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AIに「追放ざまあ」の小説を書かせた結果、とんでもない事になった。

作者: ヤスゾー

 パソコンに映し出された小説を読んで、俺は深いため息をついた。


「あぁ、どうしよう……?」


 俺はネット小説を読むことを趣味としている、男子中学生だ。

 ありとあらゆる小説投稿サイトに遊びに行っては、毎日、小説を読み漁っていた。ファンタジー小説が好きで、特に「追放ざまあ」ものをよく読んでいる。

 「追放ざまあ」と言うのは、主人公が所属していた仲間から追い出された後、追放した元仲間より強くなったり、場合によっては復讐する話だ。ラストの爽快感がたまらなくて、つい読んでしまう。

 こうして、「追放ざまあ」ものを読んで読んで読みまくった結果。

 ほとんどの「追放ざまあ」小説の展開を予想出来るようになってしまったのだ!


「困ったな~!!」


 予想出来るので、爽快感も何もない。

 つまり、僕は「追放ざまあ」に飽きてしまったらしい。

 もう、俺の心を潤してくれるものはないのか……!

 そんな気持ちを抱えたまま、ネット小説のランキングを見ていると……ふと、ある単語が目に映った。


 AI小説。


「……これだ!!」


 俺は目を輝かせた。

 人間では想像も出来ない「ざまあ」を、AIなら生み出してくれるかもしれない!

 救いを求め、俺は適当に選んだAI小説サイトを開いた。

 「ノメリコミAI小説」と書いてある。

 ゆ、有名なのか? AI小説なんて初めて触れるから、よくわからないけど。


 トップには「サイトの利用方法」が書いてあった。

 まず名前を入力。

 はい。じゃあ、「あおい」っと。

 次に「キーワード」を設定する。

 このAI小説サイトはユーザーが決めたキーワードに沿って、小説を書いてくれるというシステムらしい。

 俺は早速、キーワードを入力した。


「ファンタジー」「追放」「ざまあ」


 う~ん。

 やっぱり、主人公は最後、強くなって欲しいよな。


「筋肉」「強い」


 ヒロインはもちろん可愛い子。

 まず、巨乳のセクシー美女が欲しい。


「巨乳」


 ヒロインが一人じゃ寂しいな。

 巨乳がいるんだから、清純派が欲しいよ。


「純真可憐」


 あと、忘れてはいけない。

 幼女!

 小さい女の子って、本当に癒しだよなぁ。


「ロリ」


 にひひひ。

 あ。

 俺の好物である「大根」も入力しよう。

 ファンタジーものに大根が存在するか、というツッコミが出てきそうだけど、これくらい許して欲しい。

 入力を終えたら、「執筆する」をクリックする。

 そしたら、小説が出てくるようだ。

 ん?

 「執筆する」の隣に何か書いてある。


「書き直す」

 

 なるほど。

 話が気に入らなかったら、同じキーワードで違う話を作る事が出来るのか。

 これはいいな。

 その下に、赤文字で「※あまり使用しないでください」と書いてあるのが、気になるけど。

 まあ、いいや。

 早く読もう。

 俺はワクワクしながら、「執筆する」をクリックした。



▽▲▽▲▽


「悪いけど、お前はクビだ。ブルー」

「……え?」


 ブルーと呼ばれた少年は、目の前が真っ暗になった。

 何の冗談かと無理矢理、笑顔を浮かべてみる。

 しかし、クビを宣言した青年アレックスの目は笑っていない。


「クビ、と言ったんだ」

「な、なんで……?」


 酷い絶望感に襲われ、ブルーはうなだれた。

 なんとか言葉を絞りだすが、その声は震えている。

 アレックスは整った顔から想像もつかないような、嫌味な声を出した。


「お前がいつまで経っても、スキルを取得しないからだよ。この役立たず!」




 おお!

 俺はパソコンの前で、感動の声を上げた。

 本当に、小説だ!




