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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第5章 北の国境街から副都市へ
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北の国境街

ここから第5章が始まります。

よろしくお願いします。

「これが北の国境街かぁ」




 王都よりも旅装束の人や馬車が圧倒的に多い。そして街の奥には高い壁が横に広がっているのが見えた。そして1軒1軒が密集しており、道幅は広いがかなりの密度がある。

 そして街の奥には港があるらしい。軍用のものと、漁業用のものが整備され、いつでも新鮮な魚介類が手に入るそうだ。



「王都よりも混み合ってるように感じますね」


「国境があるので、交易品の往来が激しいのです。ですから、道に見える馬車のほとんどがこの街に留まらない方達ばかりでしょう」


 はぁ、と溜息をつきつつ見ていた沙里ちゃんにトニアさんが説明していた。




 俺達がこのカルバクロールに入る時、俺とトニアさんとピーリィだけが馬車にいて、皆には居住袋に隠れてもらっていた。ピーリィだけ身分証がないため、俺達が保護者代わりになって仮身分証を発行してもらった。

 街に入ってからは全員出てきて、思い思いに街を眺めている。美李ちゃんにはピーリィが間違って飛ばないようにお姉ちゃんとして面倒みてあげてと頼むと鼻息も荒くしながら胸を張って引き受けてくれた。



 この後は冒険者ギルドにて登録を済ませる予定だ。姿は前からかけてあるカモフラージュで人族に見えるようになっているので、ここに来るまでに自分の名前を書く練習を頑張ってもらった。

 そして今はゴブリンとオークの魔石を換金し、そこからピーリィの登録代を差し引いてもらって、あとは出来上がりをそわそわしながら待つピーリィを宥めるお仕事だ。



「はい、ではこちらが冒険者ギルドの登録証になります。無くさないでね?」


「はい!ありがトー!」


 自分のギルドカードに上機嫌なピーリィが俺達に見せては大事そうにしまって、と繰り返してた。ほんとに無くさないか心配だな……あとで首にかけて服の中に仕舞わせよう。




「……ん?」


 横には掲示板と瓦版のような大きな看板が2つあった。その中で気になったのが、


”魔族と繋がりのあった闇魔法士、処刑される”


(草野、処刑されたのか……そうなるだろうとは言われてたが、本人も人として罪を犯したが、それでもやるせないな)


 

 そしてもう1つが、


”仲間の闇魔法士、第三王女誘拐し逃亡。亜人の侍女も関与”


(おいおい、あの野郎俺を誘拐犯として指名手配しやがったのか!賞金まで付けてるし。しかもトニアさんまで犯罪者扱いかよ!)




 掲示板をじーっと見て動かない俺を不思議に思ったのか、沙里ちゃんが近くに来る。すぐに1つ目が草野の事だと気付き、口を手で覆う。


「草野の件は、思うところはあるがしょうがないさ。あいつ自身も悪い。問題は2つ目のこれだ」


 小声で話し、目線で指名手配の記事を指す。


「ひどい……ニアさんまで……」


「今はその名前でも出さない方がいいよ。誰が聞いてるか分からないからね」


「あっ…はい、すみません」



 そのまま美李ちゃんとピーリィを呼んで、姫様とトニアさんの待つ馬車に戻る。一応馬車を出してから誰かが付けて来ないかトニアさんと2人で気配察知を確認しつつギルドから遠ざかる。




 そして、事情を説明した。草野の方はこっそり2人だけに言ったけど。


「そうですか、自分とヒバリさんが指名手配ですか……そうなると、当初予定していた2人だけ馬車にいて越境というのは危険ですね」


「姉上……王位が変わらずということは、父上達は無事なのでしょうけど、あまりにも身勝手な行動が過ぎますね。いずれ帝国も我が国の異変に気付くでしょう」



 2人とも第一王女の行動に呆れているようだった。



「それならばいっそ、ニアとヒバリさんが北から越境したと偽って、南の国境街から抜ける方が良いかもしれません。南からでしたら帝都もかなり近くなります。越境してすぐ身の安全を確保するにはそちらの方が良いかもしれません」


 あえてここで越境しない事で追っ手を一旦帝国へ送る手続きをさせるって事か。軍を入国させるにはそれなりの手順がいるらしいので、その間に南から入国して一気に帝都へ、という作戦になる。でも、


