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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第2章 従業員、増えました
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嵐槍の源之助

 翌日は朝からせっせと盾と鎧用の袋を作り直していた。


 今度はLV3の能力を使って、鎧と同じ色で光沢の無い袋をイメージして。




 盾の方は色は同じにしてあえて光沢は無くしてない。もし光の反射を利用できるならこのままでいいし、邪魔だったり不利になるようならすぐに光沢をなくせばいいからだ。なんちゃって鏡の盾といったところかね?


 やっと夕べのリベンジが出来てスッキリしたところで、いつもの業務を開始した。最近は注文数も安定してきたので、予備も含めて同じ量を繰り返し作る事に慣れてきた。

 いつもと違うというと、うどんの発注が少しずつ伸びて来たかな?それに合わせてめんつゆもセットで付けているから、そちらも増やしている。

 うちで食べる予備分は、昼か夜がうどんの時に一気に茹で上げてしまい、時間経過の無い袋に入れて保存している。さすがにすぐ食べたい場合や非常時に15分も茹でる時間はないからね。袋のおかげで茹で立てのコシそのままなのが本当に便利だ。





 

 午前中は食品加工製造、昼過ぎからは装備をつけての動きの確認と魔法の練習。このサイクルを繰り返して3日が過ぎた。現在3人に、正直練習とも訓練とも付けがたい気の緩みが蔓延している。

 姫様もトニアさんも来られずヒバリ達は3人だけで今まで習った魔法の練習をしていたが、現在護身用とはいえ装備を揃えた。しかし、ここには剣も体術も戦闘技術そのものを教えられる人がいない。出来るのは何の根拠も無い素振りのみ。とてもじゃないが模擬戦と言われてもこの中の誰かと打ち合うなんて出来る訳がない!


 そんな気持ちでは修行になるわけもないので、自然と午後の半分も食品製造をして備蓄を増やしてしまう3日間だった。おかげさまで今まで作ったタネやソース、そしてうどんの他にもロングパスタや中華麺まで頑張っちゃったよ……



 

 翌日。朝の製造を終えて、いつものように昼食を取りつつ2人に話しかけた。


「この後配達の馬車が来たら、俺はそのままランブさんの所に行くけど2人はどうする?買い物に行くなら付き合うよ」


「あ、それなら布生地が欲しいです。私のスキルで裁縫も出来るので、その道具も欲しいですね。ヒバリさんも希望のデザインの服があったら言ってくださいね」


「お姉ちゃんはもうどろわーず?はもういやだって言ってたの」



 …………あっ。


 美李ちゃんの口を塞ぐより早く言い終わってしまって、しかも俺が理解したことが顔で分かってしまって、真っ赤になって美李ちゃんに抱きつく沙里ちゃんがいた。



 そっかー。やっぱり下着は今まで使ってるやつがよかったかぁ。



「とにかく2人とも一緒って事でいいね。じゃあ生地の店は乗せてもらう御者さんに聞いてみよう。先にランブさんの所に行くから、茹でたうどんとつゆと揚げたワニつくねを用意してもらっていいかな?」


 皆で片付けをしつつランブさんへの手土産も用意。食べに行ってる店には申し訳ないけど、気に入ってもらえてるようだから直接渡したくなるじゃん。これからもうちの製品をよろしくねという感謝と宣伝みたいなもんだ。




 配達の御者さんにお願いして一緒に街に入り、ランブさんの店で降ろしてもらった。初めはそのまま待つと言ってくれたのだが、配達を優先してもらって終わったらまたここで拾って欲しいと答え、しぶしぶながら馬車は業務に戻って行った。


「こんにちは〜。ランブさんいらっしゃいます?今日例の器具が出来たって聞いたんですけど」


 店内にランブさんの姿が見えなかったため、店員さんに声を掛けて取り次ぎをお願いすると、すぐに奥からやってきた。


「おう、ヒバリ。器具は仕上がってるぞ……なんじゃ?今日は3人だけなのか?」


「え?ええ、そうですね。姫様達は城で忙しいそうで最近こちらには顔を出してないですね」


 するとランブさんは俺達を見て溜め息をつき、


「お前さん達はよっぽど平和な所から来たんだろうな」 


「はい。こちらに比べれば平和でしょうね」


 何故急にそんな話を?ランブさんは俺達が召喚勇者だとは知らないはずだ……

そんな思考を読んでか、諭すような口調で続けた。



「お前さん達は装備品すら持っていない暮らしをしていた。しかしどこぞの貴族と言うわけでもない。それは今のお前さん達を見ればわかる。

 先日の依頼で装備品を作ったな?護身用とも言っていた。なら何故今着けて来ない?護衛がいる訳でもないのに。街の中だからと油断してるのではないか?

