みんなのステータス
美李ちゃんが自分も戦うと宣言してから3日後。
もうすぐ山脈の麓へと到着できそうだった。この後は山脈を北周りで迂回して、そのまま北の国境街を目指す予定だ。
この3日の美李ちゃんは、最初の1日目までは誰かにべったりくっついて離れなかったが、その後は素振りをしたり率先してゴブリンとの戦闘に参加していた。たまに現れるオークや野獣であるイエロークロコダイルにビッグボアとも戦い、ぐんぐんと成長している。
俺の方は……ゴブリンなら普通に倒せるが、未だにオークは時間がかかってしまうくらいだ。どうしても攻撃力が足りない。
今もオーク1匹を沙里ちゃんとの連携で瞬殺して俺への援護にくる美李ちゃんが、オークの足を槌でゴルフみたいに振り抜き転倒させ、そのスイングの力を乗せたまま仰向けで転がりかけてるオークの顔面に槌を叩き下ろした。やはり撲殺である。
「ヒバリお兄ちゃん、大丈夫だった?」
「ああ、ありがとう。おかげで怪我も無く済んだよ」
赤黒い血を槌に付けたまま笑顔で駆け寄ってくる美李ちゃんの頭を撫でた。血塗れの槌は見ない方向で。
こうして美李ちゃんが戦闘に参加するようになってから、少し疑問に思った事がある。それは召喚者は成長率が高いと言われたステータスについてだ。
確かに美李ちゃん達を見れば、STR等戦闘を行う度に成長しているのが分かる。が、俺に関してはそんなに成長していないのだ。
袋を作る事でINTとMP総量は上昇を続けている。ついでに、素早さは上がらないものの器用さと言う意味ではDEXの上昇も著しい。
しかし、攻撃をしても食らって傷を負っても、俺のSTRやDEFそしてHP総量はほとんどと言っていいほど増えていないのだ。
「これってどういうことなんですかね?」
先程の戦闘が終わり魔石も回収して、再び走り出した馬車で姫様とトニアさんに相談してみた。このままじゃ俺だけオークに苦戦という状況から抜け出せないし。
ちなみに、姫様は光魔法の収束光射でレーザーみたいなものを撃てばオーク程度なら即殺らしい。あれっていつもテント内でかけてる照明と同じ魔法なのだが、寧ろ本来は攻撃魔法だったんだよ……
「また憶測で申し訳ありませんが、正直沙里さんと美李さんの成長は他の勇者様方よりも早いと思います。そしてヒバリさんの成長が悪い事を考えると、ヒバリさんは他者の成長を促進させ、自身の成長は制限されてしまうのではないでしょうか」
「それってパーティを外れてひとりで動いた方がいいって事ですか?」
「いえ、一人でも成長するのだとしたら、ヒバリさんが一人暮らしを始めて私達があの家に伺うまででも上がったのではないですか?確か、調理でも肉体労働はあったはずです」
うーん……結局魔力関連以外は成長見込めないってこと?同じ非戦闘スキルでも随分差が出ちゃうんだなぁ。
「スキル……そうですね、スキルの内容も関係あるのかもしれません。
ヒバリさんのスキルは魔力を使って袋を作る事、つまりは魔力特化とも言える訳です。ですが、沙里さんは家事という肉体労働、美李さんも畑仕事という肉体労働です。これらがステータスの何が成長しやすいかという指針になっているのかも知れませんね」
それでも2人の成長は良すぎますが、と姫様が考察をまとめた。
今現在のステータスを確認してみる。
木沼 雲雀 27歳 男
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状態:良好
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HP:36/36
MP:6432/6432
STR:27
DEF:18
INT:1608
DEX:321
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固有スキル
鑑定:LV-
袋詰め:LV4
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適合属性
闇:ハイディング、カモフラージュ、ダークミスト、静寂
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遠藤 沙里 16歳
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状態:良好
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HP:62/62
MP:394/404
STR:52
DEF:31
INT:101
DEX:72
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固有スキル
万能家事:解体、ドライヤー(火と風の融合)
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適合属性
火、風:発火、風圧防御、風加速、ファイヤーショット、ウィンドカッター
遠藤 美李 9歳
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状態:良好
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HP:76/76
MP:381/392
STR:86
DEF:38
INT:98
