昼ご飯と残党狩り
「それでは、昼食会を始めたいと思います!順番に受け取って行ってくださいね〜」
と、ヒバリが呼びかけた。
声をかける前からすでに集まっていたが、ここでようやく食べられるのだと知らされると我先にと押しかけてきた。
が、事前にパウダらが立ちはだかり、ここから順に並べと言われて獣人達は素直に従ってくれた。全員に行き渡る量があると言われ安心したようだ。
問題は、敵対していた人族の方だ。
彼らは当然自分らも食べられるものと思っていたようで、大人しく並ぶ獣人達より酷かった。そもそもこれは獣人達への昼ご飯だと告げたに、だ。
いまだ自分らが何をしたかを理解していない輩がいる。
ガインッ!
そこへ再び大盾が振り下ろされた。
「あんたたち、自分で仕出かした事をまだ反省してないんだね?本当は獣人達が落ち着いたらこっちにも配る予定だったけどこんな礼儀知らずにあげるわけにはいかないよ!」
「横暴だ!」
「俺は何もしてないぞ!?」
ガインッ!
……盾は人を黙らせるものじゃないんだけどなぁ。
人族にも配る予定だったのはほんとだけどね。
「連帯責任だよ!ボクはこの中で1人でも獣人達に謝ってくれる人がいるかと思って見てたのに、誰もいかなかったじゃないか!自分が悪い事したのに平気な顔してご飯を奪おうなんて、ボクは絶対認めないからっ!」
ヒバリ、分かってるよね?
と俺の方を睨む。こっちは肩をすくめるしかない。
どうせ袋に入れておけばいいだけだから構わないし、
ユウの気持ちもよく分かる。まさか謝罪が0だったとは……
「ユウの意見に俺は賛成だ。こっちだって気分よく飯を食べたいのに、相手を虐げる気の奴等と一緒の飯だなんて願い下げですよ。それに、」
一番苛立っていたグループはやっぱりあの男に雇われていた集団だった。全員武具は取り上げているが、まだ40人ほどいて幅を利かせている感がある。
もちろん全員ではない。だが、確実に半数はこちらを睨みつけている。こりゃぁもっと隔離しておかないとだめかなぁ。
俺と目を合わせても睨む事をやめない人を鑑定して名前をメモしていく。
全部で17人、捕縛追加予定として後でトニアさんにメモを渡しておいた。
「別に食料は各自用意してるんでしょう?なのになんで迷惑をかけた側の人達に分ける必要があるんですか。獣人達から食料を奪ったヤツがいる事も聞いてますからね。俺達はそんな人族の暴虐を許して欲しいと思って作ってるんです。食べたきゃ自分達で作ってくださいよ」
……なんてわざと煽ってみたわけで。
しょうがないじゃん、裏でトニアさんが煽れってせっつくんだもん!
うん、さっきの17人は確定だな。トニアさんが流星錘とカモフラージュの袋を準備してるのが見えるけど、ひとりで行かないでね?
今日の昼ご飯は、昨日大量に作っておいた回鍋肉にした。食材が均一になるように、バットごとに決められた量の野菜を入れ、同じ枚数の肉を焼いて混ぜて味付けをする。
一皿で5〜6人前の目安にしたので、皿ごとに余裕を持って4人ずつで食べて
もらった。あとはおにぎりかパンを選んでもらって、味噌汁は単純に根野菜の
具にした。海のだしと野菜の旨味でシンプルな味付けだ。
お代わりは1回だけ受け付け、粗相をした人達に渡す分だったものを使って食べてもらった。どうせ明日は違うもの作りたいしいいよね!
