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ブローチ 後編

「昔の俺達は金がなく愚かな人間でした。あの人の家に金目のものがあると知り盗む事を決めました。盗品もその日の内に全て売り払い金にしようと決めていました。でも、俺はあの日盗品の中から一つだけ仲間にも見つからないようこっそりとズボンの中に入れ記念品として持っていたんです」


その言葉に仲間達はふざけるなという顔で守を見る。


お前の自分勝手な行動でこの状況になっていると気づいたから。


「次の日、俺は公園でブローチを眺めていました。勿論周りに誰もいない事を確認してから。でも、子供がいつの間にか目の前にいて話しかけられました。とても綺麗なブローチね、と。俺は焦りました。もしこれが盗品だとバレたらと誰かにこのブローチのことを話されたらと。誰もいないと思って見ていたのに気づいたら目の前にいたんです。殺さないといけない。そう思いました。子供が公園を出る時気づいたら背中を押して突き飛ばしていました。俺は子供を突き飛ばして直ぐに自分のした事を悔やみました。何て事をしたのだろうと。急いで救急車に連絡して子供を助けようとしました」


守は泣いてその事を後悔していたが、カガチだけは冷たい目で守を見下ろしていた。


「それ、嘘ですよね。貴方は悔いたと言ったが、わざわざ携帯じゃなく少し離れた公衆電話から電話していました。応急処置も大してしていなかったじゃないですか。本当は後悔なんてしてないですよね」


カガチは過去を覗くときその人の感情も読み取ることができる。


だから、守がその時何を思っていたのかカガチには筒抜けだった。


わざとそうしたのだ。


やるだけのことはやったけど、運が悪かっただけと自分に言い聞かせるために。


「…….そんなわけはない。本当だ。気が動転していて。わざとじゃないんだ。俺は何も悪くない。…………そうだ。そうだ。俺は何も悪くない。悪いのはこいつらだ。俺を唆して犯罪の手助けをさせたんだから。全てこいつらが悪い。俺は被害者だ」


おかしくなったのか守は意味のわからない事を叫び始める。


仲間達も守の変わりように驚いて固まってしまう。


カガチの言い方が断言したものであの日その場にいたような、全てを見透かされているような気がして怖くなる。


「……聞くに耐えんな。自白したしさっさと捕まえるか」


アザミは外で待機させていた同僚に電話をして犯人が自白したと伝え入ってくるように言う。


「アザミさん。後は頼みます」


「ああ。そっちも上手くやれよ」


ユリの頼むにはブローチ以外の盗まれた物がどこに行ったのか調べて欲しいという意味で、アザミの上手くやれよ、は依頼人と持ち主のケアをさしていた。


「わかってます」


二人が会話を終えるとアザミの同僚達が入ってくる。


「自白は取れたし録音もしてある。こいつら全員連れて行け」


アザミがそういうと男達を署まで同行する。


守は「俺は何も悪くない」と叫んでいたが誰も相手せず連れて行く。


アザミも男達と一緒に部屋から出て行くが、その前に「もうすぐ来る。準備しとけ」とすれ違い様に言う。


ユリは「はい」と返事をする。


アザミ達が出ていくとユリは楓の方を見る。


「大丈夫ですか?」


そんなわけないとわかっていたがそれ以外に何と声をかけていいのかわからなかった。


「……はい、大丈夫です。私が命の恩人だと思っていた人は本当は私を殺そうとしていた人だったんですね」


「……はい」


「私馬鹿ですね。自分を殺そうとした相手に感謝してお礼を言いたいだなんて。このブローチもさっさと警察に渡していたら持ち主のところに返れたのに。私の自分勝手な行動のせいで……」


依頼した時は漸くお礼が言えると嬉しかったのに、今はこんなことになるのならさっさと警察に渡してしまえばよかったと後悔する。


「一条さん。貴方は何も悪くありません。貴方がブローチを大切に保管していたから今日持ち主の手に戻るのです。あの時貴方が見つけていなかったら、あの男が見つけていたかもしれません。二度と持ち主の手元に返らなかったかもしれません。どうか、貴方の手で返してあげてください」


ユリは楓の前に手を差し出す。


楓はユリの言葉で、自分の手できちんと返そうと決めその手を掴む。



ユリと楓が話している間。


「桜田薫さん。俺はカガチと申します」


「はい。刑事さんから聞いております。この度は本当にありがとうございます。あのブローチは私にとってとても大切な物なのです。この御恩は一生忘れません」


薫は涙を流しながらカガチに感謝の言葉を伝える。


少し前、自分の大切なものを盗んだ犯人達が捕まったというのに大して取り乱すこともなくただ黙って見つめていた。


薫にとって犯人が捕まろうがどうでもよかった。


ブローチさえ戻ってくるなら、それだけでよかったのだ。


「お礼ならどうか彼女に伝えてあげてください。あの日からずっと持ち主に返したいと大切に保管していたのです。その気持ちをどうか……」


「はい。わかっています」


薫はカガチが何を言いたいのか察し大丈夫だと微笑みかける。


「……あの」


楓が話しかける。


薫が楓を落ち着かせようと優しい声で「はい」と返事する。


「……私の身勝手な行いのせいで大切なブローチをずっとお返しすることができませんでした。……本当に申し訳ありません」


泣くのを必死に我慢し楓はブローチの入った箱を薫に手渡す。


薫は箱を受け取り蓋を開け中を開けると嬉しさのあまり涙を流す。


「頭を上げてください」


薫の言葉で頭を上げるが顔は下を向いたまま。


薫は楓の両手を優しく包みこみ「ありがとう」と感謝の言葉を伝える。


楓は薫からそんな言葉をかけてもらえるとは思っておらず、自分の醜さに嫌気がさした。


「……私はお礼を言ってもらえるような人間ではありません。私がブローチを持っていたのは自分の手で恩人に返したいと思ったからです。自分の欲を満たす為に私は警察に届けることなくずっと持っていたのです」


ブローチを見つけた日、楓はこれを恩人に渡して助けてくれたお礼を言いたいと。


恩人の顔は覚えていなかったのでブローチを持っていれば向こうから話しかけてきてくれる。


そう思ってずっと持っていた。


楓は薫からの感謝の言葉が胸にささった。


「私にとってこのブローチはとても大切な物です。もう二度返ってこないだろうと諦めていました。でも、貴方があの日このブローチを拾ってくれたおかげで私のもとに返ってきました。それだけで充分なのです。貴方が拾い私に届けた。その事実だけでいいのです」


薫は慰めようと思ってそう言ったのではなく、本当に心の底からそう思っていた。


手元に戻ってきた。


その事実だけでよかった。


後のことはどうでもよかった。


「お嬢さん。本当にありがとう」


薫がもう一度お礼を伝えると楓は必死に耐えていた涙が一気に溢れ出した。


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