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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第4章 初めて馬車旅
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山麓の終わりと北への進路

「ピュゥッ!」





 空を飛び綺麗な旋回をしつつ一気に距離を詰めて、その勢いを使って片手剣でゴブリンの首を刎ねていく。8の字を描くようにまた旋回をして次のゴブリン目掛けて加速する。



「ピーリィが外でも飛べるのは分かったけど、まさかここまで戦闘が出来るとは思わなかったなぁ。確かトニアさん…っと、ニアさんが教えたんでしたっけ?」


「そうです。ヒバリさんから風の固有魔法があるのは聞いてましたから、まずは魔力の使い方、そして剣の扱い方を教えました。あとヒバリさんは減点です」



 うわ……最後に減点された。まぁそれはおいといて。



「あの飛行速度は魔法が使えるようになったからなのか…風の気流操作でしたね。綺麗に避けるなーと思ったら、なるほどなぁ」


 時折体を捻る様に障害物やゴブリンをギリギリで避けていたから驚いたが、そうか、あれが気流操作を使っての動きだったのか。



 今のピーリィは皮の胸当てを付けている。さすがに金属鎧だと重すぎて飛行に影響が出るとのことで、余っていた皮鎧をトニアさんが仮調整してくれたのだ。袋補強は内側しかできてないけど。新しい街で予備じゃなくて体に合わせた剣と、腕に装着型の小型の盾も用意してあげないとな。





「ヒバリー!ピィリすごイ?」


 いつもの様に勢いよく飛んで来た後、ふわっと勢いを殺して抱き付いてくるピーリィ。でも、いくら逆手持ちしてるとはいえ剣を持ったまま飛んでくるのは怖いから!さっきまでそれでぽんぽんゴブリンの首飛ばしてたから!



「すごかったよ!お疲れ様。まずはちゃんと剣を拭いて仕舞ってからだと嬉しいな。出来るかなー?」


「うン!ピィリデきる!」



 魔石を取れば魔物の体は消えるが、斬り飛ばした部位や飛び散ったりこびりついた汚れは消えない。だからまず武器の手入れを覚えてもらうしかないのだ。じゃないと素材採取しても残らないからね。


 というかぶっちゃけ剣持ったまま突っ込まれるのは怖い。血糊つきなんてなおさら!


 ぶん!っと勢いよく振り払ってから剣を拭き、鞘に収める。そして、それが終わった事を俺にアピールして期待した目をしている。


「さすがピーリィ!なんでもすぐに覚えてすごいなぁ〜」


 わしわしと頭を撫でると照れつつもきゅいきゅい言いながらされるがままだ。撫でた後に一緒に美李ちゃん達の魔石回収を手伝い、沙里ちゃんと美李ちゃんを労う。



 オークとゴブリンには大分慣れてきたなぁ。魔石回収も含めて。あとは最近見かけるようになった野獣の狼がちょっと素早くて俺にはギリギリだ。

 俺は相変わらず魔力関連以外のステータスがほぼ上がらないから、攻撃力も体力も素早さも成長しないんだよね。参ったな……




 



「そろそろ山脈の西端に着きそうですね。山がかなり低くなってきました。この先の分岐で北上し、そこからしばらく行くと主街道に繋がります。兵や冒険者の巡回があるので安全になりますが、その分人目につくので今度はそちらにも注意しなければいけません」



 今朝出発して遭遇した魔物を倒し、昼ご飯後に再出発。そしてついに山脈の迂回ももうすぐ終わりが見えてきた。この後は北国境街であるカルバクロールという街に入るのだ。


 あとはそこで何もなければ帝国領に入れる。んー、思ったほどの危険な魔物も出てこなかったし、何よりこのパーティだとオーバーキルだから危機感が足りないのかもしれない。


 何せ、一番強いであろうトニアさんと姫様の出番がなかったのだから。姫であろうと国の行事に赴く事もあるし、例え護衛がいても戦えるよう訓練しているらしい。

 そもそもあの明かりの魔法だって、本来の用途はレーザーなんだもんね。生活魔法として使ってもらってるから、物凄く忘れそうになるけど。




「北上を始めたらどれくらいで国境の街に着くんですか?」


「そうですね……このペースですと、4日ほどで到着すると思われます」


 意外と早いんだな。主街道だと安全で路面も良いとなると、ペースもあがるのかもしれないな。


「じゃあそれまでにピーリィに普通の人と同じように振舞えるように覚えてもらうのと、この先の主街道ではパーティ全員が馬車の外に出るのは控えた方がいいのかもしれないですね」


