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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第4章 初めて馬車旅
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鳥の少女

「……この先に人が4人いますね。オーク5匹とゴブリン7匹に囲まれてます。それとちょっと離れた所にもう1人?あっ…ゴブリン2匹とオーク1匹減ったけど、人の方も2人やられたみたいです!」







 ちょっとダークミストの範囲を広げる練習をしていたら、襲われてる人を見つけた。しかし助けるにはまだ500m以上あるし、何より2人減った事によりもう戦線を保つ事は出来なかった。



「……だめですね。ゴブリン1匹減りましたが残り2人もやられました。あ、でも離れてる1人はまだ気付かれていないようです!間に合います!」


「沙里さん、こちらに注意を引くためにこの先の街道に火魔法を撃ち込んで下さい!木に当てると火事の危険がありますのでお気を付けて!」


 


 姫様に言われすぐさま御者台の方へ出てきた沙里ちゃんが数発のファイヤーショットを前方の街道に撃ち込む。そしてオーク達の姿が見えたところで、今度は美李ちゃんのロックシュートと共にウィンドカッターに切り替え、2人でオークの殲滅を始めた。


 俺は馬車を運転し、トニアさんが投げナイフでゴブリンを、さすがに姫様のレーザーだと貫通して火事を起こしかねないので使わなかったらしい。



 少し距離を置いて馬車を止め、周囲に他の気配が無い事を確認してから俺と姫様は最後の1人を保護に向かった。


 残りの傷だらけのオーク2匹とナイフから逃れたゴブリン1匹は、あの3人によってすぐに討伐されることになる。普段は魔法を使わずに倒してたから、魔法を使うと複数でも余裕なのか…いや、今回は相手に飛び道具や魔法がなかったから余裕だったのかな?



 そんな事を考えつつも目的の人物の元へと急ぐ。そして、途中で鑑定をしていたので分かっていたが、相手はどうやら女の子であった。そしてそこを動かない理由は……着いてから判明した。






「ピィッ!ピィッ!マーマ!マーマ!」



 手と足の膝から下の部分が鳥の翼や足になっている子、鳥人族の女の子だった。所謂ハーピーみたいな子だが、魔物ではないそうだ。種族に人って入ってるしね。


 そして、その傍らには、その子母親と思われる女性の遺体があった。片方の翼(腕?)を斬り飛ばされていた。しかも、胸辺りを抉られた……


そう、まるで魔石を回収しようとしたかのような跡があった。



「酷い事を……鳥人族ならば我々の言葉は通じたはず。なのに何故このような事を……魔物や野獣はこういったことはいたしません。この真新しい傷口は、先程魔物に襲われて亡くなった者達の仕業でしょうね……」



 は?言葉が通じたのにこの女性を殺した上に魔石を探して内臓抉ったっていうのか!?なんでそんな事を……



 「魔物と魔族の違い、それを理解していない者もこうして存在します。ですが、会話が出来た筈なのにこういった行為に及ぶのは、どちらが魔物なんでしょうね……」



 さすがに姫様もショックのようだ。



「まずはこの子を保護しましょう。見たところまだ言葉を完全に覚える前にこのような事体になってしまったようですし。もしかしたらこの子を逃がすために母親が囮になったのかもしれませんね」



 悲しそうな目で母親と思われる遺体を見つめる。そして母親に呼びかける事に必死で周りを見ようともしない子をそっと撫でて、抱きしめる。


「同じ人族として、申し訳ありません。あなたから母親を奪った挙句このような……お母様をこのままにしておくのは可哀想です。埋めて差し上げたいのですが、よろしいですか?」


「マーマ、ココ、イナイ……ピィ…マーマ、ウゴカナイ?」


「そうです。土に還してあげましょうね?」


「マーマ…ピュィ」



 オークとゴブリンを片付けた3人がこちらに合流してきた。そして、先程の会話が聞こえたのだろう。皆悲しそうな顔をして、美李ちゃんは沙里ちゃんに抱きついて泣き始めてしまった。



「美李ちゃん、聞いての通りこの子の母親のお墓を作ってあげたいんだ。手伝ってくれるかな?」


 この作業で一番頼りになるのは美李ちゃんだ。だから、ここはお願いする事にした。


「うん。あたしもお墓つくってあげたい!」


 泣きながらもしっかりと返事をしてくれた。よかった。






 こうしてまずは美李ちゃんが深さ1mくらいの穴を掘り、下に少し空気を入れた袋をクッションとして敷いてそこに女性の遺体をそっと寝かせる。

 沙里ちゃんたちが摘んできた花や木の実を周りに飾り、女の子にお別れの挨拶をさせる。母親の死を受け入れ始め、少しだけ落ち着いた女の子は、じっと見つめたあとに一声ピィッ!と鳴いてから花を添えた。



 そして土を被せてその脇に美李ちゃんの半分くらいの石を立て、そこに根ごと採ってきた花を一面に植えた。ここが将来綺麗な花畑になりますように、と美李ちゃんがスキルを使って水や土に力を注いである。 



