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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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ハニーハントと副都市入り

 夕べは予定通り街の手前で泊まり、翌朝は沙里ちゃんのご飯が出来るまで外で街とその裏手にある森を見ていた。といっても、ここは林になるのでその隙間から街を見て、あとはダークミストの範囲を少し広げて周囲の確認をしていた程度だが。



 ふと、そこに2つの点が向かってくるのが見える。おそらく走っているのだろうが、そんなに早くはない。正確にはこちらに向けてって訳でもなさそうな感じだな。



「……あ。これって前に会った獣人の子供じゃないか。確か犬人族、所謂コボルトだったっけ。うん、そうだ間違いない」


 鑑定を使って確認しなおした。さらに後方に何やら追いかけてくる点が3つ。これらはジャイアントビーという名前の通り大きい蜂らしい。

 でもこの蜂は魔物ではなく野獣と同じく元から生息する虫で、詳細を見ると針による麻痺と雑多な食欲、そして子の為の蜜集めをすると書いてある。



「これはちょっと危ないな。助けよう!」


 急いで居住袋の中に声を掛け、トニアさんに馬車を外に出しておいてもらう。さすがに袋の事を見られる訳にはいかないからね。

 あと、事情を説明したら美李ちゃんとピーリィが救助に名乗りを上げたので連れて行くことにした。正直ピーリィの出番はないだろうけど。





「おーい!こっちだ!蜂を倒すからこっちに逃げて来てくれー!」


 大声で呼びかけ、林が開けた場所に誘導する。さぁ、あとは俺と美李ちゃんの魔法……俺はボウガンだが、一気に叩くぞ!


 すでに矢を番えてあるボウガンを構え、子供達が俺の横を通った後で撃つ。1匹にしっかりと命中して地面に落ちる。ぽとりじゃなくどさっていったよ!さすがに50cmくらいある蜂はすごいな!


 横に立った美李ちゃんは、土の初期魔法であるロックシュートを石礫ではなく、しっかりとつららの様に尖らせて撃ち放った。胸部を貫いて背中の羽の付け根も壊しつつそのまま遠くへ飛んでいった。威力すげぇ……


「これも昨日ニアさんに教えてもらったの!尖らせるのとばらまくので使い分けなさい、って!」


 そう言いつつも今度は石礫を散弾銃の様に前方に撃ち、蜂は見るも無残なぼろぼろの姿で弾かれながら落ちていった。どちらも即死である。

 俺が矢を当てた蜂はまだ生きていたため、剣で止めを刺しておく。即死してるわけがない。


(この実力差、分かっていたけど凹むわぁ……)



 体液を払って剣を鞘に戻す。そして戦闘中はピーリィに守ってもらっていた姉弟のもとへと歩み寄って無事を確認する。


「大丈夫だった?」


「はい、ありがとうございます!」


「パパやママも凄いけど、やっぱりお姉ちゃん達もすごい!」


「こら!助けてもらったんだからお礼が先でしょ!」


 はしゃぐ弟とそれを叱る姉。どうやら怪我もないようだ。



「で、どうして蜂に追いかけられてたの?それに両親はどこにいったの?」


 陽も昇って明るいとはいえここはまだ街の外。子供だけで遊ぶような場所ではない。悲壮感は見られないから、スキルで感知されたいくつかの集団のどれかにいるんだろうけど。



「えっと、前に来たときにこっちにお花畑があったの。それで、お父さんとお母さんにプレゼントしようと思ったら、そこに着く前にあの蜂に追いかけられて……」


 姉の方が気まずそうに話す。ああ、花畑ってことは蜂が蜜を集める為にその近くに巣を作ったのかもしれないな。


「それは災難だったね。近くに蜂の巣があると思うから、そこにはいかない方がいいよ。その代わり――」



 俺達の馬車に戻り、事情を説明して姫様とトニアさんにその子達を保護してもらう。俺は心配していたその子達の親に話して今は無事にこちらで休んでる事を伝えると安堵し、2度も助けてもらったと恐縮しきりだった。




 さて、ここからだ。


「ではこれより、蜂蜜獲得作戦を開始するッ!」


「「オー!」」


 俺と美李ちゃんとピーリィによる、巣の駆除と蜂蜜ゲットを目的として臨時パーティ戦闘を行う事にした。だって蜂蜜すっごく美味しいって書いてあったし!