「……」


 ブルーは何も言い返せなかった。

 ブルーとアレックスは「冒険者」である。

 「冒険者」とは、仲間達と共に様々な地方に赴き、魔物退治を引き受ける事が仕事だ。


 冒険者はある程度、場数を踏むと、自然に「スキル」を手にすることが出来た。

 「スキル」とは特殊能力の事で、通常の人間には出来ない事が可能となる。得られる「スキル」は人によって違い、どんな「スキル」が与えられるかは、手に入れてみないとわからない。


「スキル無しのお前なんか、必要ない」


 アレックスの声は冷たかった。

 長年、アレックスや他の仲間達と冒険していたブルーだったが、彼はいつまで経っても「スキル」を身につける事が出来なかった。


 だが、ブルーはアレックスの邪魔にはならないように、陰ながら支えてきた。

 アレックスだけじゃない。仲間の女剣士ルーシーが、聖女リリーが、魔女アリスが、戦いに挑もうとするならば、薬草を用意して、いつでも怪我に備えてきたのだ。

 魔物退治が終われば、その日のうちに武器の手入れをし、薬草を始めとする道具の管理もしてきた。

 それなのに、クビ!

 ブルーは底なし沼に落ちていくような気分だった。


「それに、君は女の子達にちょっかいを出しているみたいじゃないか」

「えっ!?」


 ブルーは目を丸くした。


「ちょっかいなんて……、俺はしていない!」

「何を言っているのよ!」


 女戦士ルーシーの怒号が飛び、ブルーは顔を上げた。




 来た来た! 女の子の登場だ!

 俺は顔を緩ませ、パソコンに前のめりになった。

 AI小説って、すごいな!

 今まで読んできた「追放ざまあ」の展開とほとんど同じだよ。

 俺は最新テクノロジーの素晴らしさに、感嘆のため息をついた。

 さあて。

 問題は、これからどういう話の流れになるか、だな。

 俺は期待に胸を膨らませて、スクロールバーを下へと移動させた。




「鎧のサイズが合っているか確認するって言って、私の身体を執拗に触ったじゃない!」


 アレックスのすぐ隣に控えていた金髪の女性ルーシーが、ブルーを責める。

 ルーシーは、露出の高い鎧を身に着けた戦士である。必要最低限の範囲に、鉄製の鎧が覆い隠しており、白い肌が恥ずかしげもなく剝きだしになっていた。うっとりするほどセクシーな戦士だ。胸部がほぼ筋肉で出来ているところは、誰でも心奪われる事だろう。


「不愉快だったわ! あんたは最低なセクハラ男よ!」




 ん?

 んん?

 俺は何度も目をこすり、何度も同じ文章を読み直した。


「……セクシーな戦士だ。胸部がほぼ筋肉で出来ているところは……」


 胸部がほぼ筋肉? 

 何それ?




「私は酷い言葉をかけられましたわ」


 白いワンピースに長い黒い髪をなびかせた、美しい女性リリーが前に出てきた。

 「清純可憐」の文字がまさに具象化したような、おしとやかで上品な佇まいをしている。

 彼女は白い頬に涙を濡らし、語り始めた。


「戦闘中の事です。敵の攻撃で私のスカートがめくれ、私の自慢の大腿四頭筋が露わになってしまったのです。その時、この人、私だけに聞こえるように言ったんですよ。細っこい足だ、って……。私、私、一生懸命に鍛えておりますのに……!」


 涙を手で払いながら、彼女は己のスカートをたくし上げた。

 丸太を思わせるほどの太腿が姿を現す。とても貧弱には見えない。立派な大腿四頭筋だ。

 そもそも、彼女は全体的にバランスのとれた、いい筋肉の付き方をしていた。その姿、まさに「聖女」の名にふさわしい。




 ふさわしくねぇぇ!!

 俺は叫びたくなるのを必死に抑えた。

 何! 何なの!?

 女戦士もそうだけど、この聖女も、なんで筋肉キャラになっているの!?


 俺は考えた。

 思い当たるとしたら、「キーワード」しかない。

 自分が入力した「キーワード」を読み直す。

「ファンタジー」「追放」「ざまあ」「筋肉」「強い」「巨乳」「純真可憐」……。

 ……。

 そうか。

「筋肉」「強い」が「巨乳」「純真可憐」にかかっているんだ!

 だから、巨乳もムッキムキ、純真可憐もムッキムキ!

 マッスルで健康的なヒロイン達が今、ここに集結っ!!

 …………。

 いやだぁぁぁ!!




 二人を慰めるように、そっと肩に触れた人物がいた。


「アリス……」


 リリーは涙を拭い、顔を上げる。

 そこには、太陽のように温かい眼差しを向けた魔女アリスがいた。

 彼女は二人に優しく言葉をかける。

 



 うっ……!

