f#01 黒い少年の目覚め
「――――――」
とある場所、とある機内。
少年は目を閉じていた。
どうやらコクピット内で、熟睡していたらしい。
『……ちょ……たい……』
ちょうどいい揺れと、風切り音が響いて、中から暖かい感触が包まれる。
少し微睡んでいる様だ。
『たいちょ……しっかり……』
「…………」
少し、目を開けた。
とりあえず、起きようとする。
『あ、起きましたか? 〝隊長〟』
「…………」
黒いヘルメット。
輸送用マスクで顔を伺いたてられるとは。
『まもなく、〝ユニオン・平目基地〟に到着します。準備を』
「……あぁ、もうそんな時間か……」
時刻は既に回っていた。
退屈な風景、緑ばかり見ても寝れるんだな。
そう機内、《人型兵器》の中で感心してしまった。
後に、輸送ヘリで運んでくれた人は
「まぁ、あの……。いくら隊長とは言え、無理をなさらずに……」
と言われてしまった。
寝不足ではないと思う。
それはさておき、ここに来た理由だ。
とある人物が〝依頼〟を出してきたのだ。
「……でさぁ、どう思う?」
「いや、知らねぇよ」
「うーん、コストが……」
それと同様に《傭兵》、《フリーランス》の〝ユーザ〟達が集まっている。
もはや基地内とは思えない光景が広がっている。
「…………」
ここには《ユニオン》、それに所属している〝ユーザ〟がいるはずだが。
見当たらない。
今は〝イベント〟に参加しているのか。
「……よ、黒い人」
「……?」
黒い人か。
そんな風に呼ぶと言う事は、つまり――――
「お前が、〝柊アルナ〟ちゃんかな?」
「……違うな」
どんな間違いだ。
「そいつはオペレーターだ。今は〝諸事情〟で来れなくなった」
「……ああ、そっか。ごめん」
身なりに関しては《ユニオン》だと思う。
だけど、直接〝依頼〟に関わってなさそうだ。
「えっと、君の名前は?」
この爽やか系青年は問いかけてくるな。
とは言え、本人確認は必要だ。
「……〝Mii〟だ。よろしく」
「あぁ、よろしく」
紳士的に手を握り返してくれる辺り、好感は持てるな。
「俺の名前は〝ハルター〟だ。上から連れてくるよう、言われてしまったのだ」
「……なるほど。なら、連れてってくれ」
「分かった。こっちだ」
灰色の青年、ハルター。
聞いた事のない名前だが、案内人として任命されたと言う事は、それ相応の実力を持つ〝ユーザ〟だと認識しておいた方が良いか。
何せ通路側にも、《ユニオン》の兵士がいないのだから。
「……ここだ。ここに入ってくれ」
第四ミーティングルームに案内された。
ここには《フリーランス》が入って良い場所ではないと思うが、依頼主のご要望だ。
中に入るとする。
「……あ」
すると、とても見覚えのある少女の姿が目に入る。
モニター側に座っていたが、こちらの存在に気付いて立ち上がっていた。
「初めまして、〝Vチューバー〟の〝白弓ハルカ〟と申します。以後、お見知り置きを」
「……あぁ、よろしく」
変な声が出そうになったが。
まさか、〝オペレーター専門〟の〝Vチューバー〟が来るとは。
「ふ、驚いたか。俺も最初に驚いたよ」
なんて得意気な笑顔だ。
思わず睨み返したい。
「まさか、あの有名な〝Vチューバー〟が来るなんてな。予想だにしなかったよ」
とても気に入らない物言いだが、確かにそうだ。
彼女たち〝バーチャルアイドル〟は、配信によって人気を博している。
それ故に、高い〝重要性〟を示しているのも事実だ。
「ふふっ、ありがとうございます」
さすがの対応だな。
笑顔で返答するとは。
「もうすぐ〝ブリーフィング〟が始まりますよ」
「あ、そうだった。とりあえず座ろうぜ、Mii」
「……そうだな」
あまり、余計な事は言わないでおこう。
大人しく後ろの方へ――――は、無理だな。
同じ《フリーランス》として、前に座らなければならないのか。
「ふふ。よろしくね、《傭兵さん》」
「……善処するさ」
こればかりは見せる訳にはいかない。
モニターから語られる、〝依頼の概要〟について聞いておこう。