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12話 怒れる王妃(ティナ)

わたしは急いで王宮に向かっていた。

急な呼び出しだったので、準備に少し時間がかかってしまったから、待たせていないか心配だった。

馬車が目的地に着くと、優雅とは言えない足取りでさっさと降りてしまう。かろうじて人の手は借りたけど、いつもなら後ろから小さな叱責が飛ぶような動作だ。

見逃してくれているわけではなく、今日はセーラが休日なのでいないのだ。代わりに侍女になったばかりの人が、付いて来てくれている。

わたしは言われていた通りに、エミリア様のサロンまで来た。人払いがされているのか、扉の前に数人のメイドと護衛とお兄様までいる。

入れて貰えるだろうかと不安になったけど、メイドはすぐに取り次いでくれた。

サロンに足を踏み入れると、中にはエミリア様とエルウィン様とレオン様がいらした。濃いメンバーだなあ。

わたしが挨拶を済ませると、エミリア様はレオン様になぜわたしを呼んだのか聞いた。

「他に頼める人間が思いつかなかったもので」

「何を?」

「彼女をですよ」

レオン様はこちらを見て言った。

エミリア様はわけがわからないという顔で、わたしを見る。かいつまんだ説明しか受けていないので、わたしが答えていいとも思えず、困った笑顔しか作れない。

エミリア様の目がふと、わたしの背後を捉えた。

じっと見つめるので、わたしは彼女の隣に立つ。

「ご紹介いたしますわ、エミリア様。今日からわたしの侍女をしてくれることになったローズさんです」

ローズさんは淑女の礼をした。綺麗な仕草だ。

「ご無沙汰しております、王妃殿下。このように手厚い庇護を受けさせていただき、感謝の言葉もございません」

彼女は懐かしそうに目を細めて言った。

エミリア様はすっと立ち上がり、小走りでローズさんの前に来た。目が潤んでいる。

「ロザリー・・。無事だったのね」

「はい。ご心配おかけしたようで、申し訳ありません」

「いいえ、無事ならいいのよ。よかったわ」

エミリア様がぎゅっと抱きついたので、ローズさんはおろおろしている。22年振りに会うのに、こんなに喜んでもらえるとは思っていなかったのだろう。

彼女はちょっと迷ってから、おずおずとエミリア様の背中に手を回した。でも顔は嬉しそうだ。

空気に飲まれたわたしも嬉しくなって、にこにこと二人を見守っていた。

しばらくして落ち着いたエミリア様は、わたしとローズさんをソファーに座らせてくれる。

「さて・・・レオン」

さっきまで優しい雰囲気を纏っていたはずのエミリア様が、笑顔のまま冷たい声を出した。

エミリア様の声ですよね、これ。

ほんわかしていたはずの空気はどこへ。

レオン様は気まずそうに顔を逸らす。

「どういうことかしら?」

怖い! すっごくエミリア様が怖い! にっこり笑っているはずなのに、標的を定めた鷹か鷲のように見える。

こんなに怒っている姿は初めて見た。

レオン様よく視線を戻せますね。エルウィン様だってちょっとずつ距離を取っていますよ。

「土砂崩れがあったのは本当なんですよ」

「・・それで?」

あっ。エミリア様からの威圧感が更に増しました。

レオン様がんばってください。心の中でしか健闘を祈れませんが。

「だからちょうどいいと思ったんですよ。ローラさんが本当に危機的状況にいるのなら、亡くなったことにすれば危険は去るし、相手の目論見がまだわからない状態ですから、次にどう出るかで、それがわかるかもしれせんしね」

「ああ、だからあんな場所で亡くなったって言ったんだね」

エルウィン様が納得、と呟いた。

「ええ、彼女が働いている店にはそういう連絡を出しましたが、なるべく早く相手に知ってほしかったので、王宮内に間者がいる可能性を考えて、少し目立つように言いました」

「まあ、だからわたくしのメイドや護衛にも聞かせて、その上ティナちゃんが来るまで黙っていたわけね」

女王・・いえ、王妃様の怒りがまだ収まっていません。よくわからないけれど、わたしが来るまでに話せたでしょうがと言っているように聞こえる。

「いえ、予想より遥かに落ち込んでらしたので、話すよりも実物に会って安心してもらったほうがいいかと思いまして」

珍しくレオン様の歯切れが悪い。失敗したと思っていますね。わたしもそう思いますよ。

「あの、王妃殿下、レオン殿下はとてもよくしてくださいましたわ。土砂で生き埋めになった人もいたんですけど、皆が手をこまねいている間に、すぐに近くの街にとって返して、必要な道具や人手を集めてくださいましたもの。おかげで全員助けられましたわ。誰も死ななかったのはレオン殿下のおかげです」

ローズさんがとてもいい助け舟を出してくれた。これならエミリア様も許してくれるのでは。それにさすがです、レオン様。

「あと、あの状況でわたしを隠して、わたしの娘に母親がいないっていう演技をさせるところもすごいですわ」

多分、悪意のない賞賛が追加された。

悪知恵働きますね。さすがです、レオン様。

エミリア様がふんっと鼻を鳴らした、

「まあ、いいわ。今回はロザリー・・・ローラに免じて許してあげる。ローラの危険がなくなるというのは、事実ですからね」

「・・・ありがとうございます」

疲れた声でレオン様は返事した。帰ってきたばかりなのにお疲れ様です。



「では22年前のことを話していただけますね」

「約束していたわね、いいわ」

エミリア様はちらりとわたしを見た。

「ティナちゃんには全部話しているの?」

「大雑把に経緯を話したんですよ。しばらくローラさんをハーレイ伯爵家で預かってもらわなくてはいけませんから」

レオン様は王都に着いてから、すぐにハーレイ伯爵家にやって来て、ローラさんを侍女として預かってほしいと言って、その理由も話してくれた。

わたしは即座に了承した。レオン様に頼ってもらうなんて、滅多にないことだ。

でも護衛も増やしておくからと言われたんだけど、増やすってことは元からいたわけですね。気づかないわたしが鈍いのか、護衛が優秀すぎるのか。

「それならもう全部知っておいてもらったほうがいいかもしれないわね。ティナちゃん、わからないところがあったら、質問してちょうだい」

そう言ってエミリア様は22年前の暗殺未遂事件のあらましを語ってくださったのだけど、これが予想していたような、単純に当時のウェルダイン公爵が、間者を使って毒を盛ったという話ではなかった。

毒が使われようとしたことには違いないのだけど、てっきりわたしはローラさんが公爵の間者で、使用人として王宮に潜入していたけど、国王側に寝返ってくれたのだと思っていた。

でもそもそもローラさんの役割が違う。

彼女はウェルダイン公爵の娘として、王宮に出入りしていたのだ。




ローラさんの名前は、ロザリー(本名)→ローラ(22年前に改名)→ローズ(ティナの侍女をしている間の偽名)です。

ややこしくてすみません。

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