 俺は嫌な予感がした。

 あと「ロリ」が残っているはず。

 でも、どうせ、ゴリマッチョの幼女なんだろう? 




「ウホッ☆」

 それは魔女ゴリラのアリス、最大の励ましの言葉だった。




 ゴリラだったぁ!!

 ゴリマッチョじゃなくて、ゴリラァァ!!!! 

 俺は椅子からひっくり返りそうになった。

 おいおい、マジか!?

 もう人間ですらないのかよ!?

 いくらなんでも、おかしすぎるだろう!?


 もう一度、キーワードを確認する。

 ああ!

 俺は自分で自分を殴りたくなった。

 「ロリ」が「ゴリ」に誤入力されているぅ!

 これは、俺が悪い!!




「これだけ、大切な仲間達を傷つけて……。俺はお前を許さない!」


 アレックスは美麗な眉に皺を寄せて、ブルーを睨みつける。




「仲間」でいいの!? アレックス!

 ゴリラ、交じっているけど!




「俺はリーダーとして仲間を守る立場にある! ブルー。やはり、お前はクビだ! 出ていけ!!」


 アレックスは人差し指をブルーに指した。

 全て本当の事を指摘されて、もはやブルーは反論が出来ない。




 本当の事なのかよ!

 ダメじゃん、ブルー。




 周囲の女の子たちは喜びにあふれ、アレックスに駆け寄った。


「ありがとうございます! アレックス。私達の意見を聞いてくれて!」


 感謝の気持ちを込めて、リリーが抱きついた。

 立派な上腕二頭筋がアレックスの華奢な身体を締め付ける。


「あはは。ルーシーがいなくちゃ、俺も安心して、戦えないからね」


 身体中の骨が折れる音を出しながら、アレックスは爽やかに笑った。




 アレックス、重症だよ!

 ヤバいって。死ぬって!




「アレックス! あなたほど素敵な冒険者はいないわ!」


 女戦士ルーシーもアレックスに抱きつこうと、思いっきりアレックスに向かって飛び込んだ。

 その勢いはすさまじく。


「ぐはああああああっ!!」


 アレックスの身体は耐える事が出来ず、遥か彼方へと飛んで行ってしまったのであった。




「アレ―――ックス!!」


 ついに、俺は絶叫してしまった。

 何をしたんだよ!? アレックスが。

 可哀想だろうが!

 ヒロイン達は化け物か!?



 

「……わかった」


 ブルーは悔しそうに唇をかみしめた。

 もはや、ここに自分の居場所が無いのは、覆らない事実である。


「さようなら。お世話になりました」


 頭を下げると、ブルーは踵を返し、仲間達の元から去ったのであった。


「……ルーシー」

「いいのよ、リリー」

「ウホッ」


 少し同情を覚えながらも、三人は仲間だった彼を引き留める事はしなかった。




 アレックスを心配しろ!

 いいんだよ、ブルーは。

 自業自得だろ。




 それから、数年間。

 ブルーは場所を変え、仲間を変え、徐々に力を付けていった。



 

 え、何?

 ブルーが主役のまま、物語が進むの?




 ついに、ブルーはスキルを取得。

 意外な事に、それはたくさんの人間を魅了する、最強のスキルであった!

 そのスキルにあやかろうと、たくさんの冒険者が、人が、そして魔王が、ブルーの元に訪れた。




 ま、魔王が?




 あれやこれやしている間に、魔王は王の座をブルーに譲渡。

 こうして、ブルーは魔王として世界を君臨する事となったのである。



 

 展開、雑だな!

 なんだよ! 「あれやこれや」って!

 そこを書け!



 

 そんなある日。

 一人の男が魔王ブルーの元へと訪れた。


「久しぶりだな。魔王。いや、ブルー」

「お前は……!?」


 魔王ブルーは驚きを隠せない。

 それはかつて自分を追い出したアレックスであった。




 お、アレックス。

 無事だったんだ。



 

「なるほどな。俺を倒しにきたというわけか」


 薄暗く湿っぽい広間に、魔王の声が響く。

 その声は威圧的で挑戦的だ。久々に会えた仲間との再会、という雰囲気はない。

 魔王ブルーが玉座から睨みをきかせると、アレックスは慌てて手を振った。


「待て。お前と戦う気はない」

「何?」

「俺もお前のスキルにあやかりたくてね」

「ほう」


 魔王ブルーは玉座から立ち上がり、アレックスに近づいた。

 うすら笑いを浮かべているが、敵意はなさそうだ。


「ならば、俺の配下になる事だ」


 魔王ブルーは手を差し出す。

 躊躇する事なく、アレックスはその握手に応えた。


「もちろん、そのつもりだ」




 ええ! 

