花嫁殺し 前編
カガチは能力を使った瞬間、明美の感情が一気に流れ込んできて体中が締め付けられた。
明美が体験した恐怖をカガチも体験している。
殺された者達の過去を覗くと必ずその時の恐怖が体を支配しており、それは殺された後もだった。
この恐怖を我慢しないと過去を覗くことができない。
暫くそのままに耐えていると殺された当日の出来事がみえてきた。
ハァハァハァ。
明美は後ろを偶に振り返りながら何かから必死に逃げる。
時折落ち葉に足を取られ滑ってこけるがすぐに立ち上がり逃げる。
どうして明美が山の中にいるのかはもう少し前にいかないとわからないが、殺された者の過去は一番恐怖だったときの出来事が流れるのでそれ以外を覗くのは難しい。
というか無理だ。
ごく稀に覗くことはできるが何故かはわからない。
運が良かっただけかもしれない。
カガチは余計な事を考えた、集中しろと自分に喝を入れ明美の過去を覗く事に集中する。
明美は山の中で犯人から一時間近く逃げ回ったが最終的に犯人に捕まり心臓をひと突きにされ死んでしまう。
明美は犯人と目はあったがフードを被り仮面までしているので誰かまではわからなかった。
誰に殺されたのか、何でこんな目にあったのかわからず、ただ恐怖の感情に包まれ死にたくないと思いながら死んでいった。
明美が心臓にナイフを刺された瞬間、カガチも自分の心臓が刺されたような痛みに襲われる。
痛みで苦しんでいるとき明美が死にこれ以上は何も覗けないというように右手にバチッと静電気が流れ反射的に手を振り払う。
意識が現実世界に戻り、自分の心臓は刺されていないか無意識に確認してしまう。
大丈夫だとわかると安心して息を吐く。
運動などしていないのに心臓は全力疾走した後のように速く動き、大量の汗が体中から出ていた。
「……もう一人いけるか?」
ユリは水のペットボトルの蓋を開け渡す。
「ああ、問題ない」
半分近く一気飲みする。
これ以上被害を出さない為にも見ないといけない。
正直に言うと明美の方からは何の手掛かりも得られなかった。
沙織の方から少しでも何か手掛かりを見つけないとという焦りもあり問題ないと言ったのもある。
「……わかった。もしキツくなったらすぐやめろよ」
「ああ。でも、大丈夫だ」
これは自分にしかできないこと。
自分がやらなければならないこと。
被害者達の無念を晴らす為にも犯人に繋がる何かを見つけたかった。
ユリはそんなカガチの想いがいつかカガチを苦しめるのではないかと心配で堪らなかった。
だけど止めたところで聞くような男ではないとわかっているので「そうか」と返し見守ることしかできない自分の無力さに嫌気がさす。
カガチが沙織の腕に触れ能力を発動し、また過去を覗くのを眺めることしかできなかった。
「ユーリ」
「アザミさん。謝らないでくれよ。悪いのは謝らないといけないのは別にいるだろ」
アザミの声から謝ろうとしているのを察した。
ユリの言葉に顔を歪めるアザミに「だから、必ず捕まえてくれよ」と。
「ああ、任せろ」
刑事であり大人である自分の不甲斐なさに腹を立てる。
出会ってから約十年近く経っているがずっと二人に嫌な事をさせている。
自分とロゼは望んでこの道を選んだが、二人は自分達に出会ってしまった故巻き込まれたのではないかと申し訳なくなる。
二人には普通の幸せを選ぶ道もあったのではないか、と。
ーー苦しい。なんだこれは。息ができない。
過去を覗きにきたが何が起きているかわからない。
息が苦しくて何も考えられない。
口の中に何かが入ってくる。
手足をジタバタさせるが頭を押さえつけられていて起き上がれなかった。
死ぬ、そう思ったとき強い力で上に引っ張られる。
漸く苦しいものから解放されたと思い息を整えようとしたら、また物凄い力で下に押し込まれる。
また苦しく息ができない時間が始まる。
何度か繰り返し漸くカガチは何が起きているのか理解した。
過去を覗いた瞬間が殺されている最中だったので何が起きているのか理解するのに時間がかかった。
水に押し込まれている最中は手がかりを探すことはできないが上に引っ張られたとき、沙織の目から犯人に繋がる手がかりを探すもわかったのは体型くらいで何も見つけられなかった。
沙織が死ぬとその後は覗けない。
また、右手に静電気より強い電流が流れ現実世界に引き戻される。
「……カガチ!」
戻ってきたカガチの様子がおかしい事に気づいたユリが倒れそうになっていた体を受け止める。
「悪い、助かった」
「お前……あれだけ無理はするなと言ったのに、どうして……」
血の気のない顔をしているカガチを見て怒りが湧き上がってくる。
「悪かった。次から気をつける」
もうしない、とは言わないカガチに腹が立つも自分も同じ立場だったらそう言うと思うと何も言えなくなる。
「カガチ」
「アザミさん」
二人共謝罪の言葉が出そうになるが何とか引っ込める。
「よく頑張ったな」
今にも泣き出しそうな顔でカガチの頭を撫でるアザミにカガチはそんな顔をさせたかったわけじゃないのに、と自分がどれだけ心配を二人にかけていたのか気づいたがこればっかりは譲れない。
これは自分にしかできないことなのだと。
「取り敢えず横になった方がいいな」
ユリに支えられているカガチを見て言う。
ユリもアザミの言う通りだと思いカガチを抱き抱える。
部屋から出て移動する最中カガチがこの抱え方やめろと言っていたが、自分達を心配させた罰だと言ってそのままお姫様抱っこで仮眠室までいく。
仮眠室には運が良く誰もいなかったので気を使わなくて済んだ。
カガチをベッドに寝かせ二人は床に座る。
ユリはベッドで寝ているカガチが「俺まじで泣きたい」と本気で落ち込んでいるのを見て少しは反省したかと呟くと同時に自分が結構恥ずかしい事をしていたのではないかと気づき少し前の自分を殴りたくなった。




