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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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越境事情とカレーとごはん

 無事カルバクロールの南側から街を出た馬車は、主街道を南に向けて走り続ける。まだ夕方前で明るいので今のうちに街に入ろうと駆けて行く馬車と度々すれ違っていった。




「そろそろ大丈夫でしょう。美李さん、ヒバリさん達に声をかけてあげてくださいますか?」


「はーい!」


 居住袋を少し開けて中に入っていく美李と、入れ替わるようにトニアが出てきた。いつでも出られるように待機していたようだ。


「沙里さん、御者を代わります」


「ありがとうございます」



 ふう、とやっと安堵出来たという溜息をこぼして交代した。それに気付いたトニアが尋ねる。


「何か、ありましたか?」


「えっと……門番が女だけで街を出るのは危険だ!としつこかったもので、その……どんどん近づいてくるのに耐えられずに、ですね?岩に風魔法を撃って見せまして……」


「あれは仕方ありません。下卑た行いをする者達には良い薬でした」


 ノーザリスにとってもあまりよろしくない態度であったらしい。


「……そうでしたか。お怪我が無くなによりでした。沙里さんもゆっくり休まれてください」


「はい」


 話せてすっきりしたのか、微笑みと共に返事をする沙里。そんな会話が終わったタイミングでヒバリが馬車に顔を出す。



「沙里ちゃん、今日買って来た食材でカレー作ってみるけど、その前に聞きたい事があってね。沙里ちゃんて飯ごうでお米炊いた事ある?」


「ない、ですねぇ」


「じゃあ釜で教えるからやってみる?ただ、あの米だから同じで上手くいくかはちょっと分からないんだけどね」


「はい、やってみます!」




 さっそく料理を始めようとした俺たちに、トニアさんが少し張り詰めた声をかけてきた。その理由は、感知を意識してみて分かった。


「待ってください。集団で、しかも規律よく駆けて来ていますね。この者達の事、分かりますか?」


「えっと……巡回していたカルバクロールの騎士ですね。しかも、もっと先にももう一つの騎士隊があります。そっちも急いでいるようです」


「やはりそうですか。でしたら、ヒバリさんは中へ隠れていてください。少なくとも男が乗っていないというだけで彼らの気を逸らせるでしょう」


「……わかりました。でも完全に閉じないでおくので、何かあったら飛び出しますからね?」


 ちょっと前の騒動だが、伝令が走ったのかもしれないな。そうなると俺が出ているわけにはいかない、か……



「じゃあ、先程街を出た3人が出ている方がいいですよね?トニアさん、代わります。」


 居住袋に入ろうとしていた沙里ちゃんがまた御者台に移動し始める。


「しかし、先程の事があったばかりでは……」


「でも、同じ人がいた方が疑われないでしょう?」


 交代しないトニアさんと譲らない沙里ちゃん。そこで姫様が助け舟を出してくれた。



「沙里さん、門番もそこまで詳しく容姿を覚えていないでしょう。それにトニアでしたら同じ風の適合者です。それだけで十分だと思います」


 主からの援護に少しだけ嬉しそうな顔をするトニアさんを見て、沙里ちゃんの方が折れた。ていうか、門番の件って何だ?



 さすがに心配で料理なんてしてる気分じゃ無くなってしまったため、馬車に残る3人を、居住袋の入り口をほんの少しだけ開けて、沙里ちゃんと2人で見守った。ピーリィは俺の膝の上でごろごろしていた。声を出さないように注意だけはしてある。





「急げー!罪人は国境を越えたとの事だ!帝国領に入る前に捕らえよとの伝令だぞ!」


 しばらくしてやってきた騎士隊が、遅れる部下を叱咤しながら駆け抜けて行く。他の商隊と思われる馬車も道を譲って呆然と見ているようだ。間違いなく俺達の事だろうなぁ。



「……あれ?今のおかしくないですか?」


 居住袋から頭だけ出して尋ねる。


「俺達が国境を越えたって言ってたのに、まだ帝国領には入ってないって言ってましたよね?」


「ああ、それはですね――」



 首を捻っていた俺の疑問に、姫様が答えてくれた。



 王国と帝国の国境は蛇の道と呼ばれる山脈に沿って定められていると言うのは以前聞いたが、その蛇の道山脈は大陸南北を覆う長さもさることながら幅も広い。更に手ごわい魔物が出没する事も多々ある。

 故に、そんな山脈の端とは言え麓より山側に国境線を引く事は出来ない。なので山脈麓のさらに安全圏まで後退した場所に、両国の国境検問所である街が作られた。


 つまり、両国の間にある蛇の道山脈自体が干渉外エリアになっている。だから王国の騎士達は蛇の道の麓を越えて帝国領に入る前になんとしても捕まえようと必死だ、というわけだ。