 アレックス、堕ちた!

 じゃ、じゃあ、誰が魔王を倒すんだよ!?




 その時だ!

 広間の入り口に三つの影が現れた!


「待ちなさい! 魔王!」

「アレックス。やはり魔王の部下になってしまったのですね……!」

「ウホッ!」


 かつて、ブルーの仲間だった麗しき美女三人組だ!




 出たな、化け物三人組!




 女戦士ルーシーも聖女リリーも魔女アリスも、今まで過酷なバトルを繰り広げてきたに違いない。大胸筋が、上腕二頭筋が、そして大腿四頭筋が、別れた時より一回りも二回りも成長している。もはや存在しているだけで、空気が変わり、熱風を感じるほどだ。身体中にある傷は、戦士としての貫録を十分に引き出していた。




 引き出すな!

 どこぞの世紀末格闘漫画の主人公か!?




「なぜ、なぜですか? アレックス。そんなにもブルーのスキルが魅力的ですか?」


 リリーは涙ながらに、アレックスに訴える。

 アレックスはどこか後悔したように、そして、それを振り払うように反論する。


「当たり前だろう! ブルーのスキルを知っているか!? 「手に触れた者の男根が大きく強くなる」のだぞ!」




 …………。

 ……え。

 しばらく、俺の思考回路が停止した。

 だ、男根?

 男根が大きく強くなる?

 ……。

 俺は大きく息を吸い、

 そして、思いっきり叫んだ。


「くだらねえぇぇぇえええぇぇ!!!!!」



 

「それがそんなに大事なの!?」


 ルーシーが睨む。

 だが、アレックスは聞く耳を持たない。


「女のお前らにはわかるまい! これがいかに重要なことか。公衆浴場やトイレに行った時、誰もが自分の股間を見て、驚き、そして羨ましそうに見つめる。その優越感が、いかに生きる故で大切なことか……!」



 

 はっ!

 アレックスの言葉に、俺はつい想像してしまった。

 トイレで同級生達が俺のお宝を見て、目を丸くして見入る姿を……! 敗北と羨望の交じった視線が、俺のお宝に注目する景色を……!


「くっ……!」


 俺は机の上に拳を突き立てた。

 何て魅力的なんだ!

 まさに自己肯定感のパラダイス。

 これは認めるしかない。

 ブルーのスキルは最強なのd……。




「アホかぁぁぁ!!!」


 女剣士ルーシーの痛恨の一撃!

 巨木の幹のような腕を振り回し、アレックスに強烈な鉄拳を食らわせた。


「ウホッ!!」


 同じタイミングで、ゴリラ魔女アリスも魔王ブルーに体当たりを決める。


「ぎゃあああああ!!」

「うわあああ!!」


 魔王城の天井を壊し、魔王ブルーとその配下アレックスは遠い空へと飛んで行ってしまった。


 見事! 彼女たちは魔王を倒したのである!


「リリー! アリス!」


 ルーシーは全身を震わせながら、仲間二人を抱きしめた。

 そこには全ての悪を討ち、目的を果たした達成感で満ちている。


「ルーシー、もう終わったのね!」

「ウホッ!」


 三人は肩を抱いて、喜びをわかち合った。

 彼女達が同時に跳ねると、地震のように地響きがする。まるで、勝利を祝う太鼓の音頭のようである。

 魔王城に差し込む日の光を見つめ、ルーシーは誇らしげに呟くのであった。


「あいつら、ざまあみろ、ね」

 

 終わり




 終わり?

 俺はスクロールを下に移動させようとする。

 ダメだ。これ以上、下はない。

 これで本当に終わりらしい。

 …………。 

 ……。

 何だ!!? これ!!

 俺はすぐにキーワードを見直した。

 最強スキルが「男根が大きく強くなる」って、何だよ!!?

 危うく、俺も「これぞ最強」って同意しかけちゃったし!

