サンドイッチ·イデオロギー
「突然だけれど、僕はサンドイッチの作り方を知らない。」
ある日、俺は休み時間にそう言われた。
普段から突飛な言動を繰り返す変な奴だとは思っていたけど、まさかサンドイッチの作り方が分からないとは…
「パンを買ってきて、ハムだとかチーズやレタスみたいな好きな中身を買えば済む話だろう?」
「そうじゃない。僕はパンが一体何なのかを知らない。ハムもそうだし、チーズもそう。レタスも。」
「まじか…」
あまりにもなのでスマホで検索してみた。
「パン」
「…パンとは、小麦粉やライ麦粉などの穀物粉に、水、酵母、塩などを加えて練り合わせ、発酵させて生地を膨らませた後に焼いた食品です。世界中で主食や軽食として親しまれており、国や地域によって様々な種類が存在します。」
「まあ抽象的ではあるけれどざっとこんなもんだろ」
「そうか、小麦と水を混ぜたものをイーストで発酵させて焼いたもの?なんだな…」
「…なんだか不満げだな」
「正確な説明だとは思うよ。けれども手触りが分かない。まだ作れそうじゃない。小麦粉をどう手に入れて、水をどう手にいれて、どんな酵母をどんな具合で発酵させて、どんな加減で焼くのだろう?」
こいつは大学生にもなるのになぜなぜ期を通り過ぎていないらしい。
「それはパンの作り方を調べれば済むんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど…まず小麦をどうするのか分かんないでしょ?」
「じゃあどういうことなんだ。どうやってパンを手に入れてるのかを分からないって言いたいのか?小麦の栽培だとか、製粉みたいな加工だとか、それをどっから持ってきてどうやって流通させてんだとかか?」
「そう!!!」
うるさいな、周りの何人かがこっちを向いたぞ(泣)
「じゃあそれを調べて解決だな」
「あー待って待って、僕が知らないことは確かに解決したけど、そうじゃないの」
「…まだ何かあるのか?」
「…?むしろここからが本題だよ?」
「本題だよ?じゃ、ねーよ。あー待った、長くなるから早く言ってくれ。」
「素直でいいね。じゃあ本題を言うんだけどさ、なんで僕はこれを知らないんだろうって。」
「…?どういうことだ?」
「いや、ね。僕らって食べ物を食べないと死んじゃうでしょ?だからサンドイッチみたいな食べ物を毎日食べてるんだけど、なんで作り方も知らないのに食べれるんだろうって。」
「むしろなんで知らないのに生きていけるんだろうって。」
「そりゃあ、社会とか流通とかがしっかりしてるからだろ…ってこれじゃ納得しないんだろ?」
「分かってきたね」
「ニヤッてすんな。」
ただ、確かにそうだ。作り方も分かんないものを口にしていて、それで生きていくってのはすごく奇妙な話だ。
「僕はね、そんな状態で生きていってるのがすごく気になるんだよね。細い糸で雑に係留されたヘリウム風船の気分。」
「だからこの状態に名前をつけようと思うの。」
「名前?」
「そう。名前。名前があればいちいち説明しなくていいし、思い出すときも便利でしょ?」
確かにな、もうあの問答を一回した話題で繰り返すのはゴメンだ。
ただ、名前か…
「じゃあサンドイッチ·イデオロギーってのはどうだ?」
「いいね!なんだかカッコよくて。」
「だろ?完全に響きだけでつけたからな」
「ところでイデオロギーってなに?」
「またかよ!」
周りの何人かがこっちを向いた。




