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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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カレーの匂いと奴等

「まいどあり〜」




 朝ご飯の後、昨日買った穀物が宿屋前に届けられ、今はせっせと馬車に積み込んでいる。本当は馬車に入れる前に自作の袋に入れて、軽くしてから馬車の中で収納袋に入れてるわけだが。


 手で物を運ぶのが苦手なピーリィは練習場の中で飛び回って運動していた。最近は主街道では飛ぶわけにもいかず、移動も馬車の中か街の中だからそこでも飛べず、とストレスが溜まっているのかもしれない。

 自由に飛べるのに飛ばせてあげられないのは、なんだか可哀想だよね。もうちょっとこの国が多種族にも優しかったらいいのに。



「ピーリィ、狭い所でしか飛ばせてあげられなくてごめんね」


「ん?たのしいヨー?だって、ヒバリたちいる。ここでとぶと、ぶつカッテもいたくない!」


 わざと落下してぽふんと撥ねてきゃーきゃー言っていた。


「そっか。じゃあもう少しここで遊ぼう!」


 ピーリィにはまだ気を使うような器用な事は出来ない分嘘は付かない。楽しんでくれてるなら、たまにはそれに付き合って一緒に遊びたいって思ったんだ。


 しばらく遊んでると畑袋の作物の世話を終えた美李ちゃんも参加して一緒に遊んだ。最近は美李ちゃんくらいなら足で掴んで飛べるようになっていたのはちょっと驚いた。言葉もどんどん覚えて表現豊かになっていく。カメラがあったら成長記録を残してあげたいくらいだ。残念だ。





 結局昼前のチェックアウトぎりぎりまで遊び、昼ご飯はまた宿屋でオススメを聞いてそこへ飛び込む事にした。馬車は追加料金を支払ってまだおいてもらう。

 オススメのお店は、ピリッとした少し癖のある味だが王都では食べられていない料理とのこと。それは行くしかない!



「カレーっぽい匂いがしますね」


「うん、カレーっぽいね!」


 店に着く前に姉妹が反応しだした。


「確かにカレーっぽい」


 どちらかといえばクミンっぽい気がする。王都に居た頃、旦那様の農園は基本生でのハーブばかりだったから、種系のものは少なかったんだよね。だから、コリアンダーや唐辛子はあってもクミンやウコンは無かった。おかげでカレーは作れなかったんだけど、この匂いなら期待できるかも知れないかも?



「かれえ、とは一体なんでしょう?」


「自分も聞いたことがありません」


「かれぇ?ごはん?」


 この世界の住人にはカレーでは通じないようだ。この匂いも初めてらしく、シルベスタ王国では使われていないのだろう。そもそも辛い料理が全然なかったからなぁ。あまり大きく気候の変動の無い土地ではそんなものかもしれない。


「えっと、今までよりもっと強い香辛料を使った料理で、匂いと辛さで食欲をそそられるのが特徴ですかね」


 話してる間にも遠藤姉妹は匂いに釣られて店に向かっていた。それを見た3人は納得したようだ。うむ、いい例だったね!






「はいよ!鶏の香種炒めだよ〜」


 さっそく皆で店に入り、店員に料理の説明をしてもらいつつ注文し、いざ実食というわけだ。



「……うん、カレーっぽい匂い、ですねぇ」


「辛くないね〜」


「ごめん、俺には物足りない(ぼそっ)」


 これはただの”クミン炒め”だった。辛さも何もあったものじゃない。いや、決して不味いわけじゃない。期待していたものとかけ離れすぎてて、日本組はかなりがっかりしていた。

 他の3人は美味しそうに平らげてるのが不味くない証拠だ。特にこの匂いは好感を持たれているようだ。


「今はこれはこういうものだと思っておこう。カレーは後で何とかするから、ね!これだって美味しいし!」


「そう……ですよね!」


「カレーはヒバリお兄ちゃんに任せる〜!」


 何とか頭を切り替えて、今の食事を楽しむ。うん、やっぱり美味しいや。






 その後はこのクミンらしき香辛料はどこで買えるのか店員に聞いたら、なんと薬調合店だった。そりゃぁ市場で見付からないわけだ。

 考えてみたら、そもそも香辛料は漢方である。例えばターメリックはウコンであり、肝機能の薬だ。他にも色々あるが、薬なんだからそっちに置いてあっても不思議じゃなかったわけだ。こいつは盲点だ。


