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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第3章 濡れ衣と第一王女
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出発と追手

「草野の事は考えず、俺達はすぐにこの国を出た方がいい、と」



 源さんの手紙には書いてあった。





 しかし、俺達が捕まえた後何もフォローしていないからすぐに処刑が決まったのか?しかも2人の女性を強姦し殺害した罪とあるが、そんな事はないと言っていた。もし俺が証人として名乗り出ても、絶対巻き込まれるから、そんなの絶対ごめんだしなぁ。侍女を強姦したのは事実だって言うし。

 そもそも魔族と繋がりのある証拠ってのも怪しすぎる。姫様も今の城内は国王と騎士団以外誰が信用できるか判断つかないそうだし、姫様だって国王と一緒に行動しているはずの母親の事が心配なはずだ。



「ヒバリ様、サリ様、ミリ様。急ぎましょう。御者の話では、すでにお三方の人相を聞き込みで掴んでいる可能性があるそうです。ここはカモフラージュで変装しておいた方がよろしいかと」


 外から戻ってきたトニアさんがそう言いつつ荷物を詰め始める。


「姫様は心配じゃないんですか?両親の危機でもあるわけですし」


「心配ではありますが、今私が行っても逆に弱みにしかなりません。それに、母上から帝国に助けを求めなさいと言われたのですよ。まずはその使命を果たし、その上で力になりたいのです」


「……わかりました。じゃあ2人とも、髪の色を変えるだけでも違うと思うから、そこだけ先に済ませて、荷物をどんどん詰めていこう!」




 調理器具や浴槽、残りの荷物も全て詰め込んでから二重構造の収納鞄に入れ、お金やちょっとした食材、衣類は各自の肩掛け鞄にも入れておく。 鎧と武器は装備せず盾だけそばに置いておく。その盾の内側のポケットに武器や鎧などが入っている。見た目は出稼ぎに来た村人が帰る、といった姿にしてあるが、これでいつでも武器を取り出せる。


 御者さんは遠回りしてまた城に戻るという話だったので、緊急避難用に皮の生地にカモフラージュしてある収納袋を渡しておいた。これには源さんと旦那様のみに開閉権限を付けておいたから、いざとなったらこの中に入ってやりすごして欲しい、と言伝をつけて。

 20人以上は入るから、一部隊程度ならなんとかなるだろう。何も無いといいんだけど。




 それからすぐに用意してもらった馬車に乗って出発した。


 王都は街に対して北側にあるため、街を出るためには北以外3箇所の検問のどれかを受けて門をくぐる必要がある。勿論馬車の中も検められるわけで。

 まずはこの東側にあるニング卿の領地から直で東に向かうとすぐに足が着く可能性があるので、あえて南門から出る事になった。


 一行が目指すノロワール帝国は大陸西側のシルベスタ王国の逆である東側だ。しかも両国の間には北南に広がる蛇の道と呼ばれる険しい山脈があるため、北か南の端から通り抜けるしかない。

 その両端は国境でもあるので、両国とも関所として街を建造している。そこでまずはどちらから国境を越えるか、馬車の中で相談することにした。



「まずは南から出て、しばらくしてから東に進路を変えて最短距離で国境を目指しましょう。追っ手を振り切って越境出来ればよしとし、障害があるようでしたら南側からの越境を考えましょう」


 この世界の地理には詳しくないから、ここは姫様とトニアさんに任せるしかない。この国は王都付近はちょっとした林はいくつもあるが、基本は平原だそうで、国の中央に山と湖と森があるからそこの木々を利用しつつ進む方がいいだろう、と。

 魔物が出る恐れが十分あるが、まさか野宿ばかりとは思わないだろうから途中にある村の宿を使って足が着くよりいいだろう。まずはルートを絞らせないってことだな。


「それと、お三方の名前は知られておりませんので呼び方はそのままでも結構です。私達は以前決めたようにサリスとニアでお願いいたしますね。サリ様と近い名前になってしまいますが、もしもの時は姉妹という事にしてもいいかもしれませんね。

 検問の時は数人が収納袋に隠れて人数を変えておいたほうがいいでしょう。おそらく5人で行動することは知られていると考えましょう」



 銀から金色に変わった(俺達には変わって見えてないが)髪を三つ編みにしている姫様が説明してくれた。まぁ全員金色に変装してあるんだが。




「……後ろから早馬が3頭駆けてきますね」


 気配察知に引っかかった情報を御者をしていたトニアさんが馬車内に伝える。皆もその情報を意識共有し、緊張した面持ちで確認した。


「姫様と美李ちゃんと沙里ちゃんは収納袋に隠れててくれ。俺とトニアさんで御者台で対応したい。一緒に行動してなければ、別のルートも探すはずだ。もし30分以上反応がなかったら、少しだけ袋を開けて様子を見て、俺達がいなかったらこっそり逃げて欲しい」



