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靴磨きの少年

作者: 澄氏 新

 昔むかしある街に、老婆と少年が暮らしておりました。

 二人の生活はとても貧しく、しかし養ってくれる者も無く、稼ぎ手もおらず、苦しい日々を送っておりました。

 ただ二人の生活は、苦しいながらも幸せでした。老婆はとても優しく、少年も老婆に代わって掃除をしたり、食事を用意したり……お互いに助け合って生きる様は、周りの人々から見ても、とても幸せそうに見えていたのでした。

 

 しかし、ある時異変が訪れました。

 老婆が急に倒れ、体は見る見るうちに衰弱し、更には寝たきりになってしまったのです。

 少年は泣きながら老婆に話しかけました。

「お婆ちゃん、死なないで。元気になって!」

 老婆はその言葉に笑顔で頷きましたが、その顔に元気はありません。

 僕に何か出来る事はないか。お婆ちゃんに元気になってほしい。

 少年は考えました。

 

 そうだ、美味しいものを沢山食べれるようになれば、お婆ちゃんは元気になるかもしれない。僕がお金を稼いで、お婆ちゃんにうんと美味しい物を食べさせてあげよう。

 少年はそう決意して、街の色々なお店を回りました。

 しかし、小汚い格好をした少年を雇ってくれるお店はありません。めげずに毎日沢山の人やお店を訪ねましたが、やはり仕事をくれる所はありませんでした。

 

 少年はまた考えました。

 そうだ、靴磨きをやろう。誰も雇ってくれないのなら、自分が出来る事をやってお金を稼ごう、と。

 

 靴磨きの仕事は思っていた以上に辛く、貰えるお金も少なかったのですが、それでも少年は頑張って街の人々の靴を磨いていったのです。

 靴はぴかぴかになるけれど、少年の手はそれだけ真っ黒になりました。布が擦れてぼろぼろになっても、少年は老婆に元気になってもらいたい一心で靴を磨き続けました。

 

 そして、ある日の朝。

 老婆が目を覚ましてみると、そこには沢山の食べ物が山積みにされていました。新鮮な野菜、取れたての果実、肉に魚……今まで見たことも無いほどの量でした。

 老婆は驚き、しばらく誰が置いた物かと首を傾げておりました。

「誰が置いたのか分からないけれど、ここに置いておくのも勿体無いしねえ。ひょっとすると神様がお恵みを下さったのかもしれないねえ。」

 老婆はそう言って、幸せそうな笑顔をこぼしました。少年も、老婆の笑顔を見て嬉しくなりました。

 

 もっとお金を稼いで、もっと元気になってもらおう!

 少年は、それからも靴磨きに精を出しました。来る日も来る日も街人の靴を磨き、手や布がどれだけぼろぼろに擦り切れようとも、老婆の笑顔を思い出して頑張りました。

 

 しかし、やはり少年にとって辛い仕事であることに変わりはなく、少年は日に日に衰弱していきました。

 山のような食べ物は届けられるものの、弱っていく少年の姿を見た老婆は不安を覚えました。

「何だか最近無理をしていないかい? 大丈夫かい?」

 老婆の優しい言葉に、少年は笑顔で頷きました。それでも老婆は心配そうです。

 

 それでも少年は靴磨きをやめませんでした。

 もしお婆ちゃんが元気にならなかったら、死んでしまったら、僕は一人ぼっちになってしまう。大好きなお婆ちゃんに、まだ逝ってほしくない。

 街の人たちも少年の姿を見て心配していましたが、少年はただ笑って靴を磨くのでした。

 

 

 しかし、ある時……

 

「お前の持ってる金をよこしな!」

「沢山稼いでるんだろ? 少しくらい俺達にも分けてくれよ」

 少年を取り囲む影。街でも有名な荒くれ者たちでした。道行く人達は、見て見ぬ振りで誰も助けてはくれません。

「痛い思いをしたくなかったら、その金をよこしやがれ!」

 怪我をするのは嫌だけど、老婆を養う為のお金を、必死で稼いだお金を差し出す訳にはいきません。

 少年はお金の入った布袋を手に取ると、意を決して走り出しました。逃げる場所は思いつかないけれど、それでも逃げるしかお金を守る方法が無かったのです。

「逃げやがったぞ!」

「追いかけろ! 逃がすな!」

 少年は走りました。力の限り逃げました。

 しかし弱った体で逃げきる体力もなく、少年はとうとう荒くれ者たちに捕まってしまいました。

 

 それから人目のつかない路地裏に連れ込まれ、少年は殴る蹴るの暴力を受けるばかりでした。

「大人しく金を渡せば、痛い目を見ずに済んだのによ」

 布袋は奪われ、反撃する体力も少年には残ってはいませんでしたが、それでも荒くれ者たちは暴行をやめようとはしません。固い地面に打ちつけられて膝を擦りむいても、顔を殴られて血を吐いても、それでも暴力は止まりませんでした。

 

 死ぬ、このままじゃ死んでしまう!

