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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第3章 濡れ衣と第一王女
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国王の家庭の事情と旅の始まり

「そうですか。そのような者が隊長を……」




 馬車を走らせた後に気配察知で周りを確認するが特に異常は無かったので、姫様たち3人を収納袋から出して報告していた。



「まぁ……あれで勇者って名乗らせる第一王女はほんと信用なりませんね。そもそもなんで国王は黙ってるんです?普通なら真っ先にその王女は国家反逆でしょ?」


 城の現状に嘆く姫様に追い討ちのようで申し訳ないが、これを聞いておかなければ納得できそうに無い。


「その件につきましては、憶測も交えての話となってしまうことを踏まえてお話いたします」




 現シルベスタ国王であるデービットと第一王妃であるキャロラインは恋愛結婚であった。当時キャロラインは下級貴族の出身で、城内に宮仕えで過ごしていた。

 その後キャロラインに惚れた国王からの猛烈なアタックで、周りの臣下を説得し認めさせたという。当時は街でも物語にされたりと国民から祝福されていた。

 しばらくして第一王女が産まれたが、跡継ぎである男児を望む声に悩まされつつも国内視察などの公務もこなしていた。元より名声も無い家から嫁いだため、特にこういった公務を精力的に行っていった。


 しかしある時、公務中の王妃の一団が魔物に襲われた。幸い命に別状は無かったものの、腹部に傷を負った王妃は子供が産めない体になってしまったのだ。

 まだ跡継ぎが産まれていない事に焦った臣下の者達は、遠い親筋でもあるノロワール帝国より、現皇帝の妹に当たるレイチェルを迎え入れるよう国王を説得した。


 以前自分も押し切ったが、世継ぎがいない現状は王家を継ぐものとしての責務であると認め、レイチェルを第二王妃として迎え入れた。

 そして1年も経たずに懐妊し、見事第一王子であるウェストムを産んだのである。国王も大層喜んでレイチェルを労い、また夫に答える事ができたレイチェルも安堵した。



 ここでレイチェルらを良く思わない人物がいた。第一王妃であるキャロラインだ。彼女は嫉妬し、娘である第一王女のスロウスティに厳しく教育を施した。せめて個人の能力だけでも第一王子に勝るようにと。


 さらに2年後レイチェルは第二王女であるノーザリスを産んだ。そしてその者こそが希少である光の適合者であったのだ。

 スロウスティとて4元素である火・水・風・土すべての適合者という素晴らしい才能を持っていたが、初代勇者と同じ光は同じ血筋である王家としても是非とも欲しかった人材だったのだ。


 これにより跡継ぎも光の適合者という強力なカードもすべてレイチェルの功績として臣下に喜ばれた。キャロラインの立場はさらに苦しいものへと変わってしまった。

 勿論デービット国王は変わらず2人を愛した。そして、愛するが故にキャロラインの焦燥に胸を痛めていた。状況を変えようと試みるも、やはりレイチェルの子らにいやがうえにも注目が集まってしまう。


 そうした環境で育った第一王女のスロウスティは2人の事が嫌いだった。何をやっても比べられ、挙句自分よりよい結果を残す。そして母には会うたびに怒号で迎えられた。



 この頃とある宗教が少しずつ信者を増やしていた。それは人族こそ神の御使いであり、邪悪な魔族とその眷属である魔物、そして魔族から派生した亜人達を排除せねば世界は闇に染まるといった教えであった。

 その宗教の名を「天人教」という。崇める神も教祖と呼ばれる存在も一切不明だが、一部貴族にも浸透し亜人迫害にも繋がってしまった。

 この事態に憂いた国王は、亜人迫害を罪とする宣言をし、実際に危害を加えたものには相応の罰を与えた。国が毅然とした態度で平等を示したことで天人教は鳴りを潜めた。


 しかし、魔物に人生を狂わされたキャロラインと、その事で自身の立場が現状に繋がったと教え込まれたスロウスティは天人教を捨てなかったと言われている。

 そして一部貴族らもそれに従い、さらには貴族内での信者も増やしていった。もっとも、信者のフリをして儲け話として協力している者もいるらしい。


 この頃、奴隷として手酷い仕打ちを受けていたトニアと出会った第二王女が亜人を自分の専属付きとして引き取った。街では美談として伝えられ、王宮では苦々しく思う者もいたが、表面上は大人しくしていたそうだ。