「いやー、おにぎりかパンどうぞって言ったけど、まさかおにぎりとパンの両方ばかりになるとは思わなかったなぁ。果実水も少ししかシロップ入れてなかったのにすっごい好評だったし」
「回鍋肉は足りてよかったですよね。あと、果実水は氷が入ってたのがよかったんですよ。ずっと緊張させられてて喉が渇いていたんでしょうね」
ある程度後片付けをしてから自分たちのご飯、と思っていたら、獣人達が食べさせてもらったお礼だと手伝いを申し出てくれたので思いのほか早く片付け終わった。
あとはこうしてまったりと俺達が食べている。
……だけのはずだったが、先に面倒事を済ませるべく動いた。
獣人とは逆側の人達は、結局それぞれが用意した飯を食べていた。特にあの要注意集団はこちらの影になる位置に移動したようだが、それは俺のレーダーマップで皆にも筒抜けだ。
トニアさんを中心に耳打ちをして、一旦馬車に戻ってから外に出て、徐々に森を移動して近づく10人へとトニアさんとベラだけで向かう。お互い剣1本だけの軽装備で木々の影へ消えた。
傍から見ればトイレへ行ったと思う行動だ。
男達はそれを好機と見た。
食事する俺達の馬車へ近づく予定だったが、まずは女を人質にしようと方向を変えた。2人だけで鎧もなく剣のみ、そしてトイレならば無防備な恰好になるはず。
慎重に、息を殺して目標を補足し近づく。
あと10mもない。次に近づいても気付かれなかったらいくぞ、
と目線を交わしてゆっくりと距離を縮める。
「……は?」
間抜けな声が先頭の男からこぼれた。
さっきまで確かに見えた地面が、そこにはなかった。
「ぐぇ!」
「ぎゃっ」
「待て!押すな!」
「俺じゃな」
次々に声を上げる男達。
だが、誰もがさっきまであった地面に足を着けずに転げ落ちていく。
「はーい、ご苦労さんでした。おやすみなさい」
男たちの文句も聞かずにそう宣言され、10人は意識を刈り取られた。
「ふう……ご苦労様でした。あとは残りの7人ですね」
トニアとベラの男達のさらに後ろから現れたヒバリとピーリィ。実はハイディングでトニアの影に潜り込んで移動し、男たちが来る前に落とし穴袋を設置してから、ヒバリはピーリィに抱えられて空へと移動した。
あとは後ろに回り込んでトニアとベラに気を取られた男達をピーリィの風魔法で落とし穴にご招待した、というわけだ。
1人以外さっさと個別に袋に放り込んで、残り1人を連れてにやけた7人の後ろから声をかけた。ずっと俺達の馬車周りばかり見ていたせいで、他のパーティですら静かに見守っていたのに、それにも気付かなかったらしい。
「お前ら、なんでッ!?」
「なんで、とはなんでしょう?」
「な、何か用かって言っただけだッ!」
トニアさんの威圧に慌てて誤魔化す男。
「ああ、用はありますよ。俺達を狙うようにこいつ等にやらせたのは聞きました。残念ですけどあなた達も帝国領まで拘束します」
「チッ!」
座っていた7人はすぐに動こうとしたが、俺達は全員トニアさんの少し後ろにいて、そのトニアさんが流星錘を手(正確には手に嵌めたグローブ型袋)から取り出して7人を横薙ぎにするよう操る。
7人に引っかかった紐は、そこ軸に分銅が自身の重さで勢いよくぐるぐると7人を巻き付きながら回る。やがて紐が分銅まで到達した所でトニアさんが紐を縦に回して分銅に引っ掛けてから引っ張った。
「おわぁ!?」
縛られた7人は、突然の横の力にバランスを崩して全員転ぶ。
「うわぁ……なんかすっごい捕り物帖って感じの決め方だったな」
「とりものチョウ、ですか?」
「ほら、前に話した忍者がいた時代の、警官……えっと警邏って言えば分かりますかね?悪い者達を取り締まる人達の捕縛術みたいでした」
「ニンジャの!それは嬉しいです」
7人の男達を足蹴にしながら喜んでるけど、
それはそれであまりピーリィの教育上見せたくない絵面だなぁ。
その後さっさと意識を刈り取り、俺達の馬車に連行(トニアさんとベラで見せしめのように引き摺った)して個別に袋へ放り込んで、他の奴らと纏めた大袋に入れておいた。
「あの方たちはずっと態度も悪かったし早めに対処出来てよかったと思います」
トニアさんが姫様に報告し、俺達も昼ご飯の続きをして片付けた。
「現在何名を捕縛されたのですか?」
「あの100人くらいいた連中の20人ちょっとを残した、それ以外全員です。
カールという男を含めて、えーっと……今のを入れて74人ですね」
「彼らの馬車は運べるのですか?」
「それは残りの23名が1人ずつ乗り込んでも余裕がありますから、当人達にさせましょう」
連中の馬車は合計20台だったっけ。
それなら3人は交代で休めるってことだな。
「どうせあと2日もないんでしょ?それくらい出来るでしょう」
俺もトニアさんと同じ意見だったので、そう言っておいた。捕縛した男達には水とパンは放り込んであるし、この23人は外で自由に出来るんだから馬車くらいは頑張ってもらわないと。
あ。魔術師の連中は水大変かも……ま、いっか。
1日2日何もなくても死なないよね。俺も仕事で経験あるし!
昼休憩を終えて、まずやった事は森から来る魔物退治だった。
獣人側にも先ほど17人が襲い掛かったので捕縛した事を伝えてある。
「さっきあいつ等に罠を仕掛けに行った時反応があったんで、
今のうちに態勢を整えて迎え撃ちます」
「それも貴方達だけでいいと?」
獣人達はその様子を見ている。
準備してる俺達にまだ不安が残るのだろう。
「魔物はホブゴブリンが10体。それ以外はいないようですから問題ありません」
準備が終わったトニアさんが答える。
「あ!もし手が空いてるなら、奴らが追い立ててる豚を仕留めてくれますか?そうすれば今晩の豚料理に使えますからね。肉料理でやってみたいのがあるんですよー」
「ほぉ……」
さっき食べた昼だけじゃなく夜もいい物が食べられると考えたからか、獣人達が俄かに活気付く。俺としてもレーダーマップに映る5匹が食材になるなら逃す手はない!
