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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第4章 初めて馬車旅
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馬車とテント

4章開始しました。よろしくお願いします。

 スパーン!



 馬車の中にいい音を響かせ、叩かれた頭をさするヒバリ。






「あの……寝ちゃって魔法が切れたら起こしてとは言ったけど、スリッパで頭を叩く必要はないんじゃないかなー?ていうか、そのスリッパどこから持ってきたの?」



 ヒバリは現在、無意識でもダークミストを維持出来るように訓練中である。御者台に座っていたが、気付くと眠っていたようだ。



「起こしてと言ったのはヒバリお兄ちゃんです。ニアお姉ちゃんにべたーってくっついて寝てたお兄ちゃんが悪いです!あとスリッパはランドセルの中に入ってたのです」


 ぷんぷんと怒ってますよアピールをしつつも、ちゃんと全部答えてくれるあたりが美李ちゃんの人のよさがでている。スリッパで叩かれたけど。



「あ。すみませんニアさん、寄りかかって寝てしまってたみたいですね」


「いえ、お気になさらず。自分なら大丈夫ですから、眠りながらも魔法を維持できるよう続けてください」


「あら。ニアは普段他人に触れられるのを嫌がるのに、ヒバリさんでしたら大丈夫なのね?」


「いえその、決してそのようなことは!」


 姫様……サリスさんがニアさんをからかって遊んでいるが、あまりこの話題を広げて欲しくないなぁ、とそっと溜息をつく俺であった。





 王都を出てから数時間。今は街の側を流れている川を南下して、国のほぼ中央にあるポルネオール山脈を目指している。そこから山脈を迂回して湖と森が広がる脇にあるトルキスという街を経由し、副都市アイリンへ向かっている。

 その後は状況によって北か南の国境を越えて帝国領へ入る予定となっている。おそらく情報収集のためにアイリンで足止めされるだろう、とトニアさんの予想だ。

 親衛隊に撒いたはずの混乱もどうせ長くは続かない。そして俺達が帝国領を目指す事はすぐに予測されるはず。相手側もあとは北か南か、といったところだろう。





 さらに数時間後、そろそろ陽が沈み始めた頃。



「おしりいたぁーい……」 


「わたしも…それと、少し気持ち悪いです……」



 俺は田舎に居た頃ずっと車に乗り続けてたから車酔いはないが、電車が主体だったあの地域では、遠藤姉妹にはきつかったようだ。

 あ、でもお尻が痛いのは同意だな……茣蓙みたいな物はあるけれど、サリスさんもニアもよくあれで平気だなぁ。



 うーん。まだサリスさんとニアさんて呼ぶのに慣れない。呼び間違えると姫様がにこにこしながら何度も言い直させるから怖いよ……しかも俺だけ。





「では、日も暮れますし今日はここで泊まりましょう。川沿いですとイエロークロコダイルが生息している場合もありますので、道を挟んで反対側の木陰に馬車を止めましょう。

 とはいえ、街ごとに討伐隊や冒険者への駆除依頼はずっと行われていますから、そうそういないとは思いますけど、念のためですね」



「ん………ここから500mくらいは周りには何もいないみたいですね」


 ダークミストの範囲を少しの間だけ倍以上に広げ、全員で確認しておく。他の馬車なら2台ほどいたが、俺の鑑定ではどれも普通の運搬と護衛の冒険者だったから大丈夫だろう。



「では今日はそこで休みます。沙里さ…さん達はご飯の準備を、自分は通りかかる馬車の警戒をしておきます。ヒバリさ……さんはこのまま魔法維持をしていただければ、後はお任せします」



 トニアさんもついつい様を付けそうになるのはセーフなんだねキミたち。





 馬車の中では、収納鞄から”生活部屋用袋”を取り出し、沙里ちゃんと美李ちゃんが中に入って晩御飯の準備を始める。中には簡易キッチン・テーブルセット・布団が分けて置かれている。


 中で作れば煙も匂いも出ないし襲われる心配も無い。と言っても欠点もある。まずは縦横1mの大きさの袋口だから、それ以上のものは入らない。つまり、馬車は隠せない。俺達も立ったままでは入れない。

