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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第3章 濡れ衣と第一王女
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美李の変化と袋詰めの成長

「やはり、心に傷を負ってしまいましたか……」

 



 トニアさんが木剣を渡そうとすると逃げ出し、沙里ちゃんの後ろに隠れてしまう美李ちゃんを見て、姫様が呟いた。あんな事があった後じゃ無理もないか。


「ここは無理をなさらずに、自分からやりたいと言われるまで待ちましょう。幸い魔法自体が使えなくなったわけではないですし」


「はい。美李が畑仕事をしていた時、いつもどおり魔法で水と土を肥沃にしてましたから、魔法は使えていました。わたしも今は無理をさせたくありません」


 沙里ちゃんから離れないため今日の訓練は短めに終わらせ、その分準備を進める事にした。旦那様に言われた5日間の準備期間も残り2日になっているので、とにかくなんでも作っては収納袋へ仕舞いこんで、今では全部の荷物を大きい鞄ひとつで納まるまでになったのだ。




「えっと、この黒い袋とこの鉄の枠…?はなんですか?」


 俺の準備を手伝おうとした沙里ちゃんが、不思議そうに組み立ててたものを見て聞いてきた。


「ああ、これは簡易トイレだよ。コの字の木枠に黒い袋を被せて、その木枠と袋を鉄枠の上に固定すれば使えるんだ。災害時に公園に作られる非常用簡易トイレをイメージしてみたんだよ。この袋なら黒で透けないし、最後は土に埋めちゃえばOKだよ」


「……えっ?ああ、こ、これから旅に出るんですもんね!こういったものがあった方が便利ですよね!この世界のトイレは、確かに辛いですもんね…」


 ちょっと頬を赤く染めながら、説明するために座った俺を見て想像してしまったらしい。でもやっぱり外となると、ねぇ?もちろん男女別で2組用意してあるぞ!

 うーん。セクハラになる前に、女子用はトニアさんに預けてしまおう!予備の袋も多めに渡しておかないとだな。男なんて小はどこでもできるし。


 ちなみにトイレの周りは、大きい迷彩色の袋を作ってあって、これを衝立代わりに別に用意した物干し台のような鉄軸の枠4本に巻いて囲えば、用足しの時に隠せるというわけだ。トイレと衝立と黒い袋で1セットになっている。



「ほんとは紙も何とかしたかったけど、あの柔らかい草はそれほど悪くないから別に後でもいいか。簡易トイレが出来ただけよしとしよう!」


 この世界のトイレットペーパーは、貧しい所では藁のようなもので、それなりに稼げればパルプのような加工品の紙があるのだ。これを少し柔らかくした程度ではあるが、藁に比べたら全然いいから問題ない。

 簡易トイレのセットが入った袋を沙里ちゃんに渡して、トニアさんに預けてもらうよう頼んだので、今のは完全に独り言だ。今頃皆に使い方を教えてるのかな?なんて考えていると、



「あたしもトイレットペーパー欲しいけど、あれなら我慢できるかなぁ」


 ……あれ?沙里ちゃんに付いて一緒に行ったと思ったら、美李ちゃんは俺の横に来て袋をいじりつつ答えてくれていた。一人だと思って言ったから、返事があって驚きと恥ずかしさが!


「びっくりした!てっきり沙里ちゃんについて行ったのかと思ったよ」


「あたしがいたら、お邪魔になっちゃう……?」


 悲しそうに見上げてくる美李ちゃんを断れるわけがない!なんか、娘が出来たらこんな感じかなぁって最近思っちゃうんだよね。実際俺が早婚だったら美李ちゃんくらいの歳の子供いてもおかしくないわけで。


「よーし、じゃあ手伝ってもらっちゃうぞ!今から袋いっぱい作るから、それをまとめておいてもらっていいかな?」


「わかりましたっ!」


「よーし、ついでに晩御飯の仕込みもしちゃおっか!今日は唐揚げかなぁ?」

 

「唐揚げ!作れるの!?」


「任せなさい!あ、それならいっそ――」


 内緒で作ろうと思ったらまた悲しそうな顔をされちゃったので、皆には内緒って言って、2人でせっせと小道具を作っていた。といっても、ちら見した沙里ちゃんは小道具でバレバレだったそうで。