「じゃああいつ等は俺達が検問を抜けたと思い込んでくれたってことですね。でも、そんな危ない所へ行かされる騎士の人達には申し訳なかったなぁ」


「そのために人数を集めているのでしょうから問題ないでしょう。それに、麓にいる程度の魔物に勝てないようでは騎士にはなれませんから」


 山脈の奥に入るわけじゃないならそこまで強い魔物は出ないらしい。じゃあ大したことはないのかな?行った事が無いからよく分からないや。



「あれ?それだと俺達も南から行く時にはかなり気をつけないといけないですよね?大丈夫なんですかね」


「普通は商隊の護衛や他のパーティと纏まって越境するので、私達の時もその中に混ざっていく事になりますね」


 てことは、今北に集まっている騎士達も商隊や纏まって移動している集団の中を調べるんだろうな。じゃあ大して危険な任務じゃないのか。



 そんな事を考えつつ姫様と話していると、もう1つの騎士隊が先程と同じ様に北へと駆けていく。上司があれじゃ苦労するだろうけど頑張って!





「さて。それじゃ改めて料理にかかりますか!」


「はい、お願い致します」


「ヒバリさん、かれえ楽しみにしています」



 姫様とトニアさんに馬車は任せてキッチンへ向かうと、沙里ちゃん・美李ちゃん・ピーリィの3人が仲良く深鍋に入った麺棒で米…じゃなかった、ゴルリ麦をついていた。

 ここでは精米機なんてものはないので、手動での精米ってわけだ。この世界では精米せずに食べてたから硬いし美味しくなかったのだと思う。実際、精米したら見覚えのある白米になったから間違いないだろう。



「おー!結構な量精米できたね!お疲れ様。ほんとによく頑張ったなぁ」


 用意しておいた5kgくらい入る袋が4つも出来上がっていた。ついでにぬかも別の袋に取っておいてもらってある。これでぬか漬けも出来るぞ!

 あとはパンやクッキーに入れると栄養価が上がるって聞いた事あるから、こっちもあとで試してみよう。



「じゃあ今日は適当な容器で量るか」


 コップを取り出して、大きめのボウルに10杯入れる。それを洗米してから厚手の大鍋に移して、そこに同じコップで水を12杯入れる。米を炊く時の水は、米の量の2割り増しだからこの量か半分の割合が一番楽だ。


「少しこのまま馴染ませるために放置してっと」



 米はしばらくそのままにして、次はカレーに取り掛かる。



 玉葱とニンニクとしょうがをすりおろし、玉葱だけ油を引いたフライパンでじっくり弱火で炒める。水分が抜けて飴色になったら出来上がりだ。

 初めの水分が飛んで目に沁みないようになったところで、お手伝いをしたがっていた美李ちゃんとピーリィに混ぜ続けてもらうことにした。


「火傷に気をつけて、焦がさないように混ぜておいてね」


「「はーい!」」


「じゃあこっちはスパイスに移ろうか」


「よろしくお願いします!」



 別のフライパンに粉末のスパイスを分かりやすいように分けて置いていく。クミンとコリアンダーを多めに同程度、その横にターメリック・クローブ・唐辛子・シナモン・胡椒・カルダモンを少なめに。それととろみのため小麦粉も入れる。

 これらをフライパンの中で混ぜて、弱火で香りが出るまで炒る。さらさらになったら火から離し、少し冷めたところで袋に入れて香りを逃がさないでおく。


「うわぁ……これだけでもうカレーの匂いですね!粉の見た目もですが、もうカレーです!」


「あまり辛くしないで、あとは調理の時か食べる時に唐辛子を追加すれば調整しやすいからこれをベースにしようね」 


「ヒバリお兄ちゃん、これどお?」


「お、だいぶいい色になってきたね〜もうちょっと茶色くなったらやめていいからね」


「はーい。ねぇねぇ!それがカレーのルーなの?」


「そうだね。日本のと違ってちゃんと味はついてないけどね」


「カレーのいい匂いだぁ」


 くんくんする美李ちゃんに、ピーリィも真似をする。


「これガかれぇ〜」


 見てる限りじゃこの匂いは嫌いじゃなさそうかな?