 そして袋内の空気と温度が一定に保たれて便利な分、作った料理の匂いは近づかないと分からない。テーブルに並べて食べている時はそれなりに匂いは分かるが、それでも幾分弱くなってしまう。

 最後は、袋に入ってから閉じてしまうと、ダークミストは袋から外へは広がらない。気配察知がまったく効かなくなってしまうのだ。これは危険なので、寝る時は袋を閉じないでおこうと言う事になった。



 もっとも、馬車が入らない時点で必ず見張り番がいるわけで。そこはトニアさんがやると言って譲らなかった。確かに経験ない素人が見張りをしてもってのはあるが、俺なら起きていられれば気配察知使えるから、何か来てもすぐに起こせるんじゃ?という意見を出してみた。


 結局は2人で交代、但し俺は相変わらず寝てても魔法を継続出来るように訓練しながら、ということになった。起こされるの前提なので、トニアさんの方が時間長めにするらしい。なら、その分昼間の御者は俺が長く受け持ってみようかな!




「晩御飯できましたよ〜」


 トニアさんと見張り番の話をしている間に準備が出来たらしい。料理を取りに行ったら、姫様がせっせとテーブルに運んでいた。

 さすがに料理の経験がないからこういうお手伝いなら、と美李ちゃんに聞きながらぱたぱた動いていた。

 あと、姫様には照明としての光球をテント内に浮かべてもらっている。馬車の方はランプを使っているが、テント内なら他人を気にする必要がないから使っていく事になったのだ。

 


 あとで証明用の光属性の魔石が用意できたらいいのになぁ。身バレが怖くて外では使えないし。でも、姫様にはそんな作業も楽しそうなんだよね。今は無粋な事は言わないでおこう。



 テーブルセットは袋口の側にあり、外にも小さいテーブル(というかちゃぶ台)を出して、そこで俺とトニアさんが食べる事になっている。

 テント用の収納袋は四角い立方体で作ってあるので、そのまま自立するのだ。そうすればわざわざ這い出るような形にならないし、片付ける時は閉じて丸めて収納鞄に仕舞うだけ。


 暖簾のような袋口を上にたくし上げ、そこからちゃぶ台を出して料理を並べていく。収納袋の中のほうでも座椅子と低いテーブルに3人が座り、俺達の準備が終わるのを待っていた。


 あ、ちなみにテントの中は土足厳禁!入り口側に靴を並べてある。いざという時はちょっと大変かもだけど、やっぱり靴が脱げるスペースは欲しい!





「いただきます!」


 姫様とトニアさんもこの風習に慣れた様で、俺達と一緒に唱和してから食べ始めた。今日はどうやら中華でまとめたらしい。ラーメン、餃子、酢豚がメイン。 それと、炒飯は出来ないからこの間教えた中華まんの皮と一緒のパオがある。




「やはりこのらあめんは美味しいですね。まだ箸に慣れていないので大変ですが、このお肉とスープと相まって素晴らしいです!」


 姫様はラーメンが好きになったようだ。そういやうどんも気に入って城に持ち帰ってったっけ。蕎麦の実が見付かったら是非蕎麦も食べてもらいたいね!


「はい。このぱおとやらも柔らかくてほんのり甘みがあって美味しいです」


 すでに箸はマスターしたトニアさん。パオの生地の柔らかさが珍しいようだ。もっとも、2人ともまだすするという事は出来ないが。




「ふう、ごちそうさまでした。美味しかったよ」


「はい、お粗末様です」


 素直に美味しかったと伝えると、嬉しそうな顔で返事してくれる沙里ちゃん。あたしも手伝った!と洗い物である食器を受け取りに来た美李ちゃんが勢いよくテント袋から飛び出してくる。



 美李ちゃんの頭を撫でつつお礼を言い、一緒に食器やテーブルを片付けた。中に入ったついでにテント袋内で簡易浴室用収納袋を出し、お湯を溜めておく。浴室は周りを水色で統一させた模様になっている。勿論俺でも中は覗けないからね!


