袋詰め製品の販売開始
第1章の最終話となります。よろしくお願いします。
翌日、旦那様から製品取引成立と1日の発注依頼書が届けられた。
今日から本格的な販売開始である。
朝一番に食材の搬入と共に使いの人から伝えられ、さっそく製造に入らせてもらうことにした。納入期限は、晩御飯〜夜に使用したいので昼過ぎまでに旦那様の家に納品し、そこから配達を出すらしい。
受注内容は、
猪バーグのタネ 16袋 2400G
ワニつくねタネ 21袋 2100G
売上合計 4500ゴールド也(俺個人利益 1800ゴールド
取引先が6件の割には、初回としては多めかな?と思ってよく見ると、旦那様の店でも発注していることがわかった。7件なら、猪バーグだと1件2袋=20食弱(1人前100gはやはり少ないらしい)だからありえるのだろう。
ワニつくねの方が発注が多いのは、宿屋兼業の料理屋は大抵夜は飲み屋となるので、つまみとして安く販売できるつくねは需要がありそうだからという事らしい。ランブさんを思い出して納得してしまった。
「これぐらいだったら…ワニ肉を擂り潰すのに手間を考えて……
タネ製造で2時間、袋詰めで30分。2時間半+掃除や仕込み・袋作成。うん、4時間もあればいけるな」
なので、俺は午前中は製造稼動させて昼過ぎに着く様に店へ納品という、これまでと同じリズムで生活できそうだった。リズムを崩さないで生活出来るのはうれしいなぁ。
ちなみに、この倍の発注量が来てもやる事は変わらないのでそう大差ない稼働時間で済むはず。結局は準備と片付けの手間がかかっても、同じ事を繰り返す作業にはまだまだ余裕を持っているだ。
袋詰め作業は、台量りの台に左側を歪ませて先を細めた”滑り台”のようなボウルを取り付け、その細まった部分に漏斗と広めに作られた下部に袋を通して左手に持ち、量りに取り付けられたボウルからヘラで漏斗へタネ流し込んで、袋に詰め込む形だ。充填と呼ばれる作業である。
そして製造の最後は製造日付刻印を袋上部のチャック脇に押すことにした。これは食品である以上、たとえ開封前は時間経過無しとはいえ先入れ先出しを徹底してほしいからだ。これを守ってもらえれば、いざ時間経過有りの商品を売る場合にも気にしてもらえるはず、と。
あとはさりげない鳥のマークでうちのブランドとして覚えてもらえるといいなぁ。
なんて思っていたりもする。
「うーん…さすがに1kg用袋1500枚、200g用袋500枚は多すぎたかなぁ?でもMP増量計画を思えば作った方がいいし。朝一番でやらないと回復時間がずれるから、やっぱ今作っておくか!」
1kg用を1000枚を40分で作り上げ、今日の分だけ残してあとは在庫として片付けておく。まだソースは販売予定がないので200g用小袋は今日は作らない。MP余ったら作ってもいいんだけどね、腐るものじゃないし。
受注分全てを作り終えてから焼肉ソースとトマトソースの製造して袋詰めをし、片付けと仕込みを終えた頃にはもう陽は昼に差し掛かっているようだった。初日なだけに予定時間オーバーしてたか!
「やばっ!もうそろそろ家を出ないと間に合わないな。さすがに初日から納品遅れたら信用問題で躓いちゃう!えっと、リアカーは表に出しておいたから――」
「火の元よし。戸締りよし。では、出発だ!」
リアカーに乗せられた複数の木箱の中には、今回の製品が入っている。あえてリアカーを使ったのは、俺が作った袋は重量を軽く扱えてしまうが実際の重量と同じ扱いをしないと、傍目から怪しまれてしまうからだ。
店に着く頃にはランチの忙しさも終わり、片付けに追われている店員たちの姿が見えた。そして隣の屋敷から旦那様がやってくるのに気付き、店に入らず直接旦那様に挨拶に行く。
「おまたせしました。今回の納品分をお持ちしました」
「うむ、ご苦労!先日取り決めた価格のとおり、そこからヒバリ殿の売上金である1800ゴールドは用意させてあるので帰りに受け取るといい。これで家でもハンバーグが食べられるな!いやよかった!」
「ありがとうございます!旦那様には色々お世話になっております。
それと食材の発注依頼書渡しや次回の受注書受取りは執事さんにお願いすればいいですかね?」
「そうだな」
と、横目に合図を送り執事さんがすっと歩み寄って渡してくれる。どうやら売上金も一緒に渡してきたようだ。小袋に金貨1枚・大銀貨1枚・銀貨3枚の1800ゴールドが入っていた。
(うおー!初日から金貨2枚近く!10日に1度の配給金軽く超えた!)
