花嫁殺し 中編
「ユーリ。さっきは悪かったよ」
コーラを飲みながらスマホをいじっていたユリの隣に座り反対の方を見ながら謝る。
「……」
ユリはカガチの謝罪に対して何も言わずスマホをいじり続ける。
「……ユーリさん、俺の声聞こえてますか」
ユリの前で手を振ったり変顔をしたりするが何の反応もしない。
ハッ、とユリの態度に苛立ち鼻で笑ったかと思うとカガチは急に大声で笑い出し「うわぁ、俺は透明人間か」と手を叩きながら独り言にしては大きな声で呟く。
それでも無視を続けるユリに遠くから見ていたアザミは深いため息を吐き頭を抱える。
ここにロゼがいたら二人の頭をぶん殴ってすぐ解決できるのに、と。
今すぐ日本に帰ってきて欲しいと願う。
「おい!悪かったって謝っているだろう!!」
ユリの耳元で大声を出す。
「うっさいわ、ボケ!鼓膜が破れるわ!!」
耳を押さえながら叫ぶ。
「お前が俺を無視するからだろ!」
「無視されるような事をお前がするからだろ!」
子供のような喧嘩をする二人を見守っていたいと思う反面ここは警察署だからやめさせないと、と思い仲裁しにいく。
「だから悪かったって言ってるだろ!」
「前回も前々回もその前もそう言ったがお前は何も変わらなかった!馬鹿には言ってもわからないようだから仕方ないか!」
ヒートアップする二人の頭を叩き呆れたような口調で話しかける。
「お前達いい加減にしろ。ここは喧嘩をする場所じゃないだろう。喧嘩は帰ってからにしろ」
二人の首根っこを掴んで喧嘩をやめさせる。
「でも、ユリが……」
「でも、カガチが……」
同じタイミングで同じことを言おうとしていたことに気づきお互いを睨み合う。
「……お前達これ以上喧嘩するならロゼに電話するぞ」
まだ喧嘩しそうな雰囲気にため息を吐き、仕方ないなとアザミがロゼの名を口から出した瞬間二人の態度が一変した。
「俺が悪かった許してくれ。次からは気をつける」
「俺も悪かった。やり過ぎた。許してくれ」
顔と口調が言葉と合ってないが形だけでも仲直りしたので良しとするか、と思いスマホをポッケにしまう。
あからさまにホッとする二人をみて、そんなにロゼに言われるのが今でも嫌なのかと苦笑いしてしまう。
まあ、怒ると怖いしなと一応仲直りをしたので仮眠室に戻ろうと踵を返すアザミの後ろで二人は声を出さずに喧嘩をしながらついていった。
「ユーリ。俺達の未来はどうなっている」
部屋に戻りユリに未来を視るよう頼んだ。
「まだ、ぼやけていてわからない。確定はしていないみたいだから。ただ、このままいけば確実に後五人犠牲者がでる」
「五人もか!?」
ユリの言葉にカガチが叫ぶ。
悪趣味な犯行をしたいと思う者が、まだ五人もいるのかと思うと吐き気がする。
「ああ」
「それは防げるのか?」
アザミが尋ねる。
「わからない」
首を横に振る。
未来がぼやけているのは一秒ごとにその結末が変わっているから。
ただ、最悪な未来では自分達は後五人もの犠牲者を見ることになっていた。
「次の犠牲者は何日後だった?」
カガチの問いに「三日後だ」と答える。
手掛かりが全然ないのに三日でこれまでの犯人の手掛かりを見つけないといけないと思うと頭が痛くなる。
「最初の犠牲者の人の名前は」
今度はアザミがユリに尋ねる。
「芝田美玲」
「ユーリ。その人がどこに住んでいるとかもわかったのか」
「ああ、全部視えたからわかる」
カガチの問いにユリは頷く。
「なら、アザミさんはこれまでの被害者達の婚約者を好きだった女性を捜してくれ。俺達で次の被害者になるかもしれない芝田美玲さんを守るから」
「わかった。そっちは任せた。こっちも怪しい人物を探してわかり次第連絡する」
三人はそれぞれの役割を決め己のやるべき事を成すために部屋から出る。
今回の事件は今まで解決した事件の中でも上位に入るほどの胸糞悪いものだった。
「それで、あの人が次の被害者になった人か?」
カフェで友達とたわいもない会話をしている女性の一人、美玲を見てユリに尋ねる。
「そうだ。そして、周りにいる女性達が犯人候補でもある」
まだユリは未来を視ていないので彼女達が犯人なのか、そうでないのかがわからなかった。
三人の推測が正しければ犯人は全て違う人物で嫉妬に狂った女性。
見た限りそんな様子はないが人は見た目ではわからないものだと二人はその事をよく知っている。
笑顔で人を殺し罪悪感もなくのうのうと生きている者達がいる事を知っている。
あの中に殺人犯になる人物がいてもおかしくはないと。
「……カガチ。顔が怖い。それじゃあバレるぞ」
「悪い。ついな」
ユリに注意され眉間のシワを伸ばしたりほっぺを上下に動かす。
「気持ちはわかるが怪しまれたら終わりだぞ」
警戒されたらこれからの尾行がやりづらくなる。
「ああ、わかっている」
カガチは心を落ち着かせようと紅茶を口に運ぶ。
「それで未来に変化はあるか」
周囲を見渡しあまり人がいないので、今なら大丈夫かと思いサングラスを外して未来を覗く。
ユリは相手を視界に入れただけで未来が視えてしまうので、能力を使うときは気をつけないといけない。
普段は黒なのに能力を使っているときだけ目の色が紫色になってしまう為、絶対にバレないようにしないといけなかった。
いつもはカラコンをして視えないようにしているが、今回のようにやむ得ない場合が発生するときもある。
さっき、トイレにいきカラコンを外してサングラスをかけて出てきた。
ユリが今かけているサングラスは特注で普通のとは違う。
普通のだと視界が遮断されていないので目に入った全ての人の未来を視てしまうが、今かけているのだと全て遮断されているので視ることはない。
ただ、目の前が真っ暗で何も見えないので歩くのが大変なのでなるべくこれをかけることはしたくないが、今回は仕方ないのでかけた。
「いや、変わっていない。それと周りにいる人は全員犯人じゃない」
殺す未来が見えなかった。
それを伝えるとユリは目を閉じ誰も見ないように気をつけながらサングラスかけ、カラコンをつける為急いでトイレいき人に見られないよう個室にこもる。
カガチも能力を使うと目の色が赤色に変わるが、カガチの場合は手を触れるという条件で見えるのでカラコンをつけていても能力発動には問題ないのでユリのように周りの目を気にする必要はなかった。
毎回大変だな、と思いながらケーキを食べる。
彼女達が犯人ではないのなら見張る必要はないと。
カガチとユリがこれ以上彼女達を見張っていても犯人は見つからないのでどうするか悩んでいるとアザミからラインが届いた。
送られてきた内容を確認すると美玲と婚約者の結婚式に参加する人達のリストだった。
その人達が犯人なのか、そうではないのかを確認するため全員の未来を視にいったが誰も犯人ではなかった。
結局二日かけてユリの能力で犯人を探したが、手がかり一つ見つけることはできなかった。
「……じゃあ、あの人は一体誰に殺されるんだ?」
カガチのその呟きにユリは何も言えず黙り込む。




