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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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仕込みと不穏な空気

 左手に蛇の道山脈を眺めながら主街道を走り3日目、以前山の麓から出てきた分岐まで到達した。ここからは初めて走る道であるため、御者を代わってもらって自分の手で走らせてみた。


 次の目的地であるアイリンまでの半分まで走破したことになる。






「このまま道なりに真っ直ぐ行って副都市まで目指せばいいんですよね?」


「はい。ですがこれは……」


 トニアさんから御者を代わってすぐにダークミストの範囲を広げてみたら、ちょっと行っては誰かの馬車がゴブリンやオーク、そして大蛇や狼といった魔物や野獣と戦っていた。



「ずいぶん戦闘が多くなるんですね」


「先日騎士が通ったはずなので、ある程度は駆除されているはずなのですが、これは少し様子がおかしいですね。中に入る皆様にも伝えてきます」


 そう言ってすぐに居住袋に入っていく。俺も盾と剣、そしてボウガンの状態をチェックし、いつでも使えるようにしておいた。



「魔物が活性化しているのもあるでしょうが、それに加えて騎士の巡回警備が行われていないのではないでしょうか?」


 馬車に出てきた姫様が話し出す。


「3日前に騎士達が通りましたよね?」


「それなのですが……我々を捕まえるために騎士を集めているということは、どこの街も村も防衛の人数以外かなり少数しか残されていないのではないでしょうか?」


「あっ……」


 人を集めればその分何処かは人手不足になる。じゃあ普段主街道を巡回していた兵は確保されているのか?と言えば、おそらく全く足りていないのだろう。


「じゃあ、しばらくこの状態が続くかもしれませんね……」


「はい。中ではニアが同じ事を伝えているので、皆さんも武器や防具を装備しておられるかと」


「ちょっと見た感じでは、今のところは強くてオーク程度ですね」


「ですがこの先も同じとは限りません。ボルネオール山脈の南側は広大な森に覆われ、その南に大きな湖があります。そして中心付近には迷宮遺跡があり、この辺りの魔物は大幅に強さが異なります。

 その森の外の西側に私達が目指しているアイリンの街があるのです。ですので、道中の魔物も徐々にその強さを増していくでしょう」


「えっ?そんな所に行くんですか?」


「一番安全である主街道はアイリンを通りますので、他の道はさらに強力になるのでお勧め出来ませんよ?」


「あ、そうでしたか……」


 一番安全なのはやっぱり主街道ってことかぁ。






 時々ゴブリン達に苦戦する馬車に走りながらボウガンで援護射撃しつつ(勿論先に許可を貰ってから)、馬車を止めて昼ご飯の焼きおにぎりと卵焼きを食べて一息。


「大豆と麦と玄米があるってことは、醤油と味噌も作れる……か」


 以前の召喚勇者のおかげか、この世界にも醤油と味噌っぽいものは存在するんだが、どうにも味がよくない。さっきの焼きおにぎりも、俺達3人にとっては物足りなかったわけで。


「ヒバリさん、作り方を知ってるんですか?」


「うちの実家は田舎だから味噌は分かるよ。醤油はこの世界の作り方で覚えてるけどね。といっても、麹菌はこの世界でも売ってたからあとは作ってみるだけだね!」



 よくよく考えてみたら手に入れた麹菌が米麹だったんだから、この世界に米があるって気付けたはずなんだよね。あの時は味噌と醤油があったって事に浮かれてたんだよなぁ。


「美李ちゃんと沙里ちゃんに手伝ってもらいたいんだけどいいかな?」


「はい!美味しい味噌と醤油を作りましょう!」


「はっこうなら任せて!」




 馬車を姫様とトニアさんにお願いして、俺達はキッチンで料理を開始した。ちなみにピーリィもやりたいと言ったので、手には俺が袋で作った手袋を嵌めている。これなら羽毛も気にせず出来るから喜んでいた。



 ……と言っても、


「初めは大豆を洗って水につけておく事くらいなんだよねぇ」


 1日かけて水に浸して、翌日蒸してミンサーで潰して塩と麹菌を混ぜて、寝かせておく。味噌作りだと以上だ。あとは時間がいるだけ。

 醤油だと炒って砕いた麦を混ぜるのと、塩は水に溶かしてから混ぜる、っていう違いがあるくらいか。



「混ぜるのってはっこうだよね?」


「そうだね。醗酵を進める為にしっかり混ぜるね」


「それならあたしにお任せだよっ!」


 ばーん!って効果音が聞こえてきそうなほどドヤってる美李ちゃん。そしてそのマネを始めるピーリィ。どういう事?