 こんなのファンタジーじゃないわ! コメディだわ!! 

 あ。あった! 

 俺はキーワード入力箇所に、素早く目を通す。

 嗚呼! やっぱり!

「大根」が「男根」になっている~!!

 二度目の誤入力!

 俺の馬鹿馬鹿っ!

 もう一回だ! 修正して、やり直し!

 俺は深く考えず、「書き直す」をクリックした。




「わるいけど、あんた、クビだからね~。ブルルン」

「……え? ええ!!」


 ブルルンと呼ばれた少女は、目の前が真っ暗になった。

 何の冗談かと無理矢理、笑顔を浮かべてみる。

 しかし、クビを宣言した少女アレクシアの目は笑っていない。


「クビ、といったのよ」

「な、なんで……? なんで、なんで?」

「うるさいわね。もうきめたの!」

「なんでそんなこと、いうの~?」


 酷い絶望感に襲われ、ブルルンはうなだれた。

 すると、アレクシアは可愛い顔から想像もつかないような、嫌な声を出す。


「あんたがぜんぜん、スキルをゲットしないからでしょ! プンプン!!」




 全員ロリ!?

 俺は勢いよくスクロールを下に移動させた。

 うっ! ルーシーもリリーも、アリスまで、幼女になっている……。

 全員がロリなんて、嫌だぜ。プンプン。

 俺は、もう一度「書き直す」をクリックした。

 次は、まともな小説が出てくるに違いない。

 



「悪いけど、貴様はクビだ! ブルー!!」

「なぜだぁぁ!! アレックス!」


 ブルーと呼ばれた少年は、衣服を脱いだ。

 「クビだ」と喧嘩を売られたのだ。

 売られた喧嘩は買わなければならない。


「貴様が役に立たないからだ!」


 ならば自分も、とアレックスも衣服を脱ぐ。

 六つに割れた腹筋と、厚い胸板が二人の漢たちの高い戦闘力を物語る。


「止めて! 二人とも!」

「近隣住民に迷惑よ!」


 仲間の女の子三人が止めにかかる。

 その女の子達もまた強靭な身体の持ち主で、もはや肉体と肉体のぶつかり合う戦いは避けられそうにない。




 出てこなかったぁ!!

 全員、筋肉!!

 右を向いても、左を向いても筋肉! 

 胸やけするわ!

 すぐに「書き直す」をクリックした。

 つ、次こそ……まともな小説が…………!




「ウホッ、ウホッ! ウッホ」

「……ウホ?」


 ウッホと呼ばれたゴリラは、目の前が真っ暗になった。  

 何の冗談かと無理矢理、笑顔を浮かべてみる。

 しかし、クビを宣言した青年ウホホの目は笑っていない。


「ウホッ、ウ、ウホ」

「ウホッ……?」




 全員、ゴリラァーー!!

 俺は頭をかきむしった。

 しかも、名前が「ウッホ」に「ウホホ」って……。

 ネーミングセンス、ゼロか!


 なんだよ!? このAI小説! 

 どんどん変になっていくじゃんか!

 俺は力強く、マウスを押し続けた。

 自分好みの「ざまあ」小説を書いてもらうため。

 何回も、何回も、何回も……!


 そして。




 辺りが真っ暗になった。



▽▲▽▲▽


 ……ん?

 どうした?

 俺は周囲を見回した。

 家が停電にでもなかったのか?

 パソコンの明かりすらついていない。

 あ。

 だんだん、視界が明るくなってきた。

 ああ。電気が復旧したんだな。

 良かっ……。


「悪いけど、お前はクビだ。ブルー」

「……え?」

 

 ついさっきまで、目にしていた言葉が耳に入ってきた。

 声のする方に視線をやると……。

 そこには、顔立ちの綺麗な青年が椅子にふんぞり返って座っていた。

 その青年を囲むように、女の子が三人立っている。

 セクシーな鎧に身をまとった女剣士、大人しそうな純真可憐な聖女、そして黒い帽子を被った幼い少女。


「クビ、と言ったんだ」


 その冷たい視線は明らかに俺を見つめていた。


「……」


 自分の置かれている状況が全くわからない。

 だが、何となく、誰かに言われているような気がした。


「……な、なんで?」 


 自分が望む物語は、自分で作るしかないのだ、と。




最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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