「もし抜けられそうならそのまま帝国へ行っちゃって、少しでも不安があったらその作戦を決行ということではダメですかね?何も無いならこの国を出たいって思っちゃってるから……」


 勝手に呼び出して即死刑や犯人扱い、挙句それが同じ日本人からの攻撃とあっては、姫様には悪いが正直長居したいとは思えないし。

 草野の件を察してか申し訳なさげな顔をする姫様。でもこちらも自分の身を守らないと危ないから、少しでも可能性のある方へ賭けたいから。



「……分かりました。そういたしましょう。それではまた長旅になるでしょうし、今のうちに色々補充しておきませんか?」


「あ、それならピーリィ達の服も補充したい!美李ちゃんも服を減らしたばかりだし、どうせならみんなの分もそろえちゃおうよ!」


「食材や装備、交換部品も忘れずにお願いします」



 冷静に必要なものをまとめ始めるニアさんと、服選びで喜ぶ3人。明るい空気になったことで姫様も少しほっとしたようだ。


「サリスさんも服選ばないとですよ?あまり高級品だと分かっちゃうのはまずいですからね。みんなと一緒に見つけてください」


「…はい、お心遣い感謝いたします」


 今回は絶対に別行動をしないと皆に言い、全員で一緒に買い物に行く。たとえそれが、男にとってキツイ時間だったとしても!安心と安全のためなら!





 と、意気込んでいた時期も有りました。


「女性の買い物って、どこの世界も長いんだね……」



 下着はこちらではいいのがないらしく、そこは沙里ちゃんがスキルを使って作るとのことで、生地やパーツを買い漁っていた。服は全員で同じようなデザインを選んで、お揃いにして喜んでいた。



 喜んで、いたんだ。例えそれが3時間位放置されていたとしても、だ。


「テンション高かったからだろうけど、下着事情まで俺に話さなくてもよかったんじゃないかなぁ?」



 ちなみに、靴は俺作製の物でいいらしい。防御力も考えるとその方が心配が減るしありがたい。もし作って欲しいデザインがあるなら遠慮なく伝えてとは言ってあるけど。


 ただ、ピーリィだけは特殊な靴になっちゃうけど。前3本後ろ1本に分かれてる所謂鳥の足に近い形だから、爪も生かすためには指貫カバーみたいになっちゃったんだよねぇ。

 それに関してはピーリィが気に入ってくれてよかった。靴もお揃いじゃないといやだと言われたらどうしようかと思ったよ、ほんと。





 その後、ピーリィの剣やボウガンの矢といった装備品を買い、時間切れとなった。そして今日は久々に宿屋に泊まる事にした。さすがに女の子がいるのに馬車で寝泊りなんていい標的になってしまう。勿論( トニアさんが)返り討ちに出来るだろうが、今は余計な騒動に巻き込まれて目立つのはごめんだ。 


 ただ全員で行動すると危険なので、宿には当初の予定通り3人で登録した。残り3人は居住袋の中に入ったまま宿に入り、部屋に着いてからは全員風呂や食事は居住袋の中で済ませた。

 寝るときだけは何故かベッドを繋げて全員で寝たけど、これ全員居住袋に入っちゃった方が広く寝られたよね?




 案の定起きたら美李ちゃんとピーリィは俺の上で寝てるし。一応姫様は居住袋のすぐ隣、そして俺は窓に近い場所を貰って、皆と少しだけ離れて寝たんだけどなぁ。



「ん〜……」 「ぴゅぃ〜……」


 うん。2人とも起きる気配なし。



 姫様達3人はとっくに居住袋の中に入って身支度をしている。俺も準備したかったけど、起きるまでそのままで欲しいと言われてしまった。


「それにしても、ちゃんと朝日を浴びて起きるのは久々だったな。いつもは外に出るまで薄暗いから、なんかちゃんと朝だー!って感じがする」


 日本で働いていた工場では、窓は換気程度(異物混入を防ぐため)しかないから、休憩か仕事終わって帰る時しか外見られない上に出勤は夜だったからか、朝日ってやつは体内時計のリセットなんだなってしみじみと感じていた。


「どうにかして居住袋にも太陽光入らないかなぁ?模様や色は好き勝手に出来るんだから……」



 しばらくああでもないこうでもないと思案していたが、2人が起き始めたので後回しにした。くあー!と伸びをする2人にぐりぐりされるとちょっと肋骨が!?