 最後は俺の番だ。


 この場所を基点に半径10mほどダークミストで覆う。これで人払いの結界代わりになるはずだ。魔力もかなり注いでおいたし、時間消費も最低限だからそう簡単には切れないはずだ。



 急に母親の墓が見えなくなった事に驚いた女の子に、認識共有の印をつけてあげるとほっとしたように墓を見つめていた。


「これでお母さんのお墓は誰にも荒らされないようにしたから。後でまた逢いに来てあげようね。少し経てばお花で一杯になってるはずだよ。ね、美李ちゃん?」


「うん!お花さんにいーっぱい元気をあげたからね!」



 なんとか笑顔を作りながら女の子の手(?)を取って伝える美李ちゃん。なんとなくよくしてもらったんだと理解したらしく、女の子も少しだけ微笑んでくれていた。




「そうだ。よかったら名前を教えてもらえるかな?俺はヒバリ。俺の国では同じ名前の鳥がいるんだよ」


 そう言って全員が自己紹介をして、もう一度女の子の名前を聞いてみた。



「ピィ、ハ、ピィ?」


「えっと、ピィちゃんでいいのかな?」



 ちょっと気になったので簡単な鑑定をさせてもらった。




ピーリィ(鳥人族) 9歳

状態:疲労(中)、空腹

固有スキル

 飛翔(未修得種族スキル)

適合属性

 風:気流操作




 そうか、ピーリィというのか。そしてまだ空を飛べないんだ。だから母親は囮になってこの子から引き離そうとしたのかもしれない。



「ピーリィちゃんっていうんだね、よろしくね!」


「…ピィ!ピィリ!ピィリ!」



 ちゃんと名前を言ってもらえたのが嬉しかったようで、パタパタと俺の周りを回り始めた。やがてほんの少しだけ飛んで俺の背中に着地してきた。頭を撫でてあげると少し落ち着いたようだ。



「ピーリィは美李ちゃんと同じ9歳だ。いいお友達になれると思うよ」


「ピィ!ミリィ〜」



 今度は美李ちゃんに飛び移りじゃれあい始めた。うむ、眼福だ。






「では、ピーリィさん。お父さんか他のご家族はいらっしゃいますか?よろしければ家までお送りしますよ」


 話がひと段落したところで、姫様が今後の話をする。



「ピィ……ピィ、マーマダケ。イエハ、イツモ、イエ?キ?」



 胃液?いや、木ってことか?じゃあこのあたりにいたってだけなのかもしれないな。横では姫様がどうします?って顔してる。




「ピーリィさえよかったら、俺達と一緒に行くか?ちょっと見た目だけ人っぽく魔法をかけさせてもらっていいなら、だけどね。さすがにそのままだとまた危ない目に遭いそうで心配だし。

 でも自由に生きたいならそれでいい。無理にとは言わないよ。あ、でも今日だけは一緒にご飯を食べて欲しいな」



 さっき鑑定した時の疲労と空腹を思い出して、そう提案してみる。




 く〜っと可愛いお腹の音が聞こえてきた。

 


「ゴハン、タベテナイ…タベタイ」


「よし、じゃあいっそここでご飯にしよう!せっかくだからお母さんと一緒に食べようね」



 そう言うが早いか、すでにトニアさんと沙里ちゃんは馬車の中に入り準備を始めた。一旦道具を取り出してきた沙里ちゃんが、


「ピーリィちゃん、食べたい物ある?あとは、食べられない物あるかな?」


「マーマ、イツモ、キト、ウサギ?」


「じゃあ肉も果物…が大丈夫なら野菜も大丈夫かな。分かったわ!」



 ちょっと気合の入った沙里ちゃんの返事。ピーリィに元気になってもらいたいのは皆一緒ってことだね。美李ちゃんはピーリィの体を拭いて綺麗にして、自分の服を着せてあげていた。



 ……せめて服を脱がすのは馬車の中でするように、ちゃんと教えないと将来が心配だなぁ。美李ちゃんも含めて。


 綺麗な服が気に入ったのか、美李ちゃんの周りをパタパタ走り回っていたが、さすがに疲労と空腹のせいですぐにふらついてしまっていた。慌てて抱きかかえて、その場に落ち着かせる。頭を撫でつつもう少しでご飯だからね、と声をかけるとピィと返事をくれる。



「本当はしっかり食べて寝るのが一番ですが、少しはよくなるでしょう」


 と言いつつ姫様が回復系の魔法をピーリィを撫でながらかけていた。





 しばらく3人がかりでピーリィを撫でていた。よほど気持ちよかったのか少し眠そうに体を丸め出したころ、沙里ちゃんたちが持ってきた料理の匂いで飛び起きた。



「ソレ、ナーニ?ナーニ??」


 もはや料理に釘付けだ。



「皆と一緒に食べますからね。はい、ではいただきます!」



 沙里ちゃんの号令と共に食べ始める。が、ピーリィはどうしたらいいかちょっと迷っていた。



「手は使えますか?こうやって……そうそう、上手ですよ」


 料理を差し出しつつ隣に座って、ピーリィにフォークとスプーンの使い方を教えている。パンはそのままかじるだけだから、手でフォークとスプーンさえ使えればあとは慣れるだけだ。