 今日の晩御飯は沙里ちゃんにも休んでもらって、美李ちゃんと2人で作っていた。さすがに美李ちゃんに火は危ないので、主に盛り付け担当だ。一生懸命綺麗に盛り付けてる姿は微笑ましいね。



「さあ、完成だ!おまたせしました、今日のメニューはお子様ランチです。別名ワンプレートとも言って、一皿に全てを乗せちゃう盛り付け方ですね」


 内容は、挽肉入りオムレツ・ナポリタン・ポテトフライ・コーンポタージュ・パン・唐揚げ・サラダ、そしてデザートのプリンだ。さすがにポタージュとプリンは器に入れたまま皿に盛り付けた。


「まあ、豪勢ですね!見た目にも華やかで、どれから食べていいやら迷いますね」


「ヒバリ様、このオムレツに刺さっている赤い丸のものはなんでしょう?」


 ワンプレートで出される事がないであろう姫様や、色々なおかずの盛り合わせに関心しつつも旗の意味を尋ねてきたトニアさん。


「ああ、これはですね、俺達の世界にある国の旗を飾ってるんですよ。その赤い丸のものが俺達の国”日本”の国旗ですね。ただの飾りなので、食べる時は除けてくださいね」


「なるほど。国のアピールも兼ねた飾りだったのですね。それにしてもこの唐揚げとやらは美味しいですね!」


 いつになく饒舌なトニアさん。そして自分が飾り付けた料理で皆が楽しんで食べている事に、ちょっと誇らしげな美李ちゃんが隣にいる。大成功とばかりに二人でハイタッチしてたら、沙里ちゃんに笑われてしまった。




 そんな晩御飯も終わり、洗い物は沙里ちゃんたちがやるから先に風呂どうぞと追い出され、のんびり先に湯船に浸かっていた。なんとはなしにステータスを鑑定したら、魔法の項目をさらに詳しく見られることに気付いた。


「覚えた魔法も見ることが出来たのか……俺、いつのまにダークミスト覚えてたんだ?感知して追跡してたからかな?……って、袋詰めがLV4になってる!」


 せっせと食材用の袋を作っていたおかげで、気付くと袋詰めスキルがLV4になっていたようだ。まぁあれだけ収納袋やトイレ用黒袋等色々頑張ったから、当然そうなるか。




ちなみに効果は、


LV4:生き物も袋詰め可能となる。但し、その場合内部でも時間経過される。

袋の耐久値より高いダメージを内側から与えた場合は袋は破壊され中身は外に出る。



 生き物ってことは人も大丈夫ってわけか!今までの袋で収穫された野菜を時間経過有りの袋に入れて試したが、中の空気と温度は袋を閉じた時の状態を維持されるのは分かっている。

 じゃあ、袋の中でも過ごせるってことなのか……?でもそうしたら、袋に入れられた状態で収納袋に仕舞われたらどうなるんだ?



 ちょっとこれは実験しないとだめだな。入るのは俺自身として、誰に頼むかな……





「ヒバリお兄ちゃーん!あたしもお風呂入るね!」


 バーン!と開け放たれた扉から美李ちゃんが湯船に飛び込んできた。勿論服は着ていない。


 ……って、暢気に語ってる場合じゃないだろ!?



「美李ちゃん、なんでいきなり入ってきちゃったの!?」


「んー?一緒に入りたかったから?」


「女の子が無闇に肌をさらしてはいけません!」


「むやみ?誰でもじゃないよ、お兄ちゃんだからいいよ?」


 だめだうまく説得出来ない…仕方ない、最終手段しかない!


「沙里ちゃーん!ちょっといいかなー!?」



「はーい、どうしまし……美李!?何やってるの!」


 隣が作業場兼居間でもあるので、すぐに沙里ちゃんが手前の脱衣所に姿を見せた。美李ちゃんが開けっ放しにした浴室まで一直線に中が見える状態で。


 その後はなんとかタオルで巻かれた不満顔の美李ちゃんを連れ出してくれ、脱衣所で説教されてる声が聞こえる。でもちょっと長いかな?そろそろ上がりたいんだけど。



 風呂から上がってからは片付けを引き継ぎ、皆も順番にお風呂に入ってもらった。俺の裸を見てしまった沙里ちゃんはちょっとまだ赤い顔をしてたけど、むしろ恥ずかしかったのはこちらなんだが、そんなことは言えるわけもなく。




「――と言うわけで、ちょっと袋詰めLV4の実験に付き合ってもらいたいんですよ」


 お茶を出しつつ風呂上りの皆に少し残ってもらってスキルがLVUPしたことを説明し、それを試したい事を伝えた。誰かに俺の入った袋を容量を大きくしてある収納袋に入れてもらう実験だ。


 俺が入る理由は製作者であるからこそ、いざとなったらキャンセルで袋を消せるためだ。その辺りも説明してあるし、実際に消して見せてある。そうじゃなきゃ入りたくないよね。破壊すれば無傷で出られるのも分かってるけど、やっぱりね?



