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魔女、魔術師、預言者

「魔女(Witch)」とうのは、実は女性に限った話では無く、本来ならば男女ともに指す言葉でした。勿論、「魔女狩り」という名目で亡くなった方々は、基本的に女性の方が多く、また地域や時代によっては男の「魔女」を「ウォーロック(Warlock)」と差別化する事もあります。


魔女というものは聖書にもちまちま現れ、原型ともいえるその代表格が「エンドルの魔女」です(登場:サムエル記とシラ書)。


預言者サムエルが亡くなり、イスラエルの王であるサウルは、ペリシテ軍の集結に対する行動方針を神から助言を求めます。しかし、夢占いや予言者を頼っても、成果はありません。既にイスラエルから占い師や魔術師は追放されていましたが、サウルは匿名で魔女を探し、エンドルの村に一人いると聞きつけます。件の女は最初、サウルが魔術を禁じているからと渋りますが(この時サウルは変装中)身の安全を保証され、サムエルの魂を呼ぶ事になります。


この際、女は「神々」(複数の神を示す複数形の単語)がみえると主張しますが、サウルは神を「彼」(単数)だと呼びます。


やがて召喚された霊はサウルが神に逆らったことを責め、サウルの没落を予言します。そしてこの霊はイスラエルの軍隊が敗北し、サウルと彼の息子たちは明日「私と一緒になるだろうと」言い残します。


翌日、イスラエルの軍隊は予言通りに敗れ、サウルは負傷し、自殺してしまいます。歴代誌には、これはサウルが神ではなく、霊媒師から助言を求めたことへの罰だった、と説明されます。



と、思ったより長くなりましたが、要約すると:


1.「唯一神」ではない、別の存在から怪しげな力を与えられている人間がいる

2.そしてこの人は害悪にしかならない

3.そんな力を駆使する人間は、いなくて正解だった


です(超雑)。中世で最も影響のあった「魔女のイメージ」の原型だと、言えなくも無いと思います。


ただ聖書に限らず、中世時代の書物には、ギリシャ神話のキルケーもそれなりに登場し、その一つには魔法薬で人を豚に変えた、というのがありました。女性が惚れ薬を使う、とうのもまた、中世時代の「魔女」の描写によく出てくるパターンです。



イングランドには多くの魔女伝説がありましたが、個人的に面白いと思うものの一つが「マザー・シプトン」です。17世紀のパンフレット曰く、彼女は幼い頃から、悪魔の子だと思われるほど醜女だったが、年齢にそぐわない高い知能を持ち、政治的な予言を多くした…らしいです。しかし、伝説同様、彼女にまつわるストーリーの多くは出所が非常に怪しげです。彼女の名前が初めて出るのは17世紀後期、彼女が生きた時代の約一世紀近く後です。本当の人物かは解りません。そして仮に本当だとしても、ただの天才かもしれませんw 



一方で魔術師ですが、一般的には魔女の上位の存在で、更に強力な力を操る人物、というのが広い認識です。その中でも、中世美術+文学に頻繁に登場する魔術師は、シモン・マグス(魔術師シモン)だと言えます。


シモン・マグスは聖書の人物で、元々魔術師として多くの信者がいましたが、『使徒行伝』第8章では洗礼をうけ、キリスト教徒になります。キリストの弟子、ペテロとヨハネが宣教に訪れたときに、聖霊を授ける力を金で売って欲しいと持ちかけ、叱責を受けて反省した…という感じのストーリーです(案外素直だなw)。ただ別の解釈ではこの聖霊を授ける力を欲しがって改宗した邪な奴、というのもあるにはあります。


後のストーリー解釈では、魔術と魔法で聖ペテロに勝負を持ちかけるも、「俺、空飛べるんだぜ!」と悪魔に抱えられながら塔の上から飛び立ち、聖ペテロのツルの一声で、悪魔に手を離されて死ぬ…という、中々ダサいのもあります。



さて、魔女と魔術師と性質は似ていながらも、もうちょっと立ち位置が微妙になるのが「予言者」です。程よくポジティブな見られ方な時もあれば、「悪魔に連なる者!!!」として絞首台への片道切符を受け取る事もあります。