 

 意識は遠のいていき、虚ろだった目はゆっくりと閉じられ……

「おばあちゃん――」

 少年は、大好きな老婆を呼びました。力無く呟いたその声は、誰の耳にも届きません。

 

 でも、その時でした。

 

「な、なんだお前!」

「邪魔するつもりならお前も……ぐあっ!」

 どすん、と鳴った大きな音に、少年は驚いて目を開けました。するとどうでしょう、先ほどまで少年に暴行を加えていた荒くれ者の一人が、路地の壁に打ちつけられて気を失っているではありませんか。

 一体何が起きたのかと、痛む体を起こして見てみると……

 

 そこには筋骨逞しい、一つの大きな姿がありました。荒くれ者たちを千切っては投げ、千切っては投げと、次々に倒していきます。

「た、助けてくれ!」

 最後の一人が悲鳴にも似た声を上げましたが、巨体は何も言わずに、その丸太の様な腕で荒くれ者を投げ飛ばしました。

 少年はその姿に見覚えがありました。

 

「お、お婆ちゃん……!?」

 

 そう、かつて戦闘のプロであり、戦場の修羅、死神などの異名を持つ老婆の逞しい姿だったのです。

「迷惑をかけたねえ。お前が食べ物を用意してくれていたことは薄々感付いてはいたけど、まさかこんなに辛い思いをしていたなんて……でも、お前が買ってくれた食べ物のお陰で、私はかつての力を取り戻す事が出来たよ」

 老婆は、その高齢からは予想もつかないほどに若々しい体を取り戻しており、その鋼のような肉体は正にかつての修羅を思わせます。

「大丈夫、お前を苛めていたやつらは、この婆が一人残らず始末してやったからね。安心おし」

 すっかり元気になった老婆を見て、少年は嬉しくなり、体の痛みも忘れて老婆の厚い胸板に飛び込みました。

 

 

 それから老婆は総合格闘技大会の世界タイトルマッチに出場し、見事にベルトを獲得することができました。

 配当されたファイトマネーは少年の靴磨きで得たお金とは比べ物にならないほど多く、老婆が引退し、息を引き取るまで楽に暮らしていけるほど有りました。

 

 少年はそれから成長を遂げ、新たな目標を作りました。

 彼は今、老婆の引退によりベルトを受け継いだ世界王者の目の前に居ます。

 そう、彼の目標とは、大好きな老婆と同じ世界に立つ事、その栄光のベルトを受け継ぐ事でした。

 

「天国の婆ちゃん、見てるか。今からあんたのベルトを奪い返しに行ってくるぜ……!」

「フッ、そう簡単にこのベルトは渡せんな。貴様の実力を見せてもらおうか」

 不敵に笑う世界王者に、同じく不敵な笑みで返す少年、もとい青年。

 

 会場は既に超満員。かつて無い程の熱気が渦巻く中、運命のゴングが鳴り響くのでした。

 めでたしめでたし。

すっかりお久しぶりすぎて、覚えてる方は見えるのでしょうか……

 

なんだかこんな下らないネタをパッと思いつき、文にしてみました。下書きも何もなしで力任せに書いてしまったので、さて出して良いものかと思いましたが……(苦笑)

 

稚拙な文章を読んでいただき、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが面白いと思っているなら、根本的にセンスがない。 努力で埋まるものではないから、あきらめるべし。
2008/11/24 03:05 つまらない
[一言] おばあちゃーーん・・・ まさか、そこでおばあちゃんなんだ、って感じです。 急展開が笑えた!!
2008/03/23 13:24 退会済み
管理
[一言] タイトルと冒頭の童話のような雰囲気に騙されましたよ……(良い意味で) おばあちゃんが出てきたときは、「ナニー!」と言いたくなりました。 非常に面白かったです。
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