検証と実験
よろしくお願いします。
「よし、まずは色々検証してみよう!いただきます!」
やっと白衣に長靴といった格好から開放され、どこかのお坊ちゃんじゃないか?と思われるような質のよさげなシャツとズボンに革靴といった服装を用意してもらい、運ばれた食事ををいただいている。
「いい食材を使ってるんだろうけど、違うんだよなぁ。贅沢言える状況じゃないけどさ」
キツい脂と強い香辛料、そしてバランスの悪い献立にちょっと辟易しつつもしっかりと食べ、どんな調味料や食材があるか情報を得るために味わう。
「これは貴族サマ達が食べるものだろうから、街の人達がどんな食事かしっかり確認したほうがいいなこりゃ」
自分に納得が出来たところですべて平らげ、カートに食器を載せて廊下にいる従士さんにお礼を言って片付けの指示をしてもらう。会話らしい会話も返事も特に無く淡々としたものだった。
「この対応は、例の姫様の話にあった闇の適合者ってやつが大きいんだろうな」
姫様との会話と、従士の態度を照らしてみればすぐに想像の付くことだった。
遠藤姉妹と共に姫様に質問し、答えを得られたものとこの世界の常識をまとめていくとこうなる。
・ここはポートフォート大陸という場所のシルベスタ王国である
・シルベスタ王国は人間中心で、血筋を尊ぶ者ほど亜人を見下している。(王族は平等を謳っている
・他は、ノロワール帝国とニューグロー連合国とその他氏族がある
・ノロワールは人も亜人も平等で、ニューグローは亜人たちが手を組んで建国された亜人国である。
・過去に初代勇者をノロワール帝国が召喚し、その勇者が永住を望んだため国を分けて
シルベスタ王国が出来た。つまり、初代勇者という地球人の血を引いている。
・犯罪者や金銭苦者が奴隷になることがある。
・魔法は全部で6属性(光、火、風、土、水、闇)あるが、闇は魔族が使うものとして忌み嫌われている。
魔力は使いすぎると疲労し、尽きると気絶する。属性の主な特徴は下記の通り。
光:癒し、収束
火:熱、溶解
風:開放、圧縮
土:軟化、硬化
水:循環、浄化
闇:隠匿
・通貨単位は基本はゴールドで、帝国と王国では銭と貨の違い程度である。
※上位3種は若干違う。
王国(形状:丸 帝国(形状:楕円
銅貨: 1ゴールド : 銅銭
大銅貨: 50ゴールド :大銅銭
銀貨: 100ゴールド : 銀銭
大銀貨: 500ゴールド :大銀銭
金貨: 1000ゴールド : 金銭
白金貨: 10000ゴールド :黄金銭
赤金貨: 100000ゴールド :紅金銭
王金貨:1000000ゴールド :皇金銭
街の露店の軽食が銅貨1~4枚、宿屋は大体大銅貨1枚という事から、
おそらく銅貨1枚=100円程度の価値である。
・冒険者や商人などになるためには、各ギルドに登録する必要がある。
・過去に封印された遺跡が大陸中のどこかに点在しており、一攫千金を狙って冒険者になる者も多い。
・日本ほどの落差は無いが四季がある。
・産業技術はそれほど高くないが、魔法で済ませてしまったり、魔石という魔物の核を利用した魔道具が開発されている。
・15歳で成人とみなされ、早いものはその歳になった途端婚約や結婚を済ませる貴族が多い。
・教育はさほど盛んではなく、商人や下級貴族は読み書きや簡単な計算は出来る程度で、農民はそもそもどちらもほぼ出来ない場合が多い。
・1年は360日の12ヶ月。1ヶ月30日と暦はほぼ変わらず。
と、書かれた紙を読み返してテーブルに戻してベッドに横たわる。
「さすがに全部覚えるなんて無理だから!筆記官が居てくれて助かったわぁ」
ここで一番気を付けなければ、自分が”闇の適合者であること”だ。これはなるべく周りにバレないように気を使っていくしかない。従士の態度だけでも十分にまずい事が分かったし。そして奴隷制度や差別があることも心に留めておくべきだろう。こちらも巻き込まれたらまずすぎる!
今度は自分のスキル事だ。俺の武器である”鑑定”と”袋詰め”をよく知っておく必要がある。これらをいかに上手く使いこなせるかが、俺自身が生き残る言わば生命線だ。さっきも食事を鑑定してみたが、腐ってるかどうかや使われた食材に調味料、誰が作ったかも調べる事ができた。はたして他にどんな事ができるやら。
「まずは自分を詳しく鑑定してみるか。いや、スリーサイズとかはいいからステータス!」
一瞬出そうになったスリーサイズのウィンドウを跳ね飛ばし、ステータスを表示させる。
木沼 雲雀 27歳 男
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状態:良好
▼
HP:18/18
MP:21/21
STR:8
DEF:11
INT:7
DEX:13
▼
固有スキル
鑑定:LV-
袋詰め:LV1
▼
適合属性
闇
▼
おお、ステータスと一緒に状態を意識したらこっちも出てきた!姫様相手に袋を作ったのにMPが減ってないのは時間で回復したんだろうけど、鑑定がMP消費しないのかちょっと分からないな……
一度ウィンドウを消し、再度自分を鑑定してみたがMPは減っていなかった。鑑定はMP消費しないらしい。そういえば大広間で無意識に鑑定発動しまくってたし、もしMP減ってたらとっくに0になってたんだから減らなくて当然か。
(これよく見たらみんな▼マークあるけどなんだろ?まずはステータスのを見てみるか)
意識した途端表れたのは、
ステータス
当人のLVは無く、使った能力に応じて成長していく。
召喚勇者は通常よりも成長率が高い。
HP:生命力(0になると死ぬ
MP:魔力(残り1/2で倦怠感、1/3で精神疲労大、0で気絶
STR:筋力、物理攻撃力
DEF:物理防御力、状態異常耐性力
INT:魔法威力・抵抗力、魔力の総量・回復力
DEX:器用さ、素早さ
魔力回復量
1時間につきINTの数値分回復する。
=10分でINTの1/8(1分0.3%強
(0まで消費しても5時間半でほぼ全快する
「鑑定結果の中ならヘルプがあるのか!!!」
思わず跳ね起きて結果を凝視する。
これはかなり有利なんじゃないか?上げたいステータスを意識して上げるにしても、実際上がったかどうかは普通は見られない。でも俺ならいつでも確認できる。知りたければいつでも見ればいいわけだしな!
