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1.ナオ・グラニーとなった私

侍女のベリーは、目の前の扉を開けるか悩みに悩んでいた。


「あ、そこいい」

「ここですか?」

「ん」


 今では絶滅した獣族の血をひく彼女は薄まった血であるものの聴力が非常に優れているのだ。


 偵察や戦闘時には役に立つが、こんな時は困るわと頬を赤らめつつも、今日の伺っている予定を考えると、そろそろ支度をして頂かないと間に合わない。


もう、えいっ!


コンコン


「お寛ぎのところ申し訳ございません」

「あっ!いけない!今日は、視察があるのよね。どうぞ入って下さい」


 え、そんな直ぐに開けて大丈夫なのかしら?


「⋯失礼します」


そっと開けば。


「んっ」

「変な声を出さないで下さい」

「太腿は擽ったいからしょうがないじゃない!」

「そんな声をだされると私が駄目なんです」


 どうやら足が怠いと奥様が呟いたとかで当主様が、奥様の足を揉んでいたらしい。


「なんで、耳まで真っ赤なの?」

「う、あまり触らないで下さい!⋯察して下さい」


 強面の当主様は、今や耳を赤くし頬まで染まっている。


「奥様、間に合わなくなりますので」


 朝から胸いっぱいの胃もたれ気味になりながらも、自分の仕事を思い出し、奥様を更に綺麗に仕上げなくてはと腕まくりをして、旦那様を追い出したのだった。





✢~✢~✢



「はぁ」


 今日は、農産業について詳しく知るために実際に現地へ視察をし、帰り道に新しく建て替えた孤児院の様子も見てきた。


「疲労回復に効果があるとされるフォーム茶になります。焼き菓子も召し上がりますか?」

「少し食べようかな。ありがとう」


 最新だという、揺れの少ない馬車の中では焙じ茶のような香りで満ちている。


 そして、ベリーさん。今日だけではなく、日々の気遣いありがとうございます。


 でも、今のため息は違うの。


『そんな声をだされると私が駄目なんです』


 レインさんは、何故あんなにもピュアなのだろうか。


 出会った当時よりはフランクになったけれど、彼は時折私に対して敬語を使うし、彼の表情筋は生き生きとしているかと問われたら、頑張ってますという返答かな。


 私は、むしろ変わらなくても気にならないけれど。


 なんか恥ずかしくなったりすると、無表情なのに耳は必ず赤くなっているし。たまに作るご飯は、毎回おかわりで、口角上げながら食べている姿に。


「飽きないなぁ」


 あの顔が見たくて、最近は、結構な頻度でご飯作っているかも。料理長に迷惑をかけないようにしなくてはと結婚して半年が経過した私は反省するのだった。


 そんな多忙ながらも充実した日々を送っていた、ある日の夕方。


「お帰りなさい。雨が酷かったね。あら、後に誰かしら?」

「この子を貴方の息子にしてもらえませんか?」


 豪雨の中、びしょ濡れで帰宅したレインは、突然、屋敷に一人の男の子を連れてきてたのだ。


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