俺達全員の準備が終わって並び立つと、
どこからか「おおー!」と声が上がった。
「お揃いのローブ姿が並ぶとカッコいいよね!」
へへっとユウが笑って隣に立つ。
準備をして待つこと10分弱。
「……来た。では、豚はそのままそちらに流すのでお任せします!」
装備を整えた獣人達が槍を中心に構えて答える。
「ユウ、初撃は任せた。派手にやっちゃっていいよ!」
「うん……行くよッ!」
ごうっと体全体に薄く炎を纏い、ベラが野生の豚を水防御で同じ方向へ誘導した直後に、森へ向かって突っ込んだ。
「ッんだらぁ!!!」
盾の先端を膝くらいの位置まで低く斜めに構えたまま、
炎の軌跡を残しつつ一気に駆け抜けた。
少し遅れて触れてしまった木々と、突然の事に何も出来なかったホブゴブリン6匹が、体を燃やしながら宙に舞った。
そこに、舞い上がってまだ生きているホブゴブリン目掛けて沙里ちゃんの火魔法とトニアさんの風魔法が襲い掛かる。なすがままの魔物達はただ魔法を食らってその体を崩して消えていった。
「残り4匹!来るぞ!」
俺はボウガンを構え、左右2匹ずつ出て来たホブゴブリンに対して、手前になる右2匹へ向かって順に矢を放った。どちらも目に直撃とはいかなかったが顔を捉えた。
矢が刺さりもたついた2匹に向かって美李ちゃんが飛び込んで鎚を振り下ろす。1匹はそれで倒れ、もう1匹は振動で転び、美李ちゃんの2撃目であえなく沈む。
もう一方の2匹は、豚を誘導するために前に出ていたベラに狙いを定める。そこへ空中からピーリィの風を纏った鉤爪で背中を斬り付けられて慌てて振り返る。
が、これが悪手だった。
ベラの目の前で後ろを向いたホブゴブリン達に容赦のない槍の刺突連撃が見舞われる。またベラの方へ振り向けば、空からのピーリィに背中を抉られて1匹が力尽きた。それと同時にベラの槍によってもう1匹も崩れていく。
「やー、終わったみたいだね!」
派手に森に穴を空けたユウが戻ってきた。
ついでに美李ちゃんが延焼を防ぐために水魔法で森に撒水している。
「誰も怪我してないかな?」
それぞれが無事だと笑顔で答えてくれた。
今回は姫様の出番はないが、一応横に並んでもらった。
戦闘力がないと舐められても困るから、
一緒に戦場に立てるというアピールだ。
「あっちはどうかな?」
スルーした豚5匹は、獣人達によって3匹はすでに倒されていたが、
残り2匹は若い戦士の戦闘訓練に使われているようだ。
俺としては、あまり苦しませずに〆て血抜きして欲しいんだけどなぁ。
やがてすべての豚が倒れ、若い戦士達は解放されて緩んだのかどっとその場で尻もちをついていた。そしてそれを熟練戦士に叱られる流れだ。
「流石でした。まさかまったくの無傷でああも簡単に終わらせるとは。その、女パーティにヒバリ殿がサポーターという話を人族から聞いたのだが、ヒバリ殿も戦えたのですな。ああいや済まない!気を悪くしたなら謝罪しよう。そして見事な命中精度でした」
「いやいや、俺はほんとサポーターな役割なんで気にしないでください。
でも、ボウガンは鍛えてたのでそう言って頂けると素直に嬉しいですよ」
自分が何を言ってるか気付き慌てるパウダに苦笑いが出てしまったが、
ボウガンを褒められた事は嬉しかったのでそれを伝えておいた。
「あー!待ってください!内臓も使うので捨てないでください!」
ふと見ると、沙里ちゃんが獣人達の豚解体を始めた所へ飛び込んで行った。
おお、内臓を捨てられたらもったいない!ここは俺も参戦しよう!
「すみません、俺も豚の方に行ってきます!」
そこからわーきゃーと騒ぎながら皆で綺麗に解体して、肉はこちらに1頭分貰って残りは任せた。流石に袋に入れて腐らせないから大丈夫とは言えないし。
その代わり、普段煮込むだけで大半は捨てるという内臓と、ただ捨てるだけという舌と骨はこちらで貰えた。
沙里ちゃんと2人でほくほく顔である。
そんな俺達の様子を楽し気に見ていたパウダに、
引き締まった顔のノーザリスが話しかけた。
「では、ここを片付けたらこの先の魔物に挑みます」
「はい。甘える形になり申し訳ないが、我らは後ろの人族に警戒させていただく。ご武運を!」
ノーザリスと、横にいるトニアにも丁寧に頭を下げてから、
これから移動開始だと声を上げて準備を促していた。
「こちらも油断なく準備をしましょう」
「はっ」
ノーザリスとトニアもヒバリ達の元へ歩み始めた。
設定投稿含めてですが、ついに100話いきました!
20万PVや評価を付けて頂いたりブックマークも200人もいらっしゃるようで、正直こんな拙い物語を読んで頂ける方が存在されていると思うと嬉しい限りです。
当初からの設定上延々続く物語ではないので、目指すゴールのハッピーエンドへ向けて投稿させて頂きたいと思います。
これからも拙作をお読み頂けたら幸いです!