 湯剥きで皮と種を取ったトマト、表面を焼いておいた牛肉・豚肉・骨付き鶏肉、ちょっと大きめに切ったじゃがいもと人参と玉葱。

 これらを用意してすべて3つの鍋に肉ごとに均等に入れてる。ここにすりおろしておいたしょうがとニンニク、鶏がらスープ、ローリエ、水、そして美李ちゃん達が炒めてくれた玉葱も入れる。


 ベースは一緒にして、肉ごとに分けた鍋で味付けを変えていく。


 牛肉は赤ワインベースで沙里ちゃん力作のウスターソースを隠し味に、豚肉はオーソドックスにそのままで、鶏肉はナッツ類と牛乳を入れてマイルドな味に。あとはみんなの好みを聞いて、次回は希望に沿ったものを作るつもりだ。辛い鶏肉カレーも好きだしね。

 ただ、いきなり3種類はやりすぎたか……予備の魔石コンロも引っ張り出して鍋が3個並ぶ様はどこの厨房だ?って思っちゃうよなぁ。



 しばらく煮込んだ後に自作カレールーを投入。そしてよく混ぜて、肉ごとの味付けをしていく。塩や砂糖などで味を調え、さらに煮込む。とろみが出てきたところで火を止めて一休みさせる。


「じゃあちょっとだけ味見してみようか」


 待ってましたとばかりに3人が皿とスプーンを用意する。3種類を皿に入れ、そこからスプーンで掬って食べる。同じ皿をつつくことにはもはや誰も気にしていないようだった。


「やっぱりもうちょっと時間を置いた方が味が馴染むだろうなぁ」


「でもこれも十分美味しいですよ!辛さはもっとあった方がいいですね」


「あ〜……カレーだぁ」


「骨ついたお肉おいシー!」


 あ。ピーリィだけスプーンじゃなく手で鶏肉掴んで食べてた。ぺろぺろ舐めているが、終わったらタオルで拭いてあげたら喜んでされるがままになっていた。

 試食が終わったところで、美李ちゃんとピーリィには姫様とトニアさんがどの味が好きか試食を運んでもらうようお願いしておいた。



「さて。こっちはカレーを休ませている間に、いよいよご飯だ!」


「はい!」


 水と米の入った鍋に火を入れ、まずは弱火でじっくりと。しばらくすると吹き零れ始めるが、さらにじっくりと待つ。沸騰してから5分か10分もすると吹き零れるのが止む。ここで強火にして一気に炊く。蓋が軽かったので上に重しとして別の鍋を置き、5分もすると鍋に伝わってきていたぐつぐつという音がなくなる。


「ちょっとみてみようか」


 そう言って蓋を開けた瞬間、湯気と共に炊き立てのごはんの匂いが広がる。少しへらでいじるが、どうやら炊けているようだ。


「よし、じゃあ火を止めてこのまま蓋をして蒸らしておこう」


「ふわぁ〜……いい匂いですねぇ。久しぶりのごはんですよ〜」



 こうしてみると、やっぱり姉妹なんだなぁ。さっきカレーを食べてた美李ちゃんと同じ顔でご飯の匂いを嗅いでいた。いつもよりちょっと子供っぽい沙里ちちゃんに、思わず和んでいた。 


「やっぱりこれはお米でしたね!久しぶりのご飯楽しみです!」


「そうだね、やっぱりご飯があると違うよね!これから何を作るか考えるだけでも多すぎてちょっと迷うよ」


「ほんとですねぇ。何作りましょうかね〜?」



 そして出来上がったご飯の試食を2人でしたのだが、最初はやっぱり塩むすびだった。ご飯最高!おこげも最高!





 作るのに時間をかけすぎたせいで、気付くと外はすでに夕陽が沈みかけていた。せっかくご飯も炊けたし、今日は早々に馬車を止めて近くの林に隠れて居住袋へと引き篭もった。


 その間に再度カレーに火を入れて、あとはサラダを用意する。カレーはご飯にかけないで、3種類を楽しめるようにおいて各自自由に食べる事にした。



「これがカレーですか……複雑な味と独特の香り、そしてこのゴルリ麦の甘みが良く合って美味しいです!」


「鶏肉と豚肉、そして牛肉とすべて味付けを変えてあるのですね。どれもそれぞれが美味しくて迷ってしまいます。あ、もっと辛いのはありますか?」


 トニアさんもこの匂いには慣れたというか気に入ってもらえたようだ。そして姫様はさらに辛いものへと、沙里ちゃんの領域へと進んでいく。一応、辛すぎるとお腹がびっくりしちゃうとは言ってあるけど大丈夫かなぁ?


 美李ちゃんは豚肉のを、ピーリィは鶏肉のカレーが気に入ったようだ。しかし、ピーリィは鶏肉好きだなぁ。いいのか?いや、別に同種族ってわけじゃないしいいのか。



 結局みんなで仲良くお代わりをして食べ終えた。残ったカレーは袋に入れて片付け、洗い物とお風呂を済ませて早めに寝る事になった。



 ……ほんとに俺の部屋ってみんなの寝室になっちゃったな。




 といっても今夜は、明日からどんな米料理を作るか話してはお腹が空くからやめてー!というみんなの叫びに笑いつつ、穏やかな夜を過ごした。



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