花嫁殺し 中編
「藤堂さん。俺達勝手に出てきてよかったんですか」
これから捜査会議が開かれるのに、と伝えるも「ああ、問題ない」と言うだけで説明する気配はない。
アザミは誰かとラインのやりとりをしたり電話をしたりしている。
たまにどっちに行くかの指示だけを出すだけ。
透明人間になったみたいに存在を消される。
「あそこに止めろ」
駐車場を指差し車を止めるよう指示を出す。
「わかりました」
男は返事するもアザミは電話に夢中で聞いていない。
「ああ、わかったありがとう。また何かあったら連絡する」
アザミが電話を終わるのと同時にエンジンをきる。
「じゃあ、行くぞ。ついてこい」
車から降りて自分についてくるよう言う。
「待ってください。せめて説明してください」
アザミの後をついていきながら泣きそうな顔をする。
確かに説明なしに振り回すのは良くないと思い簡潔に説明する。
「これから人が死ぬ。それを止めにいく」
今は夜で空は暗く周囲には誰もいないが念のため小声で男に説明する。
「……ええ!?それはどういうことですか!?」
最後まで言い終わる前にアザミが急いで口を塞ぐ。
「大声を出すな。気づかれるだろ」
何の為に小声で話したのかと男を注意した後、周囲に人がいないか確認する。
時間が時間なだけに誰も周りにはいない。
犯人が誰かわからない以上誰にも怪しまれるわけにはいかない。
アザミはもう一度男に何があっても絶対に声を出すな、と釘を刺して犯行場所の公園に向かう。
「俺はここに隠れる。お前はあそこに隠れろ」
アザミは別々に隠れどこから犯人が現れても対処できるところに隠れる。
時間は二十二時五十八分。
後、十五分後に事件は起きる。
遊具の中に隠れて犯人を待っている間、時計の針の音が遊具に響いて気づかれないかとか絶対あり得ないことを考えしまう。
一秒が長く感じる。
気がおかしくなりそうでこんなこと思ってはいけないが「犯人よ、頼むから早く来い」と思ってしまう。
事件発生まで十分をきると被害者の牧村美鈴が現れる。
コンビニの帰りかボサボサ頭に服はスウェト、スリッパにビニールの袋を持って公園を横切ろうと中に入ってくる。
鼻歌を歌いながら男が隠れているところを通り過ぎアザミのところまでくるかと思ったがその手前のブランコに座って、ビニール袋からビールを取り出して飲み始める。
「ぷはぁ、最高!やっぱ、夜の公園で飲むビールが一番うまいわ〜」
人がいないと思っているからか美鈴は結構大きな声で独り言を言う。
ーーいいな、ビール。俺も飲みたい。
遊具の中に隠れて犯人が来るのを寒い中待つより、美鈴のようにビールを飲んで星空を眺めていたいと思う。
アザミがそんなことを思っていると、美鈴に近づくフードを深く被っている人物に気づく。
男が気づいているかはわからないが、アザミは警戒する。
一歩、また一歩、美鈴に近づくたびに神経が研ぎ澄まされていく。
早く捕まえたいという焦りから遊具から飛び出してしまいたくなる。
まだ駄目だ。
フードはまだ何もしていない。
これでは捕まえられない。
でも、遅すぎたら牧村美鈴が殺される。
判断が難しくどうするべきか悩んでいるとフードが牧村美鈴の前にたどり着く。
「……私に何か?」
フードで顔が暗く誰か見えない。
月が雲に隠れ辺りが暗いのもあるだろう。
それにもし見えていたら、美鈴は仮面をつけた怪しものからは一目散に逃げていた。
「あの……」
何も言わないフードを不審に思った美鈴がもう一度声をかけると、丁度月が雲から顔を出し辺りを照らした。
美鈴はフードの仮面をみてドクンッと心臓が跳ねたのを感じた。
ーー怖い。
仮面が不気味でそう思ったのか、何も話さないからそう思ったのかはわからないが、とにかく目の前にいる人物が怖くてしかたなかった。
急いで逃げないと、と思うのに怖くて腰が抜けてブランコから立ちあがれなかった。
「(逃げないと。早く立って、お願いだから。このままじゃあ、私殺される)」
必死に自分に言い聞かせるも体が金縛りにあったみたいに動かなくなる。
美鈴が動けないでいるとフードはポッケから折りたたみナイフを取り出し、振り上げて切りつけようとする。
「(ああ、もう駄目だ)」
そう思ったが、無意識に体の重心が後ろに傾きブランコから転げ落ちる。
痛みで目を閉じ、次に目を開けるとナイフが手元に落ちていた。
何が起きたのかと思いフードの方を見ると少し離れた所で男に取り押さえられていた。
「大丈夫ですか。怪我はありませんか」
若い男が自分のところにやってきて声をかけてくる。
本当に何が起きているのか、ほんの少し目を閉じていただけなのに今の状況を把握できなかった。
「え、あの……貴方は?」
聞きたいことは色々あったが口から出たのはそんな言葉だった。
「これは失礼しました。俺はこういうものです」
警察手帳を美鈴に見せる。
「……ごろく、さん?」
「五六と書いて、ふのぼりと読みます。すみません。ややこしいですよね」
「あ、いえ、はい。なんか、すみません」
「いえ、気にしないでください。慣れていますので」
申し訳なさそうな顔をする美鈴に大丈夫だから気にしないでくれと笑う。
「それより、立てますか」
ずっと地面に座っているのを気にしていた。
早く立ち上がらせたかったが、先に安心させる方が先だと思い、五六は自分の名を使って和ませようとした。
「はい」
美鈴は五六の手を取り立ち上がる。
「では、あちらにいきましょう」
犯人から離れたところにあるベンチに美鈴を座らせる。
さっきアザミが応援を呼んでいたからもう少しで誰かが来るだろう。
犯人と被害者を一緒の車に乗せるわけにはいかないので応援がくるまで公園で待つしかない。
美鈴の傍に立って今もなおアザミに取り押さえられているフードの姿を他人事のように冷めた目で五六は眺めていた。