 感知範囲を広げて巣の位置と周囲の蜂を確認し、まずは周囲の蜂を駆除していく。ここは俺の矢と美李ちゃんで済ませる。そして徐々に巣に近づき、


「ここからは美李ちゃんメインの出番だ!」


「はい!頑張っちゃうよ〜!」



 離れた位置から美李ちゃんの放水魔法開始!それに反応して寄ってくる蜂は俺とピーリィの捕獲網で次々袋の中へ。更に羽が濡れすぎて飛べなくなった蜂も網で捕獲していく。途中で袋から飛び出すくらい溜まってきたので、一旦閉じて新しい袋に交換してはまた捕まえる。


 徐々に飛んでくる蜂が減り、ついに女王蜂も捕獲出来た。あとは周囲に戻ってきた蜂がいないか確認しつつ、3m強の巣2個を切り取って袋に仕舞う。


「巣、おっきいね〜」


「これ、おいしーノ?」


「これなら蜂蜜もいっぱいありそうだね!」



 後は袋の中に捕まえた蜂なんだが……このまま殺すのも、なぁ。甘いと言われるかもしれないけど、魔物じゃないと皆殺しっていうのは抵抗がある。

 でもこのまま袋に入れて持っても何時破られるか分からないから、やっぱり捨てるしかないか。人の多い所で破れたらそれなんてテロ?状態だ。こわっ!



「美李ちゃん、この蜂達逃がそうと思うんだけどいいかな?なんか魔物じゃないと全滅させるのが可哀想になっちゃってね」


「うん!あたしも、これ以上はいいかなって」


「ピィリ、ぽいってしてクル?」


「街の近くだから空飛んで見られたら危険だからやめとこう」


「そっカー」


 しょんぼりするピーリィ。やっぱり自由に飛びたいんだろうな。もっと広い場所を用意してあげて、せめてその中では遊べるようにしよう。


「ごめんね。もっと広い遊び場用意するから、帝国領に入るまではそこで遊んでくれるといいな」


「うん。アの中で飛ぶの、好きダヨ!」



 抱きついてくるピーリィを受け止めつつ、蜂の入った袋を石に縛り付けて美李ちゃんにお願いする。


「あっちの方だと魔物しかいないから、これを思いっきり投げて欲しいんだ。今の美李ちゃんならかなり遠くまでいくだろうから、よろしくね!」


「まっかせてー!やっちゃうよぉ……てーいッ!」



 ブォン!という轟音とともに飛んでいく袋。


(やっべ、試しに何か投げさせてから手加減させればよかった!いや、もう遅いから、魔物の群れの上を通過する…………今だ!)


 あまりの剛速球に冷や汗を垂らしながら、それでも目的付近のタイミングを狙って袋を解除・消滅させる。一気に解き放たれた無数の蜂達が、まだ戦闘状態のままで魔物に襲い掛かっているようだ。