 危険を感じてそっと身を起こして回避する。熱が離れたからか、2人は今度こそ意識がはっきりしたようだ。



「ひばりおにいちゃん……?おはよぉ」


「ひばりィおはヨぉ〜」


「2人ともおはよう。もうすぐ出発だから、家で顔を洗って着替えておいで」


 ”あーい”と返事をして、まだよたよたとした足取りだがちゃんと動き始めた。



 せっかく街に来たんだから全員で外で食べようという事になり、早々に宿を引き払って馬車を動かす。3人でしか宿代を払ってないから、そうじゃないと全員で食べられないからね。



「あれ?これってちょっと米に似てませんか?」


「ん?……あー、これは麦の分類だけど、確かに今までの麦よりかなり米っぽいな。収穫場所は…帝国領?」


 宿で聞いておいたここならではな料理が出る店に、皆で朝ご飯を食べていた時、沙里ちゃんが口にした料理が米を思わせるものだった。

 鑑定さんが今日もちゃんと仕事をしてくれる。でもこれ米じゃないんだなぁ。かなり近いから、もしかしたら調理次第ではいけるんじゃないか?


「ああ、これは帝国でも北西部にある森から伝わった麦ですね。私があちらに招待された時も出されたので覚えがあります」


「確か……これは帝国の土壌に合わせて品種改良された物のはずですよ。本来はもっと水っぽくて粘りが強かったので食べやすくしたそうです」



 もっと粘りがあった!?それって米だよね?



 その話を聞いて、思わず沙里ちゃんの方を向くと、同じ考えだったようでお互いに興奮した顔をしていて笑ってしまった。俺もあんな顔をしていたんだろうな。


「ヒバリさん、これはあとでその森に行ってみたいですね!」


「そうだね!考えてみたらこの鑑定って、この世界ではこれが麦っていう認識だからの結果だと思うんだ。米っていう言葉がなければそう出ないからね」



 よし、これはちょっと多めに買っていこう!



 食べ終わってから早速、食材や布・予備の布団セット・ソファ等色々と買い揃え、他にも何かないかと色々店を覗いていると、商人らしき2人の会話が聞こえてきた。


「また主街道に盗賊が出たらしいな」


「またか!?ここ最近多いな……」


 ああ、俺達が倒した奴等の事かな?それならもう安心だよ、って言えないところが辛い!油断しないように教えない方が優しさなのかな?


「今朝もアイリンから北へ出てこちらに向かう道で商隊が犠牲になったらしいぞ。今回は冒険者だけでなく商人も殺されたらしい」


「取引も無しに、か……奴等は女子供も攫っていくと聞くが、この国の騎士達は何をやっているんだ!?」


「あれだ、今は王女誘拐の件を優先してるんだろうよ。おかげで奴等もかなり行動が派手になってるのかも知れないな」



 あれ?商隊ってことは規模も大きいだろうし、何より死者が出るような戦闘となると、俺達が捕まえた盗賊じゃないのか……

 姫様の提案だと確か南に向かう途中にある副都市ってのがアイリンだったはずだ。ちょっとそっちに向かうのは止めた方がいいのかもしれない。





「お待たせしました。あの麦もいっぱい手に入りましたよ!……どうかしましたか?」


 嬉しそうに帰ってきた沙里ちゃんが、考え込む俺を見て怪訝そうな顔をしていた。ここではまずいか。


「いや、大丈夫だよ。この話は馬車に戻ってからでいいとして、種籾はあった?それがあれば美李ちゃんの腕でばーんと増やせるんだよね〜」


「はい。さすがに食料品店では扱ってないですが、市場の方ではあると言ってました。さっそく市場に行きましょう!」



 種籾さえ手に入れば、例の畑用袋を増やして栽培しちぇえば、もしかしたら日本の米と同じものが出来るかもしれない!十分に試す価値はあるだろう。






「ここが市場ですね。さすが貿易の街というだけあって、衣類の通り以上に賑やかですね!」


「これだけ多いと迷子やスリにも気をつけて行くよ!」


「「はーい!」」


 美李ちゃんは沙里ちゃんの、ピーリィは俺の手をとりまずは保護者の確保をしたようだ。あ、姫様は楽しそうにトニアさんの手を取ってる。トニアさんの方は耳がぴーんと立ってるから緊張してるのかも?


