結婚詐欺 1
「じゃあ、私はアオイのところに行ってくる。後のことは頼むんだよ」
「ああ」
カガチが返事をする。
本当は三人で行く予定だったが、ユリが念の為能力を使って依頼人が来ないか確認すると十三時に来ることがわかった。
今は十時で依頼人が来るまで後三時間。
仕方ないのでロゼが一人で行き、二人は依頼人を迎えるためお留守番することになった。
「これアオイさんに渡してください」
アオイの好きなお菓子が大量に入ってある袋を渡す。
「ありがとう、ユーリ。じゃあ、行ってくる」
ロゼが出て行くとカガチは「俺もアオイさんとこ行きたかったな」と残念がる。
「仕方ないだろ。依頼人が来るんだから」
そう口では言うが本当はユリも一緒に行きたかった。
「(素直じゃねぇな)」
誰が見たって一番残念がってるのはユリだとわかる。
「そうだな。俺達は俺達の役目を果たしてロゼを驚かしてやろぜ」
ユリの肩に腕を回し「な」と笑う。
ユリはその腕を鬱陶しそうに払い退け「当然だ。仕事だからな」と言う。
「(本当可愛くねー)」
二度と励ましてやんね、とユリの後ろ姿にベーッと舌を出す。
※※※
「私は新庄香織と言います」
「それでご依頼内容は」
カガチが尋ねる。
今回は黒い彼岸花を貰っていないので、能力無しの案件だ。
「この男のことを調べて欲しいんです」
そういうと香織は男の写真を二人に見せる。
「この男の人とはどういう関係ですか?」
ユリが尋ねる。
「恋人です」
「調べるのは構いませんが、何故自分達に?探偵の方がいいのでは?」
今度はカガチ尋ねる。
恋人の身辺調査はどう考えても探偵の方が優秀。
できないことはないが、不慣れな自分達に依頼する理由がわからない。
「私も最初はそうしようと思っていたんですが、ある人に勧められて」
「ある人?」
昔の依頼人だろうか?
カガチは能力を使わないで扱った依頼主達を思い出す。
「ええ。老紳士の人が教えてくれました」
老紳士。
今まで扱った依頼でそんな依頼主はいない。
誰だ?と不審に思っているとユリも同じことを思ったのか険しい顔つきになっていた。
「その人は何て言っていましたか?」
「昔依頼を頼んで解決してもらった、と」
ユリの質問に答える。
「(嘘だ。そんな依頼主はどちらの方でも受けていない)」
二人共同じことを思った。
これは彼女の過去から老紳士を見る必要がある。
バレずに過去を覗くのはリスクがある。
黒い彼岸花を持っての依頼なら口止めもできるし、協力してもらうこともできた。
どうにかして香織に触る口実を考えるもいい方が浮かばず後回しにする。
「そういうことでしたか。それで何故恋人の身辺調査を?」
考え込んで話を聞こうとしないカガチの代わりにユリが聞く。
香織は言いにくそうにゆっくりと口を開いてからこう言った。
「……もしかしたら彼は結婚詐欺師かもそれないんです」
「結婚詐欺師ですか?」
カガチがそう言うと二人は顔を見合わせる。
「どうしてそう思ったんですか?」
カガチの問いに香織はスカートを強く握り締めながら顔を真っ赤にする。
疑うきっかけの出来事を思い出して怒りが湧き上がる。
「偶然町で彼に会った日があるんです。その日は彼には仕事で会えないって言われ一人で買い物をしてたんです。美味しい物を食べて欲しい服も買って一人でも楽しく過ごしてたんですが、本当にたまたま彼を見かけて話しかけようと後を追ったんです。でも、彼どんどん変な道を通って怪しい店の通りをを歩いていくんです。怖くて何度も引き返そうとしましたが、どうして彼がそんなとこに行くか知りたくてそのまま着いて行ったんです。そしたら、彼ガラの悪い人達と仲良さげに話出して……もしかしたら、私騙されていたのかなって思って。バレないように彼らに近づいて話を聞いたんです。そしたら彼こう言ったんです」
そこまで言うと香織は男の言葉を思い出し目に涙が溜まった。
それに気づいたユリはティッシュ箱を香織の前に置く。
「ありがとう」
と言ってティッシュを取り涙を拭く。
香織は目を赤くしながら話を続ける。
「また馬鹿な女から金を騙し取とれるって……最初は信じられなくて、これは嘘だ!夢だって、自分に言い聞かせてたんです。でも、その度にそう言ったときの彼の顔が忘れられなくて、嘘じゃなかったんだって思い知らされたんです」
「わかりました。そのご依頼お受けしましょう」
「本当ですか。ありがとうございます」
ユリが承諾すると香織は頭を下げてお礼を言う。
「一つお伺いします。このご依頼はこの男の身辺調査だけですか?それとも、警察に突き出しますか?」
「……まだ決めていません。でも、悔しいんです。今は無理だけどいつか結婚しよう、て言ってくれたのにそれも全部嘘だと思うと許せなくて復讐したいって気持ちもあるんです」
これまで過ごしてきた日々も言ってくれた言葉を全て嘘だったと思うと許せない。
「ならしますか、復讐」
「え?」
ユリから提案されるとは思わず間抜けな声が出る。
「したいのならお手伝いしますよ。ここは何でも屋なので」
「……本当にできますか?」
「ええ」
ユリが答えるが隣でカガチも頷く。
「お願いします。二度人の心を弄ぶことができないようにしてください。私を含めた騙された女性達の仇を取ってください」
「お任せください。必ず貴方の悲願を叶えましょう」
ユリは仏のような優しい笑みを浮かべる。




