捕獲道具と対人戦闘
「まず見てもらいたい道具がこれなんだけど」
ごそごそと収納鞄の中から鉄パイプを取り出し、その先端に蝶ネジでU字型の部品を先端に、短い棒を中間に取り付ける。そしてさすまたの形となったそのU字部分をがま口の要領で開くと、♀の様な道具が出来上がった。
「えっと、これで何をするんです?」
全部で3個あるので次を組み立てていると、沙里ちゃんが手に取っているが、さすがに分からないらしい。そして次に美李ちゃんやピーリィ、そして姫様とトニアさんも手に取っている。
今は晩ご飯後に俺の部屋で全員集まって作戦会議が始まったばかりだ。明日は盗賊という名の人と戦わなければならない。そのための準備として会議というか話し合いを提案したのだ。
「この先端のがま口部分に、俺が作った収納袋を括り付けて……はい、これで完成だよ。虫取り網型組み立て式捕獲器、名づけて”ケロ口君”だ!」
直径1mのがま口部分の棘というか引っ掛け部分に合わせて袋の上部に穴加工を付けた袋を作り、それに引っ掛けるように括り付けてある。
そして収納袋をつけたことにより、中は当然広い別空間のようなもの。無視網のように空気を逃がす加工は無くとも、振り回したところで空気抵抗は生まれず重くならない。空間の上限以上に圧縮空気を入れたらだめだろうけど。
「これは……名前はともかく、すごいですね。生け捕りにするにはとてつもなく強力な道具です」
「網目じゃないのに軽く振り回せるって、常識では考えられないです……確かに、名前はどうかと思いますが」
まずはトニアさんと沙里ちゃんが部屋を出て振り回しいる。そして交代して残り3人も振ってみていた。
「面白い道具ですね。ちょっと強度に問題はありそうですが、ヒバリさんならではな武器だと思います。名前は……そうですね」
「虫取り網だー!変な名前ー!」
「ンー?」
よく分かっていないピーリィ以外名前は全員変だと思っているようだ。おかしいな……こういう道具ってこんな名前付けるんじゃなかったっけ?
「えーっと、これを対象の真上から振り下ろして、閉じ込めたまま横に振り抜いて、枠を対象の足に引っ掛けて転ばせる。あとは収納袋の広い中に落とされて捕獲できますよっと」
ちょっと皆に離れてもらって広いスペースを作り、真ん中に収納鞄から取り出した丸太を立てて実演する。さすがに人でやっちゃうと足を怪我するかもしれないからね。
それに中は亜空間の様なものだから、一度落ちると天井部に設置した出口をすぐに見つけるのは難しいだろう。いざとなればがま口部分を閉じれば出口自体が見えなくなるし。もちろん開閉権限はパーティメンバー限定だ。
「取り出したいときは袋を裏返すように落とせばいい。直接中に手を入れたら反撃されるかもしれないから絶対ダメだからね!