ついでに自分の状態や固有スキルの説明も見直しておく。MP消費しないんだから使いたい放題で気にする必要もないのは嬉しい誤算だ!
よし、次に行こう。
次は本命の袋詰めだ。
一応スキル説明は広場に居た時に見たが、まだ実際には1回しか使用していない。姫様たちの前で見せたのだって、あえて最低限で使ってみただけだ。自分が想像していることが出来るかどうか、ここからが勝負所ってわけだ!
集中してスキルを発動。今度は最初のより少し大きめでちょっと厚めの袋を想像し、時間経過無し、自分限定使用、繰り返し有りと選択して決定する。それでも消費MPは1で済むことも確認しておいた。
パァっと淡い光とともに袋が現れた。今回は厚さ0.2mmと姫様に渡した物の倍で、横20cm縦30cmくらいの四角で、これまた職場でよく見ていた1リットルサイズの袋がちゃんと出来上がっていた。普段と違うのは、熱による圧着用ではないのでチャックが付いている事ぐらいだろう。そしてほんの少しでも厚みが増すと丈夫さにおいてかなり安心できる。
さっそく繰り返し開閉を行い、中にティースプーンを入れて閉じたりと動作確認をする。そして、ティーポットから直接お茶を流し込み袋を閉じてみる。湯気の熱さに悪戦苦闘したが、多少チャックが噛み合っていなくても閉じようとする意思とともに指で引いていくだけですーっと閉まっていく。
「ああ、初めて見たはずの姫様が難なく閉じられたのはこのせいか。
それにしても……閉じたら匂いや魔力(?)を遮断出来るとは書いてあったが、熱も感じないんだなぁ」
まだぬるいわけでもないお茶を入れたのに、袋自体はお茶が入っているという程度には分かるが、存在に違和感を感じる手の感触を残していた。そう、匂いどころか熱をまったく感じない。それどころか重さもよくわからないものになってしまった。
「重さが軽くなるのはありがたい。あとはこれを朝まで放置して味や温度がどうなるか結果待ちだな。次は……」
次はスキル説明にあった最大の袋が1㎥という、その最大の袋を作ってみることにした。縦1m横2mでなるべく魔力を消費するように、時間経過無しの繰り返し使用、そして厚さ5mmで発動させてみる。が、まったく形になる気配が無い。
「何か条件が揃っていないのか?どちらか……まず厚さをさっきと同じ0.2mmでやってみよう」
厚さだけ修正して発動すると、今度はあっさりと出来上がった。さすがに1mともなると大きすぎてちょっと邪魔ではあるが、設定どおりか確認をして考える。
「そういやMP消費は1だったな。これだけ大きくても変わらないと。つまりは厚さか?」
今度は厚さを0.4mmに脳内調整もう一度発動させてみる。消費MPは2。それだけ確認して作成せず、今度は厚さを0.6mmに調整してみる。消費MPは3。さらに0.8mmに調整すれば消費MPは4だ。
これで確定した。厚さを増やすごとにMP1が加算され、先程の5mmとなると消費MPは25。俺の今の残りMPは20だ。だから初めから調整出来なかったってことか。そうなると今の自分の限界厚さは0.2*21(最大MP)で4.2mmってことになる。まぁ食材を入れるだけならそんな分厚い袋は要らないだろう。
だが、今は検証中。出来るだけ色んなことを試しておかなければならないのだ!
「てなわけで、MP15使って3mmの袋を作ってみよう!」
何度か調整していたおかげで即座に発動させる。先程と同じように大きい袋だが、厚さが違うために結構重い。抱え込むように持ったつもりだが、上手く体に力が入らない。そして即座に気付く。
「ああああああ、残りMPが4ってことは1/5も残ってないんだったぁ!
これ、疲労感なんてもんじゃない!月に150時間残業した時よりやばいぃ!」
搾り出すように叫びつつも、作ったビニールの上に倒れこむ。結局朝までそのままの状態で、朝食を持ってきた侍女に、お尻を扉に向けたまま器用に眠る姿を発見される雲雀であった。
いつもは読む立場のみだったので、いざ書いてみると皆さんよくあれだけ設定してそれを上手く文章に作り上げられるものだと、ただただ関心しております。
荒いのも設定不足なのも痛感しておりますが、まずは自分の妄想を楽しめたらと思いつつ、皆様の暇つぶしにでもなれば幸いです。