 今日の献立は、パン・サラダ・ワニつくね団子のスープ・果物だ。全体的に薄味にしてあるようで、ピーリィも気に入ってくれたようだった。



「まだありますから落ち着いて食べて大丈夫よ。ほら、また汚して」


 美李ちゃんと同い年とはいえ、若干ピーリィの方が幼く見えるため、沙里ちゃんもお姉さんモードのままだ。でも2人ともとても楽しそうだな。




 そんな様子を見ていたら、


「ほらヒバリお兄ちゃんパンくずこぼしてますよ。ちゃんと綺麗にしないと!」


 と、美李ちゃんが俺の世話をし始めた。




 俺が世話をされる方なのか……横の2人を見て、どうやら沙里ちゃんの真似をしたかったのかな?まぁいっか。




 途中でパタパタと駆け出し、パンを母親の墓に供えるピーリィ。しばらくそこでじっと立っていたが、振り返ると同じように駆け戻って肩車のように抱きついてくる。



「ピィリ、イッショ、イイ?」


 先程の返事をしてくれたのだろう。母親の墓の前で決心したようだ。


「うん、こちらこそ。ピーリィ、俺達と一緒に旅をしよう!」





 ちょっと早めのお昼ご飯を終えて、皆でもう一度お墓に挨拶をした。



 それから、ピーリィの見た目がそのままだと街などで危険なので、人の姿のカモフラージュをかけた。初めは印を付けないでどんな姿に見えるか確認してもらい、その後印を付けて見た目を魔法で誤魔化したことを説明した。



 人の姿(手と足だけ変えただけだが)になった自分と、トニアさんも含めて皆も変装しているが面白かったらしく、何度か印を付けたり消したり繰り返すハメになったのはご愛嬌ってね。






 そして時間が経ち昼を過ぎた頃。



 馬車に乗り込んで出発した時、遠ざかる母親の墓をじーっと見つめるピーリィ。御者をやってくれているトニアさん以外の全員で優しく抱きしめると、ピィと小さい声を出しつつ皆の中で泣いていた。



「またここに来るから。今度来る時も、こんなに元気に暮らしてます!ってお母さんに言いに来よう。約束だ!」



 そう言うと抱きついて一際か細い声を上げて泣いていた。やがて泣き疲れて眠ってしまったが、トニアさんに断って抱きしめたまま俺も少し寝させてもらった。











 昔の夢を見た。




 あれは俺が小学生になった頃、父親と母親が喧嘩をしていた。



 確か、初めは父親の浮気でそれにキレた母親も浮気をし、そして母親はその相手と結婚する約束までして身篭って、離婚が成立してしまった。


 その時俺は、再婚する母親が引き取るはずもなく、そのまま父親に付いて行く事になった。離婚が決まってからの父親はすっかり腑抜けてしまっていた。

 まぁ自分の浮気から始まったのだから、自業自得というやつだろう。巻き込まれる子供の事を考えてもらえなかったのは悲しかったが。

 



 しばらくして、高校に上がった頃に母親が会いたいと連絡してきた。



 母親の方はその相手ときちんと結婚し家族円満で暮らしているそうだ。俺の方を聞かれてもあれから何も変わってないとしか言いようがない。


 そういうと申し訳なさそうにお小遣いだとお金を渡されるが、それは断った。


 母親には新しい家庭があるのだからそっちで幸せならいいと、こっちはバイトもしてるし父親も仕事はしっかりやってるから家計は問題ない。今日はお別れのつもりで会いに来た、と伝えると



「ごめんなさい、本当にごめんなさい」


 と、何度も泣きながら謝られてしまった。


 俺としては本当に不幸とも思ってないし、まぁ多少母親がいなくて困ったことはあったがそれだけだ。むしろ今の対応に困ってしまう。





 それからは母親とは電話もメールも、勿論会うこともなくなった。



 母親から見たら、俺は幸せそうには見えなかったのだろう。自分が幸せなのが申し訳なくて、何かしたかったのだろう。でももう道は別れてしまった。俺が断ち切ってしまった。




(もうちょっと言い方あったんじゃないかなぁ?俺……)





 そんな、母親との思い出だった。









 温かい感触に目が覚めると、ピーリィが俺の顔を舐めていた。



「マーマ、ピィリナイタ、ピィリナメタ。ヒバリ、ナイタ」



 うっわ!俺、寝ながら泣いてたのか!?泣くような夢じゃなかったはずなんだが……恥ずかしいなもう。



「一旦起こそうかと思ったのですが、ピーリィさんがあやし始めたので、そのままでよろしいかと思いまして」


 横を見るとニコニコ顔の姫様が答え、沙里ちゃんは暖かな視線。そして美李ちゃんは俺の頭を撫でていた……



「だいじょうぶ。ヒバリお兄ちゃんにはあたしたちがいるからね〜」








 一番年上が一番子ども扱いされてる件について異議を申し立てたいが、絶対に勝てそうにないので、まさに涙を呑むヒバリであった。



今のところ順調に2日ごとに更新出来てます。


次回更新は10/12 23時予定です。よろしくお願いします。

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