 床に排水が溜まるという問題は、床が斜めになっていて、その先に横長の収納袋を設置してある。あとで全員の入浴が終わったら、この排水用袋と運搬用の浴槽ぴったりサイズの収納袋に入れて、外へ水というかお湯を捨てるのだ。

 浴室の湿気は沙里ちゃんの生活系創作魔法ドライヤーで乾かすか、美李ちゃんの水操作で排水袋に集めて捨てるか、その時によって出来る方にお願いしてある。



 属性の合う魔石の補充も2人に頼りっきりになっちゃうんだけどね。俺に合う闇の魔石なんて聞いた事ないって言ってたし。唯一当てはまるかもしれないのが召喚宝珠くらいだろう、と。

 


 ……うん、わかってた。俺は袋を頑張るよ。





 そんなわけで、入浴順は遠藤姉妹が最後になってそのまま片付けを受け持ってくれる事になった。そうすると必然と俺が一番最初になるから、お湯を張るのは俺の当番というわけだ。



 簡易浴室の入口前に衝立を設置して、ここが脱衣所代わりになる。すべて準備が終わってから脱いだ服をかごに入れていざ浴室へ……




「ヒバリお兄ちゃん、今日はいっしょでもいいよね!」


「きゃー!」


 美李ちゃんが待ってましたとばかりに衝立の内側へ飛び込んできた。そして俺と美李ちゃんの声を聞いた沙里ちゃんが慌てて止めに来る。


「きゃー!!」


「ご、ごめんなさい!すぐに美李を連れて行きますから!」



 ……こういうお約束って普通男女逆じゃないかな!?いや勿論俺はそんな事やる気はないけどさ!もうさっさと風呂終わらせよう!






 入浴を済ませ、外というか馬車にいるトニアさんと交代しに出る。



「先程少しの間魔法が途切れましたね」


「ちょっと美李ちゃんに驚かされて…すみません」


「いえ。すぐに気付いてかけ直したのですから、徐々によくなっていますよ。あとは寝てからですね。こちらは時間をかけるしかないでしょう」



 もしかして褒められたのかな?と思いつつ、入浴へ行ったトニアさんと交代して見張り番をしながら袋作製をする事にした。




 まずは浴室と同じように縦横1mの箱型収納袋を作る。中の広さは浴室よりちょっとだけ狭い感じだ。以前女子用に衝立でトイレを囲う予定だったが、こちらなら個室になるので作ってみた。

 すぐに沙里ちゃんに説明し、中にトイレ器具を入れてテント奥に置いてもらう。これで態々外に出なくても済むから安心だ。男用は外でいいや。




 次は、馬車の中でのクッション代わりの袋を作る。こちらはただの四角い収納機能を付けていない袋だ。これに少し空気を入れて閉じれば、攻撃さえしなければ壊れないクッションの完成だ。

 あとは形を御者台用に横長、馬車内用にただの四角、ついでに枕用も作ってみた。袋の枕だからふかふかとはいかないが、それでもクッションとして考えれば悪くはないかな?



 風呂上りの美李ちゃんに試してもらったら、クッションとして遊んだ後に布団を上に敷いてウォーターベッドのように使っていた。


 そうか、美李ちゃんの丈だとギリギリそうやって使えるのか。他の人だと2個ないと無理だなぁ。1mじゃ小さすぎるからしょうがない。





 そんなことをしているうちにトニアさんが戻ってきて、見張り以外全員寝る事となった。今日は初めての外泊なので、テント袋の入り口は少し開けてある。そしてトニアさんは御者台で見張りを、おれは馬車内の開いたスペースでクッションを敷いて先に寝る事に。



「魔法は切れてもいいですから、まずは疲れを癒してください」


「なるべく頑張りますが、よろしくお願いします」




 皆とおやすみの挨拶を交わし、俺もすぐに眠りに落ちていった。


 勿論すぐにダークミストは途切れてしまったが。









「ヒバリさん、起きてください」



 どれくらいの時間寝ていたか分からないがトニアさんに起こされ、交代の時間かな?とのんびりとダークミストをかけ直してすぐに気付く。



「…やはり。おそらくゴブリンですね。数は3体。このままですとこちらにすぐ到達するでしょう。先に潰しましょう」





 そして、この世界に来て初めての魔物との戦闘が開始される。







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