6話 鍛練?(レオン)
閑話的な話です。
レオンがやりたい放題です。
クロードルでは王の住まう居城に行政機関はない。
王宮はただの王の家族の住まいであり、ウィルダムのような巨大な王城ではないので、公爵家の城などと比べても、やや大きいくらいのものだ。
官吏の仕事場や騎士団の訓練所などは、すぐ近くにはあるものの、王宮からは一度外に出なくてはいけない。
しかし例外も一部ある。
近衛騎士の詰め所がそのひとつだ。彼らの仕事は王族の護衛なので当然ではある。
そして小規模ながら鍛練場もあり、私はそこへ向かって歩を進めていた。一週間に二、三回は体を動かすようにしているからだ。
訓練所へ行くこともあるが、堂々と王宮から外へ出るには、面倒な段取りがいる。今日は夜に夜会があるので、それほど時間の余裕がなかった。
鍛練場に着くと、ちょうど五、六人が体を動かし始めている。
こちらに気づいた騎士たちが敬礼しようとするのを、手を振ってさっさと止めさせる。
彼らは私がしょっちゅう訪れているというのに、少し緊張している。近衛騎士団長がいないのだろう。
最近では私は、団長かロデリックとしか手合わせをしていない。
実力に加えて、他の団員は王子である私に遠慮するので、鍛練にならないのだ。ロデリックのように王子の顔面を狙うほどの度胸はいらないが、もう少しなんとかならないか。
今はロデリックも席を外している。急な配置換えだったので、仕事の引き継ぎができておらず、夕方までは代わりの騎士が護衛になった。
いい機会だから、ちょっと鍛えようか。
私はできるだけ砕けた口調を心掛けて言った。
「今から練習試合をしよう」
命令ではなかったからか彼らははぁ、といった間抜けな返事をした。
「全員三回ずつ一騎打ちをする。対戦相手はくじで決めよう。手加減は一切なしだ」
私が加減するなと言うと、彼らは一様に困った顔をした。
勝ってしまうことではなくて、怪我をさせることを心配しているのだろう。
「訓練での怪我など何度もしているのだから気にするな」
それこそ彼らは実力的に五分五分である、私とロデリックが手合わせをしていて、双方が怪我をしているところも見ているはずだ。
わたしがこう言えば、本当に気にしなくていいと判断したのだろう。わかりましたと言って、準備のために動きだす。
「ああ、それと二回負けたやつは罰ゲームだ」
ぴたりと動きが止まる。
私はにこりと笑って言ってやった。
「手加減しないようにな」
この笑顔に何か感じるものがあったのだろう。
彼らの中で一番年配の男が、恐る恐る尋ねる。
「その罰ゲームの内容は?」
「ああ、二回負けたやつは今日中に、好きな女に告白してこい。もちろん既婚者や婚約者がいるやつもな」
シーンとした。
きっかり一秒後に叫び声が上がる。
「えええ!?」
「ちょっと待ってください!」
「なんで?!」
なんでと言われれば、罰ゲームだからだ。
「好きな女も妻も婚約者もいない者は、どうするんですか?!」
比較的若い男が、抜け道を探そうと、勢い込んで聞く。
私はそいつではなく、周囲に尋ねた。
「いないのか?」
「こいつ王妃のメイドの一人にしょっちゅう声かけています!」
「売るなあああああ!」
絶望の叫び声が上がった。
この場合、妻や婚約者がいない者が、一番リスクが高い。
彼は周知のなかメイドに告白しなくてはならず、尚且つ玉砕の覚悟まで必要なわけだ。
「まあ、負けなければいい」
あっさりと言う私に、そいつは別にそのメイドは好きな女というわけではないとか、見苦しいことをいっている。
全員で無視して、準備に取りかかった。
近衛騎士は身元のしっかりした者でなくてはいけないため、ほとんどが貴族であるが、平民でもなれないわけではない。
花形職であるため、実力も重視されているからだ。
しかもここ三年ぐらいは、実力をより重要としつつあるらしい。
なぜなら近衛騎士よりも、守る対象である王族の方が強いのでは、本末転倒だからだ。
しかしそれでも今のところ、私に勝てるのは団長かロデリックくらいのものだが。
目の前で練習用の木刀を構えている男は、運悪く私と当たってしまったわけだが、鬼気迫る顔が、なんとか勝ってやると訴えていた。
「レオン殿下、ハンデをください」
「なんでだよ」
やる気出したかと思えばそれか。
「殿下と当たったやつは、すでに他のやつより不利なんです」
なるほど一理ある。
「わかった。足を使うのはやめてやる」
「使うつもりだったんですか?!」
何を今更。私はロデリックとの手合わせで、よく使っているだろう。
「もうさっさと始めるぞ」
私が言うと、審判役が試合開始のカウントをとり出した。
相手の男も観念して、ぐっと肩に力を入れる。
「始め!」
号令と共に突っ込んで来た。
先手必勝。予想通りだ。
私は正面から受け止めるふりをして、直前で体の位置を素早くずらした。木刀はぶつかったものの、軌道を逸らすために当てたので、こちらに打撃はない。
木刀を振り下ろしてしまった相手は、体のバランスが僅かにずれたものの、素早く体勢を立て直そうとした。近衛騎士なだけあって、対応が早い。
だがこちらの動きの方が僅かに先だった。反撃に対して、相手はかろうじて受け止める。
しかし攻撃の手を休めるつもりはない。
次の一撃で完全に体勢を崩した相手の首もとに、ぴたりと木刀を突きつけた。
ギリギリで止めてしまったせいか、顔が青くなっていた。
「降参です」
彼がわざわざそう宣言したので、手を下ろすと、ほっと息をついて、恨めしそうな目を向けてくる。
「大人気ねえ」
小声で言ってはいるが、聞こえているぞ。
ちゃんと一試合目なのだから、怪我をしないようには加減してやったのに、何を言うのか。
その後もちろん私は三連覇した。
二回以上負けた奴は三人。
メイドに懸想している奴と、一試合目に私と戦ったやつと、もう一人、こいつは特に罰ゲームが嫌そうではない。聞けば新婚らしい。なるほど。
残りの二人は、地面にうずくまっている。
この後どうするのか気になったが、時間がなくなったので帰ることにした。
後日、最初に戦ったやつが報告に来て、嬉しそうにおかげで婚約者と仲がよくなったと、礼を言いった。
それはよかった。
メイドに告白したやつは、見事玉砕したらしいが。
レオン、ヒデェ・・。
次回長くなるので、ちょっと更新遅れるかもしれません。
彼女が再登場します。