それと、中に入れた人が袋より強力な魔法や攻撃を当てたら袋が消えて出てきちゃうから、そこも注意だね。それでも時間稼ぎにはなるだろうけどね」
これは直径1mのものだが、LV5になって直径10mまでは作れるはずだから、今後何処かで改良したいんだよねぇ。大型だったり武器で抵抗されると1mじゃ中に入ってくれないだろうし。
そういった今後の改良も伝えた。今はこれしかないので、これを使ってある程度盗賊を捕まえられるはずという作戦を提案した。
「でしたら、ピーリィさんとヒバリさんと自分がこれを使いましょう。沙里さんと美李さん、そしてサリスさんは馬車で待機ということで」
「そうですね。それでも抵抗された場合は……迎え撃ちましょう」
沙里ちゃんと美李ちゃんが不安でいて申し訳なさそうな顔をしているが、いつも魔物との戦闘で助けられているんだからこれぐらいはやらせて欲しいと説得しておいた。ほんとはピーリィにもして欲しくないけど。
そして明日の事が決まったので、順番にお風呂に行ってもらうことにした。俺は沙里ちゃんと靴等話がしたかったから沙里ちゃんから入ってもらった。
「ごめんね、家事も任せっきりで疲れてるところだと思うけど」
「いえ、その家事のスキルを使って作って欲しいということですよね?」
「そうなんだ。袋スキルで型を作って、そこに紐状にした一応袋のこいつを編み上げて靴を作れないかな?って思ってね」
事前に俺の足で作った靴底型と靴底以外の面を型取りしたような厚い袋、そして50cm〜1mの様々な長さの紐を用意しておいた。どれも色は茶色で、靴のパーツ周りには紐を通せる同じ幅(正確には少し狭い)の穴も開けてある。さらに靴紐を結ぶ前面部分にも等間隔で穴が開いている。
これらを編み上げて靴を完成させるのを手伝って欲しい事を告げた。だって女性の足を測定って、なんかよろしくない感じじゃないか。
「俺はほら、仕事中召喚されちゃったからここのサンダルみたいな靴を使って、その後鉄板入りブーツを使ってたんだけどさ、ぶっちゃけ重いし底硬いしで前から不満だったんだよね。
で、せっかくだから袋作製で靴できないかなーって。これなら魔法耐性もある上に物理耐性も普通の靴より断然上じゃないかって気付いたんだ」
「確かにこれならゴム靴を履くような柔らかさもあるしいいですね。わかりました、私達の採寸はこちらにお任せ下さい。あとヒバリさんの靴もこちらで編み上げておきますよ?」
「いや、これぐらいは自分でやるよ。あと篭手のほうも同じように型を作りたいから、こっちも女性用の採寸は任せたからね。これが俺の型で、見本にどうぞ」
親指用の穴と、手のひらと手の甲をカバーする形、そして肘までを覆う形の1枚もの。腕の内側部分で靴紐のように通す穴が等間隔に開いている。
「紙に描いて腕に巻いてみて、それで修正していくといいよ。ただし、手のひらと親指の部分以外は厚さ1cmにするから、腕部分は緩めにしておいて。あとで紐で調整できるから」
時間があったら、肘当てと膝当ても袋のパーツ組みで作り直したいんだよなぁ。頭は今のバンダナ袋でいいだろうけど、こちらのパーツはまだ出来ていない。
このことも後で相談かな?でもまぁ膝や肘なんてそこまで大げさなサイズ違いはないだろうし、適当にいくつか作っておいてもいいかも。
沙里ちゃんとの打ち合わせも終わり、最後に俺が入浴ということで、ゆっくりと湯船に浸からせてもらった。さすがに今日は乱入者もなくのんびりとしすぎてちょっとのぼせかけてしまった……
「ああ、そういえば今日もこのままここで寝るんでしたねぇ」
話し合いが終わって風呂もゆっくり入ってすっきりしたところで部屋に戻ると、全員が布団を敷き終わっていた。しかも俺の位置なんで手前から2番目なんだ?
