花嫁殺し 前編
「大分落ち着いたか?」
温かいお茶をカガチに手渡す。
カガチはアザミからお茶を受け取り口に運ぶ。
お茶の温かさが一気に体中に巡り少し心が落ち着く。
それを何度か繰り返し「……ああ、もう大丈夫だ」とお茶を全部飲み干してから返事をする。
「犯人は見えたか?」
ユリの問いにカガチは首を横に振る。
二人はそれだけでこの捜査が難航するのを察し頭が痛くなる。
それと同時に申し訳なくなる。
過去を覗くとカガチは殺されたときの体験をする。
意識が被害者達の中にいるので実際は死なないが、それでもその恐怖がずっと頭と体の中に残る。
二人には犯人が見えるかなんてわからないからこればっかりは運になるが、結局何の手掛かりも見つからないのにカガチにだけ辛い思いをさせてしまうことになった。
それが申し訳なくてカガチの顔を見れなくない。
「でも、一つだけわかったことがある」
カガチのその言葉に二人は顔を上げる。
「何だ」
アザミがすかさず尋ねる。
「二人の過去を除いたんだが、犯人は別人だったと思う。……多分、いや、間違いなく別人だった」
覗いたときに見えた犯人を思い出す。
「まて。いっていることが矛盾している。さっき俺の質問には首を振ったじゃないか。わかるように説明してくれ」
カガチの犯人は別人だという発言のせいで二人の頭はパンクしそうになる。
犯人は見えてないのに別人とはどういうことだ。
利き手が逆だったとか、声が違ったとか、考えられる理由を思い浮かべるがどれも曖昧で別人だと断定できる理由にはならない。
カガチの視た過去を否定するつもりはないが、こればっかりは確実な根拠がいる。
「ああ、悪い。今のは俺の言い方が悪かった」
続けて殺された過去を覗いたせいか、いつものように話せない。
落ち着いたから大丈夫、もう慣れたから平気だ、そう思っていたのにまだこんなにも弱かった自分にガッカリする。
こんな弱いままでは自分は三人の足手纏いになる。
悲願花で働くと決めたあの日から覚悟はできていると思っていたのに、随分と生温い覚悟だったみたいだ。
「二人の過去から犯人は見えた。ただ、フードと仮面で首から上を完全に隠していたから何も見えなかったんだ。だから、犯人の顔を見ていないからユーリの問いに首を振ったんだ」
そういうことか、と二人は納得する。
それにしてもフードと仮面をして人を殺すなんて中々いないだろうと思う。
今までカガチが覗いた過去でそんな犯人は一度もいなかったし、アザミが担当した事件でもそんなことはなかった。
何か引っかかるが、それよりも犯人が別人だと思った訳の方を聞きたかった。
「それで、何で犯人が別人だと思ったんだ?今の流れだと同一人物だと思うが」
フードと仮面を被っている犯人なら誰でもそう思う。
「身長と体型が違った。遠目からだったら見間違いかもしれないで片付けられるかもしれないが、俺は間近で犯人を見たから断言できる。あれは別人だ」
「もしそうなら、他の犯行も全員犯人はバラバラという可能性も出てくるんじゃあ……」
そこまで言ってユリは口を閉じる。
全員が同じ事を思った。
ーー後ろに何かいる。
殺害場所も犯人も違うのに、何故同じ格好をした被害者と犯人が現れるのか。
答えは簡単だ。
裏で誰かが操っているからだ。
殺し方は好きにさせるがその後は花嫁姿にさせブーケを持たせている。
それと化粧もされている。
殺した相手に化粧をするなどイカれていると思っていたが、新たな手掛かりを見つけ更に頭がイカれていると思った。
「それともう一つわかったことがあるんだ」
カガチのその言葉に二人は妙な緊張感に襲われた。
「俺が覗いた犯人は二人共女性だ」
犯人は女性だという言葉にアザミはこれでもかと目を見開く。
警察は犯人を男性だと思っていた。
その可能性が極めて高いと判断し容疑者を男性に絞っていた。
実際何人かは被害者達をストーカーしていた者達がいた。
結局アリバイがあって無実は証明されたが。
勿論女性も容疑者にはいれていたが、誰も怪しいものなどいなかったと報告を受けていたので、後ろ頭をガツンと殴られたような衝撃に襲われる。
「……それは確かか?」
アザミは何とか声を絞り出す。
「ああ、間違いない」
「理由を聞いてもいいか」
当然の質問だが、カガチは戸惑う。
視線は彷徨いできれば言いたくないという顔をするが、二人の圧に負け嫌々そうに口を開く。
「……あー、その、それは…………ったから」
「悪いが、もっと大きな声で言ってくれ」
肝心なところが小さくて聞こえなかった。
「だから、胸を触ったからわかったんだ!」
顔を真っ赤にして大声で言うカガチにビックリして一瞬固まるも直ぐに「そうか」と返事する。
カガチは過去を覗いているとき被害者二人が抵抗した時犯人達の胸に手があたったのを思い出した。
例え触ったのが自分ではないとしても、相手が殺人犯だとしても悪いことをした気分になる。
「アザミさん。被害者達全員の交友関係を送ってください」
犯人が女性で別人なら犯行動機で一番最初に思いつくのは嫉妬だ。
被害者達の婚約者を好きになった者はいないか徹底的に調査した方がいいと判断した。
「わかった」
「待てよ。それなら、俺が被害者達の衣服から過去を覗いた方が手掛かりを見つけられるんじゃないか」
犯人を捕まえられるのはそれが一番早いと思いそう言うが、その言葉がユリを怒らせた。
ユリは何も言わなかったが人を殺せるような目つきで睨むのでカガチは横になって「俺休みます」と小声で呟く。
ユリはこれ以上カガチに無理はさせたくないのに、自分から無理をしようとするカガチを許せなかった。
それに犯人は顔を隠している。
確実にわかるとは限らないのに殺される体験をさせるなんて絶対させたくなかった。
カガチが頭から足の指先まで布団で隠しているのを横目で確認するとため息を吐き部屋から出て行く。
「全くお前は」
アザミはカガチの頭があるだろう場所を小突く。
カガチは布団から顔を出し「悪かった」と謝る。
「謝る相手が違うだろう」
「わかってるよ。ちゃんとユーリにも謝る」
「いい子だな」
昔よくしたみたいにカガチの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「あー、やめてくれよ。俺はもう子供じゃないんだからさ」
「お前達は俺からしたら子供さ。ホラー映画を見て泣いてビビッていた頃の子供のままだ」
その当時の事を思い出し馬鹿にしたような顔をしてカガチを見る。
「いつの頃の話をしてんだよ。それに、俺はあの時泣いてなんかなかった」
「いーや、泣いてたな」
「泣いてない」
泣いた、泣いてないを繰り返し言い続けていたが、急に馬鹿馬鹿しくなって同時に吹き出すように笑う。
「カガチ。俺達はいつもお前のその力に頼って無理をさせちまってる。俺達が不甲斐ないばかりに本当に悪いな」
「いーや、これは俺が選んだ道で俺の人生だからアザミさんが謝る必要はないよ。嫌なら辞めてる。だから、謝らないでくれ」
「……ああ、わかったよ」
「それに俺のお陰で犯人を捕まえられたらただ飯にありつけるし」
「そうだな。また美味い店に連れてってやるよ」
重い空気を吹き飛ばそうと二人は明るく話す。
「……アザミさん。絶対犯人捕まえよう」
「ああ、勿論絶対捕まえるさ」