「よし。これなら魔物駆除にもなるからいいかな?」


 その後を確認出来たので俺達は作戦終了となり、馬車へと戻っていった。





「ただいまー」


「お疲れ様でした。動きは逐次確認しておりましたが、お怪我はございませんか?」



 馬車の外にいたトニアさんが真っ先に労ってくれた。近くには椅子とテーブルを出して獣人家族の相手をしていてくれたようだ。もう一台の馬車がおそらく彼らのものだろう。


「おお!先程は娘達を助けて頂き、ありがとうございました。そのままジャイアントビーの巣へ向かったと聞いた時は驚きましたが、無事でよかったです!」


 父親がすぐに立ち上がって頭を下げ、母親と子供達もそれに倣う。子供達がちょっと元気ないのは、きっと2人に叱られたからだろう。



「いえ、丁度気付けたから間に合っただけで、そちらも怪我が無くてよかったですよ。あと、俺達は巣を教えてもらったようなものですから」


 実力があればジャイアントビーの巣を採ってくるといい金になる、とこの世界では言われるらしい。それなりの冒険者には金稼ぎ扱いだ。



「で、これは教えてもらったついでにおすそ分けしますよ」


 そう言って取り出した1つの巣の半分くらいが入った袋をテーブルに置く。それでも1mくらいの巣だから袋の中は蜜がたっぷりだ。


「い、いえ!いただけませんよこんな高価なものを……」


「子供達と食べてもいいし、食べきれない分は売っても構いませんよ。こちらはそれの3倍以上取れましたからね!」


 馬車の陰から出したように見せかけて巣を取り出すと、全員が驚きと関心を示して覗き込んでいた。美李ちゃんとピーリィもドヤ顔だ。

 蜂の子もいるんだが、俺も美李ちゃんもさすがに無理だった。でもピーリィにはかなりのごちそうらしく、帰り道でも食べていた。朝食食べられなくても知らないぞ?って言ったんだけどね。




「あ、そうだ。うちのパーティで蜂の子食べる人います……?」


 ぶるぶると首を振る沙里ちゃん。姫様とトニアさんはあれば食べる程度か。ピーリィは分かってるから!元気いっぱい手を上げなくても大丈夫だから!



 獣人家族は食べた事がないらしく、父親が高級食材だというのは知っているといった程度だった。じゃあせっかくだからと食べてもらう事にしたんだが……


「わたしは無理ですよぉ」


「ごめん、俺もだめだ」


 普段の調理番の俺達がアウト。トニアさんにお願いして、網焼きにしてもらうことになった。さすがにいつものキッチンは見せられないので、外に携帯コンロを出して焼いてもらう。


「すみません、ごちそうにまでなってしまって」


「いえ、見ての通り食べられるのはこの子だけでして。他の人の意見も聞いてみたかったんですよ。あ、パンに合うらしいのでこれもどうぞ」


 俺達は沙里ちゃんの用意してくれた朝食を隣のテーブルで食べていたが、興味を持った家族にも焼きあがるまでの間一緒に食べてもらった。




 そして。


「甘い!そして濃厚でうまい!」


「ああ、これだけで高級菓子を食べているような蕩ける甘さです」


「こんなに甘いの初めて!」 「おいしー!」


 おお、大好評だなぁ。これなら街での買取も期待できそうだ!あ、でもピーリィの分も少し残さないとだ。時間が経つとすぐに死んで腐っちゃうって言うから、売値は時間との勝負だな。



「2日目には腐り始めるものが出るそうなので、売るなら今日中でしょうね」


 焼きながらトニアさんが説明してくれる。トニアさんもちょっとしか食べた事がないらしく、合間を見てたっぷりとパンに浸して食べている。


「じゃあ今日街に入ったら売っちゃいましょう。ピーリィも食べたいなら今日までだからね?あとは残っても食べられないから」


「はーイ!」


 こちらは手の平よりも大きいのに、生で丸ごと食べている。今朝のピーリィのご飯はあれで十分だろうな。いくら栄養価が高いといっても、あんなに食べて大丈夫なのかね?