中世ドイツの修道女、神秘家であり史上4人目の女性の教会博士だったヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、女予言者として知られていました。神聖ローマ皇帝フリードリヒ一世や、教皇エウゲニウス三世と謁見もしたり等、彼女は敬意を祓われ、重要な人物として扱われました。


もしかして:ただの天才。


ただ一方で、もう少しマイナーな話をすると、1212年、ジョン王はポンテフラクトにピーターという予言者がいる事と、しかもこの男が「来年にはジョン王は王冠を失う」と予言したと聞きつけます。この時、ジョン王は教皇と喧嘩中で、侵略される危機もあるという危ない状況。当然恐れ戦きますが、そこはジョン王、ピーターを牢獄にぶち込み、即座に教皇との仲を改善します。予言が免れると、ピーターは引きずりだされ、絞首刑になったと言われています。哀れ!



そんなこんなで、「政治」と「予言」について。


中世イングランドの予言で最も有名なのは、魔術師マーリンの予言の一つ(とされていたw)「ジョン王に続く六つの動物」またの名を「モグラの王」です(最も古い情報源は14世紀)。この予言では、「ジョン王」に続く王達を、それぞれの特色に合わせた動物に例えました。


まずは子羊(ヘンリー三世)、次に竜(エドワード一世)、ヤギ(エドワード二世)、イノシシ(エドワード三世)、そしてまた子羊(リチャード二世)、六番目は「モグラ」。


このモグラは外れ王です。予言によると、モグラの在位中に:


「北方に龍が立ち上がるであろう。その龍は非常に凶暴であり、『モグラ』と石の上で戦うであろう。この龍は西から現れる狼を自身の仲間に加えるであろう。その狼はモグラと戦い、そして龍と彼は尾を結びつけるであろう。そしてアイルランドから獅子がやって来て、彼らと共闘し、そしてイングランドは震えるであろう…モグラは恐れて逃げ、そして土地は三つに分割されるであろう。狼に、龍に、そして獅子によって、永遠にそのようになるであろう」



はてさて、この予言が人気になった(…作られた?)のは、早くともエドワード三世誕生前後の事なので、ぶっちゃけイノシシ以前は全部後出しです。そして、エドワード三世は確かに「土地を奪還するイノシシ」の予言を実行した王だっただけではなく、おおよそ「子羊」っぽくないエドワード黒太子が王になる前に死去し、「五番目の王」になったのがまだ十歳のリチャード二世です(子羊…)。故に、「六番目」の王になる頃には、予言の信憑性は高い、という印象が拭えなかったのです。


その「六番目のモグラ王」とは?ヘンリー四世です。略奪王~♪


またまた縁起悪く、敵となる三つの動物、竜、ライオン、そして狼に当てはまる出来事もありました。


イングランド北方に位置する、ノーサンバーランド伯爵パーシーが「北の龍」。また、別の候補には、スコットランド貴族のアーチボルド・ダグラス伯等もいます。


ウェールズ豪族のオワイン・グリンドゥールが「西の狼」。


アイルランドの総督、クラレンス公ライオネルの孫、エドマンド・モーティマーが「アイルランドの獅子」。


ノーサンバーランド伯とグリンドゥールがそれぞれ反乱を起こし(*エドマンドはグリンドゥールに寝返った)、ヘンリーを悩ませます。予言と違うのは、ヘンリー四世が一応勝った…という部分でしょうか?しかし、最も有名な予言に当てはまる自分と政敵。即位自体が強く反発され、正当性が無いと主張されていたヘンリー四世としては、気が気で無かったと思います。


が、まあ…ネタ晴らしすると、こういった予言には基本政治意図が含まれ、また、程よく曖昧にさえすれば、何かしら当てはまるものです。この場合の「北」はノーサンバーランド伯爵でしたが、スコットランド独立戦争(×2)の傷もまだかなり深く、ウェールズ、アイルランドは反乱の温床、嫌われ者なイングランドからすれば、燻る火種は北にも西にも多く、別に深読みせずとも十分予期できる事です。また、原型となる「予言」こそあったかもしれませんが、ヘンリーの政敵が色々余分な情報を追加した可能性も、十分にある訳で…


とてもリアルなまとめ方ですが、「中世の魔法(予言)」は中々のプロパガンダ題材です。

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