2.慎重になってしまうわ
「とりあえず二人とも、お風呂に直行しましょう。あ、ベリーさんちょっと」
私は、侍女さんに男の子に聞かれないように一つ、お願い事をした。
さて、次は。
ビクッ
「レインさんはお風呂の後に話をしましょうか」
「⋯承知した」
視線が絡んだだけで、そんなにビクつかないでよ。
まぁ、じっくり話をする必要はありそうだけどね。
✢~✢~✢
「あの子は、私の甥で、随分前に討伐で命を落とした姉の子供です」
親戚の、それも近い子の話なのに空気は重い。
「リオール・ヴァイラス。歳は9才」
「紅茶、冷めちゃうし、お腹空いているでしょ?食べながら話して」
思案げに下がっていた目が上がり、私と目が合えば、揺れている。
「レイン。私は、怒っていない。ただ、やりようがあったと思う。通信機で事前に大まかな話を教えてくれても良かった」
「それは」
「緊急性があったから連れてきたのよね?」
私が、言いたいのは他にもある。
「本人の意思も聞かずに今日から此処で暮らし、この人を親だと思いなさいって、逆に言われたらどうする?」
まだ子供だけど。
「私が、あの場で受け入れられないと伝えたら、それを側で聞いた子は、どう感じるの?」
「それは」
行動が甘いよ。
「貴方は、驚きはするだろうが、見捨てる事はないと判断していた」
確かに見捨てる気はないけど。
「養子として、跡継ぎとして育てたいの?」
「いや、そこまで考えてはいない」
コンコンッ
「ベリーです」
「どうぞ」
失礼しますと入室してきた彼女の様子で聞かなくても察した。
「ナオ様の話された通りにお伝えした所、ご自分で一人で入浴したいと仰るので」
「させてあげたんですね」
浮かない顔だ。
「支度の手伝いは入った方が良いかと思い、お声をかけました。ご自分で途中まで着ていらしたのですが、一瞬ですが、背に無数の痣と傷があり、おそらく鞭かと思われます」
レインがゆっくり口を開いた。
「先程、ナオが指示をしていたのは」
「えぇ、虐待されていたら身体を見られたくないかもしれないから、無理に介助に入らないで見守るよう伝えたの」
外れていて欲しかったけれどね。
「甥の事をご存知だったのですか?」
「知らないわよ」
ただ、おそらく今日の今日で、私に連絡する時間もなく連れてきた子供。何かあるはずだった。
「しいて言えば、無表情だったから」
私は、この世界に落ちる前、保育園の調理場で働いていた。
「ある日、親に放置された子が緊急で来たの」
保育園によるけれど、そういう子を一時的に受け入れてくれる園もあるのだ。
「その時の子供と同じ目というか顔つきだもの」
育児放棄された、その子供はご飯を出されようと、玩具を見せても無表情だった子と重なった。
「レイン、リオール君を養子にするのは、孤児院にいる子達とは私の中で違うの」
「それは、君だけに負担はかけさせない」
違うのよ。
「随分前に殿下に言ったことがあるの。私は、この世界には、家族も友達もいない。すなわち、護る者はいないから弱みがないと」
一人って、ある意味身軽なのよね。
「レインは、強いじゃない?勿論、討伐は毎回心配しているのよ。ただ、あの子は違う」
そう、私は怖いのだ。
「レインの補佐をして領民を守るのも責任重大よ」
領民も大切なモノだけど、リオール君との養子縁組の手続きが終われば、彼らよりも近くなる。
大切なモノを増やすのが怖い。
「ナオ、すまない。俺は」
「違うの。ただ私が未熟なのよね」
弱虫は私だ。
「レイン、とりあえず、リオール君と話をしよう」
なんにせよ、彼が選ぶべきだわ。