必死に平静を装いながらも「確かに」と金額に間違いが無い事を告げ、こちらも食材依頼書を執事さんに渡して確認してもらう。
そして製品への注意点をまとめた紙を渡しながら説明し、各取引先へと伝えるよう引き継いでおく。
書いておいたのは、
・この袋には防腐の魔法がかけられていて、その付随効果で見た目より軽くなっている
・内容量は実際に袋から出して確認すれば1kg超えている
・袋を開けると防腐魔法は解除されるので、開封後は必ず容器に移し替えて冷蔵保存
・開封してから翌日までには使い切る
・上記を守らなかった場合の食中毒には対応しかねる
・袋上部に製造日付を刻印してあるので日付の古い順から使用する
といったものだ。この袋は繰り返し無しなので一度開けたあとは効果が切れる事をしっかり伝えておかないと、また使えると勘違いされるのを防ぎたかった。
さらに見た目と重さが違うという違和感も払拭し、生の食材である以上足が早い事も伝えておかないと食中毒問題に直結してしまう。俺なら鑑定で腐ってるか分かるけど、それが出来ない人には注意を促す以外はない。
でもそこはさすがに料理屋としての知識もある人達が相手だから、注意さえしておけば理解してくれると信用するしかない。まぁ貴族である旦那様相手にそんな下手は打たないだろうけどね。
ついでに旦那様に焼肉のタレパックを渡し、「牛や豚を薄切りにして焼いてこのタレで食べてみてください」と、次の商品にしようと思っている事を話しておいた。こちらはまだそこまで考えてはいなかったけど、売上金を仕舞う時に目に付いたからついでだ。
そういった話をしている間に配達をしてくれるのであろう御者らしき男がリアカーの荷物を全部載せ換え、その脇から姫様たちが向かってくるのが見えた。
「ごきげんよう、ヒバリ様。本日無事に業務が済んだようでなによりです。そしておめでとうございます」
姫様に続き3人からも祝いの言葉をもらい、少し照れながらもやっと始まったんだなと実感していた。
「ありがとうございます。姫様や旦那様を始め、ほんとに皆の協力がなければ出来なかったです。もう一度、ありがとうございます。まだまだこれからですが、どうぞこれからもよろしくお願いします!」
姫様たちとの修練があると言って旦那様と別れ自宅へと戻る。この日は各々覚えた魔法を使い続けてMPを半分ほど減らして過ごした。そして夕方には「せっかく商売が始まった初日だしこんな日に寂しく1人で食事したくないから是非」と晩御飯に誘っておいた。
(姫様たちは快く招待を受けてくれたけど、こういうのは最初に言っておくべきだったなぁ)
などと一人反省会をしたが、すぐに「美味しく食べてもらおう」と気合を入れ直した。沙里は今日も手伝ってくれるらしい。万能家事のスキルを持つ彼女の手伝いはほんとに助かるよ!
「今日はハンバーグのタネを使ってオムレツにしよう!」
「やったー!オムレツだいすき!」
メニューを言った途端、すぐに美李ちゃんから喜びの声が上がった。やっぱりこういうのが好きだったかー。俺も高校の頃弁当作ってたが、冷凍食品の挽肉入りオムレツ好きだったんだよな…
懐かしい気持ちになりながら、まずはタネの挽肉をそのまま炒める。横のコンロでは沙里が卵を焼く準備をしていた。手順が少なすぎた所為か、沙里はすでにサラダやがらスープを使った野菜スープまで作っていた。仕事早過ぎ!
「仕上げは任せてください!オムレツは自信がありましたが、このスキルのおかげでさらに上手に出来る様になりましたから!」
「お、おう。じゃあお願いしちゃおっかな〜」
と、ちょっといつも以上に気合十分な沙里ちゃんに圧されつつ、後をお願いして美李ちゃんやトニアさんに促されて席に着く。手持ち無沙汰になってしまった俺に姫様が話し相手になってくれた。
「皆様、ご自身の努力で商売を始められたヒバリ様を祝いたいのですよ。ここは是非受けてあげてくださいね」
「いやぁ、自分のみで出来た事じゃないし、むしろ協力してくれた皆にお礼という意味でごちそうしたかったんですがね」
「ご馳走でしたらここ最近ずっとしてくださっています。今日のヒバリ様は主賓ですので大人しく座っていてください」
「そうですよ。私も含めてお祝いしたいのです。今回はここから動かないでくださいね?さあ、これでもどうぞ」
まるでお姉さんのような口調になっている姫様とトニアさんに逆らえず、トニアさんに出された野菜スティックにマヨネーズをつけかじってごまかしておいた。俺の方が断然年上なのにまるで弟扱い!まったく抵抗できん…!
オムレツだから焼くのも早いので、沙里ちゃんの手際のよさもありすぐに晩御飯の準備が終わる。全員で仲良くオムレツをいただき、皆で片付けて、今日も楽しい時間を過ごせた事に感謝を伝えて皆を見送ってからベッドに入った。
これでやっと生活基盤が出来た。あとは堅実に商売を進めれば売上も伸びていくはず!
これからどんな新商品を出そうか、加工所や器具の今後はどうするか、色々と考えては期待に胸を膨らませていく。
「まずは主食をどうにかしたい。さすがにパンだけじゃ飽きる!米は見当たらないんだから後回しにしても、麺なら出来そうな気がするなぁ。
とにかく、今の商品の売上向上と新商品を考えよう!資金も溜まるだろうから、作りたい器具の洗い出しから始めてみるか。よーし明日も頑張るために寝よう!」
この世界でやっていけるかもしれない。
戦闘スキルが無い上に嫌われ属性の闇。
一時は見捨てられるんじゃないかとビクビクしていたが、この袋詰めのスキルと工場の経験で生きていける実感が湧き、今後の生活のために袋詰めを続ける事を気持ち新たにヒバリは眠りにつくのであった。
第1章終了になります。
次話から第2章がはじまります。
まだまだ拙い文章ですが、よろしければ読んであげてください!