……ぅん………あっ!すみません勝手にベッドを使ってしまって!」


 階段で悩んでた俺に慌てた様子でベッドから起き上がる沙里ちゃんと、それに釣られて目をこすってる美李ちゃん。これ以上は進むのをやめて、努めて穏やかに声をかけておくことにした。寝起きの女の子を覗き見るのは地雷だ危険!


「大丈夫だよ。俺は元々1階の部屋を使ってて2階は全然使ってなかったんだ。だから2階は2人が使ってくれてもいいぐらいなんだよ。さすがに1人でこの大きさは持て余しちゃうからね」


 恐縮してる沙里ちゃんに少し話をずらしつつこれから道具作成の依頼に出かけることを伝え、準備が出来たら声を掛けてほしいと言いつつ1階の作業部屋へと戻った。



 トニアさんがお茶の道具を片付けている間に遠藤姉妹が降りてきて、結局戸締り確認をしていた俺が一番最後になってしまった。ガスがあるわけじゃないから事故はないだろうけど、いくら安全な土地でも戸締り用心しておくのは基本!そして指差し確認も工場の基本!



 

 そして馬車に揺られてニング卿に食材依頼をしてから街へ行き、職人たちのいる商業区を目指す。そんな馬車の中では、姫様とトニアさんによる魔法の指導が行われていた。まずは単純に自分にあった属性の玉を作ってみようということで、魔力は体内にあり属性はどんなものかというイメージトレーニングだ。


 沙里ちゃんは火と風。火はライターを、風はうちわをイメージしつつ繰り返すことで親指大の火の玉と髪をなでる風を発現させていた。これには姫様も驚いていた。いくら適正があっても普通ならまずは魔力を感じるだけで数日〜数週間はかかり、さらに1つの属性だけでも発現には1ヶ月で出来れば優秀者だと持て囃されるそうだ。

 そんな話をしていた横では、美李ちゃんが無邪気にビー玉みたいした水を浮かべて、更に土で作った玉と合わせて泥団子を完成させてはしゃいでいた。普段表情の乏しいトニアさんも驚愕しているほどだった。



え?俺ですか?


 ええ、魔力は感じられるんですよ。ええ。

でも………



闇ってどんなものをイメージして出せばいいんだよおおおおおおおぉ!?

ただ暗いか黒いだけしか分からんてば!!!

 


 俺以外がめきめきと上達していく馬車の中。商業区に到着する頃には姉妹が仲良く火と水の粒をぶつけて蒸発させる遊びにまで発展していた。しかも沙里が器用に風魔法で蒸気を包んでるし。憧れの魔法いいなー俺も遊びたいなー……闇で遊ぶとか厨二病みたいで何か恥ずかしい言い方だなぁ。




 商業区に到着してまず先にガスコンロやオーブンの火魔石、流しや飲料水の水魔石、証明用の光魔石、最後に水魔法で冷気を出せる冷蔵庫用の水魔石を購入してもらった。今あるのがすぐ切れるわけじゃないが、俺に適性が無い以上は魔力充填出来ないから予備が必要なためだ。


 そして鍛冶屋での交渉の時に、初めて見たドワーフに気圧されそうになりながらも器具の説明をしているうちに、いつの間にかお互い熱く語るようになっていた。


 特に職人が驚いたのがミンサーで、この世界の挽肉といえば下働きが必死になって包丁両手に叩きまくっているそうだ。しかし俺が持ち込んだ提案は、上から肉を入れてハンドルを回すだけで挽肉が出来上がる。力少なくハンドルを回すための歯車、肉を押し出す螺旋状のひだを付けたシャフト、シャフと先端に付ける回転する刃、押し出すときにところてんの要領でさらに細かくする穴の開いたフタ。しかもフタは挽肉の荒さ調整できる様3タイプの穴の大きさを用意するという器具。