「その辺りの打ち合わせも、今日明日中にはしておきましょう」



 とにかく国境を越えるまでは見付かるわけにはいかない。それと、亜人迫害の目もどこにあるかも分からないから、用心したほうがいいよね。見た目は変えてるけど。



「では、今夜もヒバリさんの部屋に集合ということにしましょう」


「……え?」


「どうせ集まるのですから。それに、今朝は誰も布団を大部屋に戻していませんよ。気付かれませんでしたか?」


 いたずらが成功したかのように笑みを浮かべる。からかってなこりゃ。



「トニアさん、靴を脱いでの生活っていいですよねー?」


「そうですね、ヒバリさんの国は興味深い風習が多くて勉強になります」



 くそう。トニアさんが靴を脱いだ開放感が気に入ったのだと姫様から聞いていたので、そこを突いてみたがまったく揺るがない!

 今はまだ夏のようで少し暑い程度(日本みたいな激しい温暖差はない)だが、冬に備えて炬燵を準備しておいてやる!猫といえば炬燵。トニアさんを魔性の暖房器具へご招待してみせるぞ!



「ああ、ヒバリさん」


「はい?」


 どうやって炬燵を作るかを思案していたら、


「先程も呼び間違えたので減点です」


「……あ。」






「はい。ニア、ヒバリさんで遊ぶのはその辺りでやめておきましょうね?ヒバリさん、沙里さんがピーリィさんの皮鎧の調整が終わったそうなので付与と補強をお願いします、と呼んでおりますよ」



 主に聞かれていたのが恥ずかしかったのか、少し頬を赤くしつつ、俺から手綱を受け取って正面を向いてしまう。


「はい。では馬車を御するのは自分にお任せ下さい」


「じゃあお願いします。ダークミストはこのまま発動したいので、居住袋は閉じないでおきますね」



 姫様もこのまま馬車に残ると言うので、俺だけ居住袋に入る。ちなみに、馬車を入れるわけじゃないので俺が通れる分だけ開けて、1mくらい閉じないままにして玄関から奥へ入っていった。





 もはやアスレチックと化してきている練習場からピーリィを呼んで、一緒に沙里ちゃんの元で鎧の最終調整をする。装着する時にまた服を脱ぎだしたので、そこは沙里ちゃんに教育を丸投げした。

 そもそもパーティ内で一番小さいピーリィ用の服がないから、今は美李ちゃんが分けてくれた服を沙里ちゃんが家事スキルで縫い直してくれたんだよね。他に布生地があったら色々作りたいとは言っていたし、次の街ではこちらも仕入れておこう。




「ぶらじゃーいらなイけど、ぱんつはハキなさいっていわれタの…」


 ちょっと疲れたようなだるそうな足取りで俺の部屋に戻ってきたピーリィは、そのまま畳んである布団にダイブしてぐてーっとなっている。


 あれ?今までパンツ履いて無かったの?散々空飛んでたよねキミ!?



「ピーリィ、服は前にも言ったけど、女の子なんだから下着は履かないとだめだよ?」


「エー…でもあしウゴかすときジャマー」


 しまった。子供に否定した言い方は逆効果って聞いたことあったような?



「ピーリィは素敵な女の子になりたい?」


「ンー……うん、なりたい…かナ?」


「じゃあまずは男の人に裸を見られないようにする事から始めようか」



 ちょっと考えたが、それが必要な事なのか納得は出来ていないようだ。


「本当かどうか、沙里ちゃんにも聞いてごらん?」


「わかっター」





 とてとてと小走りに沙里ちゃんのところへと駆けて行く。しばらくすると元気な顔で戻ってきて、やっぱり布団にダイブしていた。



「ホントだった!男の人にミラれるのだめだッテ!」


 よかった。また沙里ちゃん任せだったから申し訳ないけど、これ以上どう教えていいかなんて分からないから助かったよ。あとでお礼を言わないとな。



「ホントに好きな人デキたら、その人はミセていいッテ!ココ、ヒバリのへやだかラ、ココ、だいじょうぶ!」


 邪魔だったのか皮鎧を脱いで、次にワンピースに手を掛けたところで待ったをかけた!なんで服脱ごうとしてるのこの子!?


