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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第1章 異世界で食品製造はじめました
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プロローグ

なんとなく始めてみました。自己満足な物語ですがどうぞ~

カチッ シュー...カチッ ピ! バクン...ピー パカッ



「はぁ……次の休み明けからまた夜勤だな」


 独り言を呟きながらも作業する手は止めない。もはや自分が機械の一部なのでは?と思うぐらい、流れ作業に体を動かして行く。袋をノズルに少し差し込み、はじくように棒のスイッチを入れ充填しては隣の熱シーラーに袋の上部を入れて、足元にある空気式のスイッチを押して袋を熱で圧着する。そして冷却チラー槽へと落し入れて冷やす。全自動の充填機もあるが、どうしても品質にムラが出来やすい物だけはこうして人が充填するしかない。


(いつの世も「人の器用さはまだまだ機械には負けませんよ」ってーことだねっと。)



 そんな事を考えている俺(木沼 雲雀 27歳)は、もう10年近くこの食品生産業界に勤務し続けてきた。そんな体に無駄な動きは少ない。今現在は加熱製品室のリーダーだが、この職場は2年単位で5種の担当部屋をローテーションさせているので、俺はほぼすべての部屋を回ってきた。全部じゃないのは、間に転勤が入ったからだ。


 

 幼い頃に離婚による父子家庭。だらしない父親を見てきたため、家事の他に高校時代からファミレスでアルバイトをして貯金をし、そのバイトからの伝手で卒業後に食品工場へ就職した。5年ほど勤務した後、他工場への転勤の勧めに従い地元を離れ、憧れの一人暮らしを開始。今は独り身の良くも悪くも自由を満喫中だ。といっても、休みは平日で土日も祝祭日も無い上に、残業が多くてなかなか遊べない社畜様だけどね。





「さて。そろそろ寸胴も空になりそうだし、これを詰めたら継ぎ足して……って、何だ!?」



 急に機械が眩しい光に晒され、爆発でもするのか!?と逃げようと後退りをして気付く。



「これ、俺が光ってるんじゃないか!?」



 ありえねぇ!と、言う間もなく光は爆発するように弾け、雲雀の意識もそこで途切れた。














「「「ワァーーー!」」」



という歓声が響いてきた。



「なんだ?何が起きたんだ?俺助かったの!?」



 徐々に目が慣れてくると、そこはやたらと天井の高い大広間だった。調度品や絨毯を見ると、ダンスホールと言われれば納得しそうだ。さっきまでの蒸気と匂いで溢れた工場の中じゃないのは確かだ。



「ようこそおいで下さいました、勇者様方。そして、この度の突然の召喚、誠に申し訳ありません」



 混乱して立ち竦んでいた俺に、澄んだ綺麗な声が聞こえてきた。声の方を向くと、壇上には銀色の長い髪を前に垂らしながら頭を下げている子がいた。



(綺麗な髪だな……きっとあの子は顔も綺麗……いや待て”様方”?)



 --やっと周りを見るくらいは落ち着いて来たぞ。


 制服を着た子、私服、背広、部屋着、甚平にランドセル。様々な人が17人。その周りには中世の騎士を思わせる鎧に槍・盾を持った大勢の兵士。気のせいか視線の多くは俺に向いてないか?



 そこで改めて自分を見る。


 全身真っ白の食品作業用の防塵制服・白い長靴・白いマスク・青い食品用手袋。



「………俺だけこんな格好かよおおおおおおおおお!?」








 声を出して叫んでしまったことで、今まで固まっていた他の召喚者たちもこちらを向いてきた。俺を見て派手に指差して笑う奴や一旦見れば興味を無くす奴と様々だった。勿論近くの兵士は警戒したままだ。


 俺が声を上げた事を皮切りに


「ねー、ここどこぉ?うち約束あるから早く帰りたいんだけどぉ」


「なんだよ今いいとこだったのに!あのアタリ台取られちまう!」


「ちょっとこんな格好で人前とかどんな罰ゲームよ!?あいつよりマシだけど」


「スマフォの電波ないよ?どこに繋げばいいのこれ」


「俺様のPCどこいった!?くそ、掲示板に書き込んで炎上させてやるぞ!」



 半数が騒ぎ出し、数人は考え込み、残りはどうしたらいいかも分からない様子だった。

……おい、今1人俺の格好の事言った奴いたな?事実だから悔しくないけどさ!





「皆様、突然の事に戸惑われるかと思いますが、まずは私の話を聞いてください。」



 また凛とした声が響き渡り、全員が銀髪の少女に注目する。あ、やっぱり美人さんだ。



「皆様をお呼びしたここはポートフォート大陸の西にあるシルベスタ王国です。そして私は国の第三王女ノーザリス・シルベスタ。今回の勇者召喚の魔法を使い、固有スキルを持つ方のみを対象とするため、スキルを持つ方の多い地域を選択し実行いたしました。

 そして、召喚をした目的ですが、現在大陸では今まで以上の魔物が出現しかなりの被害が出ています。これは過去に勇者が封印されたという魔王が復活したのではという話となり、手遅れになる前に初代の勇者召喚に倣って皆様をお呼びしました」



 魔法!?魔物!?魔王!?つまり、ここは異世界でゲームみたいに剣と魔法で戦うと?

