アーサー王物語:マーリンとモーガン
中世イングランドを語る上で欠かせない魔女・魔術師・予言者といえば、アーサー王物語のマーリンとモーガンです。
まずは、先程もでてきた、イギリス一有名な予言者で魔術師…と言っても過言では無い人物、マーリン。元々はウェールズ地方の狂人予言者、ミルディン伝説から派生したとも言われています。マーリンは「過去」、「現在」、「未来」を観る事ができる予言者で、そして己の姿形を変える事の出来る魔術師と信じられていました。12世紀辺りから特によく引用される様になり、アーサー王伝説の一部として語られる様になります。
ブリタニア列王史(12世紀、ジェフリー・オブ・モンマス作)では「父無し子」のマーリンは、修道女と悪魔の合間に産まれたというトンデモ設定であり、そしてついでにストーンヘンジを作った人物です。何故か70個も窓のある家から占星をしたりも。あと、しれっと結婚もしています。
13世紀の詩「マーリン」(ロベール・ド・ボロン作)によると反キリスト(アンチクライスト)となるべくして産まれたが止められた…という設定。
さて、このマーリンの興味深いところは、その立ち位置と受け取られ方です。中世における魔法の良し悪しの議論は、既にちらっと話しましたが、唯一共通しているのは「悪魔学」から来た「魔法」は最低最悪でいかなる状況でもダメ、という事です。しかし、ここでのマーリンは、悪魔の力を通じた魔法を駆使します。悪役になってもおかしくないのに、何故かヒーロー側です。
勿論、その悪魔オリジンを何とか良くするために、産まれてすぐに洗礼されてキリスト教徒になったとか、本人が悪魔の父を見限ったとか、「未来を見る力」だけは神から貰ったものだからOKだというストーリーもあります。それでも使っている力は悪魔の魔法じゃね…?と思ったそこの貴方。いや、まさにそうなんですよ。
なんで「マーリンの予言」という事にしちゃえば、政治にすら影響を与えられるの…?悪魔学って悪かったんじゃ無いの…?
作者もこれが疑問で、色々探してみたんですけど、中々納得できる説明はありません。しかし、取り合えず言える事は…まあ、悪魔学も、案外フレキシブルに受け取る人は、かなりいたのかもしれないです。
悪魔を出し抜く、というタイプの伝説や童話は色々ありますが、それらは比較的に主人公(出し抜いた人)をポジティブに書きますかね。もしかしたら、マーリンは、そういう系統のストーリーの過激版かもしれないです。悪魔学も、ちゃんと出し抜きさえすればOKって事なんですかね。
余談ですが、色々と出てきたアーサー王伝説関係の書物をまとめたものの一つが、15世紀のトマス・マロリー著作「アーサー王の死」です。ここでのマーリンは強力な魔術師であり、アーサー王の誕生に一役買い、王になるべく導く人物です。マロリーのマーリンは、19世紀から定着された「お爺ちゃん魔法使い」のイメージとは違い、乞食、狩人、少年、そしてたまにお爺さんと、かなりよく姿形を変えます。少年マーリン…全然イメージできないw
それでは次、同様「アーサー王伝説」の主要人物、魔女のモーガン・ル・フェイです(または妖精モーガン)。ジェフリー・オブ・モンマスの作品では、「九人の魔女」の長女で女王、一番美人で賢くて優しくて変身能力がある!というてんこ盛り設定です。基本善人ポジションです。
人物像にはケルト神話や、ギリシャ神話のキルケー等の印象も少々感じさせます。
しかしマーリンと違い、モーガン時代を経て段々ネガティブな印象が強くなる、ちょっと可哀想な人物です。12世紀にはアーサーの姉設定が加えられ、「アーサー王の死」が書かれる頃には、完全に黒魔術を駆使するガチ悪女へと変わります。
何故だ…マーリンは相変わらず良いポジにいるのに…!
余談ですが、19世紀ヴィクトリア朝時代に描かれた、かなり有名なモーガンの絵があるのですが、何故か着物(着付けは思いっ切り間違っている)の上に豹の皮をかけるという謎ファッションです。