「朝食どころかあんな高級食材まで、ほんと何をお返ししたら良いやら」


「喜んでもらえたならよかったですよ。俺達にはほんと無理って言うのは分かっていただけたでしょうし」


 あの後ピーリィが美李ちゃんにも食べさせてあげると言って追廻し、挙句に泣かせてしまったのだ。しゅんとするピーリィに、本気で嫌がってる相手にはやっちゃだめだと叱りつつもちゃんと慰めた。

 ただ美味しいものを一緒に食べたかっただけだもんね。そりゃあこれ以上叱れないよ。美李ちゃんもそれを理解してるからこそピーリィを許してるんだし。



 聞けば家族は屋台で串焼きの経験はあるが、アイリンには頼れる者も無く商売を開始する予定だそうだ。父親は冒険者としてある程度の腕で稼いできたらしく、携帯魔石コンロと小型の魔石冷蔵庫を持っていた。

 これだけでも一財産だ。乗っている馬車も屋台に出来る作りになっているため、商売許可が下りたらすぐ始めるらしい。


 少し滞在すると言ったら、


「是非店の方に顔を出してください!お礼はその時にでも!」


「分かりました。もし滞在している間に見かけたら寄りますから」



 そう言って家族と別れたが、そんなに長く滞在する予定じゃないから、おそらく商売を始める頃には俺達は南に向けて出発しているだろう。これ以上お礼はいらないと断り続けるよりはいいでしょ。





 片付けをして俺達も出発する。さすがにこれ以上遅くなると色々面倒だ。



 アイリンという街は東に大きな森と湖と遺跡があるため、魔物も野獣も主街道とは違う強いものが出現する。そのため街は全て5mほどの外壁に覆われ、その外壁の上に一定間隔で設置された櫓に兵が配置されていた。王都ほどの広さは無いものの、しっかりとした外壁が広がるのはさすが副都市といったところだ。


 検問はトニアさんと遠藤姉妹が冒険者カードを見せて、荷物も問題なしと簡単に通過出来た。少し並んだので昼になったが、北の国境街の時と違ってナンパしてくるようなふざけた兵士はいないようだ。



 御者を代わって、道行く衛兵に冒険者ギルドの場所を聞いて目指す。多少でこぼこの石畳は馬車を揺らすが、袋クッションで弾んで遊ぶ美李ちゃんとピーリィには楽しそうでなにより。


 ここは湖の先にある木材の町があるそうで、おかげで木材建築が多い。中には立派な石材建築もあるが、それは貴族など上流階級の区域や重要な施設だけらしい。



「さすがにここだけ石造りだと分かりやすいね」


「これだけ木造の家を見るのは久しぶりですね。さすがに和風はないですが」


 商業区に入って真っ直ぐ進むと、1つだけまったく違う建物が見えればそりゃあ間違う人もいないか。皆も追っ手が無い所為か、周りをゆっくり見る余裕もあるようだ。沙里ちゃんも御者台に顔を出してキョロキョロしてる。




「じゃあこれからギルドで蜂の子買い取ってもらって、宿屋を紹介してもらってそこに行こう。あとは道具というか鍛冶屋へ依頼したい物があるけど、他の人はどうする?あ、薬剤師か道具屋で薬も買いそろえないとだ!」


「でしたら自分がお供しましょう。ポーションの説明をいたします」


 トニアさんが同行に手を上げる。そこに姫様も、


「たまには外に出たいので、私もよろしいですか?」


 自分から動きたがるのも珍しいし、勿論了承した。



「わたしはあの蜂蜜でお菓子を試したいので、出来れば家の中に入りたいです」


「じゃあ、あたしも宿に一緒にいるー!」


 沙里ちゃんのお菓子という言葉に目の色を変えた美李ちゃん。みんなにバレバレだったが、誰も突っ込まなかった。優しいなぁ。

 ピーリィは朝あれだけ食べたせいか、途中からうとうとしっぱなしだから留守番決定だ。あれだけ美味しそうに食べてたから、もう少しだけ蜂の子を残しておいてあげよう。


 ……あ、そうだ。焼いてからそのクリームを保存袋に入れたら、生き物じゃないから時間経過なしで袋に保存出来るじゃん!といっても、焼くのはトニアさんに協力をお願いするしかないか。さすがに沙里ちゃんには頼めないわこれ。





 そうして打ち合わせを済ませ、俺達は1つ目の目的地である冒険者ギルドへ到着した。



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