これが現実なら俺達死ぬだけじゃないか?無茶言うなぁこのお姫様。



「そもそも俺達の世界じゃ魔法も魔物もないのにどうやって戦えっていうんだよ!?」


「それにこんな所でどうやって生きていけばいいの?私達の常識は通用するの?」


「お、俺も魔法使えるのか!?やべぇwwwww」


 

 さすがに周りの人も危機感を覚えたらしい。1人興奮してるやついるけど。

そしてその隙にこっそりと手袋とマスクを外しておく。よしバレてない。あ、兵士は一瞬睨んできた。




「先程も申し上げましたが、皆様は固有スキルをお持ちです。これは皆様のこれまでの生き方が反映されたスキルを持つことが多く、以前召喚された勇者達は全員が翻訳の魔法付与と戦闘用スキルを持っておりました。こちらの言葉が通じるのがその証拠です」



 なるほど。戦う事が前提で、そのスキルを持つ事が分かっているから同じ世界から召喚したわけか。そして言葉も理解できるのも魔法の付与ってやつの仕業か。しかしだからといってほんとに戦えるのかも疑問なんだがな。なにせ経験ないんだし。



「そして、これは召喚された方たちに限った現象なのですが、こちらの世界の人とは違いステータスの成長率がかなり高いのです。初めは確かに周りにいる兵にも敵わないでしょうが、数日もあれば超えられると言われています」



 おいおいこれって所謂チートってやつじゃないのか?強力な戦闘スキルに成長が早い体、これならなんとかなりそうだな!俺だって男の子だ、剣と魔法のファンタジーに憧れるに決まってるじゃないか!ちょっと興奮してきた!



「……最後に、これは大変申し訳ないのですが、今回は光の適合者である私と初代勇者が残した召喚の宝珠を用いて行いました。しかし、送還させる魔法は伝わっていないため、すぐにあちらの世界へ帰す事が出来ません。これは初代勇者がこちらの世界に残る決意をし、このシルベスタ王国を建国したため実行されなかったのです。

 これについては王宮魔導士・研究者が総出で解明をしていますので、お待ち下さいとしか申し上げられません。勝手とは重々承知しております。しかし、ここは皆様にお願いするほかない事はご理解いただく以外お答え出来ません」



 再度頭を下げるお姫様。なんか可哀想になってくるな。これは俺が男だからなのかね?

 周りを見ると、混乱している人の方が多くなった気がする。理解は出来ても納得はできないよね、うん。



「そ、そんな事より!お、俺も魔法が使えるんだよな!?どうすればいいんだッ」



 ちょっと背が低めのこの小太りの奴(草野)、魔法って聞いてからずっと鼻息荒いんだけど。こういう奴に魔法使わせて大丈夫なのか心配しちゃうよおじさん。


 ……こう言うとほんと自分がおじさんになっちゃうからやめよう。おじさんちがう。





「スキルに関しては、これから初代勇者の残した宝珠を使って”鑑定”させていただきます。これによって皆様がどういった道に進むか、判断のひとつとしていただくのも良いでしょう。まずは皆様もご自分の力を知りたくはありませんか?質問などはこの後いつでも時間を作りますので、今日は鑑定を済ませて一旦お休みいただきましょう。では、準備を」



 ノーザリス姫が横を向くと、複数の従者が広間の前方にテーブルと宝珠を用意した。



 そして魔術師のような格好をした男と、それを左右守るように立つ兵士。なんか占い師に占ってもらうような形で落ち着いた。そして促されるように一人ずつ前に出る。ちゃんと列を作って並んじゃう辺りが日本人の性ってやつかね。



「あなたの固有スキルは、嵐槍(ストームランス)という槍術ですね。そして風の適合者でもあるようです」


「ハッハッハ!こんな老いぼれに風とは面白い!槍はわからんでもないがのぉ」



 二つ名でのスキルだと!?じーちゃんかっけー!これは自分のも楽しみになってきたぞ!





 4元素魔法付与の剣技や弓特化・魔法特化・または魔法適合はないものの持ってない剣を操るスキルなど、種類は様々だった。

半分くらい鑑定が終わり、いよいよ俺の番だ!こういうのはチートってのが常識(?)だからな!



「……えー、あなたの固有スキルは、えっとですね」


 

 おかしい。なんだか困ってるみたいだぞ?もしかしてそれほどすごいのか!?



「ゴホン。えー、スキル名は……鑑定、ですね。これは商人なら大抵持っているものです」



 ……は?一般スキル?固有スキルじゃないの???



