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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
43/156

盗賊との戦闘、再び

「ぐぁっ!?」


「目が!」


「チッ」


「なんだ!?あの距離から狙えるのか!?」




 俺は、ダークミストの目眩ましを使ってから、正面から来た3人にボウガンで狙い撃つ。1人は足に命中し、真ん中の男は盾で弾いた。3人目はさらにその男が盾で庇ったせいで、結局1人にしか中てる事が出来なかった。

 更に、左右に2・3人ずついる奴等の中にも飛び道具を持っているようで、トニアさんと沙里ちゃんが捌いている。初撃で1人しか減らせなかったのは痛いな……


 その時、右側にいた3人の内2人がピーリィの捕獲網の奇襲に嵌まり、見事に捕獲された。これで右側からの射撃はなくなった!ピーリィ偉い!


 突然( 奴等にとって)左側から聞こえた悲鳴に驚いた隙に更に左側の射撃手にボウガンの矢を叩き込む。奴等が立ち直る前になんとか2発中てる事が出来た。



 右に1人・左に2人・正面に5人・後ろはなし。よし、これなら……




「お前ら慌てんな!」


 中央にいたリーダーらしき男のその一言で奴等は一斉に静かになり、そして浮き足立つものはいなくなってしまった。残り8人、か……



「おい、あれをやれ!」


 いまだ近接距離にはなっていない状況で、後ろにいた奴が何かを投げる仕草を見せたが、特にこちらには……ボールか?



「……ッ!いけません!はやく弾いて!」


 トニアさんの叫びに反応して、美李ちゃんが目の前に飛んできた1つを槌によって相手に打ち返したが、残り3つは足元に転がった。そして、そこから煙が噴出した。


「やはり!これは毒です、吸わないように気をつけてください!」




 馬車のそばにいたトニアさんは姫様の横に付き煙を風魔法で退け、美李ちゃんはそのまま馬車のそばから動けずにいた。そして毒の煙を受けた俺と沙里ちゃんは、その苦しさから膝を突く。くそ、これ気持ち悪くて立ってられない!


 そしてトニアさんの風魔法に対抗するかのようにまだ毒煙玉を投げてくる盗賊達に、トニアさんも足止めされてしまった。気付くと盗賊達は全員マスクを着けていた。



(まずいぞ……解毒って姫様の魔法しか知らない……そもそも解毒薬なんて持ってないぞ!)



 動けないヒバリと、その横の沙里ちゃん。美李ちゃんは風魔法のそばで大した毒は受けていないものの、どう動いていいのか混乱している。

 そうしてる間にも正面と左右から慎重に距離を詰めて来ているのが見える。リーダーがにやけた顔でナイフを取り出し、そして俺目掛けて……投げた!



「ダメェ!」


 なんとか腕を動かし盾で顔は防ごうとしたその前に、ピーリィが飛び込んで自身の翼で俺を庇っていた。嘘だろ!?ピーリィは毒の範囲外なのだから、わざわざここに来なくていいはずなのに!


「ダイ……じょうぶ?」


「ピーリィ!俺は平気だが、なんで出てきた!?」


「ぜったい、けが、させナイ……の!」



 くそっ!ここに来た事でピーリィも毒を吸ってしまったらしく息が荒くなっていく。なんで薬の1つも持ってないんだ俺は!!!



「よぉ、もうお別れは済んだか?臭すぎてみてらんねぇんだよそんな芝居はよぉ」


 卑下た笑いをしながら歩いてくる盗賊のリーダーと、まだ毒煙玉はあるぞとちらつかせる盗賊達。


「男はいらねぇ。女は売り飛ばすが、その前に楽しませてもらおうか?」


「お、俺!こっちのチビもらっていいか!?」


「お前そんなガキがいいのかぁ?俺は馬車にいる奴等だな!」



 くそ……なにか手はないか!?このままじゃ俺が殺されるだけじゃなく、皆はもっと酷い目に!魔法といっても、今の体だと上手く集中出来ない。


(何か……何か!)


 

「まぁ、死ねよ……ッ!?」


 トニアさんが投げたナイフを避けながら、盗賊リーダーが俺の胸を狙った突きを放つ。それをピーリィを庇いながら必死に動かした盾で受け止め、盾に吸い込まれる剣に驚く男の手首を盾の枠で捻って、剣を盾の袋に落とさせた。



 ……が、出来たのはここまでだった。



「てめぇ何をした!?言えよッ!」


 剣を奪われたリーダーが、ピーリィを庇っている俺の鎧の無い腰を蹴り続けた。ちくしょう、これ以上何が出来る……?まだ、何か……



 しばらく蹴っていたが、動けない俺を見て気が晴れたのか沙里ちゃんの方へと振り向いて、思いついたかのように啖呵を切る。


「さて、このむかつく野郎の前でこの女でも犯してすっきりしてやるかぁ!」


(やめろぉ!!!)