「それはですね、美李のスキルは植物だけじゃなく醗酵もよくしてくれるんですよ。いつも食べてるパン作りを美李が手伝ってくれるのはその為なんです」


「おねえちゃん、だめぇ!あたしが言うはずだったのにー!」


 ごめんねと謝りつつ宥めてる沙里ちゃん。でも申し訳ないが美李ちゃんだときちんと説明出来てなかっただろうなぁ。



「美李ちゃんすごいじゃないか!早く教えてくれればよかったのに〜」


 頭を撫でまくると「髪が〜」と言いつつも凄く嬉しそうな顔に変わっていた。ピーリィも手袋を外して一緒に撫でて「すごいすごーい!」と言ってる。多分何が凄いか分かってないだろうけど。


「とにかく、明日からは美李ちゃんの出番だね!」


「任せてね!」



 美李ちゃんのスキルって、要するに植物培養と言うか農作物特化っていう事でいいのかな?魔法の適合も考えると、特化どころじゃないな……


「うーん……」


「どうしたの?ヒバリおにいちゃん」


「いや、美李ちゃんのスキルってほんと凄いなぁって」


「えっ!?……えへへぇ〜そうかなぁ?」


「うん。だからびっくりしちゃってたんだよ」


 そう言いつつまた頭を撫でていたらピーリィも近づいてきたので一緒に撫でてあげた。嬉しそうにされるがままの2人に、撫でる方も癒されるなぁ。






 今回は準備のみだが終了し、パンの醗酵が出来るならワッフルも作るかな?などと考えつつも馬車の方に戻る。


「もうよろしいのですか?」


「はい。今日は大豆を洗って水に浸しておくだけしか出来ないので。そのまま1日待たないと次に進められないんですよ」


「なるほど。時間が必要なのですね」



 納得した姫様にもう少し詳しく作り方を教えつつトニアさんの隣に座る。御者を交代しようとしたがそのままでいいとの事で、とりあえず盾とボウガンを装備し直しておいた。


「やっぱり山側は魔物が多いですね……」


「この先は商隊があまり走っていないようなので、特に戦闘になる可能性があります。気を抜かず進みましょう」






「……おかしいですね。左右どちらも魔物が現れる頻度が多過ぎます」


 馬車には全員が揃い、戦闘後の休息を取っている。



 午後だけですでに4度も魔物に襲われ、その全てを撃退している。2時間に1度程度だった昨日と違って、今日は倍どころではない。あまり他の馬車がいない事もあるが、


「さすがに連戦は疲れますね。といってもすぐに片付いてはいるんですけど」


「それに馬車を止めてばかりで全然進みませんよね」


「晩ご飯前にお腹空いちゃうかもだよぉ」


「ぴゅぅ〜」


 沙里ちゃん、美李ちゃん、ピーリィの3人も大分疲れ始めている。


 姫様とトニアさんはさほど疲れていないのか、全然変わった様子がない。交代とはいえ2人共剣で戦っているんだが、やはり経験の差かな?



「今日は早めに泊まる準備をするか、いっそ一気に駆け抜けてしまうか決めてしまった方が……ッ!ヒバリさん、感知範囲を広げてください!」


「えっと、分かりました」



 急に緊張感のある声に変わったトニアさんに圧されつつもダークミストの範囲を徐々に広げていく。すると、先程から範囲に見えていたゴブリンの他に、さらにその奥にいくつかの集団が映る。


「ッ!これは……盗賊ですね。ゴブリン達を追い立ててる?」


「やはりそうですか。先程ゴブリンと思われる集団の1匹が消えたのですよ。通常同種族では滅多に潰し合いません。盗賊が主街道へゴブリンを追い立てていたというわけですか……」



