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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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薬確保と遭遇と

 冒険者ギルドには俺とトニアさんと美李ちゃんで入った。ガラの悪いグループもいたが、トニアさんの一睨みで分が悪いと悟ったらしく絡んでこなかった。内心ありそうで警戒してたけど、無くてよかった……




「いらっしゃいませ。当ギルドは初めてですよね?」


 愛想のいい笑顔で迎えてくれたギルド職員の男性。やはり初めてだとすぐに分かっちゃうものなのかな?


「はい。カルバクロールから来たんですが、途中でジャイアントビーの群れに襲われたので倒して、巣があったので取ってきたんですよ。それで幼虫を買い取ってくれそうな場所となるとここかなって」


「おお、撃退しただけでなく巣をですか!みなさんかなりの実力をお持ちなのですね。幼虫は生きていれば買取させていただきます。見せていただけますか?」



 よかった。ここで買い取ってもらえるらしい。受付の人に断って一旦馬車へ取りに行く。他の冒険者達の目つきから見下したようなものが無くなったと思ったら、この辺りではジャイアントビーの巣を取ってこれる者はそれなりの実力者と認められるという事を後で受付の人が教えてくれた。



「これで全部ですね」


 どさっと内側に袋を被せてある鞄を4つ置くと、受付から出てきた職員が確認する。全部で100匹近くで、馬車には50匹ほどは残してある。うんうん頷きながら状態を見て、


「確かにこれは生きてますね。何時頃捕獲したのですか?」


「今朝だから、4時間も経ってないですね」


「なるほど。この鮮度なら納得です。時間が経つと外皮が乾いて硬くなってしまうんですよ。これでしたら、大きさにもよりますが1匹300ゴールドで買い取らせて頂きます。よろしいですか?」


 ……えっ?確か牛肉1kgが100ゴールドだったが、こいつ1匹500gも無いのに3倍なの!?ていうか、100匹近くを全部買い取ってくれるのか。今日中に売らないとなのにいいのかな?こっちは助かるけど。


「買い取り価格は問題ないですが、全部引き取ってもらえるんですか?」


「はい。蜂の幼虫は人気食材ですからね。毎回すぐに買い手が付くといいますか、入荷したら連絡を欲しいと依頼を出しっぱなしにされる方もいますから」


 ほら、と言って依頼ボードから蜂の子10匹と書かれた紙をいくつか持ってくる。これを俺達が受けて達成した事にするらしい。成功報酬も貰えてラッキーってことだね!



 しばらく査定で待ちとなり、暇だから他の依頼も見てみる。属性魔石や薬草採取、素材の獲得に魔物討伐、野獣駆除……色々あるんだなぁ。今は忙しいから受けられないけど、あとで試してみたいね。



「お待たせしました。全部で81匹と15匹は依頼達成3件分で、合計はこれですね」


 計算を書いた紙と硬貨を小袋に入れてトレーに置いて渡す。なるほど、具体的な金額は口にも見た目にも伏せてくれるのか。ああ、だから今の報告は小声だったのか。

 中身は信用してるからと確認は後回しにし、チップを渡してギルドオススメの宿を紹介してもらう事にした。ちょっと大金だから周りの反応が気になったが、堂々としていて下さいとトニアさんに耳打ちされてなんとか振舞ってみた。




「おかえりなさい、いかがでしたか?」


 ピーリィを寝かしつけていた姫様が迎えてくれる。


「結構な金額になってびっくりしました。蜂の子で一攫千金なんて人が出るっていうのも納得ですね」


 白金貨3枚と金貨9枚と銀貨3枚、つまり39300ゴールドだ。所持金が一気に倍になった。もっと売ってもよかったかな?って思っちゃったよ。

 本当はこれに蜂蜜も売ればかなりの金額になったんだろうけど、これは俺も沙里ちゃんも自分達で食べたい!って言って売らずに残させてもらった。普通の蜂蜜より断然美味しいんだもんしょうがないさ。





 一応誰かが後をつけていないか感知で確認しながら馬車を走らせ、紹介してもらった宿屋を目指す。名前は”深緑の森亭”という昔からある宿屋で、アイリンの地元料理を出す食堂が1階にあるそうだ。緑の蔦が描かれた看板が目印だ。


