初めてのうどんと勇者たちの現状
よろしくお願いします
朝起きて外に出ると、昨日美李ちゃんが耕していた小さな畑に……もう芽が出ていた。いやこれ、芽というレベルじゃない。なんかもう少ししたら花が咲きそうだぞ!?
「昨日種を植えたのに!?」
「おはよーヒバリお兄ちゃん。どしたのぉ?」
まだ寝起きでぼーっとした美李ちゃんが、俺が作った袋にプランターを入れたものを持ってきながら答えてくれた。
「あ、ああ。美李ちゃんおはよう。あのさ、この畑って昨日種を植えたんだよね?こんなに早く芽が出るものなの……?」
んー?って首を傾げながら少し考えて(ぼーっとしてるだけ?)、ああ!と納得した顔になる。
「あのね、あたしが育てるとね、うーんと早く美味しく育つんだって。すごいでしょ!」
「へぇ、そういえば美李ちゃんのスキルは家庭菜園だったね。なるほど。で、そのプランターは袋閉じちゃってるけど大丈夫なの?収穫されていない生き物は入れられないはずなんだけど……?」
またもや首を傾げて、わからなーいと言って袋を開けて中に元気になーれ!と声をかけながら魔法で水をあげていた。いや、だからなんで袋の中で?植物は動かないから閉じられると納得するとしても、空気の入れ替えの出来ない中で枯れない理由がわからない。
後で調べてみたら、植物なら時間経過有り設定の袋に入れて閉じられる事が分かった。そして中では温度と一緒で空気も閉じた時と同じ状態を保てるらしい。すごいぞ魔法の袋!いや、スキルの袋か?
そんな話を2階で洗濯物を干している沙里ちゃんに外から話しかけていたら、美李ちゃんの畑や作物に声を掛ける行動は、スキルと魔法の融合技だとトニアさんが教えてくれたらしい。融合技なんてあるのか!
驚いていた俺に、わたしも融合技使えますよ?と言って、火と風と万能家事の融合技「ドライヤー」だと言って干したばかりのタオルに使って、2階から投げてきたタオルを受け取ったらすでに乾いていた。
魔法すごい!でも融合技って闇でどうすりゃいいんだ……?カモフラージュなら何か出来そうな気もするが、それは単体の発動で事足りるし融合だとちょっと分からないなぁ。
魔法の利用法を考えていたら、美李ちゃんは畑仕事を終え、沙里ちゃんは洗濯と掃除を終えて朝食の準備をしていた。やべぇ俺何もしてないぞ!?せめて、朝食の手伝いだけでも!
朝食を食べ終え、いつもの袋詰め作業を開始する。今日も納入予定より前にきっちりと終わらせ、また予備分やケチャップ・焼肉のタレ・マヨネーズ・ポン酢を作り仕舞っておく。沙里ちゃんはこれらも1人で出来るようになっていた。
受取に来た配達員に製品を渡し、片付けをして昼ご飯を準備する前にふとつぶやいた。
「そろそろパン以外の主食が食べたい………」
ああ、と納得し苦笑した沙里ちゃん。米が見当たらないから毎日パンだが、そろそろ何か欲しいよねぇ。
「そこで今日は、新たなメニューを試したいと思います。それは……麺です!」
そう、ここには麦粉はあるんだからやれるはず。この世界にもパスタはあるが、どうみてもすいとんの様な千切って入れただけの料理しかなかった。麺というのは見当たらなかったのだ。
一応工業用製麺機は扱ったことがあるのでパスタマシーンはその小型版だから原理は分かる。いざとなったらまたランブさんにお願いしよう。今はうちの発注品がまだなので、それが終わってからだなぁ。
なので、第1弾はうどんにしよう!だしは海のものはなくとも椎茸はあった。特に行商人や旅人達の間で使われる保存食の干し椎茸。これならばしっかりだしは出るだろう。
麺の材料は粉以外を大雑把に言えば、
・うどん 塩と水のみ
・中華麺 塩と水と卵
・パスタ 塩と卵(たまに少量の水)と油(オリーブ油)
となる。
なのでコストの安いうどんに決めた!
