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25話 襲撃(レオン)

「レン、先に行くな!」

ロデリックが後ろから叫ぶが、聞こえていないフリをする。

リンデル侯爵は多分、あのまま国境に向かったはずだ。襲われるとすれば、ウィルダム国内に入ってからだろう。

彼は大物貴族だから、クロードルで殺されれば、両国にとって厄介なことになる。クロードルから有利な条件を、これから引き出そうとしているウィルダムの貴族が、この街でリンデル侯爵を襲うとは思えない。

しかし相手が私欲に走るイングラル侯爵であれば、それも確信はできなかった。

とにかく国境前で見つけなければ、他の騎士はともかく私は国境を越えられない。だが人通りが多いせいで馬で追うわけにもいかない。走って間に合うだろうか。国境前は常に渋滞しているものだが。

「レン、待てって」

ロデリックが横に並んだ。

後ろを見ると他の護衛の騎士たちも追いかけて来ている。必死に止まるように呼びかけているが、これも無視して前に向き直った。

その時、前方からいくつもの悲鳴が聞こえてきた。

はっとして走ることに集中する。

段々と大きくなるそれは「逃げろ」という言葉も混じっている。

「暴れ馬だ、逃げろ!」

誰かが一際大きな声で叫んだ。

「ここにいろ、レン。危険だ」

「暴れ馬ぐらいどうってことはない。それより侯爵が騒ぎに乗じて殺されるかもしれない」

「だから危険なんだろうが!」

「自分の身ぐらいは守れる」

止まる気がさらさらないのを感じたのか、ロデリックはああもうと嘆く。

逃げようとする人々の流れに逆らって、騒ぎの中心まで行くと、案の定暴れている馬はリンデル侯爵の馬車に繋がれていた馬のようだった。

侯爵の護衛が数人で馬を取り押さえようとしている。なんとか馬車からは切り離せたようだが、かなり興奮していて、近づくこともままならないようだ。

リンデル侯爵を探すと、残りの護衛に守られながら逃げようとしていた。まだ無事だ。

この辺りにすでに人はおらず、侯爵は馬車から脱出するのに時間が掛かったようだ。だからこそ、彼ら以外の人間はすぐに目に付いた。

リンデル侯爵を尾行していた男たち。何食わぬ顔で彼らは侯爵に話しかけようとしていた。

「侯爵!」

私は警告の声を上げた。

一般人を装って近づいていた男たちの空気が変わる。

彼らはさっさと始末をつけることにしたらしい。全員が剣を抜いた。

護衛と刺客の人数は五対五。しかし刺客はどこからともなく増えてきて、倍の人数になった。

馬を取り押さえようとしている護衛たちは、まだ気づいていない。

剣のぶつかり合う音が響いた。

ロデリックが飛び出す。

「前に出るなよ!」

さすがに真っ先に向かうのはやめておく。

騎士たちがすぐ後ろにいるのを確認してから、ロデリックに続いた。

「包囲しろ!」

号令をかけながら、剣を手に取る。

侯爵の護衛は彼を守ることに集中するだろう。そして刺客の目的は侯爵だ。私たちをそれを後ろから叩けばいい。

取り囲んだつもりの刺客たちは、逆に板挟みになった。人数もこちらの方が多くなる。

なるべく生け捕りにしたかったので、鞘を付けたままで剣を振るい、急所を狙った。

手の甲を思い切り打ちつけて武器を取り落とさせて、膝の裏を蹴って体制を崩させると、うなじにとどめの一撃を食らわせる。

次の刺客も同じように倒した。それなりに手練れなのだろうが、状況がこちらに圧倒的に有利だ。前と後ろに気をつけなければいけない男たちは、あっさりと捕獲されていった。



こちらは侯爵を先頭で守っていた者が肩を斬りつけられた以外は、重傷者もいない。

「すぐに騎士団領へ連れて行け。死なせるなよ」

私は騎士に命令を出すと、改めて侯爵に怪我がないか確認した。なぜか彼はかなり呆れた顔をしている。

「・・・あなたは本当に王子なのですか」

疑われるほどのことをしただろうか。

「もう少し自重したほうがよろしいですよ。あなたを守らなくてはいけない者は大変です」

「適わないと判断したなら、手出しはしませんでしたよ。これでも自重してます」

背後から「これで?」という呟きが聞こえた。

そこは黙っとけロディー。

「クロードル国内で起きたことなので、彼らはこちらで引き取らせていただきますよ」

「仕方ありませんな。何かわかれば知らせていただけるのですね」

「もちろん、その場合はあなたに託したほうが話は早い」

ただそんなに簡単にいくとは思えないが。

「護衛を増やしたほうがいいかもしれませんね。こちらで用意しましょうか」

リンデル侯爵は狙われている自覚があるのか、十分な人数の護衛を連れていたようだが、それでも今回は危なかった。

彼に死なれるのはとても困る。

「いえ、それも時間が掛かるでしょう。この街で雇うことにします」

「ああ、それがいいですね」

そろそろ通行人や街の人が戻って来るかもしれない。

私は立ち去ることを侯爵に告げようとした。

「レオン殿下」

「はい?」

「助けていただいて感謝します」

彼は真剣な顔で私を見ていた。

気にしないでほしい。

そう言おうとしてやめた。

「これは貸しにさせていただきますよ」

未来の宰相に恩を売れるなんて、またのない機会だ。ここは存分に感謝していただこう。

侯爵は苦笑した。

「厄介な王子だ」

小声だったが、しっかり聞かせるつもりで言ったようだ。

私は笑顔を返しておいた。



リンデル侯爵と別れた後に、ロデリックがぼそりと言った。

「レンって本当に王子か?」

「・・・お前にだけはいわれたくない」

本気で言われたくない。





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