「あれかな?」


 10分ほどゆっくり馬車を走らせると見えてきた宿。道沿いにあるわりにはちゃんと周りに木を植えてあるのがいかにもな宿名だ。壁に蔦があったら完璧だったのになぁ。


 今回は全員でチェックインを済ませ、馬車置き場も別料金で確保する。全員まとめて一部屋と言ったら受付の女性がちょっと怪しげな目を向けてきたが、美李ちゃんやピーリィがお兄ちゃんとして慕っているのを見て納得してくれたようだ。

 どの道居住袋があるから、一緒の方が安全なんだよねぇ。でもたまには太陽光で目が覚めたいから、俺は宿のベッドで寝るつもりだ。



「さて、沙里ちゃん達は宿に残るんだったね。ピーリィは居住袋の中で寝てるから、起きたら相手よろしくね。あ、あと戻ったら味噌と醤油の仕込みの手伝いもよろしく!」


「はい!さっそく蜂蜜使わせてもらいますね〜」



 こうして宿の大部屋で荷物を下ろし、部屋の施錠をお願いして別行動開始となった。






「まずは調剤師の店か道具屋でしたね。宿の人の話だと調剤師の店の方が近いそうなんで、そっちから行きますか」


 俺が先頭でトニアさんと姫様が後を付いてくる。馬車を使おうかと思ったけど、そこまでの距離じゃないからという理由で歩きを提案されたので俺も賛同した。どうせ荷物は収納袋に入れちゃうしね。



「買うものは傷治しの塗り薬と飲み薬、そして状態回復薬各種でしたね。あとは余裕がおありでしたら気付け薬と魔力回復薬を買いましょう」


「だ、そうなので見繕ってもらっていいですかね?」



 薬師である受付のお婆ちゃんを前にどう説明したらいいか言葉を選んでいたら、横からトニアさんに全部言われてしまった。それでも先に俺を交渉に向かわせたのも経験ということだろう。

 薬の説明を聞きながら鑑定し、一つずつ覚えていく。いざという時に収納袋から出そうとしても、どれを出したいか分かってなかったらアウトだから、これは気が抜けない。毒や麻痺で痛い目をみるのはもうごめんだ。



 結構な量になっちゃったが、全員に振り分けるのとパーティとしての予備もあるから、ここはお金を渋らずに買わせてもらった。聞けば迷宮遺跡が東の森にあるから、回復薬の需要は高く在庫も多く持っているそうだ。


 薬師の店を出て、次の予定を考える。食材の買出しは沙里ちゃんも見たいって言ってたから後でとして、鍛冶屋で依頼したいものがあるから、そっちを済ませてから宿屋に戻ろう。





 ……なんだ?何かが引っかかるというか、触れてくる。敵意ではなく、遠くから呼ばれているような?


「誰か呼びました?」


「何の事でしょう?」


「おっしゃってる意味が分かりかねます」


 2人には分からない、か。


 これは、どちらかというと魔力で?ああ、草野の時の魔力残滓を見た時のような、闇魔法に触れているようなあの感じか……って!それってつまり、闇の適合者からの呼びかけか!?


「すみません!今、ダークミストと同じような事をされています!」


 それだけで警戒心を一気に引き上げた2人が、魔力と気配に集中し出す。俺の方でもダークミストで相手の方へと探りを入れる。


(これじゃまるでソナーみたいだな……)



 それほど長い時間でもないうちに、相手からの魔力を捉える。


「……やっぱり。これ、盗賊から助けてくれた人だ」


 そうだ。敵意はないが大きいこの魔力、俺の意識が途切れる前に感じたあの魔力だ!相手も俺が気づいたのを感じたのか、ゆっくりと近づいてくる。


「行ってみましょう」


 姫様が、俺をその人のところへ行くよう促す。


「そう、ですね。助けてくれたお礼も言いたいから、行きましょう!」




 その場所には、少女がいた。ローブの様なゆったりとした外套のフードを下ろし、その顔を陽の下に晒す。でも違和感というか、それが紛い物だという自身から湧く疑惑が酷く混乱させてくる。


「見た所普通の人族のように思えますが……」


「ええ。魔力は多いようですが…ヒバリさん?」


 少女の方ではなく、隣で話していた2人に驚く顔を見せるヒバリに気付き、姫様が表情を伺う。そっかぁ、これもそういうことかぁ。


「俺達のカモフラージュと一緒ですよ。いや、一緒と言うより、あちらの方がかなり高いレベルのようですね」


 だってあの人、近づいたらトニアさんの耳の辺りを見てたし。その後、俺達にも耳はないか探すように頭上ばかり見てる。つまり、こちらからはあの人のカモフラージュを見破れないのに、相手には見抜かれている。




 本当はこの人、


スクセルース 524歳

状態:良好

▼    

適合属性

 光、闇



 しかも人名項目をもっと詳しく見ると、種族が”ハイエルフ”って鑑定結果出ちゃったし。エルフは耳に特徴があるが、現在は見かけることが出来れば幸運だ、って聞いたし。


 ええい、とにかく挨拶だ!