手前から、沙里ちゃん・俺・トニアさん・姫様。さらに沙里ちゃんと俺の頭上に美李ちゃん、トニアさんと俺の頭上にピーリィとなっている。
「さー、ヒバリお兄ちゃん寝るよー!」
「俺寝相よくないから、出来れば端っこがいいなぁ…」
「みんナできめたノ!」
といっても、沙里ちゃんはちょっと緊張してるし、姫様は笑ってる。トニアさんはちょっと読み取れないな。まぁ決めたのは賑やかな2人なんだろうね。
多少の不安と緊張の中、結局睡魔に負けてぐっすりと眠ったわけで。そして起こされて目を開けると、俺の上にピーリィと美李ちゃんが乗っかって寝ているわけで。
「……うん、なんとなくこうなるんだろうなぁって分かってたよ」
「わたしもそう思いましたね」
起こしてくれた沙里ちゃんはもう着替えて布団を畳んでいた。横を見ると、姫様とトニアさんももう起きているらしい。布団はまだそのままだったけど、沙里ちゃんが畳み始めていた。
「迷惑ってことはないんだけど、起こすのが申し訳ないくらいぐっすり寝てるのがなぁ。寝る子は育つっていうし」
「でも早めに行動しないと、今日はその……戦闘がありますからね」
そっか。頭が一気に覚めてきた。今日は俺としてはひとつの壁を乗り越えなきゃいけない日なんだよな。油断しないように頑張ろう。
なるべく優しく2人を起こし、朝の準備を進める。今日は俺も朝ご飯作るのを手伝って、ちょっと気を紛らせてもらった。メニュー考えたり作ったりって楽しいんだよね。
「ごちそうさまでしたっと」
「片付けはやりますから大丈夫ですよ」
「ありがとう。じゃあ沙里ちゃんに任せちゃうね」
さて、いよいよ出発だ。
今日は早めに出るために4時起きで、夜明けと共に奴等の前を通過する予定だ。ダークミストからの気配だと、奴等はまだほとんどが寝ていて見張りが4人ほど起きているだけのようだ。
今のうちにピーリィに気配察知でしっかりと敵の位置を確認しながら戦う事を教え、感覚に慣れてもらうために一緒に人数を数えながら探り方のおさらいをしてみた。
「うん、17人で合ってる。もう数の数え方もそこまで覚えてたのか。ほんとにピーリィは教えたらどんどん覚えてくからすごいよねぇ」
「ピャぁ〜!ピィリすごいのー」
……最初は内心鳥頭の心配しててごめんなさい。
「じゃあ、もし戦闘になってもこの隠れてる敵に注意してね。きっと飛び道具とか持ってるはずだから、何かが飛んでくるかもって思っておくこと。あと、無理して怪我しないこと!約束だよ?」
「うン!」
そしてケロ口君の準備と使い方のおさらいをして、そろそろ視界に入りそうという手前で、居住袋の中に声を掛けておいた。奴等も気付いた様で、見張りが周りに合図をしているのが見えた。
「おい、馬車を止めろ!ここで検問を受けてもらうぞ!」
金属鎧に槍を持った男が声を荒げる。
「どうみても兵士には見えませんが?」
トニアさんが挑発する。
「うるせぇ!そのまま馬車を降りるんだ!」
速度を緩めると、前に5人後ろに3人取り囲んできた。あとは木の陰に3人ずつ。残りはまだこちらの街道に来るには少し時間がかかるようだ。やるなら今、か。
「馬車の中は荷物しかねぇぜ!」
後ろが見やすいようにわざとホロは開けてある。
「女が1人とガキが1匹か。男はいらねぇな」
「兵士のフリはもうやめたの?じゃあ初めからあんな芝居しなきゃいいのに」
そう言いつつ、トニアさんと目線を交わし、ピーリィに飛ぶように合図する。
「なっ!?ガキは魔法使えたのか!おい、撃ち落せ!」
こちらから目線が外れた隙にダークミストの目眩ましを発動。その間にボウガンで後ろの3人の脚を狙って射抜く。
トニアさんも御者台から飛び出し、前の5人の足にナイフを投げて即座に行動を封じる。
俺は馬車の中を通り抜けて、後ろに居た3人をケロ口君で捕獲。後ろに敵がいない事を確認してからまた御者台に戻り、トニアさんの援護射撃に入る。
その間にもトニアさんが敵の飛び道具を避けつつも動けない5人を気絶させてナイフを回収していく。
「ちくしょうッ!」「死ねぇ!」