 この街だって拉致や暴行だって日常茶飯事だ。犯罪者には巡回の衛兵がすぐに命を奪う事も、だ。これがこの街だけではない。むしろここは首都だけあって治安がいい方なのだ。

 それでも、今まで見てきた馬車の御者だって鎧を着けていただろう。もちろん武器だって持っている。ここはそういう世界だ。


 剣の腕が無いのは持たせた時には確信していた。魔法の腕はあるようだが、実戦はないのだろう?人を殺した事も。ワシから見れば狩りの獲物がのこのこ歩いているようにしか見えん。それとも、お前さんはそこの2人を守りきる自信があるのか?」


「……いいえ、ありません」


「ならば、なおの事気を付けて行動せねばな。すまんな、説教臭くなってしまったな」


「いえ!俺達の事を心配しての言葉ですから、むしろはっきり言ってくださってありがとうございます」


 深々と頭を下げてお礼を言わせて貰った。


 そうか。いつも姫様と一緒だったから分からなかったが、あれはトニアさんと従士で守りきる自信があったからこそああいった少人数で出かけられた、という事か。

 そうなるとやはり、せめて自分達の身を守る術を覚えたい。せっかくの召喚勇者としてのステータスなんだし、力が無いなら成長させればいい。学べばいい。誰か指導してくれる人を旦那様から紹介してもらえないか頼むしかないか……




 その後ランブさんからパスタマシーンを受け取ったが、お願いして馬車が来るまで店で待たせてもらった。話で忘れていた手土産も喜んでもらえてよかった。次は焼肉のタレも欲しがっていたな。今度はBBQのコンロでも作ってもらおうかな?


 しばらくして馬車が到着し、ランブさんにお礼を言ってから裁縫屋へと向かってもらった。生地や道具はすぐに手に入り、次は服屋になったので外で待たせてもらう事にした。決して面倒臭くなって逃げたんじゃない。戦略的撤退だ!




(あー…だからさっきランブさんに注意されたのになぁ)


 外で1時間くらい待たされている間に、チンピラみたいな奴等が3人で俺の前方を囲むように立ってわめいている。幸い剣は持っていないようだ。御者さんがトイレに行くと離れた直後にやって来たから、狙われていたんだろう。


(路地の影に逃げてハイディングで隠れるか?いやここで沙里ちゃんたちが出てきたら絶対絡まれちゃうだろうしなぁ……)


 見た目で剣はなくとも武器は持っているはず。お金を渡せば満足していなくなるのかな?さすがにこういう奴らをあしらう術は知らないから困った。一応袋はすぐ作れるから、それでナイフがきても最悪な場所さえ守れるといいけど。

 などと思案していたら、自分から金を出せとは言いたくないのか、こちらに非があると言わせようと喚き散らした。これだからDQNは……仕方ない金を渡して満足させよう。



 そう覚悟を決めて口を開こうとした時、横から声がした。


「おぬし等、ここで何をしておるのかのぉ?見たところ3人で1人に、しかも武器も持たぬ相手に背中のナイフに手を掛けて脅しておったのか?」


「うるせぇ!ジジイは黙って……」


 怒鳴って追い返そうと横を見た男が最後まで言えずに固まっていた。その老人の姿というより、手に持つ柄の直径は15cmを超えてそうなまさに豪槍に。



ドンッ!と石突で地を突く音で周りが注目する。



 よく見るとこの老人、和服をアレンジしたような格好をしている。そして、顔は日本人だった。つまり、戦闘スキルを持った召喚勇者の1人ということだ。



 「さて、おぬし等には聞きたい事があるでの。ちょっと牢で頭を冷やしてもらうぞ?後は頼んだぞ」

 

 そう言うと周りから5人ほどが駆け寄り、3人を捕縛して連れて行ってしまった。とにかく、助かったってことでいいのかな?何も無くてよかったぁ。


 先程の地に響く一撃で沙里ちゃんたちも外の騒ぎに気付いて出てきていた。御者さんも戻ってきて、俺に必死に謝っている。沙里ちゃんも自分達が待たせた事が原因と謝っていた。


(まぁ俺が対処出来ていればなんて事はなかったはずなんだけどな)