 馬車はちょうど泊まっている宿から遠くなかったので、もう一度宿に預かってもらっている。さすがに店を見て回るのに馬車は邪魔すぎるからちょうどよかったよ。



「ヒバリさん、さっきの米のような穀物は”ゴルリ麦”というらしいんです。育て方は沼地かというほど水を使うって言ってたので、かなり米っぽいですね!」


「なるほど。確かにそれはアタリだね!」


「でしょう!?」


 米っぽいものを見つけてからの沙里ちゃんのテンションが高いなぁ。話す時の少し畏まった感じがなくてこっちの方がいいや。



「あ、これですよきっと!」


「おねえちゃん、まって!迷子になっちゃうでしょー!」


 珍しく美李ちゃんがストッパーになりつつも、俺達も遅れないようについて行く。程なくして麦や芋といった穀物ばかり扱う通りになり、その片隅にゴルリ麦を見つけた。鑑定でも見たから間違いない。



「すみませーん、このゴルリ麦を欲しいんですけど」


「あいよー!どれくらいいるんだい?」


「あ……ヒバリさん、どうしましょう?」



 勢いで声を掛けたはいいが、いくらまで買うのか決めてなくて困った沙里ちゃんが振り返る。ほんとに米の事しか考えてなかったんだ、と笑ってしまったら、さすがに恥ずかしかったのか顔を赤くしていた。


「おやじさん、馬車で運びたいから結構量欲しいんだけど、どれくらいまで在庫ありますか?」


「おう、あんちゃんが旦那かい?そうさなぁ…馬車だったら300kgくらいは積めるんじゃないか?もっと積めるならそれぐらい売れるぞ?」


「じゃあ300kgお願いします。あ、あと種籾があったらそれも譲って欲しいんですよね。故郷にはないので見せてやりたいんですよ」


「なるほどな。だがこいつはかなりの水を使うから、育てるには難しいぜ?」


「大丈夫です。さすがに大きく栽培までは無理でしょうが、ちょっと育てれば珍しがっていい話のタネになりますからね」


「話のタネに種籾ってか?お前さん冗談のセンスねーな!あっはっは!」



 待って!何で俺がジョーク言って滑った形になってんの!?後ろでは姫様とトニアさんの苦笑いと……あれ?トニアさん笑ってる?

 美李ちゃんとピーリィは色んな麦見て遊んでるし、沙里ちゃんは……なんで顔真っ赤なの?まだちょっと前の引きずってるの?





 結局ゴルリ麦を300kgとその種籾10kg、それに普通の麦と麦粉やじゃが芋など穀物類を一気に買った。これだけあれば主食は大丈夫だろう。


「で、あんちゃんの馬車はどれだい?」


 支払いを済ませつつ店主に言われて気付く。


「……えっと、今から持ってくるので皆をここで待たせていいですか?」


「なんだ、配達がいるなら言ってくれよ。明日でいいなら届けるぜ?」


「あ、じゃあ宿にお願いします」



 そっか、配達があるのか。これは助かった。追加料金がかかろうと届けてもらえるならそのまま別の買い物もいけるな!ぶっちゃけ王都にいたときの稼ぎで所持金はまだ60000G以上あるから買える時にしっかり

買っておきたい。何時何があるか分からないから、食料は特に生命線だ。


 その後も野菜や果物、油に乳類、生の魚介に干した魚、調味料も買い漁って行く。この辺りは買う度にちょっと隅で収納鞄に入れていったので配達は頼んでいない。麦と違って一括大量じゃないので、色んな店で少しずつ買って行った。


 


 食事は宿に着く前に皆で店に入って食べ、また姫様と沙里ちゃん美李ちゃんには居住袋に隠れてもらって宿に戻る。後は風呂へ行ったりベッドをくっつけて全員で寝たりと夜は1日目と同じだった。




 明日はついに越境のための検問を受けるかどうか見に行く。これで無事に帝国領に入れたら最初の目標の半分は達成かな?




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