 そしてなにより「部品が少なく洗いやすい」事が重要だ。これは食品である以上食中毒を出すわけにはいかない。食材と接する部品は取り外しが簡単で、綺麗に洗い切ることで衛生面がクリアできる。ネジが工具を使わなくても動かせる蝶ネジなのも、余計な工具は誤って異物混入になる邪魔者でしかない。


 そういった細かい配慮に職人はしきりに頷いていた。ついでに、回転刃や押し出しフタは消耗品でもあるので予備をお願いしておく。


 逆に今度はこちらが驚いたのは、土の付与魔法と鍛冶の融合による、部品磨耗を無くすコーティング技。普通シャフトと器具本体を取り付ければ、隙間がありすぎればそこから漏れ、狭すぎればシャフトと擦れて金属カスが具材に入り込んでしまう。元の世界だと片側の金属質を変えたり食用のグリスを差して抵抗を緩めたりする。

 そんな問題を「魔法だから」で解決できちゃうなら無問題である。自分の職場にもこんなのがあったらなぁって溜め息が出るほどで、その様子に自分だけが驚いてたわけじゃない事が分かって、職人は少し満足げな顔を見せつつ「乗ってきた馬車の軸にも使われてるから見てみな!」と教えてくれた。そして予備パーツはいらないかと尋ねたら、切れ味に影響してしまうので、ここはコーティング出来ないそうだ。ううむ、欠点もあったのね。


 泡だて器と刻印数字セット(この世界はアラビア数字で10進法だった)+5桁まとめられるカバーはすぐに理解をしてくれ、さらに鳥のマークの刻印も追加でお願いしておいた。今後自分の商品をブランド化するためのシンボルマークにするためだ。

 スライサーは今回見送り、蒸し器と箸と菜箸は木製加工者の伝手に依頼してくれるとのことで、こちらも軽く図面を書いて説明しておいた。ついでにここで既製品の鉄鍋を買い、蒸し器はそれに合うように寸法を合わせた形だ。


 お互い満足のいく交渉ができ、完成後は直接家に届けてもらえる事になった。実際に動かすのを見たいらしい。もちろん歓迎だと返事をし、互いに握手を交わして打ち合わせを終了した。 




 一息ついて振り返るとにこにことした姫様、お茶を入れ直しているトニアさんがいた。何が楽しかったかよく分からないが、スポンサーである姫様には再度お礼を言っておいた。


「すみません夢中になっちゃって。いい時間になってしまっていたようですね。そろそろ戻らないとですよね?」


「いえ、こちらも面白いものを見られて楽しかったです。ヒバリ様の器具が出来上がるのが待ち遠しいですね。是非私も使う所に立ち会いたいですわ」


「はい。その時はハンバーグを振舞わせていただきますよ。ではそろそろ戻りましょうか」



そうして遠藤姉妹を探すと、


 沙里ちゃんが風魔法で2人に来る熱を遮断し、美李ちゃんが全身を使って槌を振るって金属を打っていた。そして周りの職人はそんな美李ちゃんを応援していた。まるでアイドル扱いである。



………キミたち何してるの?


 沙里ちゃんは魔法使いこなしてるし、美李ちゃんに至っては絶対小学生どころか大人でも怪しい重さのハンマー振り切ってるよね!?どうなってるの!?


 最後には打った記念にとスコップに加工して贈ってもらえるそうだ。しっかりとお礼を言ってはしゃぎながらこちらに戻ってきた。ハンマーに関しては、後で聞こう!あの笑顔に水を差すのは正義じゃない!




 そして馬車でS&び…じゃなかった、料理店まで送ってもらい姫様を見送り、3人で店の料理を食べてから俺も家へと帰って行った。もうはやく道具と食材が届くのが待ち遠しい!




ちなみに。


暗くなった帰り道で闇魔法試したけど、やっぱり出来ませんでしたよ?



ステータスに関してはある程度計算してますが、変更あるかもしれません

適合属性欄追加しました


設定の詰めが甘いです…

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