表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第3章 濡れ衣と第一王女
25/156

闇の霧と準備完了

 月明かりが照らす夜の庭で一人、魔法に意識を集中させる。




 ブラックミストは、周囲に闇の適合者にしか感知出来ない霧を発生させる。霧の濃度によって、気配察知・音の遮断・目眩ましの効果がある。


 

 その特性を思い出し、心の中で魔法を発動させる。




(ダークミスト)



 すると、自分の周囲が少し暗くなり、意識して魔法を広げるとさらに広範囲での発動を感じる。


「なんか、草野が使ってたのは煙みたいに靄がかかってて見づらかったけど、俺のはただ明るさが落ちた感じだなぁ。何が違うんだろう……」



 もう一度自分の魔法を鑑定しなおしてみる。 



魔法名「ダークミスト」

→周囲に闇の適合者にしか感知出来ない空間を発生させる。

 気配察知が常に発動し、更に範囲に入る者の方向感覚阻害・音の遮断・

 目眩ましの効果を指定して発動できる。



 ……ん?あれ?草野って奴のはブラックミストだったよな。俺間違えてダークミストって言ってた?しかも内容は亜種互換じゃないか?闇魔法なのだからブラックよりダークの方が当てはまるはずだから、正式な魔法はこちらなのかもしれない。

 唯一違うのは、ブラックミストみたいに視界から姿を消せるわけじゃないのか。でもそれはカモフラージュを使えばカバー出来る程度だな。


 方向感覚を狂わせて近づけなければ人払いみたいに使えるかもしれない。気配察知で索敵、音の遮断で会話や移動も悟られないかな?どのレベルまで消せるのかも問題か。

 目眩ましはどうなるんだろう?ちょっと発動してみたら、一瞬だけ周りの暗さが増したのは分かったが、自分で試せないから分からないぞこりゃ。



「やっぱりトニアさんにお願いしときゃよかったかねぇ」


 そう呟いた瞬間、2階の屋根に人が出てくる気配を感じた。そしてそれがトニアさんであると認識出来る。なるほど、これが気配察知か。


「トニアさん、まだ起きてたんですね」


 振り返りつつそう言うと、少し驚いた顔をしていたが、試していた魔法を考えて納得したように庭に飛び降りてきた。これ、ちょっとした表情なら読み取れるのか。


「ヒバリ様、今ブラックミストを使われているのですね。あの者が使っていたものと少々異なるようですが……」


 魔法を使っているのに姿も声も確認出来た事に疑問があったようで、すぐに確認してくる。そういやトニアさんにもブラックミストの説明してあったな。



 もうこうなったら素直に検証の手伝いをお願いし、目眩ましと音の遮断、そして方向感覚阻害を体験してもらうことにした。


「まずは音の遮断をします。俺の声が聴こえたら手をあげてください」


「わかりました」


 ダークミストに音の遮断を意識して、声を出してみる。


「トニアさん、聞こえますか?」


「……」


「おーーーーい!トニアさーーーーーーーん!」


 地面をダンダン踏み鳴らしながら大声で呼んでみる。


「………」


 音の遮断をやめ、小声で話す。


「…聞こえます?」


「はい、今は聴こえています。ですが先程はあんなに激しく動いていたのに、こちらにはまったく聴こえませんでした。この近距離でというのは驚きです」


「問題なく遮断されましたか。今度はカモフラージュの時のように、影響を受けない印を付けさせてもらって、もう1回お願いします」


 以前のカモフラージュと同じように感覚を共有する印を付け、音の遮断を発動してから小声で話す。


「どうでしょう?」


「はい、聴こえています。なるほど、こちらも早めにここにいる全員に印をしておいた方がよいですね」




 その後は目眩ましを試し、結果は意識が無くなる寸前のような視界が暗くなるような感覚がするとの事で、短い時間ではあるが隙を作るには十分との事。

 方向感覚阻害は、真っ直ぐ地面に引いた線の上の先にいる俺目指して歩いてもらったら、まったく辿り着けなかった。方向感覚を戻してから地面を見てもらうと、そういった感覚に自信のあったトニアさんだけにこちらは心底驚いていた。


 ちなみに魔力消費は、ただダークミストを使うだけなら5分で1P程度で、これなら自然回復量の方が上回っているからまったく問題ない。

 但し、常時発動になる気配察知を除く3種は10〜50P程度消費する。特に目眩ましは少しの時間しか発動しないのに50P消費だ。これは魔力総量が多くないと切り札以外で使えないだろう。魔力多くてよかった。


 


 検証が終わった後、付き合ってくれたトニアさんにホットミルクを作って一緒に飲んでから、今度こそ寝る事にした。

 その時トニアさんに言われた「寝ながらでも発動出来るように練習してください」との言葉に試しにやってみたが、朝起きたら「すぐに途切れました」っていうトニアさんからのダメ出しを食らったのだった。


 俺、プロのハンターじゃないからすぐに出来るわけないじゃん!




