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27話 架け橋(レオン)

ミリア・ブラウニングの部屋から出た後、騎士団領へ行くために王宮の門へ向かう。

中央庭園を歩いていると、ちょうど会いたい人とばったり出くわした。

慰労訪問か何かの帰りだろう。門から王宮内に向かって、義姉がメイドたちと共に歩いてくる。

軽く挨拶をした後に切り出した。

「義姉上、少し時間がありますか? お話したいことがあるのですが」

普段、直接話をするとこなどほとんどないので、戸惑った顔をされたが、快く頷いてくれた。

彼女とは用があっても、ほとんどクリスティナを介していたので、話をするのは本当に久しぶりだ。

この人のことはちょっと苦手だから、避けていたというのもある。義姉に限らず、気の弱い女性全般が苦手なのだが。

しかし相手には怖がられていると思いきや、そうでもない。多分この人は私のことを、第二王子でも義弟でもなく、クリスティナの婚約者として見ている。

近くの四阿に誘導して、そこで話をすることにした。もちろんメイドたちはすぐ近くに控えたままだ。

「手紙の件、ありがとうございました。リンデル侯爵にはかなり効果的でしたよ」

義姉は「ああ」と納得の声を上げる。

「お役に立ててよかったわ。リンデル侯爵はいい人だから、ぜひ協力していただきたいですもの」

義姉には詳しい事情は話しておらず、関税に関してリンデル侯爵の手を借りたいと説明していただけだが、積極的に侯爵との仲を取り持とうとしてくれた。

きっと彼女が思うほどにはいい人ではないだろう。だがそういう印象を持たれていると知ったからこそ、彼を擁立するという最終判断を下したのだ。少なくとも私欲に走る人物でなければよかったのだが、予想以上に推しがいのある人だった。

「関税の交渉はクロードルからリンデル侯爵を指名して行うという形になりました。今週中にでも実行するでしょう。そこで義姉上にお願いがあるのですが」

「お願い? まあ、何でもするわ。何でも言ってちょうだい!」

なぜか勢い込んで言われた。

内容を聞く前に、そんな簡単に承諾すべきではないと思うが。

「交渉の指名を義姉上がしたということにしていただきたいのです。リンデル侯爵はこれまでクロードルと特に関わりがあったわけではないので、理由もなく指名するのは不自然ですから」

「そんなことでいいのかしら」

「重要なことですよ。義姉上がこちらの政治での発言権があると知らせることにもなります。まあ、つまり、これからは国交で義姉上の意見を仰いだり、協力していただく機会が多くなるということです。クロードルに来て三年ですから、父上もそろそろいいだろうとお考えです」

義姉は信じられないことを聞いたかのように、ぽかんとしている。

「兄上は渋っていましたから、私が勝手に話をさせていただきました」

「まあ、エルウィン様は反対なの?! どうして」

「単に過保護なんですよ。政治に携わる人間なんてほとんどが嫌味を言うのが大好きですからね。義姉上が傷ついて立ち直れなくなるんじゃないかと思っているようです」

私もそう思わないでもない。

しかしクリスティナから聞くこの人の悩みの根元には、自分が役に立たない人間だという認識があるのではないか。それなら何もしないよりもした方がいいだろう。

それにせっかくウィルダムから嫁いで来てくれた王女を、ただの貴族の娘のように扱うのは、宝の持ち腐れだ。

「わたくしやります。ずっとクロードルの役に立ちたかったのですもの。エルウィン様が反対してもやりますわ」

身を乗り出して断言された。

これまでまともな仕事が与えられなかったことの方が、ストレスだったのだろうか。

とにかくここまでやる気になってくれるのはありがたい。兄を説得する必要もなさそうだ。

「ではお願いします。あなたはクロードルとウィルダムの架け橋ですからね」

この国の平和のために、ウィルダムとの絆を強めていただこう。

義姉ははっとして居住まいを正した。目に力がこもっている。

「こちらこそお願いしますわ、レオン殿下」

弱々しくも困難に立ち向かおうとする意志が見える。

この時、彼女に対する苦手という感情が消えた。



「なんか聞いていたのとちょっと違う方だな」

義姉が王宮内に入った後、ロデリックが口を開いた。

「今は兄上との仲も良好らしいからな」

「それで変わるのか?」

「さあ、原因の一つだろう」

「そういうものか。・・・しかしレオンとティナは変わんないよな。仲良くはなってるけど、喧嘩もしねぇし、お互いに不満を言ってるのも聞いたことねぇ」

感心したような口振りでロデリックが言う。

それが逆に心にちくりと刺さった。

最近たまに思い悩むことがある。父の隠し子騒動からだ。

いや、正確に言うならば、母の「隠し子いなくて残念」発言からだろう。

両親はあれでも夫婦円満で、父が母に尻に敷かれながらも、妻として大事にしていることは知っていた。

母も同じだと思っていたのだ。だが夫を大事にはしていても、父とは意味合いが違ったらしい。

仲がいいはずの妻から、あんな発言をされれば心的負担は計り知れない。

ちょっと想像してしまった。

もしクリスティナに同じことを言われてしまったらと。

想像だけでかなりのダメージがある。

今まで不得手を理由に婚約者らしいことしていなかったことが、かなり気がかりになってきた。いや、婚約者らしいことはしている。恋人らしいことをしていないのだ。

この場合、クリスティナとの関係は恋人で合っているのだろうか。そもそも私は恋愛感情が何なのかがよくわからないのだ。

クリスティナのことはとても大事に思っているし、彼女以外と結婚なんてしたくもない。顔を見るとほっとするし、他の男と笑顔で話をしていたらイラッとする。

これが恋愛感情だろうか。自分ではよくわからないから、誰かがはっきり決めてくれないだろうかと思う。

「レオン、どうした?」

「いや、お前にはどうもしない」

とにかくクリスティナとは理想的な夫婦になりたい。円満なだけではない。信頼してもらいたいし、嫉妬もしてほしい。

結婚式まではあと五ヶ月ある。

しかし五ヶ月しかないとも言える。それまでには誰がどう見ても、恋人と呼べる関係にはなっていたい。





次回、本編最終回です。

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