 場所を聞いて行ってみれば、そこには乾燥した香辛料がいっぱいあった。少々値は張るが、薬なんだから当然だよね。次に何時買えるか分からないし、なるべく量と種類を多く購入していった。

 ついでに乳鉢や擂り鉢も購入し、大量購入した代わりに沢山在庫のあったラベンダーなど生のハーブを安めに売り渡した。さすがに店の在庫の半分以上を減らしてしまって驚かせたお詫びみたいなものだ。





「ふっふっふー。これでカレーが出来る!趣味で家ではスパイスから適当に作っていた事あったんだよね〜。ちょっと玉葱炒めるのが大変だけどさ」


「作った事あるんですか!?わたしは市販のルーでしか経験ないので、手探りで作る覚悟でしたが……それならすぐですね!」


「シハンのルーってなーニ?」


「ピィリちゃん、お店で売ってるカレーの素だよ!」


「すでに調合されたものが売られていた、というわけですね?」


 ピーリィと美李ちゃんの会話からトニアさんが納得する。姫様はあまり想像がつかないようだが、俺達3人が浮かれているので気になっているみたいだ。



「ああ、そういえば、この中で辛いのが大丈夫な人ってどれくらいなの?」


「はい!大好きです!」


「お姉ちゃんのは辛すぎだよぉ。あたしもそのせいでクラスの子達よりは全然平気になっちゃった」


「からい?イタいの?む〜……」


「自分は、あまり強すぎると舌が痛くなりますね」


「私はあの汗が出る辛さ、好きですよ」


 なるほど。そうなると、大丈夫が沙里ちゃんと姫様・普通が俺と美李ちゃんダメそうなのがトニアさんとピーリィ、ってところか。じゃあ2種類作って、あとは個人で粉末唐辛子を追加って形がいいかもしれない。

 そう思って粉末の胡椒や唐辛子を近くの店で調達し、頭の中ではどのカレーから作るか想像して、作る時を楽しみに浮かれていた。





「さて、買うもの買ったし馬車に戻ろう」


「……待ってください。ヒバリさん、感知範囲に派手な動きがあります」


「ん?……ああ、あの速度だと馬ですかね。人を押しのけるように無理矢理走ってるようです、ね」


 その先頭の2重のマーカーに鑑定をすると、片方は案の定馬だった。そして、乗っているのは……



「またアイツかぁ。面倒臭いなぁ」


「こちらの方へ真っ直ぐ向かっています。宿の方へ別れてはいないので、全員こちらに向かっているようですね。手早く作戦を立てましょう」




 あの男、勇者セージことヤマウチが追ってきたのである。







「そこのお前!止まれッ!」


 行き交う人に悲鳴をあげさせながら馬を走らせてきた男が、黒髪と茶髪の男女を呼び止める。



「いえ、俺には用事は無いので結構です」


 答えたのは黒髪の男。勿論カモフラージュを解いたヒバリである。


「指名手配されたお前が口答えするな!」


 以前の事を思い出してか、即座に剣を抜きスキルを使おうとする。


「うわぁ!みんな逃げろ!こいつこの人ごみの中で魔法で攻撃してくるぞ!きっと犯罪者集団だ!」


 実際にスキルを発動しようとして手元を光らせていたセージに、道行く人には真実として捉えられた。そこからは阿鼻叫喚の大混乱。当然その騒ぎに馬が暴れ、振り落とされるセージと3人の従士。


