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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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反省から見えたもの

 午前中は俺が御者を務めた。ここからは右手に山の麓、そしてその先は深い森が広がっている。そしてその分オークとの戦闘が増えたようだ。

 稀にオーガという更に巨大な人型魔物も出てきたが、力だけで知性は相変わらずだったので、焦らず確実に魔法やボウガンで沈めた。オーガ自体は1体ずつで群れていないので、先に探知してるからそう苦労はない。



 ここから副都市アイリンまでは夜には着く事もあり、他の商隊たちは固まって一気に走り抜けるらしい。俺達はマイペースのままだけどね。





 昼に休憩し、食後にトニアさんに習って素振り、そして姉妹は魔法の発動までの早さと威力調整の訓練を開始した。もちろん俺だって魔法の訓練をした。目眩ましの発動と継続時間、カモフラージュの即時発動などやれる事はやる。


「ほんとはもっと魔法使えたらいいんだけどなぁ」


「ピィリもまほう、つかいタイなー」


 そういえばピーリィは飛行魔法しか使えないんだっけ。母親は何か魔法を使っていたらしいから、後でどういった魔法か説明できるようになったら教えられそう、とのことだ。これはピーリィの語学力次第か。




 午後からは御者をトニアさんと交代して、俺はマスク作りにとりかかる事にした。なんとしても毒を食らわない対策しないと!

 ちなみに沙里ちゃんたちには、ちょっと大きめの袋をいっぱい渡してご飯を炊いては袋に入れてもらっている。精米は美李ちゃんとピーリィが、炊くのは沙里ちゃんが頑張ってくれてる。これでいつでも炊きたてご飯だ!





 と、その前に。



「そういえば、今のステータスってどうなってるんだろ?」


 最近道で遭遇する魔物はほぼ俺とトニアさんの遠距離攻撃で済ませてたから、姉妹が実践をしたのは数回だったはず。こういう戦闘経験も2人には積んでもらうほうがいいのかもしれないな。


 そう思いつつ、許可を貰って俺と姉妹のステータスを鑑定してみる。



木沼 雲雀 27歳 男

状態:良好

HP:36/36

MP:5402/7244

STR:29

DEF:18

INT:1811

DEX:451

固有スキル

 鑑定:LV-  

 袋詰め:LV5

適合属性

 闇:ハイディング、カモフラージュ、ダークミスト、静寂、ブラックアウト




遠藤 沙里 16歳

状態:良好

▼      

HP:82/82   

MP:324/484

STR:68

DEF:41

INT:121

DEX:83

固有スキル

 万能家事:解体、ドライヤー(火と風の融合)

適合属性

 火、風:発火、風圧防御、風加速、ファイヤーショット、ウィンドカッター

 




遠藤 美李 10歳

状態:良好

▼      

HP:95/96

MP:281/412

STR:111

DEF:48

INT:103

DEX:51

固有スキル

 家庭菜園:大きくなーれ(土融合)、元気になーれ(水融合)  

適合属性

 土、水:落とし穴、土壁防御、小規模地震、ウォーターショット、ロックシュート、消毒、放水




 ……って、分かってはいたが、ほんとに俺って魔力以外伸びてないなぁ。いや、今回はその魔力すら伸びが悪い。普通の人からしたら異常だろうが、今までと比べると明らかに上昇率が悪い。

 しかも訓練も戦闘もほぼしてない2人のステータスが結構上がってるのはなんでだ……?


「あっ!これ、前に姫様が立てた仮説があってるのか!?」



 ”スキルに合った行動でステータスが上がる”


 前に姫様が言ってた可能性。



 これに当てはめると、俺は最近袋作りをやったのは居住袋と靴と篭手くらい。それに対して沙里ちゃんは毎日の家事、美李ちゃんは畑袋での農作業。2人はしっかりとスキルに合った行動をしていたんだ。


「と言うことは、俺はもっと袋のスキルを使った行動をしなきゃだめってことか?それって、攻撃力も防御力も急上昇は望めないってことじゃないか……」



 紙に書いた3人のステータスを見ていたら沙里ちゃんが気付く。


「こうしてステータスを見ると、あの時私が風防御が使えたら毒も飛ばせたんじゃないでしょうか……?」


「……あ。そうだったねぇ。でも俺達にはそれを考える余裕すらなかったってことだ。もっと自分の能力を把握しないとだね」


「はい!」


「ヒバリお兄ちゃん!あたし、じょうろから考えて放水っていう魔法を覚えたの!消防車みたいにばーって水を出せるの!」


 え?今回の訓練でもう出来る事が増えたの!?


