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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第3章 濡れ衣と第一王女
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旅の準備と黒い霧

 準備を始めて2日が経った。





 まずは旦那様が馬車・毛布や着替えや外套・テント・大量の食材を、俺はとにかく大きい容量の収納袋をたくさん作った。女性陣がそれらを収納袋にしまっていく。

 それと、口の大きい鞄も用意してもらい、そこに誰でも開閉出来る条件の袋付与と、隣り合わせにもうひとつ付けた開け口に開閉条件をメンバー限定にした大容量の収納袋を付与しておいた。通常の開け口はダミーとして当たり障りの無いものを入れておく予定だ。

 ついでに服や鞄にデザインのような隠しポケットを作ってもらい、そこにもちょっと容量増やした収納袋を付与してある。ここにはお金をみんなで分けて持ち、開閉条件もメンバーのみだから盗まれる心配もない。


 ランブさんにはミンサーをいくつか作って街に卸してもらいたいと依頼し、スパイス&ハーブの店長には挽肉とうどん・めんつゆのレシピを渡し、こちらも広めて欲しいとお願いしておいた。これで俺たちが商売を止めても誰かが続けてくれるといいな。

 事実上販売権を渡したということで、ランブさんからブーツや肘当て、店長から食器類をいただいた。もちろんブーツ等にも内側に袋を挿し込めるポケットをつけてもらった。



 この他にもテーブルや椅子、調理器具に浴槽も収納袋をマトリョーシカ方式で小さくして鞄に収まる事も確認しておいた。これで身分証以外はだいたい準備が出来たかな?




 身分証に関しては旦那様にちょっと待ってもらったのだ。どうせそのまま作ったら足がついて危ないだろうし、どうせなら冒険者としてギルド登録をしておきたかった。

 もちろんそれでもそのままじゃ出来ないので、旦那様に鑑定の宝珠を用意してもらう。これは城にある初代勇者が残したもののレプリカだ。貴族や商売を生業とする者たちはこのレプリカでもって簡易鑑定を行って名称を確認するらしい。各職業のギルドでも登録や素材などの確認もこれで行う。


 なので、このレプリカ鑑定宝珠を使って名称や姿をカモフラージュで変えてもバレないかのテストをしたかったのだ。これがダメだったら旦那様に身分証を用意していただくしかないわけだが、


「うん。問題なく隠し通せているね。正直少し恐ろしい気もするが……まあヒバリ殿は悪用するような者でないと信じているよ!」


「自分達の身を守るために使いますよ。それにどの道ギルドカードは個人の魔力で登録するんでしたよね?魔力の痕跡で鑑定されるとバレる危険はあるんですよねぇ」


「それこそ今は緊急事態だ。国を出るまで使えれば十分だろう。時間が無い、皆を連れて冒険者ギルドで登録を済ませてしまおう。全員の変装は終わっているのだな?では、すぐに向かいたまえ!」




 俺達は用意してもらった馬車で、いつもの御者さんに馬車の扱い方・馬の世話の仕方を教わりながら街のギルドへ向かった。最初こそ難しかったが、そこはステータスの器用さにものを言わせてすぐに扱えるようになった。これからは俺かトニアさんが御者をする事になるそうだ。


 街に入ってからまずは冒険者ギルドへと向かう。ただ、全員一斉に登録を行うと身バレの恐れがあるため、二手に分かれて時間をずらした。俺以外全員女性のパーティが登録なんて目立ったしょうがないだろうし。

 まずは俺と姫様、その後でトニアさんと沙里ちゃんと美李ちゃん。そして俺はここが終わったら商人ギルドへ行って別の登録、つまりは販売許可のためのギルド登録をしに行く。

 その間馬車を借りてしまうので、俺と姫様と御者さん以外は冒険者ギルドで待っててもらうことになっている。幸い、よくある荒くれ者みたいなのはいないようで安心した。そんなテンプレがありそうで不安だったんだよね。



 先にランブさんの店に顔を出して、頼んでいたボウガンと大量のダート矢を受け取り、盾の横にある収納ポケットへとしまっておいた。ついでに撃ち方も教わったが、ここは持ち前のDEXでまともに使えるようになれてほっとした。弓矢なんてやったことなかったけど、ステータス様々だなぁ。

 そして目的の商人ギルドの方も無事に登録が出来た。これで何か売るにしても、よっぽどの事がない限りは屋台程度なら他の町でも出来るそうだ。これで旅をしながらでも稼げる手段があれば余裕も生まれるかな?何もかもが初めての事なんだから、色々やれた方がいいはずだよね!




 俺達が冒険者ギルドに戻ると、トニアさんと沙里ちゃんが駆け寄ってきた。その表情には悲痛さが浮かんでいた。


「ヒバリさん!美李が……いなくなってしまったんですッ」




 トイレに行きたいと言った美李ちゃんに、3人で外のトイレへと向かい、順番に一人ずつ交代して用を足したそうなんだが、最後にトニアさんが行って、目を離したわけでもないのに、気付いたら美李ちゃんがいなくなってたらしい。


「どうしていきなりいなくなったのか、まったく分からないんです……隣にいたはずなのに!周りに居た人に聞いても美李のような子供がうろついてなかった、と」


「申し訳ございません。自分もこれだけ近ければ気配で確認できていたので、まさか気配そのものが突然消えるとは……」


 誘拐……されたのか?これは第一王女関連の仕業なのか?そもそも、トニアさんの言う気配が消えたってのはどういうことなんだ……!?