「始めまして。俺はヒバリと言います。先日は助けて頂いてありがとうございました。こちらではその姿で過ごされているのですか?」


「ほう。同じ属性というだけではないな?いやなに、昨日の事はわしにも関わりがある事じゃから気にせんでよいわい。それより、もう少し静かな場所がよいじゃろう。歩くぞ」



 言われるままに後を追い、やがて広場の片隅の段差に腰を下ろす。 


「私からも、ご助力いただき感謝いたします」


 姫様が頭を下げ、自己紹介をしようとした所で止められる。


「よい。おぬしら2人は何か考えあって手を出さんかったのじゃろ?わしはあの娘が血を流した事で辛抱出来んかっただけじゃ。もしそれ以上放っておくようであれば、容赦はしなかったがの」


「やっぱり……ピーリィを知っているんですね?」


 姫様とトニアさんが圧力を強めた彼女に恐縮してしまっているので、自分との会話に持ち込ませてもらった。


「ふぅむ。直接と言うわけではないのじゃがな。それと、聞きたい事がある。あの娘には母キューウィがおったはずじゃ。今どこにおる?」


「……人族の冒険者に襲われ、間に合わず亡くなっていました。すみません」


 ピーリィの反応しか無かった事である程度察してはいたのだろう。少し圧力が増した気がするが、それでも彼女から目を逸らさなかった。



「そうか、あれは逝ったか。で?その冒険者共はどうしたのじゃ?」


「複数のオーク達に襲われ全滅していました。母親が逃がしたのだと思いますが、ピーリィは無事だったのを保護し、魔物も討伐しました」


 まだ、圧力はある。こちらの話が真実かどうか見極めているのだろう。姫様とトニアさんは口を出さないと決めているようだが、目線だけは彼女に向けていた。



「……あの娘が隷属化されていない事は分かっておる。その上でおぬしを守ろうと身を挺した姿が真実であろう。ならばわしも偽るのはやめじゃ」


 彼女の周りに黒い霧が集まるが、1人ずつ手に触れ魔術効果の許可印を付けたらしく、霧が晴れる。


 そこには、褐色の肌に少し耳の尖った少女。こちらを確認するとひとつ頷き、腕を組む。ああ、見た目はまったく変わらないのか。先程と同じ黒のワンピースにストレートで長い白髪がよく似合う。



「ハイエルフって言うのはエルフと同じなんですか?それとも別の亜人とみたほうがいいんですか?」


 少し顔を顰めつつも答える。


「亜人はやめよ。それは悪風に染まった者達がわしらを蔑視するため作った言葉。わしらはそれぞれの種族で呼ぶことじゃ。ああ、獣人は構わぬぞ。あれは人でなくともどの種族か全て知るものなどそうそうおらんでな」



 亜人って軽蔑の言葉だったのか!やっべ、知らずに使ってたぞ…… 


 ちらっとトニアさんを見るが、特に気にしてはいないようだ。寧ろ、2人とも彼女の顔を見て固まってる?



「おおそうじゃった。おぬし、真理の眼を持っておるんかの?何故わしの事が分かったんじゃ?もし見えるのなら名も言うてくれ」


「はい、スクセルースさん。俺のは固有スキルですね詳しくは、」




「待ってくださいヒバリさんッ!」


 俺としてはこの人ならいいかなって思って話そうとすると、トニアさんに身を引っ張られ姫様に遮られた。緊張どころか汗さえ見せる2人に戸惑い、彼女と2人を交互に見ていた。


「えっと……どうしたっていうんですか?」



 彼女は成り行きを見守る事にしたのか、特に驚いた様子も無くただただ平然と腕を組んでいた。





「……その方は、魔王…です」



 姫様が、震える手を彼女に向け、そう告げた。



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