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8話 危機到来(レオン)

長時間文字を追っていたせいで疲れた目を休ませるため、椅子から立ち上がって窓の外を見た。

王宮の中央庭園では色とりどりのバラが咲き誇っている。

私はふと思い立って、背後にいる男に声をかけた。

「ロディー、ティナはピンクのバラと白いバラどっちが好きだ?」

「バラ? あいつ好きなバラとかあんのか?」

ロデリックはまるでクリスティナが花を好きではないかのような口振りで言う。

「思った通りだな。お前に聞いてまともな答えが返ってくるわけがない。哀れな気持ちにまでさせられる」

こと、こういった事柄に対しての、こいつの残念ぶりは見事と言える。相手にしてくれる女性が、いつか現れるのだろうか。

クリスティナの兄だけあって、顔はそう悪くはないのだが。

「だったら聞くなよ。わざとか? わざとだよな」

「ちなみにティナが好きなのは白いバラだ」

「知ってんじゃねーか!」

当たり前だ。婚約者なのだから。

私は喚いているロデリックを放っておいて、庭師に庭園の白バラで花束を作ってもらうように、カールに言いつけた。

「ちょっと知ってただけだろう」

ロデリックは負け惜しみを口にしている。

彼はたまにこうやって、私に対抗意識を燃やしてくる。後でクリスティナに好きなものの質問攻撃をしかけて、嫌がられるかもしれない。

クリスティナには悪いが、忠告して止めさせたりはしない。今更彼女がブラコンになったりはしないだろうが、二人が仲良くなったりしたら、なんだか癪に障る。

「そうだな。お前より遥かにちょっと知ってるな」

私は友人をからかうために吹いた。

しかしそのせいでロディーはクリスティナの子供の頃の恥ずかしい話を披露しだす。可哀想だからやめてやれ。

そうやって事務仕事の疲れをほぐしていると、母から呼び出しがかかった。

ピンときた。

チェスロのお針子が到着したのだろう。

私は仕事を放り出して、部屋を出た。



王妃のサロンには母しかいなかった。

「父上と兄上は来られるのですか?」

母は肩を竦めた。

「止めさせたわ。王家一家が総出で待ち構えていたら、恐縮しちゃうでしょう。彼女が王宮にいたのは22年も前よ」

恐縮するだけで済むだろうか。

「なら私も名乗るのは控えましょう」

「それがいいわ」

「恐れながらレオン殿下、名乗らずともバレますよ」

母の古参の侍女マリーが呆れた声を出した。

それはわかっている。私は母によく似ているからだ。

「それでも護衛のふりでもしていれば、相手は少しは気楽でしょう」

メイドが客人の来訪を告げたので、わたしは護衛のふりを通すつもりで、母の背後に直立不動の姿勢をとった。

騎士に守られながら入室したのは、私とそう年齢の変わらない女性と、その女性にがっしりとしがみついて抱かれている幼い子供。その二人だけだ。

私は母にどういうことかと聞きたかったが、あいにくと背後にいるのでできない。

暗殺未遂事件が22年前なのだから、チェスロのお針子はもっと年上でないとおかしい。

「あなたはロザリーの・・いえ、ローラのご息女?」

母がその女性に尋ねると、彼女はびくびくしながら頷いた。

「あの・・・申し訳ございません。母は妹を迎えに行ったんです。わたしは先に王都に入っているように言われたので」

「まあ、妹さんもいらっしゃるのね。それなら失礼ですけど、お父様とあなたのご夫君はどちらに?」

「父はわたしたちがとても小さい頃に亡くなったそうです。わたしの夫は海上警備兵で、しばらく戻ってきません」

一番危険なのはローラという女性なのだが、別の場所にいたもう一人の娘を放っておけなかったということか。幼児を抱えている長女に迎えに行けと言うわけにはいかないしな。

「それで妹さんはどちらに?」

「マイレクストルの領主の館でメイドをしています」

王都から遠ざかっている。

「それならあとどれくらいで着くかしら」

「三日くらいだと思いますが・・」

かなりかかるな。まずいかもしれない。

母がどうすべきかと相談するような目でこちらを見た。

「私が迎えに行きましょう」

ローラの娘が驚いた顔でこちらを見た。

私の存在に初めて気がついたようだ。気配を消していたし、母に注目していたせいだろう。

「わかるの?」

母も少し困惑している。

どこにいるのかわかるのかということだろう。

「旅行者の交通ルートなんてほとんど決まっています。旅慣れしていないなら、変わった道順など使わないはずです。ローラさんと娘さんの特徴を教えてもらえれば大丈夫でしょう。女性の二人旅というのもあまり多くないですしね」

とはいえ行き違いになったり、見つけられなかったりする可能性も大いにある。それでも三日間、ただ待っているだけというのは危険な気がする。

「何かわかったの?」

敏感に察した母が聞いてきた。

「ウェルダインと接触がある、王城勤めのウィルダムの貴族がわかりました。地位は高いですが、いい噂よりも悪い噂のほうが多い人物です。彼は次期宰相を狙っているようですね」

「その人がローラを連れて行こうとしたのね。でもウェルダインと手を組んだとして、その人に何の得があるのかしら」

「それはまだわかりませんが、二人が何かをしようとしていると仮定していたほうがいいでしょう。ウェルダインが今更、王位簒奪を狙っているなんてことより、ウェルダインの持っている情報を利用して、ウィルダムの貴族が何かしようとしていると考えるほうが自然です」

母は顔をしかめた。

ローラの娘も不安そうにおろおろしている。

「本当にローラに何かが起こりそうな気がしてきたわ。でもあなたが行くとなると、あの人が怒るわね」

ため息を吐きつつも、母自身は止めようとしない。私がたまに王宮を抜け出しているのを知っているからだ。

「説得しておいてください。こういうことはロディーが得意ですが、彼だけ行かせるとローラさんが警戒するでしょう。私が行けば母上の息子だとわかるはずです」

「・・・そうね」

母はもう一度ため息を吐いた。

「すぐに出るの?」

「ええ、急ぎます」

「わかったわ。帰ってきたら22年前の詳しい経緯を話すから」

「お願いします」

本当ならローラが到着する予定の今日に、本人を交えてその話をしてもらうつもりだったのだが。

私はローラの娘から、母親と妹の特徴などを聞き出すと、急いでサロンから退出した。

ちなみに主人公カップルは花言葉なんて知りません(笑)

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