 そう言いつつ俺だけ髪の変装を解除し、嫌がる3人を収納袋に避難させた。俺とトニアさんだけになってから残りの情報を伝えるため話し出す。


「すみません、勝手に話を進めちゃって」


「いえ、良い判断だと思います」


「さっき馬上の人物を鑑定しました。召喚された奴が1人先頭にいます」



鑑定結果は、



山内 清史 23歳

状態:良好

▼      

HP:34/34   

MP:33/33 

STR:28

DEF:17

INT:11

DEX:9

固有スキル:魔法剣士(マジカルエンチャント)

火・水・風・土のいずれかを装備に付与する事ができる。

武器に使用すれば属性魔法の斬撃を飛ばせ、鎧に付与すれば属性魔法の障壁を出す事が出来る。威力は付与時の消費MPに比例する。

所属:第一王女親衛隊隊長

犯罪歴:殺人(亜人)、強姦



 ステータスはかなりひどい。源さんの半分以下だった。召喚勇者は成長率が高いはずなのにこれということは、攻撃を当てた事がある程度だと想像が付く。



 問題は最後の2つだ。こんな奴が親衛隊隊長?こんな犯罪歴持ちで?



 これを聞いたトニアさんが顔を顰めるが、伝えておかなければ危ないから仕方ない。今は俺だけ変装を解いているが、何かの拍子でトニアさんの変装も解けてしまったらと思うと、知っておいた方がいいだろうし。


 今のトニアさんは皮鎧に短剣を装備した状態だ。姫様と共に皮鎧がいいと言い、勿論例の袋装着で底上げはしてある。盾は用意してあるが、今回は使わないようだ。

 頭は全員お揃いの白いバンダナ風に模様をつけた袋を渡してある。これは下手な重い兜よりも丈夫でトニアさんも気に入ってくれた。


 俺は盾表面のがま口に取りつけてある収納袋を開いて固定して、準備をしておく。そして後ろから来る馬が残り10mほどまで近づいた時、声が聞こえた。




「そこの馬車、止まれ!俺は第一王女親衛隊隊長のセージだ!お前らの馬車、中を見せろ!俺は勇者だ。抵抗したらどうなるか分かってるだろうな?」


(……ああ、こいつは頭が悪そうな奴が来たなぁ)



 馬車を止めて返事をしようとするが、3人は勝手に馬車の中を調べ始めた。

呆れつつも後ろに回って声を掛ける。



「何か用かな?人の荷物勝手に触るな、さては強盗団だな?」


「親衛隊だと言っただろう!……お前、やっぱり日本人か!ちょっと来い、城に連行する!」


「だから何か用か?って言っただろ。勝手に人の荷物を漁る奴に、理由も無く連れて行かれるのはごめんだね。大学生にもなってそんな事も学んでこなかったの?どんな家庭だったのかねぇ」


「ッ!今の俺は勇者だ!国が後ろにいるんだぞ!?」


「じゃあ権力者らしい民を労わる態度は出来ないんですかね?山内くん」


「なんで名前を知ってる!?おい、捕らえろ!」



 馬車の中にいた2人が降りてきて捕まえようとするが、トニアさんによって軽くあしらわれてたたらを踏む。俺も盾だけは装備してるが、STR上がってないから、情けないけど助かりますほんと。



「最近物騒だからボディガード雇っておいて正解だったな。怖いなぁ」


 トニアさんの存在は雇った事にしておこうと事前に話し合っていたのだ。


「で、ほんとに何しにきたの?山内くん」


「今は勇者セージ隊長だ!お前には魔族との繋がりの証拠がある。だから捕まえて処罰されるんだよ!」


「じゃあその証拠みせてよ。あるんでしょ?もし現物がなくてもどういったものかは説明できるでしょ?」


「それは城に行ってからだ!他の奴らはどうした!?」


 わざと挑発してはいるけど、こいつほんと沸点低いなぁ。まともに話をしようとしたとしても、初めから無理だっただろう。


「その前に、どうしてお前の名前を知ってるか知りたくないか?」


 ピクッと体を一瞬硬直させて黙るセージ。後ろに下がった隊員2人は口も挟めずどうしたものか戸惑っている。



「お前、この国に来てもう罪を犯したんだな。しかも亜人殺しだ。最初は魔物と間違えて殺したらしいが、その後も貧困区画でさらに2人も。1人は女性で強姦してから殺したんだってな?お前のその行動は本当に勇者なのか?亜人なら殺していいと第一王女に言われたのか?」


 実はこれも鑑定から情報は得られていたが、トニアさんにはまだ話していなかった。だから今隣からの殺気が怖い!黙っててすみません!!



