4.リオールSide
リオール・ヴァイラスは、気づいたら独りだった。
いや、もっと小さい頃は、お父様やお母様、お兄様と暮らしていた。
『リオール』
『リオン』
『リオン!見てろよ』
朧気ながらも強そうな低いお父様の声、優しそうなお母様の笑顔、お兄様が僕がついてきているか振り返る姿。
「お前は、俺たちが食べ終わるまで立ってろ」
お父様やお母様が討伐で命を落とし、お兄様は、屋敷で誰かに殺された。
『お前が片付けろ!』
親戚だというヴァイラス家に連れてこられた僕の名前は、オマエになった。
『ホント、使えないわね』
最初は、僕が何かしてしまったのかと思った。
『置いてやってるだけ有難いと思え』
でも、違った。
彼らは、ただ僕を鞭で打ち、蹴り上げて楽しんでいた。
ヴァイラス家は、お父様達を酷く妬んでいたようだった。
「何か言っても言わなくても殴られる」
その内、抵抗しない方が早く終わる事に気づいた僕は、話すことを止めた。
『この子、顔は良いから傷はつけないで何処か金持ちの家に婿にさせたら良いのではなくて?』
もう、僕は何も感じなくなっていた。
✢~✢~✢
「あ、貴方は」
それは、雨が酷く降っている日に起こった。
書類では僕のお父様となっているヴァイラス家の当主が、突然現れた男の人に殴られて、壁まで飛ばされた。
「リオールか?」
鞘から抜かれた光る剣を握る男の人は、後退りした僕の前で膝をついて、もう呼ばれなくなった名前を呼んだ。
「君の父君の名は、ランカスター・ウィストンで間違いないか?」
早く答えなくてはいけないのに、人前で声を出す事をしてこなかったからか、僕の喉はなかなかいうことをきかなくて、頷くのが精一杯だった。
「私は、レイン・グラニーだ。君の伯父だ」
恐る恐る、顔を上げたら、その人は、とても悲しそうな顔をしていた。
えっ?
「リオール、遅くなって本当にすまなかった」
その人は、僕を抱きしめた。
人と触れ合うのは、いつぶりだろう。それより、お風呂に入ってない僕に触ったら汚くなっちゃうと伝えたら、何故か、もっと抱きしめられた。
男の人の力は強くて苦しかった。だけど、嫌じゃなかったんだ。
✢~✢~✢
「昨日、私も考えたんだけど、レインと私の子になる気はある?勝手に決めちゃうのは良くないから聞きたくて」
馬の上で寝てしまうくらい遠い場所のお屋敷で、温かいお風呂とふかふかなパンを食べさせてもらった次の日、そう聞かれた。
「五日後迄に決めましょう」
悩む僕に、当主の奥様が提案してくれた。
「あとは、よく食べ、よく寝る事」
取り柄が何もないと言ったのに嫌な顔もされなかった。
「お願い事、三つになっちゃった」
僕が何かを選べるだなんて。いいのかな?
「ありがとう⋯ございます」
不思議だ。温かい飲み物を飲んでいないのに。なんか、体がぽかぽかするんだ。




