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19話 陛下の悲劇(ティナ)

わたしはどうして、ここにいるんだろう。

部屋中に満ちている、よくわからない緊張感に圧迫されながら、心の中で呟いてみる。

いや、どうしているのかはわかっている。レオン様に頼まれたからだ。

わたしが居れば、エミリア様の暴走が少し抑えられるかもしれないと言われたけど、わたしにそんな抑止力ありません。場違いな気がしてしょうがないんですけど。

部屋の中ではテーブルを挟んで、エミリア様と陛下が向かい合って座っている。陛下はなぜ呼ばれたのか、まだわかっていらっしゃらない。ただ異様な空気に困惑している。

それにしても陛下、エミリア様に呼ばれたらすぐ来てしまうんですね。公務はいいんですか。

わたしとレオン様はお二人を横から見る形で、二人掛けのソファーに座っている。さりげなく、わたしはエミリア様に近い側にいた。

「一体どうしたというんだ?」

陛下は居心地が悪そうにしながら口を開いた。

エミリア様はにこっと笑う。なんで笑顔なんでしょう。怒っている様には見えないところが、逆に怖いです。

「22年前のことなのですけどね、あなた」

「ああ」

エミリア様は直球で質問をぶつけた。

「あのころ、ローラに手を出したりしませんでしたか?」

「・・・・・・は?」

ポカーンとした顔で、奥さんを見つめる陛下。

ああ、なんだかわたしが居たたまれない。

「なんだって?」

「ですからローラと婚約していた時に、彼女に手を出しませんでしたか?」

きっと陛下は聞き間違いだと思われたんでしょうね。でも同じ言葉が容赦なく、繰り返されています。頭痛を堪えるように額を手で押さえるのも当然です。

「なぜそんなことを聞くんだ?」

「あなたに隠し子がいるという噂が流れているからですわ」

「はあっ?!」

素っ頓狂な声が響いた。

エミリア様、直球すぎます。もう少し陛下の心の負担がない言い方をしてさしあげてください。

「母上、ちょっと黙っていてくださいませんか。私が説明します」

見かねたレオン様が、話を遮った。

そして細かく事のあらましを陛下に伝える。聞いているうちにどんどん顔色を無くしていってらっしゃいますが、大丈夫でしょうか。

レオン様も淡々と事実をしゃべっているだけなので、エミリア様が話すのと変わらないのではないでしょうか。

息子に隠し子がいるって聞いたけどどうなの、って言われるのと、妻に以前の婚約者に手を出したのかと聞かれるのは、果たしてどちらがマシなのか。

話を聞き終えた陛下は、何もしていないのにフラフラだ。

「それでお前は、私がローラと婚約中に手を出して、子供を作ったと思ったのか?」

「だって、ローラの娘は金髪だったもの。ローラは赤毛なのに」

「金髪の男なんて、そこらへんにいるだろう!」

ええ、クロードルで一番多い髪色ですよ、エミリア様。

「では違いますの?」

なんでちょっと残念そうに聞くんでしょうか。

「当たり前だ!!」

陛下は絶叫した。もう、心の底からの叫びだ。

そりゃあ、そうですよね。仲がいいはずの妻から、そんな疑惑を向けられたら・・・あれ。

「陛下とエミリア様って夫婦仲いいのですよね」

わたしは小声でこそっとレオン様に聞いた。

「いいんだろうな。母上のほうが圧倒的に強いが」

それって・・・いや、考えるのはやめよう。

とにかくエミリア様は陛下の態度に、ようやく隠し子がいないのだと納得してくれたみたいだ。

陛下に謝って、反省の意を示している。

よかった。これで収まってくれそう。

でもなんでこんなことを言い出したのだろう。

ようやく落ち着いたので、考え事をしていると、恐ろしいことにまたしても不穏な言葉が響いた。

「でも残念ね・・・」

エミリア様? 

なんでがっかりしているんですか。どういう意味ですか、それ。

「せっかく娘と孫ができるかと思ったのに」

ピキーンと場の空気が固まった。

エミリア様はとても残念そうに、ため息を吐いている。

隠し子がいなくて喜んでいる様子はない。

もしかして、もしかして、それがさっきまでの言動の要因なんですか。

娘と孫がいるのかもしれないと思って、はりきっていたと。

もし本当に隠し子だったとしても、怒る気なんてなくて、むしろ喜んでいたということですか。

確かにエミリア様は、よく娘がほしかったと言って、わたしに優しくしてくださいますが、それにしても・・・。

わたしは恐る恐る陛下の姿を伺った。

怒ってらっしゃるかと思いきや、そんな気力もなさそうで、これはもう、魂とかそういうのが抜けていそうだった。

・・・とどめ刺されたんですね。

「生まれて初めて、心の底から父上に同情した」

隣でレオン様が呟いていた。



この場の雰囲気をどうすればいいのだろう。

わたしが掛けるべき言葉が何かないかと思案していると、レオン様がいろいろ無視して、真剣な声で言った。

「とにかく母上のおかげで重要なことがわかりました」

ここで真面目な話に戻るのですか。

陛下がまだ回復していらっしゃいませんけど、いいのですか。

「なにがわかったの?」

エミリア様は切り替えが早かった。

仕方がないので、わたしもレオン様の言葉に耳を傾ける。

「ローラさんが狙われた理由です」

噂の発生についての話かと思いきや、レオン様は意外なことを言った。

「ウェルダイン元公爵は母上と同じことを考えたのではないですか」





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