「美李ちゃんすごいなぁ。これは俺も負けてられないね!」


 俺の魔法に”ブラックアウト”って言うのが増えてたが、これはよく使っている目眩ましのことだった。新しい魔法覚えたいなぁ。






 2人はまた炊飯作業に戻り、おれはステータスを再確認して思った事がある。馬車の外に出て居住袋を閉じてから姫様とトニアさんに尋ねる。


「すみません、ちょっと時間いいですか?」


「はい。中の方はよろしいのですか?」


「ええ。マスクはまだ作ってないですが、ちょっと聞きたい事があって」



 一度呼吸を整え、話を切り出す。


「昨日の盗賊との戦闘、俺達を試しましたね?」


「……はい。申し訳ありません」


「ヒバリさん、お待ち下さい。提案したのは自分です!ひ……サリスさんは反対されましたが、自分が押し切りました!」


 まだ出発していない御者台で装備の手入れをしていたトニアさんが、土下座する勢いで馬車の中に入って姿勢を正す。



 やっぱりか。沙里ちゃんに言われた時、それならトニアさんだって同じ風魔法を持っていたはずと気付き、そこから考えると答えが見えてくる。


「これからこういった襲撃は何度もあるでしょう。その度に守られているだけでは、どうしたっていつか致命的な失敗をする可能性があります。でしたら、私達があしらえる程度の数で皆様が上手く対応出来るかを試したいと進言しました」


「……必要な事だったんでしょうが、俺達の世界は人を殴っただけで処罰されるくらい平和な場所でした。それを、殺されるどころか女としても殺されるような窮地に立たされる子の事も考えてください。

 勿論今はこの世界にいるんだから甘い考えではいけないのは分かります。でももうちょっとやり方を、心を抉るような事を連続で押し付けないで下さい」



 見る見る耳が倒れていくトニアさんに胸が痛むが、言っておかなければこれからの関係が壊れてしまう。ちゃんと、伝えねば。


「そうでないと、俺は、あなた達を信頼することが出来なくなってしまいます」


 一度疑惑が生まれると、このままでいいのか今やっているのは正しい方向へ進んでいるのか、全てが信じられなくなってしまう。ただでさえ勝手に召喚されて勝手に失望されて追い出された身だ。


「訓練や実践で甘い顔や接待をしろだなんて言いません。ただ、負う必要のない心の傷をつけないでください。それにこれは2人には言わないで下さい。それこそ心の傷になりますから」


「はい、申し訳ありませんでした」


 完全にしゅんとしてしまった2人に罪悪感が湧くが我慢だ。



「この話はここまでにしましょう!実際には冷静に魔法でもなんでも対処出来たはずだったのに、まったく活かせなかったのはこちらのミスですからね。これはもうお二人に鍛えてもらうしかないですから、これからよろしくお願いします!」


「はい!それはもちろんです!」


 まだ正座のままのトニアさんが真剣に返事をする。耳もちゃんと立ってやる気を見せていた。




「あ、そうだ。もう一つ聞きたかったんですが、結局俺達を助けてくれたのはサリスさん達ってことでいいんですよね?何か知らない人がって言ってたけど、この事を黙ってるために嘘を言ったにしてはちょっとおかしくて」


 まだ聞きたい事があると言った一瞬だけビクッとしたが、内容を聞いて今度は2人とも難しそうな顔をして困っていた。


「その事ですが、本当に闇と光の属性を持つ方が盗賊達を排除されたのです。なんでも、”友人の孫を傷つけた”と言っていたのです。

 あの場で怪我をしていたのはヒバリさんかピーリィさんだけでした。ですので、お二人のどちらかが関わりがあるのだと思います」


「俺、ここの世界は初めてですよ?だからピーリィの事ですかねぇ」


「はい、おそらくは」


「……あ、そうだ。俺が気を失う時女の子の声を聞いた気がするんですよね」


「女の子、ですか?」



 2人が首を傾げる。助けてくれた人の声は男とも女とも取れる、何かで加工されたような声だったそうだ。あれ?じゃあ気のせいかなぁ?



