第十六章 北からの災厄
計画通り、一年で十二都市の応急システムが完成した。
しかし——
勝男の体は、限界に近づいていた。
「動くな」
王城の医務室で、王室付きの医師が勝男を診察した。
「お主、いつからこの状態だ」
「……半年くらい前から」
「半年!? なぜ早く言わなかった!」
医師は怒りを露わにした。
「スキルの過剰使用による魔力枯渇症だ。このまま続けたら、命に関わるぞ」
勝男は黙っていた。
「しばらく絶対安静だ。最低でも三ヶ月は——」
「無理です」
「無理じゃない! 命の問題だぞ!」
「それでも無理です」
勝男はベッドから起き上がった。
「魔王軍がまた動き始めた。今度は、王都を直接狙ってくるかもしれない」
「だからといって——」
「俺が休んでいる間に、何万人死ぬと思いますか」
医師は言葉に詰まった。
「俺一人の命と、何万人の命。どちらが重いか、わかるでしょう」
「……馬鹿者」
医師は溜め息をついた。
「お主のような患者は初めてだ。自分の体より、他人を優先する奴は」
「水道屋は、みんなそうです」
勝男は苦笑した。
「地味な仕事ですけどね。誰かがやらないと、人は生きていけない」
*
予想通り、魔王軍は再び侵攻を開始した。
今度の規模は、前回の比ではなかった。
十万を超える大軍勢。
そして——
魔王ザナトス自らが、軍の先頭に立っているという。
「魔王が出てきた……」
王城の作戦会議室で、将軍が険しい顔で言った。
「これは本気だ。王都を落とすつもりだろう」
「防衛の準備は?」
「整っている。城壁を固め、城内に食料と水を備蓄した。籠城すれば、半年は持ちこたえられる」
「半年……」
王は考え込んだ。
「その間に、援軍を呼ぶ時間はあるか」
「微妙です。近隣諸国に使者を出しましたが、返答がまだ——」
その時、勝男が口を開いた。
「籠城では勝てません」
全員が勝男を見た。
「なぜだ、田所殿」
「魔王の武器は水です。籠城しても、いつか水が尽きる」
「備蓄している」
「備蓄には限界があります。魔王軍は、それを待つだけでいい」
勝男は地図を指さした。
「籠城ではなく、攻撃しかありません。魔王軍を——いや、魔王本人を倒さないと、この戦争は終わらない」
「攻撃だと? 十万の敵軍に?」
「全軍で攻撃する必要はありません。少数精鋭で、魔王の本陣に潜入する」
将軍が眉をひそめた。
「潜入……? そんなことが可能なのか」
「俺には、ノルデンブルクでの経験があります。地下を通れば、敵の包囲を突破できる」
「しかし——」
「俺が行きます」
勝男は言った。
「魔王の武器は水だ。それを無効化できるのは、俺だけだ」
会議室が静まり返った。
「田所殿」
王が静かに言った。
「お主は、自分が何を言っているかわかっているのか」
「わかっています」
「魔王と対決するということだぞ。勝てる見込みはあるのか」
「わかりません」
勝男は正直に答えた。
「でも、やるしかない。他に方法がないから」
王は長い間、勝男を見つめていた。
「……わかった」
彼は言った。
「お主に、魔王討伐の任務を与える。必要な支援は全て出す。だが——」
王は立ち上がった。
「必ず、生きて帰れ」
「約束します」
勝男は頭を下げた。
しかし、心の中では——
約束を守れるかどうか、自信がなかった。