 その後、名目は魔物討伐を主体とした第一王女親衛隊の結成、発言力のある一部貴族らが派閥を作りスロウスティへ。討伐に向かったのは数度で、ほぼ城内で動いていたそうだ。時間が経つにつれ、彼女はその者たちの中心人物としての地位を築いていた。 



 幾度と無くキャロラインとの話し合いを重ねてきたデービットは、愛する者との敵対態勢になる事を避けるために尽力し続けた。しかし、魔族や魔物を滅ぼさねば自分らが滅びる番だと、亜人もその眷属だと話し合いは平行線であったという。

 そして依然として減らない魔物被害を危険視する貴族らに説得され、ついには勇者召喚を行う事になったのである。勿論召喚を行うのは光の適合者であるノーザリスだ。


 

 勇者召喚に成功した事を知った貴族らは、一部を除いて戦闘スキルを持つ勇者の取り合いを始めた。好条件を持ちかけたり褒め称えて懐柔したりと行動は早かった。

 異世界から無理矢理に召喚した手前、勇者個人の意思を尊重する以外なく、キャロラインとスロウスティ以外の出遅れた王家は半数を手放す事となった。


 結果、数日後には3名もの勇者が死亡した。さらに非戦闘スキル持ちの勇者らも狙う者が現れ、王家としてすぐに保護に動いた。ノーザリス姫と侍女トニアに危険が及ぶ事も懸念され、城外へ出す意味も含めて2人が向かうこととなった。この後はヒバリ達も知っての通りである。



 そして現在も国王はキャロラインを愛し、どうにかして心を戻してくれないかと諦めずに方法を探している。そんな国王に、剣の腕が立つ第一王子を後継者として、また護衛として側に置くことになった。




「なるほど。国王が手を出せない理由は分かりました。国民全員を巻き込んでいるのはまぁ、どうかとは思いますが」


「そうですね。本来であれば国王としては失格なのかもしれません。ですが、母上も含めて私達は救えるのであれば救いたいと願ってしまったのです」


 王家でなければ、ただ家族との絆を取り戻したい美談で終わるんだろうけど、巻き込まれた方としては複雑だなぁ。


「それで結局わたし達が狙われるのは、その第一王女はわたし達を捕まえて、ノーザリス姫様や第一王妃を貶めたいという事ですか」

 

 沙里ちゃんもちょっと納得がいってない様子だ。美李ちゃんは安心したからか沙里ちゃんの膝枕で寝てしまっている。


「はい。誠に申し訳ございません」


「それで帝国に行く理由は助けを求めるって話でしたが、実際にはどうなるんですか?その理由だと単に武力を求めるってわけじゃないんですよね?」


「現状ですとキャロライン母上とスロウスティ姉上が権力を握っている可能性がありますので、まずは武力による制圧になってしまうと思われます。ですが、なるべく戦闘は避けられるようにと。

 そして制圧完了された後に、父上は2人の母上と共に国の中心から引退します。そのまま兄上が王位継承し、スロウスティ姉上は正式に継承権剥奪となり権力を全て奪う予定です」


「でもそれまでの間国王とお母さんは無事でいられるの?一緒に逃げちゃった方がよかったんじゃ」


「いえ、寧ろ残る事が唯一の抑止力になるのです。特に母上は現皇帝の妹、つまり母上に何かあれば帝国は一気に攻めてくるのでは?と」



 話によると、作物や漁の盛んなシルベスタ王国は農業大国であり、対する帝国は魔石加工や武具の開発、ガラス等の知識発展が目覚しい技術大国であるらしい。当然武力も帝国の方が上である。



