表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/41

3話 奇特な友人(レオン)

この話から1話あたりが短くなります。

毎度、予定していたよりも長くなってしまうので、更新しやすいように、分けることにしました。

珍しい顔を自室で見た。

執務室での書類整備が一区切りしたので、昼食を取るために部屋に戻ると、近衛騎士の制服を着た若い男が、控えの間で待っていたのだ。

べつに近衛騎士が私の部屋にいるのが珍しいわけでも、この人物に会うのが久しぶりなわけでもなく、彼がこの部屋にいるのが珍しいのだ。

慇懃に騎士の礼をとるこの男を見ると、いつも背中がむず痒くなる。

私は常に側にいる従僕のカール以外、全員を部屋の外へやった。

「何かあったのか?」

「あったんだろうな、知らねぇけど」

人がいなくなった途端に、態度が崩れる。

そのために人払いをしたわけだが。

「なんでだよ」

「それについては直接お伺いしてくれ。六の鐘の刻に四階の談話室に集合するように、とのことだ」

四階にある談話室といえばひとつしかない。王宮の中心部にある王と王妃しかほとんど訪れないエリアだ。

「父上か?」

「ああ、それから俺がレオン殿下付きにしばらくなるらしい」

私は驚いて目の前の男、ロデリックを見た。

「ロディー、お前が?」

「そうだって」

これは本当に何かあったらしい。これまでどちらかというと、ロデリックは私付きになることを、避けられていた。

しかし彼は剣の腕が立つ。

「集合ということは、兄上も来るんだな」

「そうらしい」

だからしばらく時間が空くのか。

しかしそうなると、この後会う予定のクリスティナと、あまり話ができない。

私は余計な時間を省くために、彼女が訪れたら、この部屋に直接案内するように、カールに指示を出した。ついでに用意されていた昼食を中に入れてもらう。

「俺もくれ」

「食べてないのか?」

「いや、食った」

「・・パンならやる」

籠の中に入っているパンを放ってやると、不満そうな顔をした。

この男は本当に伯爵家の跡取りだろうか。私は一週間に一回くらい、この疑問が頭に浮かぶ。

昼食をロデリックから守りつつ完食したところで、クリスティナの来訪が告げられた。



扉の前に立って挨拶をするクリスティナを遮り、こちらに来るように促す。

彼女は首を傾げながらも、言われた通りにした。

部屋の中ほどまで来てようやく、私とカール以外の人物が誰なのか気づいたようだ。

笑みを浮かべていた顔が強張った。

「なんでお兄様がいるの!?」

貴族の令嬢にあるまじき、声の荒げっぷりだ。

予想通りの反応をしてくれる。いや、気心の知れた人間しかいないせいで、いつもより激しい。

クリスティナの背後で、彼女の侍女が顔を青くしているが、周囲が平然としているので、注意もできないのだろう。

私も初めて見たときは驚いたが、クリスティナがいないときにロデリックに会っていたので、妙に納得してしまった。

ロデリックが非常識すぎるせいで、クリスティナも非常識な反応をしてしまうのだ。彼女が非常識なわけではない。

「久しぶりだな、ティナ。元気にしていたか?」

ロデリックは笑顔で、さあ飛び込め、とばかりに両腕を広げながら近づく。

対してクリスティナは、隠れるように私の背後に回った。

「昨日会ったじゃない!」

家でもこんな感じなのかと疑問に思うところだが、ロデリック曰わく、両親がいるところでこんなに砕けた態度を取っていると、こっぴどく叱られるのでやらないらしい。

つまり両親のいない場所では、クリスティナはかなり警戒しなくてはいけないわけだが。

しかしロデリックは何も、妹を苛めようとしているわけではない。構いたいだけなのだが。

「そんなに警戒するなよ。兄妹の抱擁をするだけだ。子供の頃みたいなイタズラはしないって」

「三年前に髪の毛にクワガタをくっつけたわ!」

それはひどい。

しかも三年前といえば、ロデリックは今のクリスティナと同じ十六歳だ。ガキかお前は。

こんな風に子供の頃は懐いていた妹を、苛めたり邪険にしたりしていたせいで、今は避けられているのだから、自業自得というものだ。

自分が大人になって、精神的に落ち着いてから、妹に嫌われていることを寂しがっても、遅いだろう。

「クワガタはいいだろ」

「何が?!」

「ロディー、クワガタに喜ぶのは、十歳くらいまでの男子か、マニアだけだ」

そうなのかと感心したように言っても、白々しいとしか思われてないぞ。

「でも、ティナ。俺はしばらくの間レオン殿下付きになるから、毎回そんな態度でいると、泣くぞ」

「げぇ! なんで」

クリスティナは貴族令嬢にあるまじき、呻き声をあげた。

彼女はたまにかなり口が悪くなる。

会ってしばらくしてから気づいたせいで、もしや私が原因なのではないかと焦ったが、ロデリックに会ってわかった。

確実に兄のせいだ。

彼は伯爵家の跡取りのくせに、ほんの子供の頃から、領地で平民の子供たちに混じって、イタズラをしたり、喧嘩をしたりしていたらしい。おかげで平民のような言葉づかいができるし、ある意味で物知りだ。

しかも王子にも遠慮のない態度をとるほどの度胸がある。私にとってこういう人物は、とてもありがたい。

おまけに気も合うので、友人のような間柄だ。

「なんでかはわからないが、そうなる」

ロデリックが笑顔でそう言うと、クリスティナは泣きそうになりながら、更に私に身を寄せた。

私は彼女に向き直って、軽く肩を抱いて、頭を撫でてやる。

するとクリスティナは全身に入れていた力を、ふっと抜いた。ついて顔も弛んでくる。

・・・可愛いな、おい。

ロデリックの顔を見ると、ひどく羨ましそうな表情をしている。

私は自然に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

悔しげに彼が言った。

「普通、逆じゃないか?」

「なんでだよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