「いやいやいや!だから服は着てないとって話だったでしょ!?」


「…?だかラ、好きな人ミセていいって。ピィリ、ヒバリのことすきダヨ?」



 ストレートな感情をぶつけられてちょっと照れるが、それはおいといて、


「ん、ありがとう。でも俺は服を着ていてくれると嬉しいなぁ」


「んー、わかっタぁ。がまんスルよぉ」


「ありがとう、ピィリ」


 側に座って頭を撫でてお礼を言う。いや、礼を言うってのも変な話だが、我慢してもらってるんだからいいか。いいのか?





 そして脱ぎ散らかした皮鎧を手に取って、補強用の厚い袋を挿し込んでいく。金属鎧のようなスリットは無いので、沙里ちゃんに皮を縫い付けてもらって外側にも挿し込めるように改良したのだ。敢えて胸元から袋が少しはみ出るようにして、お腹や腰にも多少カバー出来るように取り付けた。




「よし、とりあえず完成だ!外に出る時はこれを着てから出るんだよ」


「着なきゃダめー?」


「うん。ピーリィに怪我して欲しくないから、俺が出来る事はやったんだ。本当は戦って欲しくないけど、この世界はそんなこと言ってられないからね」


 美李ちゃんもそうだが、まだ幼いうちから殺し合いをさせなきゃいけないこの世界じゃ、せめて身を守る物なら俺でも手伝えるから、やれる事はやっておきたい。

 

「正直戦闘だと俺、このパーティ内で一番弱いから……こういう事しか出来なくてごめんね」


「ンーん。ヒバリ、たくさんしてくレタよ!マーマのこと、ピィリ、うれしかっタ。いっしょいるノ、ウレしかっタ。だかラ、これ、ちゃんトつかうヨ!」



 ほんとに素直ないい子だな。あの母親が大事に育ててきたんだろう。次に墓参りに訪れる時も真っ直ぐ育っている事を報告したいな。





 その後は皆の装備の袋を入れ替え補強し、食材・道具用の袋を作ったりと、作業に追われつつ袋を作り続けていた。MPが半分を切ったあたりでやめて、トニアさんと御者を交代する。



 陽が暮れる前にはついに北へ向かう分岐に到着した。





「少し早いですが、今日は北に少し行った先の林で休みましょう」


 後ろからトニアさんが顔を出し、こちらに声を掛ける


「分かりました。じゃあ……その林のちょっと奥に木が密集している所があるので、そこにしましょう」





 少し街道から外れた場所で馬車を止め、ダークミストの索敵範囲を出来るだけ広げて情報収集を始める。どうせあとはご飯と寝るだけだからMPはある程度使っても大丈夫だろう。


「さっきの分岐を真っ直ぐ行ったらすぐ主街道だったんですね。さすがに主街道というだけあって馬車の往来が多いですねぇ」


「その分人目に付きますからね。今回はあえてこちらからの道を選びました」



 居住袋を設置するのを手伝っていた姫様が答える。



「しかし……ヒバリさん、この先にいる道からずれた場所の者達はもしかして?」


「あー…この集団ですね。全部で15、いや17人ですか。鑑定では犯罪歴のある者が大半ですね。追い剥ぎというか、盗賊でしょうね。出来れば女性陣には会わせたくない経歴だらけです」



 まだかなり離れてはいるが、待ち伏せしているなら結局明日には遭遇してしまうだろう距離だ。奴等が移動しない限りは今日は大丈夫だろう。



「主街道とこちらの街道、どちらも狙えるように待ち伏せているようですね。そうなると、今日移動する事はないでしょう。明日、私達が対処する事になるかと思います」


「人と、戦わなければなりませんか……」


「おねえちゃん……」



 俺達日本人組はかなり鬱な顔をしていたのだろう。トニアさんとピーリィが声を張る。


「そういった仕事は自分に任せてください。ご自分達の身を守っていてくだされば対処いたします」


「ピィリもばーってヤッチャウよー!」



 トニアさんならある程度大丈夫だろうが、相手の人数が多すぎる……それに、ああいう奴等は飛び道具や麻痺毒とか準備してるのが定石だろうし。






「それならひとつ、道具を準備させてください。まだ使った事無いので調整もいるんだけど、使えそうなものがあるので。それと、沙里ちゃんに靴と篭手の相談もしたいんだ。後でよろしくね」



 デッドストック(不良在庫・売れ残り)みたいになっていた道具をここで投入する事にした。あれならそうは血を見ることにはならないだろうし!

 あと、ピーリィの軽量装備の事を考えていたとき思いついた事も沙里ちゃんに相談したかったので、ついでにこの場で伝えておいた。




 あまり時間は無いから、まずは作戦会議と道具の方からだな!



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