「ああ、もうひとつあります。これは……?」



 なんだよちゃんともうひとつあったのかよ!もったいぶるなよびっくりするだろ!



「スキル名は、袋詰め(パッケージング)……ですか?どうやら魔力で作った袋に物を入れて封を出来る、と。

強度も大きさもさほどではないようですな。これで戦闘など出来るのでしょうか?」



 呆然としてたら、逆に聞かれちゃったよ!そんなの俺が知りたいよぉ。なんで異世界まで来て袋詰めなんだよぉ。そんなんで戦闘なんて出来るわけないじゃん。どうすんだよこれから……



「最後に魔法適合ですが……闇、ですか」



 明らかに落胆している魔術師の男。姫様が光って言ってたし、もう嫌な予感しかしないよねこれ。周りの兵士の目も驚愕と嫌悪を感じるくらいだもんダメだこりゃ。


 唯一姫様だけは嫌悪感を持っていないようだが、ちょっと憐れんでるような目をしてる。これはかなりやばい状況になった。これからどうやって生きて帰るかしっかり行動しないとだ。


 まずは自身を鑑定しつつ、色々と試してみるが……何かこれおかしい?





 そんな思案に耽っている間に、他の人も鑑定が終わったようだ。



 よく見ると女の子2人も戦闘スキルを持っていなかったようで、前でお姫様に相談に乗ってもらっている。

 そうか、俺以外にもそういう奴いたのか。女の子にはきついだろうし、お姫様も親身になってくれているから大丈夫かね。



 そして鑑定前は元気だった小太りの草野君、彼も魔法は闇のみの適合者だったようで落ち込んでいた。いや、よく見るとブツブツと今後の計画を練っているようなので邪魔はしないでおこう。お互い頑張ろうな!



「皆様の鑑定結果を拝見いたしました。戦えるものは出来ましたら明日にでも訓練を開始していただきたく思います。詳しくは騎士団長であるハワードに任せます。この城にいる限りは衣食住の心配はならさず結構です。給金もお渡しします。立場としては国の専属騎士とでも考えてくださればよいかと思います。

 そして、非戦闘スキルであった3名はこのあと少し今後の話があります。さすがにこのまま放置という訳にもいきませんので。


 では、皆様。今夜からの宿泊場所へとご案内いたしますので、各々配属された兵に付いていってください。何か質問等ございましたら、近くの者に声をかけてください。では、本日は解散といたします」




 ノーザリス姫の支指示に従い大広間から案内されて出て行く同郷人たち。俺と姉妹の2人は残り、姫様の下へと向かう。なんか一気に部屋が寂しくなったな。もちろん監視や護衛の兵は残ってるから4人だけってことはない。






 さっきから邪魔なウィンドウ表示を追い払って消しながら自身を鑑定していた。魔術師から聞いた話では、

・鑑定は一般スキルで名前や歳といった簡単なものしか見えない。

・どんなスキルもLVによる上昇はない。熟練した技術による応用ならある。



 では、俺の鑑定はというと、


・鑑定-:名前と性別と年齢(生産・収穫日)のみ鑑定可能。商人がよく持つ一般スキル。

※固有スキルの場合は通常の鑑定よりも見える項目が多い。意識する事で詳しく見られる上位スキル。


 となるわけだ。女の子たちを姉妹と言ったのも、草野という奴が闇の適合者だった事が分かったのも、聞いたのではなく鑑定した。というか、まだ無意識に鑑定を発動しちゃって名前のウィンドウ出まくってうざいんだよね。

 詳しく見たければスリーサイズまで見られるのだが、ここはなんとか鋼の意思で開かずに済んだ。ほんとは実験したかったんだけどね!


仕方なく男兵士のスリーサイズで試しちゃったよ。なにやってんだよ俺。




 そしてもうひとつの固有スキル、袋詰め。こいつを鑑定すると、


・袋詰め(パッケージング)

LV1:自身の魔力を使って(無色透明な)袋を形成し、閉じ込めておく事ができる。

  袋の最大範囲は1㎥程度。

  袋形成時に、閉じた後の袋内時間経過の有無と開閉使用者条件を設定出来る。

但し生き物が入った状態では閉じられない。閉じると魔力や匂いも遮断される。

  魔力の籠め方によって、大きさ・形・厚さを調整できる。



 そう、こいつにはLVがある。そしてただの袋だと思ったらちょっと違うようだ。時間経過無しにしたら最強の保存袋になるだろこれ!ちょっと色々試してみたいが、それは部屋についてからでいいだろう。まずは姫様からの話を聞かなきゃだからな。






 魔物と戦う事は無理でも、これなら俺は俺の生き方が出来る。もしかしたら、ここで一旗上げられるかもしれない。帰ることが出来ないと聞いた時は不安になったが、社畜の経験がこんな所で役立ちそうで、ちょっと安心してきたぞ。なんにせよこれからが楽しみだ!




出来れば週1くらいで更新したいなと。


で、出来ればですが!

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