『闇の適合者ともあろう者が情けない。だが、守りたいというおぬしの心、懐かしい勇者と相違ない。あとは我に任せて眠れ』



 女の子の残した言葉を思い出しつつ口にすると、姫様が驚いた顔をしていた。


「その口調、ご助力くださった方と同じです!しかし、勇者を知る方となると……さらに謎が深まってしまいましたね」


「もしかしたら、魔族、でしょうか?」



 豊かな胸の前で腕を組んで考えていたトニアさんが言う。別に俺が胸しか見てなかったわけじゃない。今は真面目な話をしてるんだ。うん。


 ……あ、そうだ。


「その子の闇魔法の魔力は覚えてますから、もしかしたらダークミストで感知出来るかもしれませんね。範囲にいたら、ですけど」



 姫様に続いてトニアさんもびっくりした顔を返してきた。お、これはちょっと珍しい。


「えっと、ヒバリさんは今まであの魔法で魔力も感知出来ていたのですか?」


「前提が違いますね。あのダークミストは魔力感知が出来るんです。それに俺の鑑定スキルを飛ばして情報を得てるんですよ。逆を言えば、魔力のないものは感知出来ません。ピーリィのお母さんが分からなかったのはそのためです」



 おそらく今ダークミストの感知を再確認しているのだろう。トニアさんが黙って外へ意識を飛ばしている。姫様も同じく確認しているようだ。


「ちょっと頑張って範囲を広げますね。街がもうすぐならその近くまで……っと、このあたりでやめときますか」


 脳内に浮かぶ地図には、街に近づくにつれて動く点がかなり多くなっていく。範囲を広げるとその分増えた点はごちゃごちゃと見づらくなってしまうのはしょうがない。ネットの地図検索のように見たい所を拡大できるわけじゃないからね。



「おっと。そろそろ動き始めないと夜に間に合うか微妙な距離ですね。すみません、話が長くなってしまいました」


「いえ、こちらがしでかしたことを叱って頂けたので。世界の違いがここまで大きいと認識していなかったこちらの落ち度でもありますから」






 やっと馬車を動かすが、暗くなると混み合う上に急遽締め出される事もあるそうなので、今日は街の手前で泊まる事にしようと事前に打ち合わせをしておいた。焦ると碌な事がないから、気持ちに余裕を持たせて丁度いいだろう。



 居住袋の中へ移動開始した事を伝え、俺は馬車の中でマスクの試作を始める。まずはよくあるマスクを作る。口の部分の袋を開いて、袋の中で呼吸する形だ。


「ん〜……耳にかける紐がゴムじゃないから、緩いと落ちるしキツイと締め付けられて苦しいかぁ」


「それなら調整できるようにしたらいいんじゃないですか?」


 顔を出した沙里ちゃんが、上手くいかなかったマスクを手にしながら提案してきた。


「いや、調整と言ってもどうやったらいいやら……」


「ほら、よくリュックやバッグの片紐を調整する部分あるじゃないですか」


「ああ、あれか!そうなると専用の金具がいるなぁ。この世界のバッグは紐の調整は直接縫いつけだったからね。今は作れないから、頭のバンダナみたいに結んで使ってみるか」



 その後いくつか試作をし、最終的にはネックウォーマーみたいな形になった。各自の鼻の形に沿った窪みを作り、口元部分が開いて顎まで引っ掛けられる。そして金具が出来たら、口に固定してから調整紐を締めてマスクになる。


 今は首に縛り付けてある。それでも首元の防具代わりにもなるからいいかな?



 あとは全身タイツとまではいかないが、両足の内側と股部分が開閉になってて頭から被れる袋も作った。開閉部分以外透明に作ってるので、これを着て水の中や毒や熱、寒さも防げるスーツってわけだ。

 欠点は、会話が出来ないし素手の攻撃力皆無、そして攻撃されてもある程度袋の耐久値で防げるが、拘束に弱い点だろう。


 面白そうだからマスク同様全員分作ってそれぞれポケットに持ってもらった。




 大体やりたい事が終わったので、夜の泊まる時間まで生活用袋の補充分をせっせと作り続けておいた。MP大量消費は危険がない時にやっておかないとね!



ヒバリの魔法に抜けがあったので修正しました。(11/11

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