 声に出したいが、痛みと毒で音にもならない息がヒバリから漏れる。


 待ってましたとばかりに騒ぎ出す盗賊達と、いまだ膠着状態が続く姫様とトニアさんは動けずにいた。




 しかし、ここでノーザリスが先に動く。


「仕方ありません。ニア」


「はい」


 トニアの後ろにいるノーザリスが収束光射を使って一気に焼き殺そうと手に魔力を籠めたその時、急速に辺りが暗くなった。



「なんだ!?」 「おい、見えねぇぞ!」


「何しやがった!おい、」



 こちらは当然だが、盗賊達も混乱していた。しかし盗賊達と違うのは、この暗さには覚えがあったのだ。そう、ヒバリが使う闇魔法のようなあの暗さが。


「ヒバリさま!?」


 ノーザリスは慌ててヒバリのいた方を見るが、魔力を使っているようには見えない。


(ならば何故……?)




「下衆共、よくも我が友の子孫に手を出してくれたのぉ?」


 それは、声だけであったが、他の音が小さくなっていく中でよく響いていた。


「そして、人族とはすでに下衆しか残っておらんと思うとったが、うむ。おぬしらは認めよう」


「何言ってやがる!出て来い!!!」


 リーダーの男が吠えるが、その声ももはや遠くから聞こえるように感じる。不安になりそうなものだが、その声にノーザリスは安堵を覚えた。話の内容で敵ではないと思えたからだ。



「もうよい。下衆に用はない。が、見逃す義理もないのぉ」


「なにをいっ……」 「なん……」 「おい……」


 次々と消える声。そして盗賊達の声がすべて消えた。



「さて。あとはおぬしらの毒からじゃな。それ」


 暗い中から淡い光が生まれ、ヒバリたちに降り注ぐ。それは光の浄化魔法……そして次に癒しの魔法が放たれるのが見えた。


「助けて頂き感謝いたします。あの、あなた様は?」


 いまだ暗く見えない視界の中、ノーザリスは魔力を感じた方を見据えて話しかけた。しかし、そこに明確な答えはもらえなかった。


「よい。いずれまた会おう。今は傷を癒すがいい。ああ、けったいな魔法に包まれていた下衆もこちらで処分しておいた。これで心配はいらぬぞ。ではな!」





 声の主の気配が消え、そして視界が戻る。すでに日は暮れて、闇魔法とはちがう黒さで暗くなっていた。当然だが盗賊達の姿は全員消えており、先程の者が眠りの魔法をかけたのか、ノーザリスとトニア以外の4人は静かに眠っていた。


「とにかく皆様を馬車へ移しましょう。まずはそれからです」


「……はい」


(闇と光の魔法を使う者、ですか。こちらに敵意は無いようですが、一体何者でしょうか……)





 それからしばらくして、4人は目を覚ました。


「……ッ!沙里ちゃん!?……ん?」


「は、はい!……あれ?」


「んー?お姉ちゃん?」


「きゅぃ〜……んぅ」



 辺りを見回すと、俺達4人が馬車で横になっていた。さすがにこの人数が寝転がると馬車もいっぱいだ。いや、そんなことより、


「皆様、ご無事でなによりです。どこか痛みはございますか?」


「はい、痛みは……ないようです。結局姫様に助けられてしまいましたか」


「いえ、私でもニアでもありません。闇と光の魔法を操る方がご助力くださり、盗賊全てを始末してくださいました」


「闇……と、光、ですか?光ってそうそういるものじゃないんですよね?」


「はい。ですので、その方が正体を明かさなかったのもそこにあるかと」

 