大きいボウルの中に麦粉を入れ、塩を混ぜた水を注いでよく捏ねて、一旦時間経過有りの袋に入れて踏む。とにかく踏む!この袋だとある程度力を吸収してしまうので、破れない程度に力を入れて踏まないとちゃんと捏ねられないのだ。
途中から美李ちゃんが踏みたい!と言ったので、先程の点を注意しながらやらせてみた。
踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み 踏み
10分くらやってもらったあと、丸めなおしてから30分放置する。
そして休ませた生地を打ち粉をした大きいまな板の上に乗せて麺棒で薄く延ばす。最後は折り畳んで適当な太さにざくざく切っていく。切れた麺に打ち粉を振ってばらし、麺同士がくっつかないようにしてほぐしてから時間経過無しの袋にいれて保存する。
中華麺が美味しくなるのは切り分けてから3日ほど熟成させたものがいいって聞くけど、うどんやパスタはどうだったか覚えてないな。まぁ大丈夫でしょ。
沙里ちゃんに少し仕入れてあった干し椎茸でダシを取ってもらい、醤油・酒と少量の塩・砂糖で味を調えて、その後でワニつくねタネで肉団子を作ってみた。
隣のコンロで俺が麺を茹でる。太めだから15分近くかかってしまったが、茹で終わったら水でぬめりをしっかり落として、あらかじめ魔石で用意しておいた氷を入れた水で一気にしめてコシを出す。
今回はかけうどんにするため、沸かし直したお湯に麺をくぐらせて湯切りをし、、深めの皿に麺・つゆ・ワニ肉団子・茹でたいんげん・刻みネギで盛り付けて出来上がり。
作ってる最中にやって来たトニアさんも座らせ、一緒にうどんを啜る。といっても、トニアさんは啜るという行動が出来ずに箸(どうしてもこれがいいと言ったので)で悪戦苦闘しながら食べていた。味の方は気に入ってもらえたようで何より!
せっかくなので今日も来られなかった姫様に、袋を使ってうどんのお土産を渡しておいた。もちろん箸もセットで!トニアさんはまだ箸が使えなかった事が悔しかったようで欲しがったのだ。負けず嫌いだなぁ。
「今日は皆様にお話があります」
食後のお茶を用意したトニアさんが、俺達がお茶で落ち着いたのを見計らって話し始めた。
「実は、ノーザリス姫様だけではなく、自分もしばらく訪れる事が出来なくなりました。しかしそう長い時間はかからないでしょうし、時折伺いに参ります。
つきましては、皆様の足が無くなるかと存じますので、ニング卿からの配達に来る者に、何か御用がおありの時は配達のついでとなってしまいますが、御者として付き添うように申し付けてあります。遠慮なくお使いください」
詳しい内容は言えないようだが、用事があるなら仕方が無い。それでも足を用意してくれるとかほんと根回しに余念の無い2人だよなぁ。素直にお礼を言っておいた。
「あ、それでしたらちょうどこのうどんを旦那様に届けて、商品になるか意見を伺いたいので戻る時に一緒に乗せて行ってもらっていいですか?馬車の件も挨拶したいですしね」
「わかりました。でしたら遅くなる前に今のうちに向かいましょう」
沙里ちゃんはまだ店には行きたくないだろうから、美李ちゃんと一緒にうどんの追加製造や魔法の練習をしていてもらう事にした。もちろん怪我や無理のない程度と念を押しておいた。
トニアさんに連れられ店に着いたが、旦那様は不在だがすぐに戻るとのことで店内で待たせてもらった。その間に料理人たちお願いして厨房を借り、うどんを振舞ってみたらそんなに悪くない反応だった。やはり啜る文化が無い所為か、彼らにこの麺では長すぎるのが不評のようだった。トニアさん以外でも確認が取れたのでこれは改良の余地あり、だな。
試食会が終わろうかという時に旦那様が帰ってきた。もちろん追加でうどんを作り感想を聞くと、箸というものは面白くてここでも置いてみるという事と、うどんの麺はこの半分の長さで明日から納品して欲しいとのことだった。
それならば、とつゆの作り方を料理人にメモを残し、麦粉の注文とうどんの価格交渉をその場で済ませておいた。交渉後、やはり直接つゆをもう1度作って欲しいと言われ、料理講習のようになってしまったがこれも売り込みのサービスということで!