「じゃあ、あたしも一緒に入る!」


 先程のリベンジか、何故か美李ちゃんが中に入る方に手を挙げてきた。


「んー。危険はないからいいけど、袋に閉じ込められるの大丈夫?」


「おうちでも袋に入って怒られてたからだいじょうぶ!」


 あ、常習犯だった。


「では、自分が袋を収納袋に入れましょう」


「5分くらいでいいんですよね?わたしが時間を見ます」


 トニアさんと沙里ちゃんがすぐに役割分担をしてくれた。ていうか、誰も美李ちゃんのことには突っ込まないのね……沙里ちゃんにとってはよくある事だったのかもしれない。



「じゃあ、いくよー!」「いってきまーす!」



 美李ちゃんと一緒に収納袋に入って入り口を閉じる。中は少し暗いが、真っ暗というわけではないようだ。少しだけ軽くなった体に重力らしきものも感じる。ちょっと飛び跳ねると、普段より少し高く飛べるかな?程度だな。

 そして俺に”もう一つの収納袋”に入れられた感覚がきた。袋は透明なはずなのに、外がまったく見えないからどうやって判断しようかと思ったけど、俺には分かるようになってるのね。


 美李ちゃんがぽんぽん飛び跳ねたり、壁となっている袋をぺたぺた触ったりしてる。数分経ったと思うけど、息苦しくはないかな?


「あんまり遠くに離れちゃだめだよー」


「はーい!」


 と答えながら、軽く壁走りのような事をしながら戻ってきた。え?そんなこと出来るの!?と思うのも束の間、そのまま俺へと飛び込んできた。なんかもの凄く懐かれた気がする……いや、嬉しいけどね!


 そしてまた袋から取り出された感覚がきたので、美李ちゃんに外に戻ることを伝え、袋の壁まで行ってから開けという意思とともに手を動かす。

 すーっとチャックを開けるように袋が裂けて外が見えた。美李ちゃんが駆け出し、沙里ちゃんに抱きついて面白かった!と中の感想を話している。



「外ではどうでした?」


「中に入られて閉じたら袋は膨らみが無くなりました。少々折り畳んでもう片方の袋に入れましたが、特に何もありませんでした」


「じゃあ問題なく使えそうですね。ただ、袋の中からは外の様子が分からないのが難点なんですよねぇ……これを旅のテント代わりに使いたいんですよ。勿論、馬車は入らないですから、見張りは必要になっちゃうんですけどね」


「なるほど……ヒバリ様はそういった使用法を考えられていたのですね」


 トニアさんと姫様に相談しつつ、LV4の使い方を検証してみた。



 この袋、開閉許可の無い者には内側からも開けることが出来ず、開閉許可のある者なら袋の壁じゃなくても開ける意思を持って手を動かせばどこでも開けられることが分かった。なんだ、壁まであるかなくてもよかったのか。

 それと攻撃性のあるもの(物理・魔法の両方)が袋の壁に当たった時に耐久値が減る事も分かった。よし、これならテントに使えるぞ!


 更に、中に入れられたものは揺らそうが曲げようが配置は動かないようなので、袋の中にキッチンを配置してそれを収納袋に入れておけば、いつでもキッチンで料理出来るってわけだ。




 こうして袋の検証を済ませ、あまり遅くなる前に寝ようと言って解散になった。皆が2階に行く時、トニアさんにだけ「この後覚えたてのダークミストの検証を1人でやります」とこっそりと告げておいた。いきなりやったら大騒ぎだからね、事が事だけに。



「お付き合いいたしましょうか?」


「攻撃性の無い魔法なので、大丈夫ですよ」





 皆が寝た後、こっそりと家の庭へと移動した。



 さあ、やってみようか。




今更かもですが…


普通の袋は「袋」、闇魔法との融合で容量を増やしたものは「収納袋」と呼んでいます。



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