「トニア、今は自分を責めている時間はありません。まずはギルドの受付へ説明し、もし見かけたら保護してもらうようお願いしておきましょう。これですれ違いは避けられるはずです。そして、すぐにいなくなった現場へ案内なさい」


 皆が混乱している中で、姫様だけが冷静に努めてくれていた。そうだ、今はとにかく手がかりを得ないと!まだ誰の仕業かただの迷子かも分かってないんだから。




 受付へお願いした後、建物の裏手にあるトイレ(という小屋)の前に来た。ここの外で座って待っている間に、ふと横を見たら美李ちゃんがいなかった、と。何かおかしな気配でもあればすぐに気付けたそうだが、特に無かったとトニアさんが話していた。



「ここからだと、ギルドに戻るかその反対に進むしかないわけですね。往来である程度人はいるわけだから、周りの人も美李ちゃんを見かけてないっていうのは明らかにおかしい……」


 見回してみても特に騒ぎがあった様子もない。美李ちゃんが周り、そこの壁辺りが少し黒く汚れているくらいか。触ってみたが……これ落ちないな?


「あの、この周りの黒い煤汚れみたいなのはなんですかね?」

 

「……えっと?特に煤汚れのようなものはないですけど」


「そうですね。トニアはどうですか?」


「はい、汚れては……待ってください。ここに魔力の残滓がッ!?汚れというのは分かりませんが、何か魔力を使った跡があります!」



 これ汚れじゃなかったのか!なら何故俺には見えたんだ……?


 そして無意識に鑑定を行ったらしく、視界にウィンドウが開く。





闇魔法の痕跡

魔法名「ブラックミスト」

→周囲に闇の適合者にしか感知出来ない霧を発生させる。

 霧の濃度によって、気配察知・音の遮断・目眩ましの効果がある。



 魔法名を詳しく表示させたら、これ闇の適合者の仕業か!てことは、魔族か魔物の仕業じゃないのか!?これは急がないと美李ちゃんが危ない!


「分かりました!これは闇魔法の仕業です。もしかしたら美李ちゃんは魔族に攫われた可能性が。でも今ならこの痕跡を辿れば追えるはずです、行きましょう!」

 


 魔族という言葉に一瞬絶望しそうになった沙里ちゃんが、今なら追えると聞いて一気に力を取り戻した。トニアさんや姫様もここで待っているつもりはないようで、


「それでしたら先導はヒバリ様にお任せします。沙里様、風魔法による加速はもう使えますよね?自分は姫様を、沙里様はヒバリ様を抱えて一気に追いつきましょう!」


「ちょ……」


 口を挟む間もなくお姫様だっこをされたまま走り出す。もう恥ずかしいなんて言ってられないか。美李ちゃんの救出優先だこんちくしょう!




 しばらく抱えられたまま右へ左へと街の中を先導して駆け抜け、ついには霧が濃くなった場所に辿り着いた。

 その霧の中央にある建物自体は潰れた店なのか倉庫なのか分からないが、人が住んでいるようにはみえなかった。しかし、霧はそこから発生し、まるで人払いをしたかのように周りには人が寄ってこなかった。



「ここです……この中でまだ闇魔法は発生してますね」


「無意識にここは避けたい気持ちが湧いてきます。明らかに異常です」


 ここまで霧が濃くなる(霧が見えてるのは俺だけだが)と違和感を感じられるらしい。トニアさんが静かに建物に近づく。俺もボウガンを取り出し盾を構えておく。



 ゆっくりと中に向かうトニアさんだが、どうも進む方向がずれている。



 ……あ、そうか!これは目眩ましの効果があるってことは、トニアさんは気配察知ができていないのか!何者かがナイフを構えるのが見えたやばい!


「トニアさん!そこから左の扉の奥にいます!ナイフが!」



 俺が声をあげた途端、中の者とトニアさんが同時に驚き、そして思わず投げてしまったらしいナイフをトニアさんが叩き落していた。



 武器を失って慌てて逃げようとしていたがトニアさんはまだ気配がつかめないか!?ならランブさんに習ったばかりだが、ボウガンでやるしかない!


(落ち着いて狙いを付けて……人だったらやばいから足を……!)



 そいつの周りに人の気配が無い事を確認し、そっと窓を開けてから抜け出そうと足を窓枠に掛けた所を撃ち抜いた。素早く次の矢を装填し、撃たれた拍子に転げ落ちたそいつに向かって構えつつ近づいた。


「動くなよ。動けば撃ち込む準備は出来てるからな」


 痛みに呻く男の声。そして魔法に集中出来なくなったのか、黒い霧が晴れていく。



「美李様を発見しました!口と手足を縛られていますが無事です!外傷も乱れもありません!」 


 奥の部屋に行ったトニアさんが声を上げると、沙里ちゃんと姫様も中に飛び込んできた。


「ここに犯人がいるので油断しないでください!こいつは魔族……いや、違う。お前は……」




そしてまた鑑定が発動し、ウィンドウが現れた。





草野 郡司 33歳

状態:左足刺傷、歩行困難(軽)

HP:35/46   

MP:37/63 

STR:31

DEF:23

INT:21

DEX:15

固有スキル:部分透過(ピーパー)

適合魔法

 闇

犯罪歴:覗き、強姦






犯人は、城から逃げ出した召喚勇者(同郷)の一人だった。




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