うどんの一連の交渉が終わって帰ろうとしたら、旦那様に呼び止められた。珍しく執務室に通され、執事とトニアさんを含む4人だけの空気が少し重い……そしてトニアさんに目線を送ったあと話し始めた。
「すまないね。ここ数日殿下がいらっしゃらない事に関係しているのでね、今はドアの外も人払いをしてある。これは君達3人に関わるのだよ。
今城内が騒がしい事になっている。先日、騎士団付けの勇者が3人魔物に殺された。これは本人達が能力頼りで油断したせいなんだがな。問題は、第一王女が改めて親衛隊を設立し、その団長に勇者の1人が就任した。そして、騎士団の有り様を問題視し対立する形を取りつつあるそうだ。これに残りの勇者達は半々に分かれてしまったらしい。
そして厄介なのはここからだ。第一王女スロウスティ殿下は人族至上主義である天人教に属していると噂され、亜人を忌み嫌っておいでだ。第一王妃であるスロウスティ殿下の母キャロライン王妃を後ろ盾に軍を持つ、この意味は大きい。そして次期国王である第一王子ウェストム殿下も、現国王も抑えきれない現状は非常に危ういのだ。
……ああすまん、怯えさせるつもりで言ったのではなく、ヒバリ殿らは巻き込まれぬようにこれからは気をつけよ、とな。今は決して城に近づくのはやめておくんだぞ!いいな!」
そのフラグみたいな言い方が嫌だが、ここは従っておこう。なによりトニアさんが口を挟まず静かに見ていたんだからきっとその方がいいのだろう。でもこれだけは。
「トニアさん。姫様は危険な事はされていないんですよね?トニアさんが側を離れてるから今は大丈夫なんでしょうけど、これからトニアさんも来られないというと、これからが何か不安な気がします」
「はい。ノーザリス姫様は信頼できる者が付いておりますし、明日からは自分もお側を離れません。ですので、安心していただきたく申し上げます」
……危険な事に手を出そうとしてることは否定しないのか。トニアさんも亜人だ。つまり、第一王女側から見たら標的になりかねない。まぁトニアさんの実力なら大丈夫だろうけど。と、心配してもこちらが動くのは姫様を不利な立場にしそうだから、やっぱり待つしかないのかぁ。
「それと少し平行するが、勇者の1人が第二王女であるエストリア殿下とその従士を連れて、魔王を倒すと言って旅立ってしまってな。ただこちらは、単に冒険譚に酔っているだけの者達だからそう危険視するほどでもないだろう。
そしてもう1人、その者は闇の適合者であった男なのだが……こちらはその、城で粗相を働いたようでなぁ。侍女をかどわかそうとしたところで発見され、捕らえようとしたら逃亡したらしい。これも騎士団の品を貶める一因となっておるだろう」
と、旦那様から追加情報をいただいた。
うーん…勇者と言っても現代日本人だからなぁ。ちょっと何とも言えない申し訳なさがある。勝手に連れて来られたって言われたらその不満もわかるしなぁ。後者の奴は自業自得だが。
そして最後に馬車の件の確認とお礼を言い、結局トニアさんに送ってもらって家に帰った。別れ際に再度面倒見られないことを謝られ、身の回りに気を付けるよう言いつけて戻って行った。
旦那様から聞いた話を晩御飯後に姉妹に話したら、沙里ちゃんは俺と同じく不安が勝ってしまい、とにかくお互い1人行動はしないこと、戸締りはしっかりすることを美李ちゃんにも言い聞かせつつ励ましあった。ほんと1人じゃなくてよかったよ。
ここから2日は特に何事も無く……ああ、美李ちゃんの畑がもう収穫を迎えるというチートを見せてもらったか。あれおかしい!とにかく、いよいよ明日は装備や浴槽が届く。浴槽を置く場所は結局20畳あっても半分くらいしか使わない作業場の片隅い仕切り板を立てて部屋を作った。
どうせ排水考えたら水周りに近い方が排水溝も楽だからね。ちなみに、2人はすでに同属性魔石への魔力充填を覚えたらしい。これでエネルギー切れで使えなくなっても2人に頼めばいいってすごい楽になったなぁ。俺も何か役に立つ魔法欲しいよ……
とにかく、明日の装備の到着だ。
やっぱりこう、ファンタジーな装備ってわくわくするよね!
俺だって心は男の子だもんな!
それとお風呂、楽しみすぎる!!!
現在の1日の食品製造売上は、
受注数(1日分)※1袋10食分
猪バーグのタネ 75袋 11250G(4500G
ワニつくねタネ 90袋 9000G(3600G
うどん 3袋 660G( 120G
売上合計 20250ゴールド也(俺個人利益 8220ゴールド
としています。
数が増えたのは、取引先の増加(一部貴族も含む12件強)や取引先が個人宅で食べている、という設定です。今回からのうどんはS&び()の店のみです。