 宥める事に失敗したセージの馬だけがどこかへ駆けていってしまった。



「フッ」


「貴様、何がおかしい!」


 尻餅をつきつつ、失笑したトニアさんに向かって吠えるが、先程のコントを見ては迫力もなにもあったものじゃない。初めからないけど。



 ……ああそうか。俺がこいつを怖くないのは、殺す力を持っているのに本人に殺気のような怖さがまるで感じられないからなのか。


「おいお前!……名前はなんていうんだ!?」


「ヤマモトジロウだがなんだ?」


「ヤマモトか、覚えたぞ!貴様はこの国に指名手配されている。大人しくついてこい。聞きたいことがいっぱいあるからな。楽に死ねると思うなよ?」


 やっと思い通りになると思ったのか、にやっと気持ち悪い笑みを浮かべていた。



「ジロウ様、行きましょう。もうすぐ検問の順番が回って来ます。急ぎませんと」


「じゃあそういうことなんで」


「逃がすわけないだろう?……やれ!」



 後ろにいた3人が槍で突いてくるが、トニアさんが前に出て篭手で受け流して絡めとり、逆に奪った槍の石突で残り2人を巻き込んで転ばせる。


「それじゃーな!」


 手を振って逃げ出すと、後ろから魔法剣で火を飛ばそうとしているのが見えたが、すぐに東側の建物の陰に逃げ込んだら撃つのを止めていた。あいつにそれぐらいの判断は出来る頭があることに少しほっとした。他の人を巻き込まなくてよかった。



 そしてセージが建物の横道へ辿り着いた時には、すでに俺達の姿はなかった。


「くっそぉ!奴等は検問所だ!越境される前に取り押さえるんだ!」


 慌てて馬に跨り東にある検問へと走らせる3人の従士。そして自身の馬はどこかへ行ってしまった事を思い出し、声を荒げて追いかけるセージ。





 そんな中ヒバリとトニアは、南に向かう人の影にハイディングで潜んで移動していた。声は聞こえるし状況は地面から見上げる形で把握している。まるで映画のようにマンホールの下に隠れている気分だ。



「行っちゃいましたね。しばらくこのまま移動して、目立たない所で出ますか」


「そうですね。それよりも髪を変えましたか?出ても黒髪では足がついてしまいます」


「あ、そうでしたね。危ない危ない」


 小声で会話しながらカモフラージュを掛けなおし、また髪色を変える。




 今回の作戦はこうだ。


 トニアさんと俺が以前と同じく奴等と接触し、北の国境を越えたという印象を持たせる。そして実際は南の国境を目指す。

 2人が囮になっている間に4人を宿屋へ向かわせ、馬車で待機。もしダークミストが切れる事があったら、俺達に構わず馬車を走らせて逃げる。


 といったところだ。



 カモフラージュで姿を隠してもよかったが、それだとこの人ごみの中をぶつからずに移動なんて出来ない。そこでハイディングで通行人の影に潜み、移動してもらう策を取ったのである。




 ハイディングで潜ませてもらっていた人物が脇道に入った瞬間解除して外に出る。そして何気ない足取りで2人は宿屋を目指した。




「ただいま。無事に戻ったよ〜」


「おかえり!大丈夫だった?いたくない?」


「ピィ!?ヒバリ、イタいの!?」


 年少2人が居住袋から飛び出して心配していた。



「大丈夫だよ、怪我もなにもないから。それよりもすぐに出発だ」


「サリスさん、沙里さん、そしてお二人もご無事で安心いたしました」


「こちらは何もありませんでしたわ」


「はい。全員で出発出来てよかったです」



 安定しているように見せる姫様と、不安で仕方なかった沙里ちゃんにも無事をアピールして、出発前にしておく事を思い出した。


「このままだと馬車で見付かるかもなので、街を出て少しするまでカモフラージュで別の形にしておきます。今は少し白っぽいから、茶色を強くしますか」



 正直なぜ俺達の事が分かったのか……それが判明していないのだが、やれる事は何でもしておこう。まずあいつ等に面が割れている俺とトニアさんは表に出ない方がいいな。



「それじゃ、俺とニアさんは居住袋にいるから。3人で南門を出てもらって、それからサリスさんの案の副都市を目指しましょう」


「はい。御者はわたしに任せてください!行きますよ!」




 威勢のいい沙里ちゃんの声で馬車が走り出し、俺達は北の国境街を後にした。


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