 広められたら面倒になる、か。そういえば、意識を失う直前に声を聞いた気がする。



『闇の適合者ともあろう者が情けない。だが、守りたいというおぬしの心、懐かしい勇者と相違ない。あとは我に任せて眠れ』



 そうか、あの声の主が俺達を助けてくれたのか。しかし、


「結局、俺達の考えが甘かったせいで迷惑をかけました。すみません」


「いえ、それは自分もです。こちらの世界では、回復薬や解毒薬といった魔法以外での常備品は、当然全員が持っていると決め付けておりました。

 これは自分の落ち度であります。これからは常識と思っている事も確認を怠らないよう千慮いたします」



 そうなんだ。トニアさんの言うとおりなんだ。


 まず俺達は食材は大量に持てるし、属性魔法も全員で全てが揃っている。そして、何かあれば魔法と召喚勇者の恩恵で解決出来てしまった。

 例えばゲームを思い出しても、回復薬なしで冒険をするだなんて普通はまずしない。それすらも忘れてしまうほどに順調に行き過ぎた。


「ちょっとじゃなくかなり舐めていたんですね、俺達は……自分達の命が懸かっているのに、準備不足なんてものじゃないでしたね」


「はい。これからはお互いの情報交換をしっかりと行いましょう。そして今回の事を反省し、次に活かしましょう」


「わかりました!改めて、よろしくお願いします!」




 そこでずっと黙っていた3人に顔を向ける。


「皆も大丈夫?本当に痛いところはない?」


「はい、わたしは大丈夫です……」


「……」


「ピィリ、いたくない!」



 やっぱり、か……


 元々この世界の住人であるピーリィは精神的に強い。しかし、姉妹にとって初の対人戦がこの有様だった。心に傷を負わないわけがない。特に美李ちゃんは以前と同じように怯えてしまっている。



「ちょっとごめんね?」


 3人のすぐ脇に体をずらし、声を掛けてからそっと抱きしめる。


「今回はかなり怖い目にあったけど、皆無事だった。本当によかったよ。これからもああいう奴等は出てくると思う。でも、皆で頑張ってまたこうやって無事を喜びあいたい。後で助けてくれた人にお礼を言わないとね!」


 少しぐっと力を入れて抱き寄せると、美李ちゃんが、そして沙里ちゃんが嗚咽を漏らして泣き始めた。


 そりゃぁ怖かっただろう。俺だって怖かった。今回ばかりは殺されると思ったし、家族の様な仲間が心から壊されそうになったのを見て、力のない自分が悔しかった。


(次こそは絶対、もっとうまく立ち回ってやる!)



「あ、そうだ。ピーリィ」


「なーに?」


 泣いている沙里ちゃんと美李ちゃんの頭を撫でていたピーリィがこっちを向く。


「ナイフから庇ってくれてありがとう。翼は大丈夫?また飛べる?」


「ウン!だいじょぶだよ!」



 馬車の中で立ち上がって、翼を広げてアピールする。ナイフが当たったであろう場所に傷はないが、少し羽が落ちてしまったようだ。飛ぶには問題ないそうで、そのうち生えてくるのだろう。



 ピーリィを撫でようと姉妹を抱きしめていた腕を緩めると、美李ちゃんが胸に飛び込んで声を上げて泣いてしまった。

 大丈夫だよ、と時折声を掛けながら背中をさすっていたら、沙里ちゃんもそっと俺ごと美李ちゃんを抱きしめて優しく声を掛けている。



 しばらくそうしていたら、美李ちゃんがそのまま寝てしまった。鎧を脱がされていたので、俺のシャツを掴んだままだ。沙里ちゃんも離れようとはしない。ピーリィは俺の頭を後ろから抱きしめている。


「さて、どうしましょうかね?」


 助けを求めるように横の2人を見ると、空気が緩んだ事に安堵し、微笑み合う。



「今日はもうここで泊まりましょう。これ以上無理は危険ですからね」


「そういたしましょう……あ、ヒバリさん」


「はい?」


「体調が戻られましたなら、ダークミストを発動してくださるとありがたいのですが」



 あっ…そうだった!意識が飛ぶ前から、いや、毒を受けた後から魔法が途切れていた気がする。しかも今まったく警戒してなかった!


「すみませんすぐに!まいったなぁ、これからはもっと頑張ると言っておいて失敗してたかぁ」


 周辺の索敵を行うが、特に感知されなかった。ゴブリン達も盗賊に集められていたんだから、その分周囲にいなくなるのは当然か。



「……敵も問題ありませんね。では、居住袋を設置して休みましょう



  あ、ヒバリさん」


「はい?」


 近場の木に設置してカモフラージュをかけて入り口を開けてから振り向く。




「先程サリスさんを姫様と呼んだので減点です」





 ……あ、はい。すみません。


 さらに反省が増えた事に頭を掻きつつ、美李ちゃんを抱えたまま立ち上がるヒバリだった。


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