 朝の挨拶と皆で朝ご飯の後、夕べ試した魔法の事を全員に説明した。美李ちゃんがちょっと心配だったが、草野の名前が出た時はちょっと沙里ちゃんの腕に抱きついていたけど、みんなで共有して試す時には

効果を楽しんでいた。特に音遮断の大声担当を。

 全員に共有の印が付いたのを確認して、俺は生活しながらもダークミストを途切らせない練習をしていた。範囲の方は100mくらいはあるんじゃないかな?っていう感覚が伝わる。

 これ以上広げる事も出来るが、魔力消費が上がったのでとりあえず消費MP1の範囲で留めている。



 その後は畑作業に行った(といってもすぐ見える範囲にいるけど)隙に、生物が収納袋に入ったままで破壊されても無傷だと証明するために、初めは蝶を捕まえて実験し、次は俺自身が入って実証してみせた。

 さすがに絶対に安全だと分かってからじゃないと美李ちゃんには見せられないでしょ。これ以上ショックを与えるわけにはいかない!


 ちなみに攻撃魔法はトニアさんに撃ってもらった。沙里ちゃんも怖くて出来なかったためだ。沙里ちゃんも遠ざけておくべきだったか。失敗したわ。



 相変わらず訓練は逃げてしまう美李ちゃん。それを誰か1人が休憩しながら相手をしている。今日は盾に装着した収納袋を試したかったので、弱い魔法を撃ち込んでもらっていたのだ。もちろんこれもトニアさんにお願いした。今度は間違わないぞ!




 しばらく盾で受ける訓練をしていると、遠くに馬車がこちらに向かって走っているのが見えた。そこで試しにダークミスト(とにかくずっと発動してた)を馬車のある辺りまで広げた。


「あ。旦那様のおじちゃんだ!」


 魔法の共有をしているおかげで、知った気配である旦那様を察知出来たのだ。勿論初めに声を上げたのは美李ちゃん。でも、ニング卿はまだ独身だし俺より年下だからおじちゃんはちょっと可哀想だ……


(もし俺が言われたら凹むな、絶対)


「殿下、お変わりなくなによりでございます。そして5日ぶりだな、皆息災でなによりだ。早速だが時間が無いのですぐに話に入りたいのだが」


「分かりました。全員家に戻ろう!」




「城内の状況が動き出した。先日城内で侍女をかどわかした不埒者が捕まってな、その者が召喚勇者であったことが問題でな。処遇をどうしたものかと、意見が分かれていたのだ」


 一瞬旦那様と美李ちゃん以外が反応したが、あえて何も言わない姫様に倣って俺達も何も言わないでおいた。美李ちゃんは草野の名前が出なかったため、よく分からなかったようだ。


「そうした時、第一王女であるスロウスティ殿下が突然参られて、その者は闇の適合者で、魔族との繋がりがある疑いがかけられた、と」


 そして、処刑すべきだと。証拠は近いうちに示すが、魔族と関わりがある者を生かしてはおけない、と騒ぎ立てたそうだ。



 おいおい……俺達以外の人は召喚されてすぐ城に住み込んで生活してたんだろ?どうやって魔族と接点持ったってんだ。ひどい言いがかりだな。そんな事言われたら、城を出てる闇の適合者の俺はどうなるってんだよまったく。



 旦那様がこちらを見ている。あ、まさか……?



「すまない。スロウスティ殿下はヒバリ殿も探し出し尋問すべきだ、とも騒ぎ出しているようだ。そして、勇者の方々もそのほとんどが騎士団ではなく親衛隊の方についてしまった。

 ゲン殿につくのは数名、それと行方不明の1名のみだ。ゲン殿は強いがさすがに多勢に無勢、すべてを守りきる事は難しいだろう。

 幸いと言ってはなんだが、戦闘スキルを持たなかったヒバリ殿ら3名はすぐに城を出たため名前などを登録していない。正確には、ノーザリス殿下があえて登録させずに処理してくださったおかげでな」