「な、なんでそれを知ってる!?……あ、いや!これは亜人が先に罪を犯したから処罰しただけだ!俺は悪くない!」


「そうやて第一王女に唆されていい気になっちゃったの?」


「違う……俺は勇者だから許されるんだ!」


 そう言って剣を抜いた。隊員たちはどうしたらいいか分からず剣の柄に手を掛けたまま動かない。


「そうやって都合が悪くなれば殺すのか。酷い勇者もいたもんだ。この情報はな、お前を勇者だと認められない人達からの密告だよ。お前の所も一枚岩とはいかないってわけだ。いつかそいつらに殺されるだろうな」



 俺の言葉にバッと後ろを振り返り2人の隊員を睨む。ブンブンと首を横に振って柄から手を放すとさらに後ずさった。



「もういい。お前は殺してでも連れて行く。何の戦闘力も持たないお前なんて怖くないんだよ!エンチャントファイヤ!」


 剣を掲げ、スキル名を叫ぶ。



 ……え?戦闘中なのに技名言わないと発動できないの?と、横のトニアさんを見たが、彼女も呆れていた。そりゃあ次に何やるか言ってたらバレバレだろう。



「これでお前は燃えて死ぬんだよ!そら!」


 火を纏った剣を横薙ぎに振り、斬撃を火球として飛ばしてくる。俺は落ち着いて盾を構え、表面で受け止めて吸収する。ちゃんと訓練もしてたから問題なかった。


「……何かしたか?熱くないんだが。って、お前1発撃っただけでエンチャント消えてんじゃん!さすがマジカル(魔法のような)、しょぼ…」


 たった一振りでただの剣に戻ったセージのスキル。一切訓練をしてこなかったであろう剣の振り方。スキルの方も全然鍛えてないのが丸分かりすぎだわ。


「お前、なにしたんだよ!?」


 自分の攻撃が何事も無かったように消え失せた事に動揺し、手に持つ剣が震えだした。また剣を掲げて、


「エンチャントウィン…ぐぁっ!?」


 最後まで言い終わる前に、トニアさんがナイフを投げてセージの右腕に刺していた。呻きつつ剣を落とし、しゃがみ込む。


「態々最後まで言わせるわけがないでしょう?」


 手に持つ投げナイフをカチャリと言わせてわざと構える。それだけでセージは怯えて隊員の後ろへと逃げた。


「なぁ、お前属性付けられるのに属性魔法自体は何一つ使えないんだってな?それでこの後どうやって俺達に勝つんだ?」


 顔を真っ赤にしてぷるぷると震えだした。どうやら図星らしい。これに関してはトニアさんが奴のステータスを聞いて、属性の適合者という項目がない事から予想していたのだ。


「お、お前ら、あいつを殺せ!俺が危ないんだ、守れよ!」


「…え?ええっ!?」


 2人に怒鳴り散らして、本人は馬に乗って逃げるらしい。が、馬に乗ったところでトニアさんが馬の尻目掛けて投擲し、驚いた馬が言う事も聞かずどこかへと走り去って行く。残された2人は、どうしたらいいかおろおろするばかりだ。


「襲って来ないならこちらからは何もしません。あいつと違って人殺しじゃないですから。どうぞ隊長さん、あのなんちゃって勇者を追いかけてください」


「は、はぁ。そ、そういうことでしたら、失礼します!」


 そう言って頭を下げてから馬に乗って走り去っていった。あの部下達はまだ第一王女の影響下にない末端の隊員だったのかもしれない。試しにあいつを馬鹿にした発言をしたが、特に怒りのようなものが見えなかった。まだ全部が腐ってはいないということかね。




「……さて、移動しますか」


「そうですね。中で心配されていることでしょうし、まずは馬車を走らせて街を出ましょう」



 そうして馬車は、また南門へと向けて走り出した。



盾のイメージは某ビルドなファイターの、溜め込めないアブソーブをイメージしております。盾の開閉は手動ですが。

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