DEX:47
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固有スキル
家庭菜園:大きくなーれ(土融合)、元気になーれ(水融合)
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適合属性
土、水:落とし穴、土壁防御、小規模地震、ウォーターショット、ロックシュート、消毒(解毒ほどの効果はない)
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ついでに、了承を貰ってから姫様とトニアさんも。
ノーザリス・シルベスタ 15歳
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状態:良好
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HP:48/48
MP:821/824
STR:18
DEF:24
INT:108
DEX:58
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適合属性
光:癒しの光、光翼防御、異常状態治療、収束光射
トニア 16歳
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状態:良好
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HP:72/72
MP:140/140
STR:74
DEF:36
INT:35
DEX:81
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固有スキル
軽身:動作短縮、空中軌道制御
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適合属性
風:風防御、風加速、ウィンドカッター、旋風
となっている。
こうしてみると、やはり俺は魔力以外劣っているのがよく分かる。そして遠藤姉妹のステータスはすでに出会った頃の源さんを越えていた。あくまで数値の上での話しだが。そして驚いたのが、
「ニアさん固有スキル持ってたんですね……」
「はい。亜人の中には種族スキルと、稀に固有スキルを持つ者が生まれます。自分もそれを買われてノ……サリスさんの護衛に雇われたのです」
呼び方を間違えそうになって咳払いで誤魔化すトニアさん。聞かなかった事にしよう。俺が間違えそうな時もよろしくってことで!
「ヒバリさんの魔力量はもはや異常とも言えますね」
「でも使える魔法が攻撃性のないものしかないですけどね」
「情報や身を守る術としては優れているのでパーティのバランスはいいと思います。パーティ内で索敵を行えるだなんて、他者へは絶対に漏らさないよう注意すべきです。ヒバリさんのはどれも公に出来ないほど恐ろしいと自覚なさったほうがいいですね」
……なんだろう?凄いと褒められているのかと思ったら、危険人物だという内容に変わったような。おかしい、まったくテンション上がらない。
「そ、そうだ!美李ちゃんは小規模地震なんて技があったんだね!」
こういう時は話題転換に限る!
「それなあに?」
不思議そうに首を傾げてる美李ちゃんは可愛かった。そして、自分の技を分かってなかった。
「えーっと、スキルを意識して地面を叩くと、周囲に地震を起こして範囲内の歩行生物の行動を阻害する、と。範囲は半径5mくらいか。
小規模地震!って思いながら魔力籠めて地面叩くとぐらぐらして少しの間動けなくするって。後で馬車を止めたら試してみようね!」
「はーい!」
美李ちゃんの元気のいい返事でこの話題が終了とばかりにそれぞれのやる事に戻る。姫様は沙里ちゃんに教わりながらの裁縫、美李ちゃんは袋クッションで遊ぶ。俺は御者台だ。トニアさんには夜番のためにも休んでもらわないとね。
そして、女性陣の前では言えなかったが、姫様って沙里ちゃんより年下だったのか……てっきり上だと思った。そして、トニアさんは沙里ちゃんと同い年か。こっちの人達は精神的に大人っぽい子が多いよなぁ。
今日も夕方まで走り、野宿のための準備をしてから暗くなる前に少し離れて美李ちゃんの小規模地震を試す。
初めは範囲内に入ってみたら尻餅をついてしまった。少し慣れると耐えられるが、やはり揺れている間は動くのは厳しそうだ。足元が不安定でジャンプも出来なかった。
この半径5mのギリギリ外で待って、相手が動けないうちに飛び込んで攻撃するのはいいかもしれない。ただし、地面にいない飛行タイプにはまったく意味はない。さすがに分かってたけど。
そしてINTが高くて魔法耐性があっても、こういった魔法によって揺らされた地震みたいな関節的な事象には本人の物理耐性になっちゃうから防げないんだよなぁ
晩御飯と入浴を済ませ、トニアさんと交代で番をしつつダークミストが途切れたら叩き起こしてもらうのも毎度の事。でも最近は少しずつ寝ながらも魔法を維持出来るようになってきたんだよ!
翌朝、ご飯と身支度を済ませて馬車を走らせると、昼頃にはついにボルネオール山脈の麓へと着いた。ここからは街道の分岐を北側へと左折して回り込むルートだ。
ここは森と山が近いため、魔物と野獣への警戒が高まる。
そしてこの先では、とある気配がある事を察知していた。