「そろそろいいかの。そちらのお嬢さんも含めて話がしたいんじゃが」


「ああすみません。先程はありがとうございました!」


「同郷の好み、というやつじゃ。感謝の言葉は受け取った。それで十分じゃ。


 それに元々おぬし等に用があったのじゃよ。鍛冶屋に行ったが入れ違いでの。探しておったら先程の騒ぎが聞こえて寄ってみたらおぬしだったと言うわけじゃ」



 探していたという言葉に一気に不安になり、2人の前に立ち距離を取ろうと動いた。俺達戦闘スキルの無い者を切り離したはずが、今度は探していたなどと言われてさすがに暢気に構えていられるわけがない。


(勝てるとは思ってないが、せめて2人を逃がすくらいには…!まずはあの人の能力は)



 と、考えた時にはすでに鑑定が発動していた。




平林 源之助 65歳

状態:良好

▼      

HP:60/60   

MP:123/123  

STR:86

DEF:30

INT:41

DEX:76

固有スキル

 嵐槍(ストームランス)  

適合属性

 風



 ……あれ?ステータス自体は美李ちゃんよりちょっと上程度じゃないか。MPに関しては圧倒的にこちらの3人が上だな。訓練や実践をしてこの程度なのか?

 いや、ステータスは変わらなくても、固有スキルの強力さと身につけた戦闘技術は圧倒的に向こうが上だろう。決して油断していい相手じゃない。



 そんな葛藤をじっと見て、こちらの言葉を聞きそうな間を読んで再度話しかけてくる。



「別に取って食ったりはせんよ。ただ、おぬし等のよく知る姫様に頼まれたから様子を見に来たのじゃよ。トニア殿にはそろそろおぬし等に戦闘技術を指導出来る者が必要になるだろうから、ともな」


 少し声量を落としてこちらに話しかけ、知った名前が出た事で安心した様子を苦笑しながら見ていた。


「そんな簡単に信用してしまうのも、どうかと思うがのぉ」



 うん。今日は痛いところを突かれてばかりだな……はぁ。




 詳しい話がしたいと言う事で、自己紹介後に従士と2人で俺達の馬車を護衛するかのように付いて来て、そのまま家に招待することとなった。従士が「副長」と呼んでいたから源さん(と呼ぶように言われた)は結構いい立場の人のようだ。


 家に着いて、ついでだからと姉妹に全員分の晩御飯の準備をお願いし、俺は源さんとの話し合いを進めることにした。ちなみに、源さんの希望で和食だ。今日受け取ったパスタマシーンの出番はお預けになる。



「これがノーザリス殿下からの手紙じゃ。中を読んで欲しい」


「……確かに。という事は、しばらくは午後に源さんが私達の戦闘訓練を指導してくださると言う事でいいんですね?」


「そういう事じゃ。ああ、ワシへの報酬は飯じゃ!間に合えば昼もここで食べたいんじゃが、さすがに副騎士団長の身ではそこは難しいかもしれんが、来た時の晩は絶対ここでな!」


 なんでも姫様がこの話をする時に、トニアさんに持たせたうどんを出したらしい。急に出てきた日本の味に驚き、どこで食べられるか聞き出し、この条件を飲んだらしい。


 これ絶対2人とも分かってて出したんだろうなぁ。故郷の味が恋しくなった頃にそれを出して交渉とかえげつない事をしちゃって。でも逆に、それほど俺達のために動いてくれてるってことなんだろうな。ありがたいよ。


 ついでだから俺も便乗して、「晩御飯前はお風呂をいかがですか?」と勧めたらそりゃぁもう入れ食いだった。自分も作ると言い出し、近くランブさんに依頼するそうだ。




 晩御飯は希望どおりに焼き魚・うどん・ワニつくね・浅漬け・味噌汁もどき、そして最近美李が茶の木を育てて沙里が色々試して緑茶を完成させていた。さすがにこれは源さんも驚いていた。

 あと最近は小魚のわたを抜いてドライヤーの魔法で干し、にぼしのような物も作り、椎茸のほかにもだしが作れるようになったのだ。鰹節はまだだが、それでも魚からのだしはもの凄く美味かった。


 ここ数日戦闘技術は上がっていなくとも、個々の特性を生かした技術向上は目覚しい。




但し、闇属性で袋製造の俺は除く。


装備に袋挿し込んでただけだし。




 結局源さんは晩御飯の後に風呂も入っていって、明日から特訓を開始する!と元気良く帰って行った。従士さんにも土産運びを手伝わせながら。どんだけ日本食に飢えてたんだ……




 こうして翌日からは基本の型や剣と槌の模擬戦での訓練が始まった。



意外と頑張れるものですね!


次回は明後日までには書きあがると思います。

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