「まぁ国の方は国王や騎士団の皆さんに頑張ってもらうしかないってことか。今日襲ってきたあの偽勇者には、内部に密告者がいていつ刺されてもおかしくない、とデマを言っておいたからしばらく忙しいんじゃないかな?本当はただの鑑定スキルなのにね」


「ヒバリさん、意外とえげつない攻撃をするんですね……」


 あ。沙里ちゃんがちょっと引いてる。組織を混乱させるには裏切り者がいるっていう疑心暗鬼が一番効果的だし。特にあのバカは信じたと思う。そしてトニアさんはもっとやれといった顔だ。

 ただ、あいつらが逃げ帰った後お礼を言われたから、少しはすっきりしたのかもしれない。本当なら自分の手で始末したかったくらい怒りを抑えるのに必死だったと言っていたし。



 話もあらかた終わり、途中から敬語でなかったことに気付いて姫様に謝ったが、これから共に旅をする中で素性がバレないためにもそのままでとお願いされてしまった。俺としても楽だから助かるけどね。




 しばらく走り続けるともうすぐ南の検問所らしいので、また3人には収納袋へと避難しててもらう。どうせあいつらに2人でいる所は見られてるわけだから、そのままの姿で門を抜けた方がいいだろう、というわけだ。俺も髪を金色に変装しておく。



「次!えー、お前達の身分証を出してくれ」


「はい。仕入れついでに冒険者もやっているので、冒険者ギルドのカードになりますがいいですか?」


「うむ、十分だ。それと馬車の中を検めさせてもらうがいいかな?」


「はい勿論です。あ、商品に傷だけはつけないでくださいね」


「なに、わかっているよ。おい!」


 兵士が声を掛けると、もう一人が馬車の中を調べる。といっても人が入れそうな大きい荷物しか調べないようだ。


「この作物をどこかへ運ぶのかな?」


「はい、これは村に持ち帰って売る予定です」


 馬車の中は作物をわざと木箱に入れたものをいくつか収納袋から出して積んである。他にも生活雑貨や布なども置き、3人の隠れている収納袋は布と一緒に置いてある。皮の生地に似た模様にしてあるためだ。



「こちらの女性も冒険者か。2人ともその村に?行き先も書かねばならんのでね」


 するとトニアさんがそっと俺の手を握り、寄り添う。


「私達は村を出てここで暮らしていましたが、この度結婚して村に帰って商売を始めよう、と言う事になりまして。場所はトルキスの街より西の村ペニーロです」


「おお、そいつはめでたいな!しっかり家族を養ってやるんだぞ!」


 バンバンと俺の肩を叩く兵士。そして真面目な顔になり、


「今は主街道以外は魔物の被害が多い。南から出たと言う事は直接南下するのだろうが、ここはあえて西のネルフェン村を経由した方がいいと思うぞ」


「ご忠告ありがとうございます。そうですね、急ぐ旅でもありませんし西から回って行こうと思います」


「うむ、では気をつけてな!」




 検問を終え、忠告通りに初めは西に向かって馬車を出した。気配察知で周囲を窺うが、特に追手はないようだった。そして途中から南に進路を変え、少し道は悪いが山脈方面へと向かう。


 収納袋から3人を出し、検問時の報告をする。


「……トニアさんと夫婦、ですか」


 え?ちょっとなんで沙里ちゃんちょっと怖いの?それに夫婦と言っても検問を抜けるためのフリだし。いや、美李ちゃんも無言で見るのやめて!?

 トニアさんに助けを求めようとしたら、馬車を出しますと言って御者台へ逃げてしまった。もうちょっと助けてからでもいいんじゃないかな!




 クスクスと笑う姫様と、胡坐を組んで座る俺の上を陣取る美李ちゃん、まだ納得がいっていないような沙里ちゃん、関わらないように無言を貫くトニアさん。




 こうして、この4人との旅は今日から始まった。



これで第3章終わりです。


説明文だらけな話になってしまった...


次は登場人物のメモを挟んでから4章開始となります。

よろしくお願いします。

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