「皆様、このままですとゴブリンの集団と盗賊両方を同時に相手取る事になってしまいます。引き返してやり過ごすか、先に進んでゴブリンを殲滅し、その後に盗賊と戦うかを選ばなければなりません」


 姫様がどう判断するかを促す。


「もし引き返したらどうなります?」


「我々は無事やり過ごす事が出来るでしょう。しかし、私達の後ろにいる馬車等が通れば犠牲となるでしょう。まさか”この先に盗賊がいます”とは伝え辛いですからね。何故分かったのか疑惑が生まれ、何処かへ通報される恐れがありますから」



 ゴブリンも盗賊も、どちらも10匹と10人程度。同時でなければどちらにも負けることはないだろう。慎重にいくなら後退してやり過ごした方がいい。


 が……


「自分達の安全のためとはいえ、何の罪もない人が犠牲になるのが分かってて見捨てるのも、どうにも目覚めが悪くなりそう、だよなぁ」


「私も、きっと後悔すると思います」


「やっつけちゃえばいいの?」



 俺の言葉に沙里ちゃんと美李ちゃんが続く。それを聞いたトニアさんが俺達を見渡してから聞き返す。


「皆様、お忘れかもしれませんが、盗賊がいるということは人を殺すかもしれませんよ?それでも、ですか?」


「「!?」」


 沙里ちゃんと美李ちゃんが、怯む。まだ2人は対人戦というか、人との殺し合いには参加したことがない。俺だって前回は捕獲だったから頑張れたしその後も何ともなかっただけかもしれないが。



「ピィリだいじょぶだよ!」


 戸惑い口を閉ざしてしまった姉妹の横で、ピーリィが両手の翼を広げて声を上げる。いつもと変わらないようだ。その声に押されるように姉妹もしゃべり始めた。


「さっきのおじちゃんたちが殺されちゃうかもって思ったら、あたしは逃げるのやだよぉ……」


「そう、ね。わたしたちにはその力はあるのよね」



 それは、少し前になるがゴブリンとオークに襲われているのを助けた馬車の家族の事で、獣人と人族の夫婦とハーフの兄妹の4人だ。王都よりは差別の少ない副都市へ向かう途中だと言う。

 その馬車は俺達より後ろを走るが、下手をすればこの先まで行ってから休むかもしれない。ピーリィを見て思い出したのだろう。



「俺も、戦います。また捕獲を狙って、それでもダメなら……討ち取ります。ここはそういう世界ですからね」


 姫様が罪悪感から悲しそうな顔をするが、しっかりと決意を籠めて見つめ返すと、頷いてくれた。



「分かりました。では、このまま進みましょう。まずはゴブリン達を素早く仕留め、盗賊との戦いが始まる前に体勢を立て直しましょう。皆さんでしたらあれくらならばすぐに済むでしょう」






 それから程なくしてゴブリン達と接触し、すぐに戦闘開始となった。


 盗賊達に見られないように、攻撃魔法は使用せずに力だけで排除する。もちろん姫様はあまりにも稀すぎる光属性の魔法を使うところは見られるわけにいかず、剣も使えるが今回は馬車で待機だが。




 接触してから15分もかからず10匹のゴブリンと1匹のオークを倒し終わる。急いで魔石を回収して死体を消させると、次の準備に取り掛かった。

 武器をケロ口君に持ち替える沙里ちゃんと美李ちゃん、そしてピーリィ。俺はボウガンのままで、一応片手剣をいつでも使えるようにしてある。それと、盾の表面にある袋の固定を開けて飛び道具対策をしておく。



「陽が沈みきる前に来て欲しかったけど、あいつ等止まりましたね」


「我々には気付いているようですので、ゆっくりと囲むように広がっています。敵を追いすぎて離れすぎないように注意してください」


「はい…」 「うん…」



 姉妹が息を呑むのが見て取れた。かなり緊張している。いや、俺も緊張してるか。背中と手の汗がひどいな。まいったね。


「ピーリィもがんばるヨ!」


「そうだね、頑張ろう!」







 そしてついに、前方の盗賊達が動き出した。



 戦闘開始である。



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