誘拐犯と救出と
……なんだよ、その犯罪歴ってのは?
「おい、お前!美李ちゃんに何をした!?」
「ちちちくしょう!な、なんなんだよお前ら!なんで魔法が効かねぇんだよ!?」
トニアさんが縛りあげてる間に見たそいつのステータスに犯罪歴があった。それを見た瞬間一気に頭に血が昇ってそいつに掴みかかって怒鳴りつけた。
突然の行動に驚いたトニアさんが慌てて俺を止めるが、それでも声を上げて問い詰めた。
「どうされたのですかヒバリ様?今この者は身動きはとれません。先程の魔法もヒバリ様には通用しないのですから、冷静に尋問されてもよいのでは?」
麻痺毒を使われていたらしい美李ちゃんを回復し、こちらの声に慌てて駆け寄った姫様と、美李ちゃんを抱きかかえつつ怯えた目を向ける沙里ちゃんが見えた。
「……こいつのステータスを見たら、犯罪歴があって、その、覗きと強姦って…」
それを聞いた沙里ちゃんがみるみる真っ青な顔になって慌てて美李ちゃんの体を調べ始めた。言いたくはなかったけど、見たからには言わないとって思ったけど、でもこれは……ッ!
「それでしたらご安心ください。自分が初めに言ったとおり”乱れ”はございませんでした」
「その犯罪歴はおそらく城に居た時に付けられたものだと思います。城の審査官がつけたという履歴も残っているはずです。鑑定の宝珠、そのレプリカでもそういった追加が出来ますが、誰彼もが付けては混乱してしまうため、付けた者の履歴と魔力跡が必須となっています。逆にそれがない物は効力を持たないのです」
トニアさんと姫様の落ち着いた言葉に、俺ももう一度鑑定を行って確認すると、犯罪歴の後に所属と名前が付いていた。草野は舌打ちしつつ顔を逸らした。
そうか、美李ちゃんの最悪な事体にはならずに間に合ったのか……よかった。いや、こいつは強姦という罪は犯していたんだから、その被害者を考えるとよかったと言って済ませられることじゃないが。
「しかし、それだからといって解決しましたで済ませられる問題ではありません。この者が野放しにされれば次の犠牲者が出る可能性もあります。どう対処したらよいか、ですね……」
少し悩んでいると、外からドカドカと大人数の男達がやってきた。先頭にいる冒険者ギルドの受付の人を見るからに、衛兵を応援に呼んでくれたようだ。といってももう解決した後だったけどね。
「子供がかどわかされたと聞いていたが、どうやら無事に見つけ出したようだな」
衛兵の中からリーダーらしき人が前に出てこちらに声をかけつつ中の様子を伺っていた。そして縛り上げられていた草野を見て、睨みつけるように確認してきた。
「こいつが犯人であったのだな……うん?お前、城から手配書が回っているクサノか!?まさかこんな街中をうろついていたとはッ!」
それからは衛兵達が草野を拘束しなおして、そのまま連れて行くと俺達に言ってきたのでそれを了承し、今は女の子の治療を優先したいのでこの場は衛兵に任せて家へと急いだ。
対応は姫様がサリスと名乗って行ってくれた。俺が話をしようとしたら姫様に止められたんだが、カモフラージュで変装していたため姫様だとはバレずに済んでよかった。いや、よかったのか?
「姫様、なんで偽名の方で対応したんです?あそこで名乗り上げた方が対応が楽だったんじゃ?逃げ出した奴を捕まえたって功績にもなるし」
帰りの馬車の中、他に聞くものがいないと安心してから、姫様に聞いてみた。
「いえ、今の状況では城内がどうなっているかも分かりません。ここは我々が共に行動している事は知られない方が良いでしょう。ただ、あのクサノという者が、この後どういった扱いを受けるかは不安ではあるのですが……」
召喚魔法で無理矢理呼び出してしまった姫様の責任感からくる苦しみからか、許されざる罪を犯した草野に対しては、どういった対応を取るべきだったかの正解が見えず悔やんでいた。
その横ではまだ怯えている美李ちゃんと、必死に抱える沙里ちゃんが静かに座っている。2人ともまだ先程の事件が怖くてしゃべることはできない。
重い空気の中、いつもより長く感じる道を抜けて、やっと家までたどり着いた。ここでようやく姉妹がほっとしたようで、体の力が少し抜けたのがみえた。
「ただいまーっと。沙里ちゃんと美李ちゃんはもうそのままお風呂行っちゃって。晩御飯はこっちで作っておくから、今日は食べて早く寝よう!」
ゆっくり風呂に入ってもらってる間に、俺は晩御飯を作り始めた。今日は美李ちゃんが好きなオムレツ、それとちょっと手間がかかるがコーンポタージュを急いで作った。最後にデザートとして蒸し器でプリンを作って冷やしておく。
「蒸したてのあったかいプリンもおいしいが、やはり冷やしておいた方が王道か。となると――」
ボウルに作り置きの氷を袋から出し、塩を入れて混ぜてからそこにプリンを入れて冷やしておいた。勿論氷は時間経過の無い袋だから、いつも解けずに保管出来ているわけで。
カラメルソース作りで1回失敗しちゃったのはないしょだ。固まって飴になったものはトニアさんと分けて食べて証拠隠滅!
「じゃあ、いただきます!」
姫様とトニアさんも交代で風呂に入り、俺だけは後でということで晩御飯を食べ始めた。初めは少しずつ食べていた美李ちゃんも、途中からはいつもどおり美味しそうな顔をして食べている。
コーンポタージュもおかわりをして、デザートのプリンには大喜びで、これには沙里ちゃんも笑顔で食べさせあっていた。うん、作ってよかったなぁ。
「ヒバリお兄ちゃん、とっても美味しかったです。それと……助けてくれて、ありがとう。こっちもほんとに、嬉しかった、です!」
最後は泣きながらになってしまったが、それでも言い切った。
「うん、ありがとう。それと、俺も美李ちゃんが無事で本当に嬉しかったよ」
頭を撫でつつ答えると、さらに大泣きになって抱きつかれた。それでも頭を撫で続け、好きなようにさせている。
次第に泣き声もなくなり、気付くと寝てしまっていた。そのまま2階へと運んで、沙里ちゃんにお願いして、このあとの片付けは任せてもらった。もう2人にはそのまま寝てもらうほうがいいだろうからね。
「本当に無事でよかったですね。ヒバリ様が魔法を見破っていなければどなっていたかと思います」
「いやほんと、草野の魔法が見えなきゃお手上げだったよね。たまたま見えたからよかったけどさ」
「偶然ではないと思いますよ?」
洗い物だけでも手伝うと押し切られた姫様と2人で片付けていると、外の見回りから戻ってきたトニアさんが「推測ですが」と話し出した。
「ヒバリ様が鑑定で見たとおっしゃった説明文で、”闇の適合者にしか感知出来ない”とあったそうですので、おそらくですが闇魔法の隠匿という特性は、同じ闇の適合者には通用しないのではないでしょうか」
「なるほど……そうなると、カモフラージュも闇の適合者がいたら見破られる可能性は頭の隅においておいたほうがいいですね。そうか、そういう弱点があったかぁ」
その後は俺も風呂に入り、すぐに寝る事にした。美李ちゃんがまた夜泣きをしたらしいが、すぐに落ち着いて寝てくれたらしい。
翌日、製造販売はストップしているので、午前中は旅の準備や自分達のための製造を、午後は武器と魔法の訓練にあてている。その午後の訓練で……
美李ちゃんは、武器を振る事も、攻撃魔法を使う事も出来なくなっていた。