痺れを切らした後続の6人が木から飛び出したと思ったら、その背後から飛んできたピーリィが上からケロ口君で1人、また1人と捕獲した。横に居た仲間が消えた事に驚きピーリィに攻撃しようとした奴に、今度は俺がボウガンで足を射抜く。そして馬車から降りて、前方で気絶している5人を捕獲する。
その時ピーリィはすでにトニアさんと相対している3人の方へ飛び、美李ちゃんの様な横スイングで背後から敵を振りぬいた。トニアさんの方へ構えていた男2人は後頭部と太ももを枠で叩かれ、くの字のように折れ曲がりながら仲良く吸い込まれていった。
横を見ると足を撃たれて倒れこむ奴が1人。あとは自分しかおらず、残りの仲間はやっと遠くから駆け寄って来るのが見えた。降参だとばかりに片手剣を捨て、腕を上げつつこっそりナイフを手にしたところで、ピーリィが上からばっさりとケロ口君を被せ、男は袋に吸い込まれて消えた。
この場に居た最後の一人も、仲間が消えていく様に目を奪われている間に捕獲完了。だがまだ終わりじゃない。
残りの4人が駆けつけた頃には再度目眩ましを発動して、混乱させている間に3人で一斉に捕獲して今度こそ戦闘は終了した。あー心臓がバクバク言ってるわ。
「ふぅ……怪我も無く無事に終わりましたね。周りにももういないようだし、これで安心かな?あとはこいつらをどうするか、か」
姫様達3人にも戦闘が終わった事を伝え、馬車に出てきてそのまま出発した。誰も怪我をしていない事を確認して、全員ほっとしたようだ。
「そうですね。袋に入れたままですから、そのまま土に埋めるかこの先にある川に流すのはどうでしょう?」
「多少離れてても袋を指定して解除出来ますが、それどの道何らかの要因でトドメ刺してますよね!?」
「ピィリが、うえマデとんで、ぽいスる?」
「それも捨てるか空中で解除して落下させるかってこと!?」
2人とも容赦ないな……沙里ちゃんも引いてるぞ。美李ちゃんはどうなるのか分かってないっぽいな。
「でしたら、このすぐ先の主街道には巡回騎士隊が通っているはずですので、そこへ投げ入れて袋から出してはいかがでしょう?」
「……なるほど。それならこちらが手を下す必要がないですね」
主街道に出る頃、すでに探しておいた騎士隊を待ち伏せていた。
矢に縛り付けた3枚の袋。そっと届くかギリギリの遠くから曲射する。
「何だ!?全員、敵襲だ!攻撃に備えよッ!」
かろうじて木に刺さる程度の威力だったが、隊長と思われる人物が号令をかけると同時に袋を消滅させる。そして警戒していた騎士達の前に17人もの大人数が現れる。
「くっそー!どこいった!?ぜってーぶっ殺してやるッ!」
「なんだ貴様らは!?……さては、近頃この辺りで頻発している賊とは貴様らの事か!報告にあった人相と似ているな、捕らえよ!」
突然迎撃態勢にある騎士隊10数名の前に出された盗賊達。誰もが傷付き、武器もまともに持てない有様。始まる前から勝敗は決まっていた。
「いやー、なんとかなったなぁ。ちょっと変な証言しないといいなとは思うんだけどね」
「こちらの情報が漏れるかもしれないけど、あの人達に殺された人もいるんだろうし、ちゃんと裁かれる方がいいと思いますよ」
「それにこちらの全員を見られたわけではないですし、許容範囲でしょう」
裁かれることへの賛成を示す沙里ちゃんとトニアさん。一方、
「やはり土に埋めた方が」「ピィリがぽーン!って」
御者台にいる過激な2人には物足りないようだ。
ちなみに美李ちゃんは、早起きが辛かったのと安心したせいで、俺の側にて大きいクッションでぐっすりだ。もうすぐ昼だし、俺も食べた後で少し寝たいなぁ。
まぁとにかく、誰も怪我が無くてなによりだ。
(あー……だめだ、寝てる美李ちゃん見てたら俺も意識がぁ)
そして気付くと夕方で、すでに居住袋(木の間なので同じカモフラージュのまま)の中に入っていた。なんだかんだで疲れていたんだな。
「あー、昼ご飯食べ損ねたし腹減ったー!」
一気に起き上がり、皆の声のするリビングの方へと向かっていった。
「さて、今日の晩ご飯はなにかな?」
今日もまた、旅の一日が終わろうとしていた。
以上で4章が終わりました。
次からは5章となります。
次回更新は10/20 23時予定です。