 姫様はこういったトラブルが起きることを想定してたのかな?それにしても、また闇の適合者ってだけで敵意を向けられるのか……もう早く出て行きたいわ。

 そして自分がいるだけで周りも巻き込んじゃうってのもいたたまれない。やっぱり別行動の方がいいのかね?狙われるのは俺だけだろうし。



「ヒバリ様、以前にも答えましたが、おそらくと言うより確実に私も狙われるでしょう。ですから、ヒバリ様に護衛をしていただけるとありがたいのです。ご同行願えますよね?」


 姫様にはこの辺りは想定内ってことか。他の3人も別行動するとは思ってない様子にありがたいやら申し訳ないやら。はぁ。




「さて、今の状況は理解してもらえたかな?現在皆の状況あまり芳しくない。あともう5日もすれば取り返しの付かない事体も有り得るのだ。

 国王らも騎士団と共にその身を守る方向へと動いておられる。そして第一王女側よりわが領地への探りを入れ始めているようだ

 急ぎ申し訳ないがあと2日で旅立てるよう準備を完了させて欲しい。それまではこちらで情報を逸らせておくよう尽力するが、それも安全とは言えぬ。すまないな」


 姫様に俺達の身柄を預かるよう頼られて、それを果たせないことが悔しい、と旦那様は頭を下げていた。俺達も姫様もここまでよくしてもらった事に感謝しかないと伝えた。


「それとですね、出来れば俺達が作っていた加工品を旦那様の開発品ってことにして欲しいんですよ。これからの販売は旦那様の方で引き継いで頂けるとありがたいです。器具はランブさんに同じものを依頼してあるので、受け取ってください」


「いや、それはできんよ!販売権は開発主であるヒバリ殿が持つべきだ」


「しかし俺達はなるべく足の着かないような旅をしなきゃですから、どの道拠点を構えて販売している時間はないんです。それとこれは俺の我儘ですが、出来たらこの製品がこのまま根付いてくれたらいいな、って」


「……そうか。ならば料理長にも伝えねばな。ああ、以前に料理長にレシピを渡してくれたそうだな。大層感謝していたぞ!ヒバリ殿はその時すでに引き継ぐ事を願っていたのだったな……」




 こうして旦那様との話が終わり、ついでにと晩御飯に誘って一緒に食べた。なんか思い出話ばかりになってしまい、1ヶ月にも満たない生活だが切なさがこみ上げてきた。


 その夜は皆でおしゃべりをしつつ、俺も2階のソファーで一緒に寝る事になった。これから一緒に旅をするから、この距離で嫌がられたら不安だったけど、大丈夫なようで安心だ。

 朝起きると美李ちゃんが俺の上で寝ていたから驚いたが、どうやら俺を起こしに来たのにそのまま二度寝したらしい。だから私服だったのね。




 ここからは最終準備に追われた。


 ランブさんへの追加依頼の受け取り、家のものの収納具合の確認、収納袋によるテント作成と使用テスト、忘れ物はないか話し合い。



 ああそうそう。美李ちゃんの畑も収納袋に移した。あまり大きくはない畑。別の収納袋に土を詰め込み、畑用収納袋へと敷き詰めて、そこに苗を移し替えた。

 収納袋の中は薄暗いから栽培は無理だし畑は手放すしかない、と言われた美李ちゃんが寂しがっていたところ、姫様からの提案があったのだ。


「それでしたら、私の光魔法で小さいですが明かりが作れますよ。テントの時に試したあの明かりはもっと強くできます。そして6〜8時間は灯せますから、ミリ様の魔法で成長速度も上がっていますので十分かと思われます」


 これには美李ちゃんもだが俺も喜んだ。だってこれならいつでも野菜を栽培・確保できるってことでしょ?収納袋の中なら気候や災害の心配がない。

 水と光と栄養、そして実らせる物なら受粉にさえ気をつければいいだけならなんとかなるだろう。畑用収納袋は美李ちゃんい預けたから、無理しない程度にお願いしておいた。



 そして翌日、今日も準備を進めていざ明日旅立つぞ!と気合を入れ直している時、以前納品に来ていた御者さんから急ぎの手紙を渡された。

 ひとつはランブさんからで、帝国領にあるドワーフによって栄えている街に師匠がいるらしく、そこへの紹介状だった。姫様以外にも帝国への伝手があるのは本当にありがたい。





 そしてもうひとつが……


 草野が今日、斬首による処刑を行われるらしい。



 さらに、「名前は出ていないが、俺も魔族と繋がりがある証拠が第一王女から示されこれから指名手配される」と源さんの名で書かれていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